再エネ賦課金の仕組みと想定23.5兆円の使途、家計負担は今後どうなる?
電気料金に含まれている「再エネ賦課金」。これは、再生可能エネルギーの普及を支えるために、私たち全員が毎月負担している費用です。2012年に制度が始まって以降、その総額は年々膨らみ、2030年度までに約23.5兆円に達するとの見込みもあります。この膨大な資金はいったいどこへ向かい、どのように使われているのでしょうか?
また、家計への影響も無視できません。2025年度には賦課金単価が3.98円/kWhに引き上げられることが決まっており、一般家庭では月額1,500円以上の負担になるという試算も。
本記事では、再エネ賦課金の仕組みから、資金の行き先、そして今後の家計負担や制度の見直し議論まで、わかりやすくお伝えします。
1.再エネ賦課金の仕組みと目的
1 再エネ特措法とFIT制度の概要
再エネ賦課金は、2012年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」の導入と同時に始まりました。この制度の法的な根拠は、「再生可能エネルギー特別措置法(再エネ特措法)」です。
FIT制度は、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)によって発電された電力を、電力会社が国の定めた一定の価格で一定期間、必ず買い取ることを義務づける制度です。再エネ導入を加速するため、発電者にとっては安定した収益が見込める仕組みとなっています。
制度開始当初の2012年度、家庭用太陽光(10kW未満)の買取価格は42円/kWh(10年間)と非常に高く設定されていました。これは発電設備の導入コストがまだ高く、市場競争では採算が合いにくかったためです。また、非住宅用(10kW以上)の設備には20年間の買取期間が与えられ、初期投資の回収を後押しする設計となっていました。
この買取費用を国が直接補填するのではなく、全国の電気利用者全員が少しずつ負担する――それが「再エネ賦課金」の考え方です。制度開始時(2012年度)の賦課金単価は0.22円/kWhで、導入初期の国民負担はごく小さなものでした。
〇 賦課金の徴収方法:電気料金に上乗せされて請求
再エネ賦課金は、私たちの電気料金の請求書に含まれて徴収されます。具体的には、毎月の電力使用量(kWh)に応じて、設定された単価を掛け合わせた金額が「再エネ発電促進賦課金」として明細に記載されます。
たとえば、2025年度の単価は3.98円/kWh。仮に400kWhを使用した場合、
→ 3.98円 × 400kWh = 1,592円が賦課金として請求されることになります。
このようにして集められたお金は、電力会社を通じて国の指定機関(再生可能エネルギー発電促進賦課金管理業務を行う組織)に納付され、そこから全国の再エネ発電事業者に買取補填金として分配されます。
制度開始から10年以上が経過し、導入された再エネ設備の増加に伴って、国民全体の負担額も年々増加。現在では賦課金の累計負担は膨大な規模となり、2030年度までに総額23.5兆円に達する見込みとも言われています。
2 電気料金にどう反映されているか
再エネ賦課金は、全国すべての電気利用者が公平に負担する仕組みとして、電気料金に組み込まれています。具体的には、毎月の電力使用量(kWh)に対して、その年度に設定された単価を掛けた金額が「再エネ発電促進賦課金」として請求され、電気料金明細に明記されます。
たとえば2025年度(2025年5月〜2026年4月)の賦課金単価は3.98円/kWh。400kWhを使用する家庭では、
3.98円 × 400kWh = 1,592円 が毎月の電気料金に上乗せされることになります。
このようにして全国から集められた賦課金は、電力会社を通じて国の指定機関に納付され、再エネ発電事業者に対する買い取り補填として活用されます。
なお、再エネ賦課金の単価は毎年見直されます。その金額は、電力市場価格や再エネ導入量に加えて、回避可能費用(再エネを導入することで、火力発電などによる燃料費や運転コストを削減できると見積もられる金額)などの要因によって変動します。
たとえば2023年度には、一時的に単価が1.40円/kWhまで下がりました。これは、ウクライナ情勢などの影響で火力発電の燃料価格が高騰し、回避可能費用が一時的に大幅に上昇したことが要因です。その分、国民が負担する賦課金が相対的に抑えられた格好です。
しかしその後、エネルギー価格の安定化とともに回避可能費用も減少傾向にあり、再エネ賦課金は再び上昇基調となっています。
このように再エネ賦課金は、私たちの電気代に“見えにくく存在する”構成要素であり、今後の制度動向やエネルギー市場の変動によって、家計への影響も大きく変わってくる可能性があります。
2. 再エネ賦課金の行き先と活用先
1 誰のもとに渡っているのか?
再エネ賦課金として私たちが毎月負担しているお金は、最終的に再生可能エネルギーで発電を行っている事業者のもとへ渡ります。その内訳を見ていくと、主に以下のような主体が一定の恩恵を受けているといえるでしょう。
・太陽光発電の設置者(個人・法人)
・再エネ発電事業者(メガソーラー開発企業など)
・設備メーカーやEPC業者(設計・調達・施工を行う企業)
・地方の遊休地の地主や農地を活用した事業者
・一部の金融機関・投資ファンド(再エネ設備への投資を行う事業者)
とくに初期のFIT制度では、1kWhあたり40円以上での買い取りが行われていた時期もあり、高収益を得た発電事業者も多く存在します。この高額な買取価格を支えていたのが、全国の電気利用者から集められた再エネ賦課金です。
また、賦課金は電力会社が回収・集計した後、国の指定機関に納付され、そこから各発電事業者に補填金として分配されます。
いわば、再エネのコスト差額を「みんなで支え合う」ための全国規模の資金循環システムが確立されているのです。
再エネ賦課金には賛否があるものの、導入から10年以上が経過した現在、再生可能エネルギーは日本の電力需給を支える基幹電源のひとつに成長しています。エネルギー自給率が低く、化石燃料への依存度が高い日本において、再エネの拡大は脱炭素・エネルギー安全保障の両面で不可欠です。
その意味で、再エネ賦課金は「再エネの普及初期を支えるために必要な制度」であり、一定の役割を果たしてきたといえるでしょう。
2 使途の透明性とその課題
再エネ賦課金の最終的な使い道は、FIT制度に基づく再エネ電力の「買取補填」に限られています。そのため、用途としては明確であり、制度上も別目的への流用はできない仕組みになっています。
しかし一方で、以下のような課題も指摘されています:
・資金の行き先がわかりにくい(個々の発電事業者への支払状況は非公開)
・初期の高額買取契約が現在も有効で、過剰な利益となっているケースがある
・事業性のみを目的とした乱開発や、景観破壊・環境破壊につながった事例も存在
つまり、再エネ賦課金は再エネ導入を支えてきた功績がある一方で、その使われ方がすべての国民の納得を得ているとは言いがたいのが実情です。
特に、太陽光発電設備などを導入していない家庭や事業者にとっては、「自分は再エネの恩恵を直接受けていないのに負担だけしている」と感じやすい構造でもあります。
しかし、再エネの導入拡大は電源の多様化や燃料輸入リスクの軽減、将来的な電力安定供給にも寄与する“社会全体のインフラ投資”としての側面もあります。
その意味では、再エネ賦課金は直接的なメリットが見えにくい人にとっても、間接的に安全で持続可能な電力環境の恩恵をもたらす可能性がある制度であるとも言えるでしょう。
今後は、こうした視点も含めて、制度の“見える化”や説明責任を果たすことが重要になっていきます。
3. 家計と企業への影響
1 賦課金による負担は誰にとっても“他人事ではない”
再エネ賦課金は、すべての電力使用者が等しく負担する仕組みである以上、家庭・企業・自治体・公共施設など、電気を使うあらゆる場所に影響を及ぼしています。使用量に比例して請求されるため、電力消費が多いほど、当然その負担も重くなります。
たとえば、2025年度の単価は3.98円/kWh。一般家庭で月400kWh使えば約1,592円、中規模オフィスビルで5,000kWh使えば約19,900円の負担です。これはあくまで「再エネ賦課金分」だけの金額であり、実際の電気料金に含まれる他の費用とあわせれば、その影響はさらに大きくなります。
特に、夏場や冬場など冷暖房の使用量が増える時期には、家庭でも企業でも月々の電気代が跳ね上がる原因のひとつとなっており、電力コストの管理を難しくしています。
再エネ賦課金は「少しずつみんなで負担する」という設計ですが、家計や経営がひっ迫している層にとっては、その“少し”が意外と重くのしかかることもあります。
2 減免措置と「公平さ」をめぐる議論
賦課金の制度上、電力を多く使う産業向けには一部の減免措置も設けられています。これは主に、製造業など電力多消費型の事業者が国際競争力を維持するための措置です。
注:再エネ賦課金減免制度の主な要件(2025年度適用分)
・年間電気使用量が100万kWhを超えること
・申請事業の電気使用量が、申請事業所全体の電気使用量の過半を占めていること
・電気使用原単位(電気使用量 ÷ 売上高)が基準値(2025年度は5.2)を超えること
・原単位の改善に向けた取り組みを行っていること
詳細は資源エネルギー庁の公式資料をご参照ください
参照ページ:減免認定手続(リンク)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_nintei_genmei.html
このような減免制度は合理的ともいえますが、ほとんどの中小企業や家庭には適用されません。そのため、「本当に困っている層がより多く負担しているのでは?」という逆進性の指摘や、「大口需要家だけが優遇されている」といった公平性への疑問の声もあります。
さらに、電力料金に占める賦課金の割合が大きくなってきた今、単なる電気代の一部としてではなく、“準税金的な存在”としての議論も広がりつつあります。実際、電気代の明細を見ても「なぜこの金額になるのかがわかりにくい」と感じる人も少なくありません。
4. 今後の動向と見通し
1 FIT制度の終了と賦課金のピーク予測
再エネ賦課金の大部分は、FIT制度に基づく「高価格での電力買取」によって生じる差額の補填に充てられています。このFIT制度は、発電設備ごとに10〜20年の買取期間が定められており、導入初期(2012年ごろ)の案件から順に、2030年代にかけて買取期間が満了していく見通しです。
たとえば、2012年度に認定された非住宅用太陽光発電(10kW以上)は、2032年ごろに買取が終了します。環境省が2013年に示した試算では、再エネ賦課金のピークは2030年ごろに達し、その後は減少に転じるとされてきました。
しかし、実際には再エネ導入量の拡大や電力市場の変動により、想定以上に賦課金単価が上昇しており、電力中央研究所の試算では、2030年時点でも3.5~4.1円/kWh程度にとどまる可能性があると指摘されています。
今後は、FIT制度に代わる支援策として、FIP制度(Feed-in Premium)の導入が本格化していきます。FIP制度は、発電した電力を市場で販売し、その価格にプレミアム(補助金)を上乗せする形で収益を得る制度です。
この制度により、再エネ事業者の市場競争力を高めつつ、再エネ賦課金のような直接的な国民負担を抑制する効果が期待されています。
ただし、FIP制度におけるプレミアムの原資が公的資金や電力料金から拠出される仕組みになる場合、間接的な形での国民負担が続く可能性もあることに留意が必要です。今後の制度設計や運用のあり方によって、再エネの普及を支える費用負担の形態は変化しつつも、完全に“ゼロ”になるわけではないと考えられます。
したがって、再エネ賦課金そのものは将来的に縮小していく可能性がある一方で、新たな制度への移行後も、私たちが支え手となる構図は基本的に維持されることを前提に、動向を見守っていくことが重要です。
2 電力市場価格・国際情勢との連動と今後の制度見直し
再エネ賦課金の単価は、単純に買取費用だけで決まるわけではなく、「回避可能費用」とのバランスで毎年度算出されます。この回避可能費用とは、再エネを導入したことで削減できると見積もられる火力発電などのコストのことであり、燃料価格や電力市場の価格動向に大きく影響されます。
たとえば、2023年度にはウクライナ情勢の影響によりLNGなどの燃料価格が高騰し、電力市場価格も急上昇。それに伴って回避可能費用が増加した結果、再エネ賦課金の単価は一時的に1.40円/kWhまで下がりました。これは一見「負担が減った」ように見えますが、国際情勢の不安定さが電気料金にも直結するという側面を改めて浮き彫りにしました。
一方で、こうした再エネ賦課金の負担増に対する国民の不満も年々強まっています。特に、低所得世帯ほど影響が大きいという“逆進性”の問題や、太陽光発電コストの低下(10年前比で50〜70%減)が進んでいる中で、引き続き高い買取価格を補填し続けることの妥当性にも疑問が投げかけられています。
このような背景から、制度の見直しを求める声が広がりつつあります。参考になるのがドイツの事例で、同国では2022年に再エネ賦課金制度(EEGサーチャージ)を廃止し、国の一般財源(税金)で再エネ支援を行う仕組みへと移行しました。
日本でも、「公平な負担」「費用の見える化」「脱炭素のための投資としての納得感」をどう制度に反映するかが、今後の重要な論点となっていくでしょう。
再エネの導入は今後も不可避な国策である一方で、その財源のあり方や負担構造は、国民的な議論を経て時代に合わせた形に更新されていくべき局面を迎えています。
5. 私たちにできることと選択肢
1 電気料金を「なんとなく」払わないために
再エネ賦課金は、毎月の電気料金に含まれて自動的に請求されるため、あらためて意識する機会が少ないかもしれません。けれども、2025年度には1kWhあたり3.98円と、無視できない金額にまで達しています。
まず大切なのは、電気料金の内訳に関心を持つことです。自分がどれくらい再エネ賦課金を支払っているかを知ることで、制度への理解が深まり、家庭のエネルギーコスト全体を見直すきっかけにもなります。電力会社のWeb明細や請求書で「再エネ発電促進賦課金」の欄をチェックしてみましょう。
また、電力自由化によって私たちには電力会社を選ぶ自由もあります。プランによっては再エネ比率が高いものや、料金の見える化が進んでいるものもあり、自分の価値観に合った選択が可能です。
2 エネルギーを「支える側」に回るという発想も
電気を“買う”だけでなく、“つくる”選択肢も広がっています。たとえば、太陽光発電の導入や、PPA(電力購入契約)モデルを活用した初期費用ゼロでの自家消費など、設備を持たなくても再エネに関わる手段が増えています。
また、電気の使い方を工夫することも、間接的に再エネを支えることにつながります。ピーク時間帯を避けた使用や、節電アクションの継続は、電力需給全体を安定させ、再エネの価値を高める行動になります。
さらに、今後の制度改正や再エネ政策に対して、関心を持ち、声をあげることも一つの選択肢です。制度は、誰かのものではなく、「使っている私たち」のものです。
最後に
再エネ賦課金は、たしかに家計や企業にとって負担となる面があります。しかしそれは、次世代のために持続可能な社会を築くための“投資”とも言えます。
この制度を理解し、自分なりの選択を持つことが、エネルギーとより良い関係を築く第一歩になるのではないでしょうか。
〇参考ページ
なっとく!再生可能エネルギー(資源エネルギー庁)
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それでは、また!