「酒だけじゃないカクヤス」捨てる油が航空燃料に?!新サービスで販路拡大へ
日経ビジネスにたいへん興味深い記事がありましたのでご紹介します。
お酒の宅配でおなじみの「カクヤス」が、使用済みの天ぷら油などの「廃食油」を回収するサービスを強化しているというのです。一見、単純なリサイクル活動に見えますが、その背景には、自社の強みを最大限に活かし、社会課題をビジネスチャンスに変える巧みな戦略が隠されていました。この取り組みは、環境貢献が企業価値に直結する現代において、新しいサービスを模索するすべての企業にとって大きなヒントとなりそうです。自社のリソースを見つめ直し、新たな価値を生み出す「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の発想とはどのようなものか、詳しく見ていきましょう。
※ サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、
従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システム(リニアエコノミー)から脱却し、資源をムダなく循環利用することで、環境負荷を低減し、持続可能な社会を目指す経済システムのこと。
元ネタ 日経ビジネスさんのページ:カクヤス、廃食油回収で販路拡大 SAF原料買い取りで商品値引き(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00159/040100317/)
カクヤスさん7月1日に社名変更『株式会社 ひとまいる』さんのページ(https://www.hitomile.co.jp/)
「お酒のついでに、廃油も回収します」- カクヤスが始めた新サービス
酒類販売大手のカクヤスグループが2024年6月から本格的に開始した「廃食油回収サービス」。これは、同社の強みである飲食店や家庭への配達網を活用し、商品の配達時に使用済みの食用油を買い取って回収するというものです。
・買取価格: ペットボトル(500ml以上)1本3円、一斗缶(18L)1本110円
・仕組み: 商品注文時に回収を依頼し、配達員が商品と一緒に廃食油を回収。購入代金からその場で値引きされる。
飲食店にとっては、これまで処理に困っていたり、専門業者を待つ必要があったりした廃食油を、日々の注文ついでに手軽に処理できるというメリットがあります。実際に、サービス開始から2025年2月までの9ヶ月間で、合計約92トンもの廃食油が集まったというから驚きです。このサービスがきっかけで、カクヤスと新規契約する飲食店も現れているようです。
なぜ今「廃食油」が”宝の山”に?背景にある航空業界の大変革
なぜ、カクヤスはこれほどまでに廃食油の回収に力を入れるのでしょうか。その答えは、世界的に需要が急拡大している「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」にあります。
SAFは、廃食油や植物、都市ごみなどを原料に作られる環境負荷の低い航空燃料です。気候変動対策として、世界の航空業界で脱炭素化は待ったなしの課題となっており、SAFの導入が急速に進んでいます。
・世界の動向: 欧州連合(EU)では2025年から航空燃料の2%をSAFとすることが義務化。
・日本の目標: 日本政府も「2030年までに国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という高い目標を掲げています。
需要が急増する一方で、その原料確保が深刻な課題となっています。特に廃食油はSAFの優良な原料ですが、日本国内の現状を見てみると、大きな「埋蔵金」が眠っていました。
・日本の廃食油発生量(年間): 約57万~59万kL
・事業系(外食産業など): 約44万kL → 9割以上が既にリサイクル済み
・家庭系: 約11万kL → ほとんどが未回収で焼却処分
つまり、既存のリサイクル網から原料を奪い合うのではなく、これまで手つかずだった「家庭に眠る約11万kLの廃食油」こそが、新たなビジネスチャンスの源泉となるのです。カクヤスの取り組みは、まさにこの未開拓の市場に目を付けたものと言えるでしょう。
【要注意】これはエコ活動ではない。緻密に計算された成長戦略だ
新しいサービスを検討する際に、このカクヤスの事例から学ぶべき点は非常に多いです。注目すべきは、単なる環境貢献活動(CSR)で終わらせず、本業の成長に直結させている点です。
1.既存資産(強み)の最大活用
カクヤスは、関東・関西圏に張り巡らせた「自社の配送・回収網」という最大の経営資源を活用しました。すでにある配達ルートに乗せるため、回収のための追加コストを最小限に抑えています。これは、他社が簡単に真似できない強力な参入障壁となります。
2.本業への強力なシナジー
廃食油回収をフックに、これまで取引のなかった個人飲食店や一般家庭との接点を創出。さらに、プライベートブランドの食用油を発売し、「お酒だけでなく、油や調味料もカクヤスで」という顧客のついで買いを誘発しています。「回収」が「販売促進」と「顧客拡大」に直結する見事なビジネスモデルです。
3.社会課題解決による企業価値向上
「SAF原料の安定確保」という社会的な要請に応えることで、カクヤスは「環境に配慮する先進的な企業」というブランドイメージを確立し、他社との差別化を図っています。投資家や消費者からの評価も高まり、企業価値そのものを向上させる効果が期待できます。
新しいサービスを立ち上げる際、「何か新しいことを始めなければ」と外にばかり目を向けがちです。しかし、カクヤスの事例は、自社の足元にある強みと、世の中の課題を結びつけることで、持続可能なビジネスが生まれるのだなぁと教えてくれます。
まとめ
カクヤスグループが始めた廃食油回収サービスは、単なるリサイクル活動ではありません。
・SAFという将来性のある市場の原料不足に着目
・自社の強みである「配送網」を最大限に活用
・廃食油回収をきっかけに「本業の売上拡大」を実現
という、三拍子そろった巧みなサーキュラーエコノミー戦略です。
飲食店や家庭にとっては、面倒な廃油の処分が簡単になるだけでなく、ちょっとした割引も得られるというメリット付き。今後、他業種にも広がりを見せる可能性を秘めたこのモデル、SAF普及の成否とともに注目していきたい取り組みです。
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