夢のエネルギー「核融合」が動き出す!30年代実用化は本当か?日本の勝算と課題を解説

日本経済新聞に「夢のエネルギー源」と言われ続けてきた核融合に関する開発企業トップや専門家のインタビュー記事が掲載されていたので調べてみました。
脱炭素化やエネルギー安全保障の切り札として、世界中で開発競争が加速しています。かつては「21世紀後半」と言われた実用化が、AIの普及による電力需要の急増や巨額の民間投資を背景に「2030年代」という野心的な目標に前倒しされています。
米国のスタートアップがマイクロソフトやグーグルと電力供給契約を結ぶ一方、日本も独自の強みで存在感を示しています。核融合発電の「今」と「未来」はどうなっているのか、専門家の見解を基にわかりやすく解説します。
目次
・なぜ今、核融合が「30年代実現」と騒がれているのか?
・世界の開発競争、先行する米国スタートアップの動向
・核融合開発の「死の谷」とは?巨額の投資マネーが動く現状
・開発方式の違い(トカマク型 vs レーザー型)
・日本の「隠れた強み」と「大きな課題」
・まとめ:夢から「ビジネス」へ。日本の本気度が試されている
🌍 なぜ今、核融合が「30年代実現」と騒がれているのか?
核融合発電は、地上に「人工の太陽」をつくる技術です。水素の仲間である重水素と三重水素を1億度以上に加熱して核融合反応を促し、膨大なエネルギーを生み出します。
核融合発電の主なメリット
・エネルギー効率: 燃料1グラムで石油8トン分ものエネルギーを取り出せます。
・安全性: 原子力発電(核分裂)のような連鎖反応がなく、暴走の原理的な危険性が低いとされています。
・環境性: 発電時にCO2を排出しません。
これまで実用化は2050年代以降と見られていましたが、ここ数年で潮目が変わりました。
1.技術的進展: 2022年、米国立研究所が投入エネルギーを上回るエネルギーの発生に世界で初めて成功しました。
2.電力需要の急増: AIやデータセンターの普及に伴い、世界的に電力不足への懸念が広がっています。
3.エネルギー安全保障: 化石燃料の価格高騰や、蓄電池の材料が特定国に依存している問題から、国産エネルギー源への期待が高まっています。
こうした背景から、米核融合産業協会の報告では、送電開始時期を答えた企業の約7割が「2030〜35年」と回答するなど、目標が一気に前倒しされています。
🚀 世界の開発競争、先行する米国スタートアップの動向
現在、核融合開発は国家プロジェクト(例:国際熱核融合実験炉ITER)と、民間スタートアップが競い合う構図になっています。
特に米国企業の動きは活発です。米核融合産業協会によると、世界の核融合産業の累計調達額は97億ドル(約1.4兆円)を超え、直近1年で4000億円近く増加。さながらゴールドラッシュの様相です。
・米ヘリオン・エナジー: 2028年にマイクロソフトへの電力供給を発表。
・米コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS): 2030年代前半にも発電所を建設するとしてグーグルと契約。
政策研究大学院大学の根井寿規氏によれば、CFSの成否が世界の核融合実用化の機運を左右するカギになると見られています。
💰 核融合開発の「死の谷」とは?巨額の投資マネーが動く現状
京都フュージョニアリングの小西哲之氏は、研究期間は終わり「事業化に向けた次のステージに進んだ」と指摘します。
しかし、技術系のスタートアップには、研究が事業化に結びつかない「死の谷」と呼ばれる困難な時期があります。この時期に100億円単位の巨額な資金調達と適切な活用ができない企業は淘汰されます。
すでにカナダや英国の企業で資金難や開発断念の例が出ており、今後5年でM&A(合併・買収)が進むと予測されています。
商業化に必要な調達額は、各社合計で770億ドル(約11兆円)超になるとの指摘もあり、技術的なハードルだけでなく、この「死の谷」を越えられるかが焦点です。
🔬 開発方式の違い(トカマク型 vs レーザー型)
核融合には複数の方式がありますが、主に2つが注目されています。
1. トカマク型(磁場閉じ込め方式) ITERや米CFSが採用する主流の方式。超電導コイルで作った強力な磁場の中にプラズマ(1億度以上の燃料)を閉じ込めます。根井氏によれば、CFSは「商業化に向けた基礎研究の一番難しい部分は超えた」段階にあるといいます。
2. レーザー方式(慣性閉じ込め方式) エクスフュージョン(EX-Fusion)などが手掛ける方式。燃料に強力なレーザーを当て、瞬間的な圧力で核融合反応を起こします。
エクスフュージョンの松尾一輝CEOは、レーザー方式のメリットを「モジュール化」にあると語ります。小さいレーザーを量産して並べれば出力を上げられるため、自動車産業のような日本の得意分野であると指摘。データセンター横の小型電源からギガワット級の基幹電源まで、汎用性の高さが強みです。
🎌 日本の「隠れた強み」と「大きな課題」
世界が開発競争を繰り広げる中で、日本の立ち位置はどうでしょうか。
日本の強み:圧倒的なサプライチェーン 小西氏も松尾氏も、日本の最大の強みは「サプライチェーン(供給網)」であると口をそろえます。
核融合炉は「周期表に出てくる元素はほとんど全て使う」と言われるほど多様な素材が必要で、これはほぼ鉄でできている原子炉とは大きく異なります。
・プラズマを閉じ込める超電導磁石(トカマク型)
・高純度・高精度の特殊材料
こうした分野で、日本の中小企業は世界がうらやむ高い技術力を持っています。小西氏は「供給網を持った国が核融合のマーケットを制する」と断言しており、日本には大きなビジネスチャンスがあります。
日本の課題:国の関与と「誰がやるか」問題 一方で、日本には大きな課題もあります。
1.事業主体が不明確: 根井氏は、いざ発電炉ができたとして「日本において実際に発電事業を担うのはどこなのかがはっきりしない」と懸念します。東京電力は福島第一原発の処理、関西電力は原発の建て替えなど、既存の電力会社は余裕がない可能性があります。
2.国のサポート体制: 宇宙産業におけるNASAとスペースXのような、官民の強力な協力体制が日本にはまだありません。小西氏は、数千億円規模のインフラ整備(土地や放射性物質処理)には国の協力が不可欠であり、これまでの文部科学省(研究)中心から、経済産業省(産業)がもっと関与する必要性を説いています。
まとめ
核融合発電は、もはや「夢の技術」ではなく、2030年代の実用化を目指す「ビジネス競争」のフェーズに突入しました。
米国スタートアップが巨額の資金を集めて先行する一方、日本には世界を制しうる「サプライチェーン」という強力な武器があります。
しかし、その武器を生かして最終的に「エネルギー供給国」になるためには、巨額の投資リスクを誰が負うのか、そして国がどれだけ本気で産業化を後押しするのか、という事業戦略が問われています。まさに、日本の「本気度」が試される局面と言えるでしょう。
情熱電力からのお知らせ
今回は、以前から何度かこのブログで取り上げている核融合発電について記事にしてみましたが、いかがだったでしょうか。
「夢のエネルギー源」と言われ続けてきた核融合も最近ではTVや新聞でニュースとして取り上げられるようになってきました。
核融合発電のような未来のエネルギーが実用化されるにはまだ時間が必要ですが、未来のエネルギーに期待しつつ、
情熱電力は「今」のエネルギー課題に対しても様々な対応をしていきます。
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それではまた!!
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