ドラッカー思想に学ぶ「美しい会社」の条件と、経営者が自らに課すべき「5つの質問」

以前もこのブログでピーター・ドラッカー先生について取り上げました。今回は、日経ビジネスに、ドラッカーは「美しい会社」と「醜い会社」の違いをどう考えたかという気になる見出しの記事があったので調べてみました。
かつてドラッカーの分身とも称された翻訳家・上田惇生氏は、「世の中には『美しい会社』と『醜い会社』がある」と言い残しました。どれほど高い利益を上げていても、私たちが美しいと感じられない会社から学べるものは少ないという指摘です。
一見すると主観的にも思えるこの言葉の背景には、ドラッカーが一生を捧げて構築した「社会救済としてのマネジメント」の哲学と、人間の尊厳への強い想いが息づいています。本記事では、ドラッカーの思想に興味がある皆様へ向けて、企業の真の価値や、経営者があるべき姿についての内省のヒントをお届けします。
(今回の記事も完全に内向きかつ自戒の記事です。)
マネジメントは「社会救済」の手段である
ドラッカーが「マネジメントの父」と呼ばれる所以は、単に効率的な企業経営の手法を編み出したからではありません。彼の問題意識の根底には、20世紀に台頭した全体主義から人間の自由と尊厳を守るという、極めて厳粛なテーマがありました。
1973年の名著『マネジメント─課題、責任、実践』のまえがきにおいて、ドラッカーは以下のように述べています。
「自立した組織をして高度の成果をあげさせることが、自由と尊厳を守る唯一の方策である。その組織に成果をあげさせるものがマネジメントであり、マネジメントの力である。成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手だてである」
つまり、マネジメントの本質とは、組織で働く一人ひとりの人間が自律性と幸福を得るための「社会救済の装置」なのです。個人の存在が埋没し、組織の維持そのものが目的化してしまう状態を、ドラッカーは強く警戒していました。
「1位2位戦略」の裏にあった、人間の内面への問いかけ
かつて米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ会長が率いた「1位2位戦略(世界で1位か2位になれない事業からは撤退する)」は、日本でもバブル崩壊後の「選択と集中」のモデルとして広く知られました。この戦略もドラッカーの助言がきっかけだったとされていますが、実はその真意は表層的な数字の切り捨てではなかったと言われています。
実際にドラッカーがウェルチ氏にかけた言葉は、次のようなものでした。
「あなたの会社のやっている仕事は、すべてワクワクドキドキするものばかりか?」
「ワクワクドキドキしてやっている事業以外は、すべてやめたらどうだろう」
経営の判断基準は、冷徹な数字や理屈だけではありません。現場の人間が熱意を持って、主体的かつ「ワクワクドキドキ」しながら取り組めているか。ドラッカーは人間の内面に寄り添った問いを立てていましたが、結果としてそれは市場シェアという外的な戦略論へと置き換えられてしまいました。人間の内面や実存を無視し、無目的に数字だけを追う組織こそが、上田氏の言う「醜い会社」の本質と言えるかもしれません。
キルケゴールから受け継いだ「生きる覚悟」
ドラッカーの人間中心の経営論は、彼が19歳の時に出合ったデンマークの哲学者、キルケゴールの思想に深く影響されています。ドラッカーが精神的な次元で綴った唯一の論文「もう一人のキルケゴール」では、社会の仕組みにあらがえない人間の孤独と、それでも自律的に生きようともがく「実存」について触れられています。
ドラッカーは、神と一対一で向き合うような絶対的な孤独の緊張感の中でこそ、人間の実存が可能になると説き、以下のように記しています。
「キルケゴールの信仰もまた、人に死ぬ覚悟を与えてくれる。しかし、それは同時に、人に生きる覚悟をも与えてくれるものである」 ──『すでに起こった未来』所収「もう一人のキルケゴール」より
社会や組織に盲目的に従属するのではなく、個人が自由と責任、そして尊厳を持って生きる。そのためにドラッカーは、「自己目標管理(MBO)」や「分権化」といった独自のマネジメント概念を提唱し、組織を人間精神の起点から再定義しようとしたのです。
自らを省みるための「5つの質問」
ドラッカーの経営論は、画一的なフレームワークを当てはめるものではなく、経営者自身に本質的な問いを突きつけるものです。その象徴が、以下の「5つの質問」です。
1. われわれの使命は何か(組織の存続自体を目的にしていないか)
2. われわれの顧客は誰か(対象を明確に定めているか)
3. 顧客にとっての価値は何か(顧客が本質的に求めているものは何か)
4. われわれの成果は何か(売上などの数字ではなく、顧客に価値が届いたかをどう判断するか)
5. われわれの計画は何か(一人ひとりが自律的に動くための計画はあるか)
日々の業務に追われる中で、これらの問いに答えることは容易ではありません。しかし、正しい問いを立てて内省することなしに、組織の自己破壊を防ぐことはできません。
さらに、ドラッカーは「何によって憶えられたいか」という問いを生涯にわたって自らに課し続けました。未来の人々にどのような貢献を残し、どう記憶されたいかを問うことは、現在の姿勢と行動を変え、経営者としての覚悟を決めるエネルギーとなります。
まとめ
ドラッカーが描いたマネジメントの世界は、効率性や利益の最大化だけを求める冷徹な技術ではありません。その根底にあるのは、働く人々が尊厳を保ち、熱意を持って自律的に生きるための、人間に対する温かな眼差しです。
数字のみを盲目的に追いかけ、人間の実存を奪ってしまう「醜い会社」にならないために。そして、関わる人々が心から「美しい」と感じられる組織であり続けるために。私たちは定期的に立ち止まり、「5つの質問」や「何によって憶えられたいか」という問いを、真摯に自社へと投げかけ続ける必要があります。
情熱電力からのお知らせ
前回の記事では、ドラッカー先生が説く「セルフマネジメント」や「強みの最大化」について触れましたが、今回の「美しい会社」というテーマもまた、私たちが目指すべき組織のあり方を深く考えさせられます。
働く一人ひとりが「ワクワクドキドキ」した熱意を持ち、本業という自社の「使命」に100%集中できる環境を整えること。それこそが、持続可能な企業経営の基盤ではないでしょうか。
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この記事に関連するページリンク
・日経ビジネス:ドラッカーは「美しい会社」と「醜い会社」の違いをどう考えたか
・ドラッカー学会(Drucker Society Japan):公式ウェブサイト