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2026.08.03 Mon

BYDの軽EV「RACCO」実質199万円は本当に安い?補助金と電気代から新電力が解説

 
軽自動車サイズの電気自動車
 
中国のBYDが、日本専用に開発した軽自動車のEV「RACCO(ラッコ)」を2026年7月28日に発売した、という複数の記事を見つけたので、まとめて調べてみました。海外メーカーが日本独自の規格である軽自動車に、専用設計のクルマで本格参入するのは史上初めてのこと。しかも価格は214万5000円からで、国の補助金を使えば実質199万5000円と、ガソリンの軽自動車とも戦える水準に踏み込んできました。
 
ただ、記事を読み比べていくと「安い」の中身はそう単純ではないことが見えてきます。国の補助金はBYDに15万円しか出ず、日産やホンダの軽EVとは40万円以上の差がある。一方で航続距離や装備では上回る部分もある——。
 
そして、私たち電力会社の立場から言わせていただくと、EVで本当に効いてくるのは車両価格だけではありません。「毎月の電気代がどうなるか」「今の家の電気契約のままで充電できるのか」。このあたりは、カタログにはあまり書かれていない部分です。今回は価格のカラクリと、買う前に確認しておきたい電気まわりのポイントを、まとめて整理してみました。
 


 
目次

 


 

1. BYD「RACCO」とは何者か 軽自動車という最後の聖域へ

 
まずは、どんなクルマなのかを押さえておきましょう。
 
RACCO(ラッコ)は、世界最大級のEVメーカーである中国BYDが、日本市場専用にゼロから開発した軽自動車規格の電気自動車です。BYD Auto Japanが2026年7月28日に発表・発売しました。
 
注目すべきは、狙ってきたカテゴリーです。全高1.8m級の「軽スーパーハイトワゴン」——ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」が属する、軽自動車の中でいちばん売れているジャンルにいきなり切り込んできました。両側の電動スライドドアを全グレードに標準装備し、大人4人がゆったり座れる室内を確保。BYD Auto Japanの商品企画担当者は「一番広いクルマでも一番速いクルマでもなく、一番いい軽自動車を目指した」と語っています(東洋経済オンライン報道)。
 
主なスペックを整理すると、こうなります。
 

グレード RACCO 200 RACCO 300Plus RACCO 300Premium
メーカー希望小売価格(税込) 214万5,000円 239万8,000円 249万7,000円
バッテリー容量 22.4kWh 35.84kWh 35.84kWh
一充電走行距離(国土交通省審査値) 210km 320km 320km
CEV補助金(国) 15万円 15万円 15万円
補助金適用後の実質価格 199万5,000円 224万8,000円 234万7,000円

ボディサイズは全長3,395×全幅1,475×全高1,800mm。モーターは最高出力47kW(64PS相当)、最大トルク160N・m。バッテリーはBYD独自のリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を採用しています。新車保証は6年または15万km、バッテリーの容量保証は8年15万kmで、有償(18,000円)で最長10年20万kmまで延長できるとされています。
 
軽自動車は日本の新車販売のおよそ3〜4割を占める、国内最大のマーケットです。そこに海外メーカーが専用設計で挑むというのは、これまでなかったこと。BYDはまず年間1万台の販売を目標に掲げています。
 


 

2. 実質199万円のカラクリ 補助金43万円のハンデを読み解く

車両価格は軽EV最安、でも補助金込みだと逆転する

 
ここからが本題です。「実質199万円」という数字は確かにインパクトがありますが、ライバルと比べたときの立ち位置は少し複雑です。
 
国のCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)は、車種によって金額が違います。報道によれば、日産「サクラ」とホンダ「N-ONE e:」は58万円、三菱「eKクロスEV」は57万4,000円が交付される一方、BYDのRACCOは全グレード一律15万円にとどまります。その差、最大で43万円。
 
つまり、こういうことです。
 
・メーカー希望小売価格で比べると → RACCOが軽EVで最安
・国の補助金を差し引いた実質価格で比べると → 日産サクラが約186万円台からで、RACCOの199万5,000円を下回る
 
「表示価格は安いのに、支払い額では逆転する」という、なかなかややこしい状況になっているわけですね。
 
なぜこんな差がつくのか。背景には2026年4月の制度改定があります。CEV補助金は、車両の性能だけでなく「メーカーとしての貢献度」を評価する仕組みになっており、この会社評価の比重が高まりました。国内の充電インフラ整備やサプライチェーンの供給安定性などが評価軸に含まれるため、電池を自社生産する海外メーカーであるBYDは減額された形です。BYD側はこの点に不満を示し、経済産業省に運用の透明性を求めたと報じられています。
 
制度の是非をここで論じるつもりはありませんが、「EVの補助金は、クルマの性能だけで決まるわけではない」というのは、購入を検討する方には知っておいていただきたいポイントです。
 
 

自治体の補助金で景色は大きく変わる

 
もうひとつ大事なのが、自治体独自の補助金です。
 
国の補助金に上乗せする形で、都道府県や市区町村が独自の助成を行っているケースがあります。報道では、東京都の補助金(80万円)を使えばRACCOの実質価格は約120万円になる、というBYD関係者のコメントも紹介されていました。
 
ただし、自治体の補助制度は地域によって金額も条件も、そもそも制度の有無すらまったく違います。予算の上限に達し次第終了、というパターンも珍しくありません。長野県内にお住まいの方も含め、「うちの自治体はどうなっているのか」は、購入を決める前に必ずお住まいの市区町村・都道府県の公式サイトでご確認ください。国の補助金と自治体の補助金は併用できる場合が多いものの、併用条件が定められていることもあります。
 
なお、EVには税制面のメリットもあります。購入時のエコカー減税や、取得の翌年度の軽自動車税(種別割)のグリーン化特例など、ガソリン車にはない優遇が受けられます。制度は年度ごとに見直されるため、こちらも最新の情報を確認しておくと安心です。
 


 

3. 電気代で見る軽EVのランニングコスト

 
さて、ここからは私たち電力会社の得意分野です。
 
車両価格の話はメディアでさんざん報じられていますが、「では実際、毎月の電気代はどうなるの?」という部分は意外と語られていません。ここを一緒に計算してみましょう。
 
 

1kmあたり約3.5円という計算

 
まず、RACCOの「電費」を出してみます。電費とは、1kWhの電気で何km走れるかという、ガソリン車でいう燃費にあたる指標です。
 
RACCO 300Plusはバッテリー容量35.84kWhで航続距離320km(国土交通省審査値)。単純に割ると、約8.9km/kWhという計算になります。RACCO 200は22.4kWhで210kmなので、約9.4km/kWhです。
 
ここに電気料金の単価をかけます。家庭用電気料金の目安単価は31円/kWh(税込)とされていますので、これを使うと——
 
・RACCO 300Plus:31円 ÷ 8.9km ≒ 約3.5円/km
・RACCO 200:31円 ÷ 9.4km ≒ 約3.3円/km
 
一方、ガソリンの軽自動車はどうでしょうか。実燃費20km/Lと仮定し、レギュラーガソリンの全国平均価格を約170円/L(2026年7月下旬時点の水準)とすると、170円 ÷ 20km = 約8.5円/kmとなります。
 

軽EV(RACCO 300Plus) ガソリン軽自動車
1kmあたりの燃料・電気代 約3.5円 約8.5円
年間5,000km走行した場合 約1万7,500円 約4万2,500円
年間10,000km走行した場合 約3万5,000円 約8万5,000円

年間1万km走るご家庭なら、燃料代だけで年間およそ5万円の差。10年乗れば50万円ですから、補助金の43万円差を走行距離でひっくり返せる、という見方もできます。
 
ただし、いくつか注意点があります。上の計算は自宅での普通充電を前提にしたものです。外出先の急速充電器を頻繁に使う場合は、充電サービスの料金体系(従量制・時間制など)によってコストが大きく変わり、この試算より高くつくことがほとんどです。また、充電時にはロスが発生しますし、冬場は暖房やバッテリー性能の影響で電費が落ちます。あくまで目安としてご覧ください。
 
 

家庭の電気使用量はどれくらい増える?

 
もう一つの視点。EVを買うと、当然ですが家庭の電気使用量は増えます。
 
年間1万km走るとして、電費8.9km/kWhなら、必要な電力量は年間およそ1,100kWh。月あたりにすると約92kWhです。31円/kWhで計算すると、月々の電気代は約2,800円増える計算になります。
 
「電気代が月3,000円近く上がる」と聞くとドキッとしますが、その代わりガソリンスタンドでの支払いが月7,000円ほど消えるわけですから、家計全体では明確にプラスです。とはいえ、電気料金の請求書の数字だけが目に入って「EVにしたら電気代が上がった」と感じてしまう方は少なくありません。ガソリン代と電気代を合算して見る癖をつけると、判断を誤らずに済みます。
 


 

4. EVを買う前に確認したい「家の電気」3つのポイント

 
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。EVは「クルマを買う」だけでは完結しません。
 
 

その1 契約容量は足りているか

 
そもそもの話ですが、EVは家庭用の普通のコンセント(100V)にそのまま挿して充電するものではありません。自宅で充電するには、200Vの専用回路を分電盤から引いて、EV用のコンセントか充電スタンドを設置する工事が必要になります。「クルマを買えばすぐ自宅で充電できる」わけではない、というのは最初に押さえておきたいポイントです。
 
戸建て住宅の多くは「単相3線式」といって、もともと100Vと200Vの両方が使える引込方式になっています。エアコンやIHクッキングヒーターで200Vを使っているご家庭も多いはずです。ですので200V化そのものは大きなハードルではないのですが、EV充電は「専用の回路を新たに1本増やす」工事になるため、分電盤に空きがあるか、容量に余裕があるかがポイントになります。
 
そのうえで、充電の速さの話です。RACCOの普通充電の受け入れ能力は最大6kW(RACCO 200は3kW)とされています。ただ、住宅向けのEV充電設備でいま広く使われているのは200V・15A(約3kW)のタイプ。6kWでフルに充電しようとすると、それに対応した充電器と、より余裕のある回路が必要になります。
 
そして6kWの充電は、200Vで30A相当の電力を使い続けるということ。エアコン数台を同時に動かし続けるようなインパクトです。夜、家族がお風呂に入り、エアコンとIHと乾燥機が動いている時間帯に充電が重なると、契約容量によってはブレーカーが落ちる可能性があります。EVの導入にあわせて契約アンペア(または契約容量)の見直しが必要になるケースは、決して珍しくありません。
 
逆に言えば、3kWの設備でも一晩(8時間)あれば20kWh以上は充電できる計算なので、通勤や買い物が中心の使い方なら十分間に合うことがほとんどです。「速く充電できる設備を入れるべきか」「今の契約のままで足りるか」は、ご家庭の走り方次第。クルマの契約前に、一度ご相談いただくのが安心です。
 
 

その2 料金プランは夜間の充電に向いているか

 
EVの充電は、そのほとんどが夜間の自宅で行われます。ということは、夜間の電力量単価が安いプランと組み合わせると、ランニングコストはさらに下がります。
 
先ほどの試算では31円/kWhという目安単価を使いましたが、仮に夜間単価が20円/kWh台前半のプランで充電できれば、1kmあたりのコストは3円を切ってきます。年間1万kmなら燃料代は年3万円を下回る計算です。
 
逆に、日中の在宅時間が長いご家庭や、太陽光発電を設置しているご家庭では、また最適解が変わります。「EVを買ったら、とりあえず夜間割引プラン」ではなく、ご家庭の生活パターンに合わせて選ぶことが大切です。ここは、電気の使い方を丸ごと見直すいい機会でもあります。
 
 

その3 V2Hという「クルマが蓄電池になる」選択肢

 
RACCOは全グレードでV2L(クルマから電化製品に給電する機能)とV2H(クルマから自宅に給電する機能)に対応しているとされています(V2Lアダプターは別売オプション、V2Hには対応機器が別途必要)。
 
これは、災害時の備えとして見逃せないポイントです。35.84kWhというバッテリー容量は、一般的な家庭用蓄電池(5〜10kWh程度)の数倍。停電時に、家一軒の電気をしばらく賄える計算になります。台風や大雪、地震による停電は、地方で暮らす私たちにとって決して他人事ではありません。
 
「走る蓄電池」としてのEVは、電気を売る立場から見ても、これからの家庭のエネルギーのあり方を変えていく存在だと感じています。ただし、V2H機器の導入には別途費用がかかり、機器によっては数十万円規模の投資になります。補助金の対象になる場合もありますので、あわせて検討するのがおすすめです。
 


 

5. 軽EVの競争が、私たちの暮らしに意味すること

 
RACCOの登場で、軽EVの価格競争は一気に激しくなりました。日産サクラ、ホンダN-ONE e:、三菱eKクロスEV、そしてRACCO。実質価格200万円という「攻防ライン」をめぐって、各社が本気で戦い始めています。
 
これは、EVを検討する方にとってはいい話です。選択肢が増え、価格が下がり、航続距離が伸びる。RACCOの航続距離320kmという数字は、これまでの軽EVの常識(180〜295km程度)を塗り替えるものでした。
 
そしてもうひとつ。EVが増えるということは、家庭が電気を「使うだけの場所」から「ためて、時には家に戻す場所」に変わっていくということでもあります。夜間の安い電気をクルマにためて、昼間や停電時に使う。太陽光でつくった電気をクルマにためる。そんな使い方が、特別なことではなくなっていきます。
 
私たち情熱電力のような新電力にとっても、これは大きなテーマです。単に「電気をお届けする会社」から、「お客様の家のエネルギーの使い方を一緒に考える会社」へ。BYDの参入というニュースは、クルマ業界の話であると同時に、私たち電力の側にも変化を迫るニュースなのだと受け止めています。
 
軽自動車という、日本の暮らしにいちばん近いところで起きている変化です。ぜひ、ご自宅の電気の使い方とセットで、考えてみてください。
 


 
まとめ
BYDが日本専用に開発した軽EV「RACCO」は、メーカー希望小売価格214万5,000円から、CEV補助金15万円を適用して実質199万5,000円からという価格で登場しました。車両価格では軽EV最安水準ですが、国の補助金が日産・ホンダの58万円に対して15万円にとどまるため、支払い総額では日産サクラのほうが安くなる、というねじれた構図になっています。
 
一方で、航続距離320km、両側電動スライドドア、6年15万kmの新車保証など、商品力での勝負を仕掛けてきているのも事実です。
 
そして、EVを検討するうえで見落とされがちなのが「電気」の話。自宅充電なら1kmあたり約3.5円と、ガソリン軽自動車の約8.5円に対して大きな差がつきます。年間1万km走るご家庭なら、燃料代の差は年間5万円ほど。ただしその分、家庭の電気使用量は月90kWh前後増えるため、契約容量や料金プランの見直しが必要になることもあります。
 
クルマ選びと同じくらい、電気の契約を見直す価値がある——というのが、今回いちばんお伝えしたかったことです。
 


 
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