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2026.08.24 Mon

「もう戻れない」欧州はなぜ米国と決別へ動くのか|“脱米国化”が日本に突きつける宿題

 
欧州が米国と決別へ
 
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版に「『もう戻れない』欧州、米と決別の舞台裏」という記事があったので調べてみました。舞台は2026年1月、ベルギーの首都ブリュッセル。深夜近くまで5時間を超えて続いた欧州首脳たちの緊急会合で話し合われた議題は、たった一つだったといいます。「米国との決別を、どう乗り切るか」。
 
正直なところ、最初にこの見出しを見たとき「またヨーロッパの話か」と思われた方もいるかもしれません。私たちもそうでした。けれど記事を読み進めるうちに、これは遠い国のニュースではないな、と感じたのです。同盟のコストをめぐる交渉、外国製ソフトウエアへの依存、エネルギー価格の乱高下——出てくる論点のどれもが、そのまま日本に置き換えられる話ばかりだからです。
 
今回は電気の話は少しだけお休みして、世界がいま大きく動いている、その現場を一緒にのぞいてみたいと思います。
 


 
目次

 


 

1. ブリュッセル、深夜5時間の「セラピーの夜」

 
2026年、新年が明けてまだ3週間ほどしか経っていない頃のことです。ベルギーの首都ブリュッセルにある欧州理事会本部——その独特な形から「スペース・エッグ(宇宙の卵)」と呼ばれる建物の円卓を、欧州の首脳たちが囲んでいました。
 
この会合、かなり異例だったようです。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、2026年8月15日付日本版/Joe Parkinson, Drew Hinshaw, Daniel Michaels記者)によれば、出席した30人近い首脳たちは、随行員なしで一人ずつ参加するよう求められました。カメラも録音もなし。携帯電話の持ち込みも禁止。ただ率直に語り合うためだけの場が設けられたのです。会合は開始から5時間目に突入し、出席者の一部は後にこの夜を「セラピーの夜」と呼んだといいます。
 
なぜそこまでしたのか。きっかけは、米国の一連の動きでした。トランプ大統領はベネズエラの独裁的な指導者を排除した後、デンマークからグリーンランドを奪取すると一時脅しをかけていたと報じられています。関税措置もちらつかせていました。デンマークもグリーンランドも、欧州の一員です。仲間の領土が名指しされたわけですから、動揺しないほうが無理でしょう。
 
会合では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がこう切り出したと伝えられています。
 
・「われわれはここで一線を引く」
・過度な対米依存は、安全保障上のリスクである
・「もう後戻りはできない」
 
ベルギーの首相は、このままでは欧州は米国の「惨めな奴隷」になりかねないと語りました。一方で、保守派のイタリア・メローニ首相は異を唱えます。トランプ氏を好ましく思わないとしても、まだ対話の余地はあるはずだ、と。デンマークのフレデリクセン首相はひどく動揺した様子で、ドイツのメルツ首相が「大丈夫か」と声をかける場面もあったそうです。
 
議論は何時間も続きました。それも当然で、話し合いの中身はあまりにも重い。建国250年を迎えた米国は、欧州にとって「守護者」から「脅威」へと変わってしまったのか——第2次世界大戦後、共に血を流した絆と、運命共同体としての意識で結びついてきた国々が、それぞれの道を模索し始めた瞬間。WSJは、この夜が欧州の指導者たちの記憶に刻まれることになるだろうと書いています。
 


 

2. 「離婚届」はまだ誰も出していない

 
ただし、ここが大事なところなのですが、決定的な破局が起きたわけではありません。WSJの表現を借りれば、「離婚届」はまだ誰も提出しておらず、双方の主要関係者は「愛のない結婚」を維持しようと懸命に努力している状態です。
 
理由は単純で、欧州と米国の絆をほどく作業は、途方もなく膨大だからです。軍事面では、同盟国が完全に別々の道を歩むことは想像しがたい。経済も、技術も、金融も、何十年もかけて分かちがたく編み込まれてきました。
 
米国側は当然、この見立てに反論しています。ホワイトハウス広報担当者のアンナ・ケリー氏は、「トランプ大統領は世界の舞台における米国の地位を効果的に回復させ、他の誰よりもNATOのために多くのことを成し遂げた」と述べ、大統領は一部のNATO加盟国が義務を果たすためにもっと努力すべきだと考えている、と説明しています。実際、後述する防衛費の引き上げは、米国の圧力なしには進まなかった面もあります。ここは評価が分かれるところでしょう。
 
 

 カナダという“逆説の説得役”

この記事で個人的にいちばん面白いと感じたのが、カナダのマーク・カーニー首相の存在感でした。
 
カーニー氏は、ロンドン在勤時代に使っていた英国の電話番号で、欧州の主要な首脳たちに定期的にメッセージを送り続けていたといいます。伝えていた内容は一貫していて、「かつての米国はもう戻ってこない」。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での痛烈な演説を経て、その主張は支持を集めつつありました。スペインのサンチェス首相は「カナダは、われわれがすべきことを公然と語っている」と評しています。
 
カーニー氏は元中央銀行総裁で、2008〜09年の金融危機後の年月を、「西側諸国が、ますます予測不可能になりつつある一国に過度に依存している」という主張の構築に費やしてきた人物です。トランプ氏が「北の隣国を米国の51番目の州にする」と脅したことが、皮肉にも彼に勢いを与えました。
 
ただ、ここには逆説があります。気まぐれな米国へのリスクヘッジを欧州に促しているそのカナダこそ、地球上のほぼどの国よりも米国への依存度が高いのです。「わかっているのに、抜けられない」——依存というものの本質が、よく表れている話だと思いませんか。
 


 

3. 静かに進む「脱米国化」——デジタルと防衛の現場で

 
首脳会合の派手なやりとりの裏側で、実務レベルでは静かに、しかし確実に「脱米国化」が進んでいます。WSJはこれを「前例のない実験」と表現しています。
 
 

 役所のパソコンから米国製が消えていく

フランスからオランダに至るまで、各国当局は自国のシステムから米国製テクノロジーを静かに排除し、欧州のオープンソースソフトウエアを採用し始めています。公務員に対して、米マイクロソフトの「Teams」や「Office」の使用をやめるよう促す動きも出ています。
 
さらに、米国の巨大企業への依存を避けるべく、欧州独自の民間宇宙企業やAI(人工知能)開発企業、データセンターの強化に向けて数千億ドル規模を投じているとされます。
 
そして、もっと生々しい調査も進んでいます。米国との摩擦が激化した場合に——
 
・データをどこに保管するのか
・決済処理をどこで行うのか
・米国製兵器は、同盟国政府の承認なしにどの程度機能するのか
 
この3つ目、ぞくっとしませんか。買ったはずの装備が、売り手の意向で動かなくなるかもしれない。かつて世界各地に帝国を築いた国々が今、米国を刺激することなく、米国の技術と軍事力からの屈辱的な依存を脱却しようと苦慮している、とWSJは書いています。
 
米国の行動は、その決意をさらに固めさせる方向に働きました。2026年3月に欧州理事会首脳が再び「スペース・エッグ」に集まった頃には、トランプ氏によるイラン空爆が欧州全土の燃料価格を急騰させ、ドイツのメルツ首相は激怒していたといいます。同氏は、ロシアこそが中東の新たな戦争の唯一の勝者になると述べたと伝えられています。エネルギー価格が外交の副産物として跳ね上がる——ここは、私たち電力に関わる者としても他人事ではない部分でした。
 
 

 GDP比5%という、重すぎる宿題

もう一つの主戦場が、防衛費です。ここは数字が具体的なので、少し整理しておきましょう。
 
NATO事務総長のマルク・ルッテ氏は、2025年2月、ブリュッセルのエグモン宮殿での晩さん会で、動揺する欧州首脳たちを前にこう説いたとされています。「われわれは防衛費をGDP(国内総生産)比3.5%にする必要がある」。これは米国が支出している額とおおむね同水準で、NATOがそれまでに達成していたGDP比2%の目標をはるかに上回ります。
 
トランプ氏はかねて「5%に引き上げるべきだ」と主張しており、多くの欧州当局者はこれを威嚇だと一蹴していました。ルッテ氏が示した3.5%という中間的な数字は、ロシアとの戦争がどう展開するかを研究するNATOの軍事計画立案者から導き出されたものだったといいます。
 
首脳たちの反応は、正直でした。
 
・ドイツ:目標は理解する。ただし「いくら支出するか」より「何を購入するか」を議論すべきだ
・イタリア(メローニ首相):増やしたいが世論の抵抗が強く、EUの財政規則でも認められない
・ルーマニア:趣旨は支持するが、欧州大陸で軍拡競争を引き起こさないか
 
それでも流れは止まりませんでした。2025年4月、トランプ氏が新たなNATO大使に任命したマシュー・ウィテカー氏が「3.5%では不十分」というメッセージを携えてブリュッセルのNATO本部にやってきます。目標は2035年までにGDP比5%。財政的な痛みを和らげるため、軍事投資向けの3.5%に加えて、各国がすでに支払っている空港の滑走路、気象サービス、サイバーセキュリティーなどを「安全保障関連投資」として1.5%分上乗せできる、という案が示されました。
 
そして2025年6月、オランダ・ハーグで開かれたNATO首脳会議で、2035年までに国防費をGDP比5%(コア防衛3.5%+安全保障関連1.5%)へ引き上げる新目標が合意されています(日本経済新聞ほか報道)。
 
ルッテ氏は非公式の場で、こう語って欧州首脳らの理解を得ようとしたそうです。「表面上の数字こそ、トランプ氏が必要としている『勝利』だ」。10年も先の目標を、財政制約を抱える政府に無理やり達成させる者など誰もいない——出席者たちはそう理解していた、とWSJは伝えています。
 


 

4. 同盟をつなぎとめた「お世辞外交」とその限界

 
ここで、ルッテ氏という人物にもう少し触れさせてください。読んでいて、日本人としてはっとする一節があったからです。
 
50代後半のルッテ氏は、オランダ首相を務め、同国史上最長の在任記録を持つ人物です。彼が「米国の力が不可欠である」ことを生涯にわたって学び続けてきた背景には、父親の経験がありました。父親はオランダ領東インド(現在のインドネシア)で捕虜となり、米軍が太平洋を席巻していなければ、日本軍の拘束下で命を落としていたかもしれない——WSJはそう記しています。ロナルド・レーガン元米大統領への憧れを抱きながら青年期を過ごし、米国の軍事力と核の傘こそが「平和の究極の保証」だと信じてきた。休暇をほぼ取らず、夜遅くに職場から自転車で帰宅し、それからピアノの練習に励むような人だそうです。
 
そんな彼がNATO事務総長に選ばれた理由は、トランプ氏が2020年の米大統領選で敗北した後も友好的な関係を保ち続け、「トランプ・ウィスパラー(トランプ氏の懐柔役)」としての評判があったからでした。彼の戦略はシンプルです。トランプ氏に「勝利」を与えること。欧州メディアはこの手法を「お世辞外交」と呼びました。
 
欧州側も学習していきます。トランプ氏自身の言葉を、そのまま彼に言い返すのです。プーチン氏がウクライナで停戦に否定的な見解を示し、トランプ氏がそれに同調すると、欧州側は自分たちの和平案を「殺りくを止める」ものだと表現し直しました。対ロシア制裁を主張して苦言を呈された欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、それ以降、経済的圧力を「関税」と言い換えるようになったといいます。相手の語彙で話す——交渉術としては、なかなかに実践的です。
 
各国首脳も次々とホワイトハウスを訪れました。事前の電話で論法を入念に練り上げ、対立を避ける方向へ慎重に誘導する。英国の対外情報機関MI6は、スターマー首相にこんな警告をしていたそうです。第2次トランプ政権のホワイトハウスは、密告と疑心暗鬼が渦巻く「魔女狩りの法廷」と、王の機嫌ひとつで側近の首が飛ぶ「ヘンリー8世の宮廷」を掛け合わせたような場所だ——と。(原文では、セイラム魔女裁判を描いた戯曲『るつぼ』と、ヘンリー8世の宮廷を描いた小説『ウルフ・ホール』の二作品にたとえられています。)
 
実際MI6は職員に対し、米CIA側との会議で大統領の話題を持ち出さないよう指示したといいます。同盟国の情報機関どうしですら、この空気だったわけです。
 
こうした「お世辞外交」は、しばらくの間トランプ氏をNATOにつなぎとめているように見えました。しかし、それも2025年4月までだった、とWSJは書きます。要求はさらに引き上げられ、欧州は「防衛費を払っても、根本的な依存関係は解決しない」という現実に向き合うことになりました。冒頭の2026年1月の深夜会合は、その延長線上にあったわけです。
 


 

5. 【一覧表】欧州で進む“脱米国化”の主な動き

 
記事に出てきた動きを、分野別に整理してみました。
 

分野 具体的な動き ねらい
ITソフトウエア フランス・オランダなどが行政システムから米国製技術を排除し、欧州製オープンソースへ移行。公務員にTeams・Officeの使用中止を促す動きも デジタル主権の確保
宇宙・AI・データ 欧州独自の民間宇宙企業、AI開発企業、データセンターに数千億ドル規模を投資 米巨大IT企業への依存回避
データ・決済 摩擦が激化した場合にデータをどこに保管し、決済をどこで処理するかを調査中 有事の事業継続
防衛装備 米国製兵器が同盟国政府の承認なしにどの程度機能するかを検証 装備の自律性の確認
防衛費 2035年までにGDP比5%(コア防衛3.5%+安全保障関連投資1.5%)で合意(2025年6月・ハーグNATO首脳会議) 米国の要求への対応と自主防衛力の強化

なお、この「安全保障関連投資1.5%」には、空港の滑走路や気象サービス、サイバーセキュリティー、さらには有事の輸送路となりうる橋やトンネルまでが含まれうる、とされています。インフラそのものが安全保障の一部として数えられる時代になった、ということですね。
 


 

6. 日本にとって、これは他人事ではありません

 
さて、ここまで読んでくださった方の中には、もうお気づきの方も多いと思います。この記事に出てくる論点、ほとんどそのまま日本にも当てはまるのです。
 
・同盟のコスト:防衛費の負担をめぐる議論は、日本でも続いています。欧州が突きつけられた「GDP比」の論理は、太平洋側にも向けられる可能性があります
 
・技術への依存:日本の役所も企業も、業務のかなりの部分を海外製のクラウドやオフィスソフトに預けています。「止まったらどうするか」を考えたことがある組織は、どれくらいあるでしょうか
 
・エネルギー:トランプ氏のイラン空爆が欧州の燃料価格を急騰させた、という一節がありました。日本の一次エネルギー自給率は1割台にとどまるとされています(資源エネルギー庁「エネルギー白書」)。中東情勢が動けば、燃料費調整額という形で、私たちの毎月の電気料金にも数カ月遅れで反映されてきます
 
・分散とリスクヘッジ:欧州が今やっているのは、要するに「一つの相手に頼りすぎない構造をつくり直す」という作業です
 
最後の一点は、規模こそ違え、企業や家庭にも共通する考え方だと思います。仕入れ先を一社に絞りきらない。連絡手段を一つに依存しない。エネルギーの調達先も、契約先も、いざというときに選択肢があるかどうかで、打たれ強さはずいぶん変わります。
 
私たちのような地域の新電力が長野県で日々お客様と向き合っていて感じるのも、実はそこなんです。「安いから」だけで選んだ関係は、環境が変わったときにあっけなく揺らぎます。逆に、顔が見えて、いつでも相談できて、条件が変われば一緒に考え直せる関係は、少々のことでは崩れません。国と国の話も、電気の契約の話も、根っこは案外似ているのかもしれません。
 
欧州が5時間かけて話し合ったのは、突き詰めれば「誰に、どこまで、自分たちの未来を預けるか」という問いでした。日本に住む私たちにとっても、遅かれ早かれ、向き合うことになる問いだと思います。
 


 
まとめ
2026年1月、ブリュッセルの深夜。欧州の首脳たちは携帯電話も随行員も置いて円卓を囲み、5時間以上にわたって「米国との決別をどう乗り切るか」を話し合いました。マクロン大統領の「もう後戻りはできない」という言葉が、その夜を象徴しています。
 
とはいえ「離婚届」はまだ誰も出していません。軍事も経済も技術も深く絡み合っており、ほどく作業は膨大です。それでも欧州は動き始めました。行政システムからの米国製技術の排除、欧州製オープンソースへの移行、宇宙・AI・データセンターへの巨額投資、そして2035年までに防衛費をGDP比5%へ引き上げる合意。米国製兵器が承認なしにどこまで動くのかを調べるところまで踏み込んでいます。
 
同盟をつなぎとめてきたルッテNATO事務総長の「お世辞外交」も、要求の上積みの前に限界を見せました。カナダのカーニー首相が説いたように、問題は個人の相性ではなく「構造的な依存」だからです。
 
この構図は、日本にとっても決して遠い話ではありません。防衛費、技術主権、エネルギー、そしてサプライチェーン。一つの相手に頼りきらない備えをどうつくるか——世界のニュースは、いつも足元の暮らしにつながっています。
 


 
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世界情勢が動くたびに、燃料価格が揺れ、それは数カ月遅れで毎月の電気料金にも表れてきます。「今月の請求書、なんだか高いけれど何が起きているの?」「うちの契約は今の状況に合っているのかな?」——そんな素朴な疑問こそ、遠慮なくぶつけていただきたいと思っています。
 
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