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2025.05.06 Tue

農地の恩恵だけ受けて“営農なし”?ソーラーシェアリングに規制強化の理由とは

 
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)
 
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、農地の上に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させる仕組みとして注目されてきました。ところが近年、実際には農業を行わず、安い土地代や固定資産税の恩恵だけを受ける不適切な事例が全国で多発。こうした事態を受けて、農林水産省は2024年・2025年と立て続けに制度を見直し、規制を強化しました。この記事では、「農地の恩恵を受けるなら農業せよ」という行政の強い姿勢と、事業者が押さえるべき新ルールのポイントを解説します。
 


 
1. 知られざる「営農型太陽光」の経済メリット
 
1-1 土地代・固定資産税が激安になる仕組み
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、農地の上に太陽光パネルを設置し、同時に農作物も育てるという“二毛作”型の発電事業です。この仕組みの最大の特徴は、農地を農地のまま使うことにあります。つまり、農地としての法的扱いを維持しながら、発電収益を得ることが可能なのです。
ここで注目すべきは、農地特有の“経費的メリット”です。
農地は建物を建てることができないなどの「用途制限」があるため、宅地や雑種地と比較して売買価格・賃借料が圧倒的に安く抑えられています。さらに、農地を農地として保有することを促進する目的から、固定資産税も非常に安価です。たとえば、雑種地では10アールあたり数十万円になる可能性のある固定資産税が、農地では1000円〜数千円程度ということもあります。
発電事業者にとっては、このコスト差が非常に大きな魅力です。農地を賃借することで、初期投資や維持費を大幅に下げられ、発電収益の利益率を高く保つことができます。
 
1-2 他用途地とのコスト差は数十倍〜100倍も
具体的な数字で見てみましょう。日本不動産研究所が発表した2024年時点の調査によると、「田」の価格は10アールあたり約64万円、「畑」は約41万円です。一方、野立て太陽光発電が設置されることの多い雑種地では、地域によっては1桁以上高額になることもあります。
また、固定資産税の差も顕著です。最も安価な一般農地では年間1000円程度で済みますが、同じ面積の雑種地だと評価額によっては数十万円に跳ね上がるケースも。こうした差が、営農型太陽光発電の「土地コストを極限まで抑えられるビジネスモデル」を支えているのです。
ただし、この“おいしい部分”だけを狙った不適切な事例も増加しており、それが後述する制度改正の背景となっています。
 


 
2. なぜ今、農水省は規制を強化したのか?
 
2-1 営農実態のない“発電だけ”の事例が続出
営農型太陽光発電の制度は、「農地であることを前提にした優遇」を数多く受けながらも、農業と発電の両立を大前提としています。ところが近年、この制度の“隙”を突いた不適切な事例が全国で問題となっていました。
たとえば、農地の上に太陽光パネルだけを設置し、営農の実態がほとんどないまま発電だけを行うケース。形式上は「農地」として許可を得ているのに、実際には作物の栽培が行われず、雑草が生えているだけというような案件も見受けられました。
こうした事業者は、農地価格の安さと固定資産税の軽減という大きなコストメリットだけを享受しており、「営農型」という制度の本来の趣旨を大きく逸脱しているのです。農地のままで土地を使える=税制・土地代の優遇を受けられるという構図が、“営農しない発電所”を生む温床となっていました。
 
2-2 「農地の恩恵を受けるなら、農業せよ」の論理
農林水産省が規制強化に踏み切った背景には、「農地を守る」という明確な姿勢があります。農地というのは本来、農業を継続するために存在しており、その保有や利用に対してはさまざまな優遇措置が与えられています。
特に営農型太陽光では、農地全体の99%以上は「一時転用の対象外」となっており、形式的には農地そのままの扱いです。つまり、その上に太陽光パネルを設置したとしても、その農地から得られる恩恵を享受するのであれば、きちんと農業を行う責任がある、というのが農水省の基本スタンスです。
この方針に対して、異を唱える農業委員会や自治体関係者はほとんどいません。むしろ、「営農実態が伴っていない発電所は農地とは呼べない」という意識が強まっており、制度運用も厳格化の方向へと向かっているのです。
こうして、農水省は2024年に営農型制度を法的根拠あるものとして確立し、さらに2025年には農地法の改正で“実態確認”と“制裁強化”に踏み込むこととなりました。
 


 
3. 制度改正のポイント(2024年~2025年)
 
3-1 2024年:営農型が“法的根拠ある制度”に
これまで営農型太陽光発電の運用は、農林水産省による「局長通知」に基づくもので、法的な強制力を欠いていました。つまり、許可の取消や原状回復命令を出すにしても、行政側に強く出るだけの根拠が不十分だったのです。
こうした背景を踏まえ、2024年4月に農水省は制度の大きな転換を実施。農地法施行規則の改正(農林水産省令第9号)によって、営農型太陽光発電は初めて法的根拠を持つ制度として確立されました。
あわせて、運用の実務指針として以下の文書も整備・公開されました:
・「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン」(農林水産省 リンク)
・「実務用Q&A(発電事業者向け)」(農林水産省 リンク)
この制度整備によって、農業委員会など現場の判断機関も「是正指導」「許可の取消」などに動きやすくなり、不適切事例への対応が格段にしやすくなったのです。
 
3-2 2025年:農地法改正で営農報告が義務化
さらに2025年4月には、農地法自体が改正され、営農型太陽光発電における実態確認と違反対策が大幅に強化されました。
主なポイントは以下の2つです:
✅ ① 営農状況の報告が義務化
これまで任意に近かった営農の報告が、法律によって義務付けられました。これにより、農業委員会は「営農実態なし」の発電所を正式に指導・是正できるようになりました。
✅ ② 違反時には「名称・地番の公表」も可能に
命令に従わない違反者には、最終手段として事業者名と所在地(地番)の公表が可能になりました。これは金銭的な罰則以上に強い社会的制裁効果を持ち、制度全体の信頼性を支える大きな抑止力となっています。
 
📌補足:これらの制度の目的
・悪質事業者による農地の“隠れ発電利用”を排除する
・地方自治体や農業委員会が「指導しやすくなるように」権限を明確化
・真面目に営農している事業者が損をしないための制度整備
 


 
4. 特に注意すべき変更点「下部農地」の定義
 
4-1 影の部分だけではダメ、農地全体で営農を
営農型太陽光発電における“最も実務インパクトが大きい”と言われているのが、「下部農地の定義変更」です。これは2024年4月に農水省が発表したガイドラインにより、大きく変更されました。
もともと「下部農地」とは、太陽光パネルの直下や影になる部分のみを指しており、そのエリアで農作物が栽培されていれば「営農している」と見なされていました。
そのため、それ以外の区域(例えば畦畔(けいはん)や法面(のりめん)、パネルの外側)は手入れが甘くても、形式上は大きな問題にはなりにくかったのです。
しかし、ガイドラインの改正により定義は大きく変わります。
 
🔁 新定義:「太陽光設備のある区域全体」が下部農地とみなされる
つまり、影の有無に関係なく、パネルを設置した農地の区画全体で農業を行い、一定の収穫量を確保することが求められるようになったのです。
 
4-2 単収8割ルールが事業継続のカギに
この定義変更にともない、もう1つの重要な基準が追加されました。それが、「単収8割ルール」です。
 
📌 単収8割ルールとは?
「その農地で収穫した作物の単位面積当たり収穫量(単収)が、同地域内の通常農地の平均値の8割以上であること」
このルールは「農業が本当に成立しているか」を数値的に判断する指標であり、今後の営農継続可否に直結する基準です。
しかもこの“比較対象”は、
・同じ市町村区域内の
・同じ年度の
・同じ作物の平均収量
となるため、通常の農家と同じレベルで収穫を出せなければ「営農していない」と見なされるリスクが高まります。
とりわけ問題となるのは、パネルの設置により日射量が減ることや、機械作業の制限により、単純に収量が落ちやすくなるという点です。それでも8割を維持せよというのは、かなり高いハードルだといえるでしょう。
このルールの背景には、「パネル下しか作物を育てない“片手間発電”を排除したい」という農水省の強い意図があります。
 


 
5. 今後の見通しと事業者へのアドバイス
 
5-1 実需に応える“本気の営農”が生き残る条件
2024年から2025年にかけて行われた一連の制度改正により、営農型太陽光発電は「誰でも手軽にできる副業」ではなくなりました。もはや本気で農業と向き合える事業者だけが残れる世界に突入したと言えるでしょう。
収穫量8割基準や農地全域での営農義務といった新ルールは、「形だけの営農」を否定し、“本当に作物を育てる意志と能力”があるかを問う制度設計です。
逆にいえば、地域農業の活性化に寄与しながら発電も行うような、真摯な取り組みをしている事業者には社会的信用が高まり、行政との連携もしやすくなるでしょう。
 
たとえば以下のような取り組みが今後の鍵となります:
・農業法人や地元農家との連携による営農体制の確立
・作物の選定や栽培技術の工夫(遮光耐性がある作物など)
・地域ニーズに応じた農産物の生産と販売チャネルの確保
「発電のために農地を使わせてもらう」のではなく、「地域に根ざした営農の一環として発電を取り入れる」という考え方への転換が求められます。
 
5-2 自治体・農業委員会の対応強化にも要注意
もうひとつの注目点は、地元の農業委員会の権限と姿勢が強化されたことです。農地法改正により、報告義務・是正命令・名称公表といった強力な手段が与えられたことで、農業委員会は「現場の番人」としてより厳しく対応するようになるでしょう。
許可の取得や更新、営農状況の報告などで不備があれば、最悪の場合、許可取り消しや事業停止に追い込まれる可能性もあります。
そのため今後は、以下のような「行政との関係構築」も事業継続において重要です。
・定期的な営農報告の提出と実績の見える化
・農業委員会や地元農家との対話・説明機会の確保
・自治体が掲げる農業振興方針との整合性の確保
制度を“乗り越える対象”ではなく、“共に守るルール”として捉え、長期的な信頼関係を築くことが、今後の営農型太陽光発電のカギとなるはずです。
 


 
✨まとめ
 
営農型太陽光発電は、農地の恩恵を最大限に活かせる魅力的な仕組みである一方、「本当に農業をする意思」が求められる時代に突入しました。制度強化は、信頼ある事業者が正しく評価され、持続可能な形で農地と再エネが共存できる社会の土台づくりでもあります。
本気で営農に向き合うすべての事業者にとって、これからが“真のスタートライン”といえるでしょう。
 


 
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