系統用蓄電池が稼ぐ時代へ!3つの電力市場を活用する最新ビジネスモデル
系統用蓄電池に関する気になる記事があったので、詳しく調べてみました。
今、電力業界で注目されているのが「系統用蓄電池を使って稼ぐ」という新たなビジネスモデルです。
従来は非常用設備やピークカット用途に使われていた蓄電池が、現在では「需給調整市場」「卸電力市場(JEPX)」「容量市場」という3つの電力市場を巧みに使い分けることで、安定した収益を得る仕組みが整いつつあります。特に、調整力の提供で報酬を得られる「需給調整市場」が最大の稼ぎどころとして注目されています。
本記事では、それぞれの市場の特徴や収益モデル、導入のメリットと注意点まで、初めての方にもわかりやすく解説します。
2. 稼ぐ鍵は「3つの電力市場」
系統用蓄電池は、以下3つの電力市場を駆使して収益を得るモデルです。
市場名 | 内容 | 得られる価値 |
---|---|---|
需給調整市場 | 系統の安定性を維持する調整力を提供 | ΔkW価値 / kWh価値 |
卸電力市場(JEPX) | 安値で充電・高値で放電し価格差益を得る | kWh価値 |
容量市場 | 4年後の供給力確保の対価を年単位で受け取る | kW価値 |
特に需給調整市場での収益が注目されており、オークション形式での応札によって放電準備や指令応答への対価が得られます。
3. 需給調整市場とは?収益の中心になる理由
系統用蓄電池ビジネスにおいて、最も重要な収益源が「需給調整市場」です。これは一般送配電事業者が電力の需給バランスを保つために“調整力”を調達する市場で、2021年から段階的に開設され、2024年4月に全面開場となりました。
▼ 需給調整市場の役割とは?
電力は「発電量=消費量(同時同量)」が成立していなければ、系統の周波数が乱れて停電リスクが高まります。しかし、実際には天候の急変や需要予測のずれなどでバランスが崩れることがあります。
こうした事態に備えて、一般送配電事業者が前もって電力の“調整力”をオークション形式で確保しておくのが、需給調整市場の仕組みです。
▼ 系統用蓄電池のビジネスモデル
系統用蓄電池の所有者は、需給調整市場で以下の2つの報酬を得ることができます:
ΔkW価値(デルタキロワット価値)
一定の出力を“待機状態”で確保しておくことへの報酬。
これは「スタンバイ報酬」とも呼べるもので、例えるなら「いつでも出動できる体制」に対して支払われる準備金です。
kWh価値(キロワットアワー価値)
実際に発動指令を受けて放電を行ったときの“実働”に対する報酬。
蓄電池がシステムに電力を供給することで、その量に応じた報酬が加算されます。
▼ 応札と発動の流れ
実際の取引は、次のように進みます。
1.系統用蓄電池の事業者が、需給調整市場の「商品区分(一次~三次)」と「時間帯(ブロック)」を選び、応札します。
2.落札されると、指定時間に充電状態で“待機”する義務が発生します。
3.その後、電力の需給が逼迫した際に、一般送配電事業者から「発動指令」が届きます。
4.指令に従って、定められた応動時間内(10秒~45分)に放電を実施します。
▼ なぜ収益の柱になるのか?
・定期的な募集があるため、収益予測が立てやすい
・落札=収入確定型なので、JEPXのような価格変動リスクが少ない
・ΔkWとkWh、2つの報酬体系があるため、単価が高くなりやすい
・瞬時対応力のある蓄電池は、ガスタービンや揚水発電よりも有利な場面が多い
特に応答時間が短い一次調整力(10秒以内)などでは、高額な対価が得られる可能性もあり、技術力の高い事業者にとってはまさに“稼ぎどころ”となります。
▼ 注意点
・発動指令に応答しなかった場合、ペナルティが課せられるため、精密な運用体制が求められます。
・商品区分によって技術的ハードルや応札戦略が大きく異なるため、専門的知識やノウハウの蓄積が必要です。
以上のように、需給調整市場は単なる“バックアップ”ではなく、積極的な収益モデルの中核を担う存在です。複数の電力市場が並立する今、系統用蓄電池のオーナーにとって「まずはこの市場を押さえる」ことが成功の鍵と言えるでしょう。
4. 容量市場での固定収入のしくみ
系統用蓄電池が稼ぐうえで、もう一つの重要な市場が「容量市場」です。これは、将来的な電力の安定供給を目的とした制度であり、今使う電力ではなく、“将来使う電力を確保する”ための対価を得る仕組みです。
▼ 容量市場とは?
容量市場は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が主導して、将来の供給力を確保する目的で開催する市場です。
原則として、4年後のピーク需要期に発電可能な電源を事前に確保することが目的で、電源の所有者は、その「出力(kW)」に対して報酬を得られます。
系統用蓄電池はこの市場に参加し、「容量契約確保金単価 × 出力(kW)」の計算式で1年単位の収入を得ることができます。
▼ 参加条件と注意点
この容量市場に参加できる系統用蓄電池には明確な条件があります。
・容量10MW以上であること(つまり、出力が10,000kW以上の蓄電池設備)
・FIT・FIPの対象ではないこと(※FIT等の既存の制度で別途補助を受けていない電源が対象)
・維持管理や運転義務が発生するため、停止や故障リスクにも備える体制が求められる
中小規模の蓄電池では参加できないため、容量市場はある程度の設備規模を持つ事業者に向いた市場です。とはいえ、近年は「共同で一括入札」する仕組みも検討されており、中小企業の参入余地も拡大しつつあります。
▼ 長期脱炭素電源オークションとの違い
2024年からは、容量市場とは別に「長期脱炭素電源オークション」も開始されました。これは、カーボンニュートラルを実現する目的で、再エネや水素・蓄電池などの脱炭素電源に対し、20年間の固定収入を与える制度です。
このオークションでも参加条件は「容量10MW以上」。第1回の約定結果では、7割以上が系統用蓄電池という結果となり、投資先としての注目度が非常に高まっています。
▼ 容量市場の収益は“ベースインカム”
容量市場で得られる収益は、他の市場(JEPXや需給調整市場)と異なり、年単位で予測しやすい固定収入となります。
例えるなら、「日々の取引で稼ぐJEPX」「短期オークションで収益を得る需給調整市場」に対して、容量市場は「ベースサラリー」に近い存在です。蓄電池ビジネスのリスク分散という観点でも、参加価値の高い市場といえるでしょう。
5. 系統用蓄電池導入のメリットと課題
系統用蓄電池の導入は、単なる再エネ対策ではなく、電力ビジネスの新たな収益機会として多くの企業が注目しています。ここでは、具体的なメリットと注意すべき課題を整理します。
✅ メリット
1.3つの電力市場を駆使して多様な収益が得られる
需給調整市場、JEPX(卸電力市場)、容量市場という収益源を分散でき、価格変動リスクを抑えながら稼働できる。
2.土地利用効率が高い
同容量の太陽光発電に比べて必要面積は数十分の一。日照条件に左右されず、日陰地や変形地でも活用可能。
3.太陽光など他の再エネ事業と相乗効果がある
出力変動を吸収したり、ピークシフトを行うことで、再エネの価値最大化や発電ロス削減に貢献。
4.FIT・FIPに依存しない“独立型”収益モデルが構築できる
固定価格買取制度に頼らず、市場取引で自立した事業運営が可能。制度改定の影響を受けにくい。
5.メンテナンスや運用は太陽光発電と類似しており参入障壁が比較的低い
電気工事や保守のノウハウが再活用できるため、不動産業者やエネルギー関連企業にとって導入しやすい。
6.初期投資の一部を補助金でまかなえる
国・自治体の補助制度が充実しており、2024年時点で累計425億円以上の補助が実行済み。実質負担の軽減につながる。
7.電力先物やAI予測と組み合わせた「スマートな運用」が可能
価格差(アービトラージ)をAIで予測するなど、高度化された戦略運用も期待されている。
8.2050年のゼロカーボン社会に向けた成長産業である
政府の試算では、2050年に必要とされる系統用蓄電池の容量は38GWhと見込まれており、今後数十年にわたり拡大が見込まれる分野。
⚠ 課題
・最低10MW以上の設備容量が必要(容量市場・長期脱炭素電源オークション)
小規模事業者には参入ハードルが高く、共同出資やアグリゲーションが必要なケースもある。
・需給調整市場などでの応札や発動に高度なオペレーションが求められる
発動指令への即応体制を構築しないとペナルティの可能性も。専門人材の確保やシステム整備が必要。
・蓄電池の劣化・寿命管理(DoD、充放電サイクル)
過度な運用は寿命を縮め、収益計画に影響。サイクル制限や放電深度管理のノウハウが必要。
・市場ルールや価格の不確実性が依然として高い
特に需給調整市場はまだ運用開始から間もなく、ルール変更や市場価格の変動に注意が必要。
まとめ
系統用蓄電池は、「電力のためのバッファ」から「電力で稼ぐ資産」へと変わりつつあります。
需給調整市場・卸電力市場・容量市場の3本柱による複合的な収益モデルは、再エネ主力化が進む時代にマッチした持続可能なビジネスとして注目の的。
まだ黎明期の今だからこそ、ノウハウを積み上げながら先行優位を築けるチャンスがあります。
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参考ページ
日経XTECH:活況の国内系統用蓄電池市場、3つの電力市場を駆使して稼ぐ
需給調整力取引所:需給調整市場とは
情熱電力の蓄電池過去記事
・蓄電池の系統連系が早まる新制度 早期連系に向け追加対策 2025年4月に開始!
・【解説!】系統用蓄電池①
・【解説!】系統用蓄電池② 送電網に接続し電力量の調整にも利用されます。