お知らせ

INFO

2025.12.15 Mon

【AI×電力取引】予測だけでは勝てない?収益最大化の鍵は「戦略」にあった!

 
電力取引の国際コンペ
 
日経エネルギーNEXTに「再エネ発電量と入札量を予測、電力取引の収益最大化とAI活用」という、非常に気になる記事があったので調べてみました。この記事は、2024年に開催された電力取引の国際コンペ(HEFTcom)を通じて、AIがいかに収益最大化に貢献できるかを紹介する内容です。
記事の中身は、Transformer(トランスフォーマー)や勾配ブースティングツリーといった専門的なAIモデルの話も含まれ少し難しいのですが、実はこれ、弊社「情熱電力」も以前より注目し、興味を持っている分野なんです。
再エネ発電の予測精度を上げることはもちろん重要ですが、それだけでは電力取引の収益は最大化できません。 そこで今回は、電力取引の収益最大化に興味をお持ちの皆様に、この記事の内容をできるだけ簡単な言葉にかみ砕いてご説明し、これからの電力取引で「勝つ」ためのヒントを共有したいと思います。
 


 
目次
1.予測が当たるだけではダメ?電力取引コンペが示した新常識
2.収益を上げた2つのAI戦略
 2-1. 【防御型】独自の高精度予測でインバランスを最小化
 2-2. 【攻撃型】「稼ぎ時」を見極める戦略的入札
3.適材適所のAI活用がカギ(Transformer vs 勾配ブースティングツリー)
4.「予測と取引を一体化」したAIソリューション
 


 
1. 予測が当たるだけではダメ?電力取引コンペが示した新常識
今回注目した記事は、デンマークの電力大手Orsted(オーステッド)などが後援した、再エネ発電設備の発電量を予測し、仮想プラットフォームで入札して収益を競う国際コンペについてレポートしたものです。
世界中から66チームが参加したこのコンペで、非常に興味深い結果が明らかになりました。それは、「発電量の予測精度が最も高いチーム」が「最も収益を上げたチーム」ではなかった、という事実です。
記事によると、コンペの運営委員会をリードした英グラスゴー大学のJethro Browell教授は、「取引に優れたチームが、予測に優れたチームを凌駕(りょうが)したケースがあった」と指摘しています。
 
ビジネスの実務で重要なことは収益を上げることであって、予測精度を高めることではありません。予測から取引までを一連の流れと捉えて、AIモデルを実装する必要があります。 (記事中のJethro Browell教授のコメントより引用)
 
これは、私たちが重要視しているポイントと一致します。予測はあくまで手段であり、目的は「お客様の収益を最大化すること」。そのためには、予測精度(防御力)と取引戦略(攻撃力)の両方が必要だと指摘しています。
 
2. 収益を上げた2つのAI戦略
では、実際に収益を上げたチームはどのような戦略をとっていたのでしょうか?
記事では、対照的な2チームのアプローチが紹介されています。
 
2-1. 【防御型】独自の高精度予測でインバランスを最小化
準優勝した米国のAIスタートアップ「REint.AI」は、独自の気象予測モデルに強みがありました。

彼らは、ChatGPTなどの生成AIのコア技術である「Transformer(トランスフォーマー)」を気象予測に適用。
他のチームが皆、同じような予測モデルを使って予測を外している状況でも、REint.AIだけが正確な発電量予測に成功し、収益を上げたのです。これは、予測精度を極限まで高め、インバランス(予測と実績のズレ)による損失を最小限に抑える、いわば「防御型」の戦略と言えます。
 
2-2. 【攻撃型】「稼ぎ時」を見極める戦略的入札
一方、4位に入賞した「上海交通大学」チーム(および優勝したスウェーデンの「SvK」)が採用したのは、より積極的な「攻撃型」の戦略です。彼らは、発電量予測だけでなく「価格スプレッド」(スポット市場価格とインバランス料金単価の差)にも着目しました。
 
・価格スプレッドが大きい時(=儲けが出やすい時)
 → あえてインバランスが出ることを許容し、予測発電量より多めに入札して収益を狙う。
・価格スプレッドが小さい時(=損失が出やすい時)
 → 損失リスクを避けるため、予測発電量より控えめに入札する。
 
このように、市場の状況をAIで分析し、「稼ぎ時」と判断したらリスクを取って最大限の利益を追求する。これが「戦略的入札」です。こうした市場の「歪み」や「チャンス」をAIでいかに見つけ出し、お客様の収益に繋げるかという「戦略的入札」が重要だということです。
 
3. 適材適所のAI活用がカギ(Transformer vs 勾配ブースティングツリー)
今回のコンペでは、AIの使い分けも興味深いポイントでした。
 
・気象予測(複雑・大規模データ):
 「Transformer」が強みを発揮(REint.AIが使用)
・発電量予測(構造化データ):
 「勾配ブースティングツリー」という、従来からある優秀な機械学習モデルが主流(上海交通大学などが使用)
 
上海交通大学のPu氏は、「発電量予測に関するデータは比較的小規模で構造化されているため現時点ではTransformerを使う必要がない」と述べています。流行りの技術に飛びつくだけでなく、Transformerのような最新AI技術と、勾配ブースティングツリーのような実績ある機械学習モデルを適材適所で使い分けることこそが、お客様の収益を最大化する鍵となりそうです。
 
4. 「予測と取引を一体化」したAIソリューション
今回のコンペが示した最大の学びは、Browell教授の言葉にあった通り、「予測と取引をセットで実装しなければならない」ということです。
AIが単に「予測(認識)」するだけだった時代は終わり、AIが「最適な行動(取引・入札)」までを提案・実行する時代に入り、市場価格、インバランスリスク、気象データ、そしてお客様のリスク許容度までを考慮し、収益を最大化するための「最適な入札戦略」までを自動で提案・実行する、統合AIソリューションの開発を加速させています。
技術的難易度は非常に高いですが、AIの力で日本のエネルギー問題を解決し、お客様に貢献するという「社会的インパクト」の大きさに、私たちはやりがいを感じています。
 
まとめ
今回は、AIを活用した電力取引の国際コンペの話題を通じて、収益最大化のヒントをご紹介しました。
・これからの電力取引は、「予測精度」だけでなく「取引戦略」が収益を左右する。
・AIには「防御型(高精度予測)」と「攻撃型(戦略的入札)」のアプローチがあり、どちらも重要。
・Transformerや勾配ブースティングツリーなど、AI技術の「適材適所」な活用がカギ。
・「予測」と「取引」はセットで考え、一気通貫で最適化するAIソリューションが求められる。
情熱電力は、これからもAI技術の最前線を追い続け、電力取引の最適化、そして日本のエネルギー問題の解決にお役に立てるよう研鑽を積み、成長し、これらに「情熱」を持って取り組んでまいります。
 


 
情熱電力からのお知らせ
情熱電力のこのお知らせページでは、
情熱電力が注目した電気に関連した様々な事柄をピックアップして掲載させていただいております。
弊社では、随時、このページを更新して参りますので
ご興味を持たれた方はまたこのサイトにお越しいただければ幸いです。
 
それではまた!!
 
元記事のご紹介
・日経エネルギーNEXT:再エネ発電量と入札量を予測、電力取引の収益最大化とAI活用
 
今回のブログ記事で参照したトピック(Transformerやコンペ概要)に関する、一般公開されている論文や資料をご紹介します。ご興味のある方はご覧ください。
・Transformerの原論文(“Attention Is All You Need”):
https://arxiv.org/abs/1706.03762 (本記事で紹介されたTransformer技術の基礎となった論文です)
・コンペの概要論文(“The Hybrid Renewable Energy Forecasting and Trading Competition 2024”): https://arxiv.org/abs/2507.01579 (コンペのルールや結果について詳細にまとめられた論文です)