系統用蓄電池バブル終了?需給調整市場「上限価格7円台」への変更案と、投資回収シミュレーションの現実

日経エネルギーNEXTさんに系統用蓄電池ビジネスに関する非常に気になる記事が掲載されていたので、共有とともに内容を深掘りしてみました。
2025年に入り、需給調整市場のルール変更が相次いでいます。特に業界を騒然とさせたのが、資源エネルギー庁から提示された「一次・二次①調整力の上限価格引き下げ」案です。これまで高収益が見込めると注目されていた系統用蓄電池ビジネスですが、今回の変更案を受けて「もう儲からないのではないか」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、表面的な数字だけで一喜一憂するのは危険です。この記事では、上限価格引き下げの背景を解説するとともに、記事内で紹介されている投資回収期間の試算を、より実務的な視点で読み解いていきます。
目次
1.業界に走った激震:上限価格が半分以下に?
2.なぜ今、ルール変更なのか?市場構造のカラクリ
3.投資回収はどうなる?「4年回収」という数字の読み解き方
4.「高値入札」のリスクとガイドライン違反の疑い
5.今後の展望:欧米市場から学ぶ「変化こそ常道」
1. 業界に走った激震:上限価格が半分以下に?
2025年10月29日、資源エネルギー庁の審議会で、需給調整市場における「一次調整力」および「二次調整力①」の上限価格について、大きな変更案が提示されました。
・現行:19.51円/ΔkW・30分
・変更案:7.21円/ΔkW・30分
実に半額以下への引き下げ提案です。 これまで、系統用蓄電池などの新規電源は応札量が少なく、上限価格である19.51円付近で約定(落札)できるケースが多く見られました。この価格水準を前提に事業計画を組んでいた事業者にとっては、非常に大きなインパクトがあるニュースと言えます。
2. なぜ今、ルール変更なのか?市場構造のカラクリ
なぜこれほど大幅な引き下げが提案されたのでしょうか。背景には大きく2つの要因があります。
①「市場外取引」への移行による募集量の減少
これまで市場で募集されていた「揚水発電」や「自然体余力(火力発電の余力など)」が、2025年6月の方針転換により、市場を通さない「市場外取引(随意契約など)」へと整理されました。 例えば、中部電力パワーグリッドの実績(2024年7~11月)を見ると、調整力の97.2%を市場外で調達しており、需給調整市場での調達はわずか2.8%に留まっています。 市場での募集量が減れば競争原理が働き、本来であれば価格は下がる方向に向かいます。
②コストに見合わない「高値入札」の是正
需給調整市場のコストは託送料金を通じて国民負担となるため、コスト最小化が求められます。 しかし、一部の事業者がバッテリーコストの低下が進んでいるにもかかわらず、上限価格いっぱいで入札を続けていた現状がありました。これに対し、エネ庁は制度的な価格引き下げに動いた形です。
3. 投資回収はどうなる?「4年回収」という数字の読み解き方
今回の変更案を受けて、もっとも気になるのは「事業として成立するのか?」という点でしょう。 記事中では、一般的な「2M/8MWh(ニッパチ)」の蓄電池(初期投資約6億円)を例に、以下のような試算が紹介されています。
・19.51円の場合: 年間収益 約4.5億円 → 約1.5年で回収
・7.21円の場合: 回収期間は 約4年 に延びる
記事では「価格が下がっても4年程度で回収できる計算になり、事業としては成立する」という主旨で解説されています。これは「上限価格引き下げによる期間の延び幅」を比較するためのモデルケースとしては非常に分かりやすい指標です。
ただ、注意が必要なのは、実際に事業計画を立てる際には、この数字をそのまま鵜呑みにせず、さらに保守的な「現実のコスト」を織り込む必要があります。
実際の運用で考慮すべき「見えないコスト」
理論上の最大収益だけでなく、以下のような要素を計算に入れないと、正確な収支は見えてきません。
1.充放電効率(ロス)と調達コスト 蓄電池は「電気を仕入れて(充電)、売る(放電・待機)」ビジネスです。充電するための電気代がかかる上、充電した電気が100%戻ってくるわけではありません(充放電効率)。この「消えた電気のコスト」と「充電電気代」は、利益を圧迫する大きな要因です。
2.バッテリーの劣化 リチウムイオン電池は使用頻度に応じて劣化し、容量(kWh)が減少します。初年度のスペックが10年続くわけではありません。
3.入札競争と約定率 「毎日確実に上限価格で落札できる」とは限りません。参加者が増えれば競争が起き、落札できない日や、安値で入れざるを得ない日も出てきます。
これらを現実的にシミュレーションすると、実際の回収期間は記事にある「4年」よりも長くなるのが一般的です。「7円台になったらビジネスが終わる」わけではありませんが、「4年で簡単に回収できる」というほど甘いビジネスでもない、というのが現場の実感です。
4. 「高値入札」のリスクとガイドライン違反の疑い
また、記事では「19.51円での入札」について、需給調整市場ガイドライン違反の疑いについても触れられています。 ガイドラインでは、入札価格は「機会費用(逸失利益)+一定額」で計算すべきとされています。
現在のリチウムイオン電池のコストやスポット市場価格(12円/kWh程度)を鑑みると、19.51円という入札価格は合理的な説明が難しく、リスクがあるという指摘は非常に重要です。 目先の利益を追うあまり、コンプライアンス面でのリスクを軽視しないよう注意が必要です。
5. 今後の展望:欧米市場から学ぶ「変化こそ常道」
今回のニュースから学ぶべき最大の教訓は、「現在のルールや価格が固定であるという前提でシミュレーションしてはいけない」ということです。
先行する英国や米国の市場では、商品の仕様変更や新設・廃止が頻繁に行われています。日本の需給調整市場もまだ黎明期であり、今後も以下のような変化が予測されます。
・より高速な応動(1秒以内など)商品の登場
・電源種別による市場の細分化
・さらなる価格の見直し
制度変更に一喜一憂するのではなく、「制度は変わるもの」という前提で、複数のシナリオを持っておくことが、このビジネスで生き残るカギとなります。
まとめ
・上限価格引き下げ案の背景: 市場外取引の増加と、国民負担抑制のための適正化プロセス。
・シミュレーションの現実: 記事の「4年回収」はあくまで比較のための理論値。実際には充電コストや効率ロスなどを加味した、シビアな事業計画が必要。
・リスク管理の重要性: ガイドラインを無視した高値入札はリスク。長期的な視点が必要。
・変化への適応力: 今後もルール変更はある。欧米の事例を参考に、柔軟な事業設計を
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