釧路湿原メガソーラー問題から考える、ガソーラー問題と再エネ普及を両立する視点
北海道の釧路湿原国立公園(釧路市など)の周辺で大規模な太陽光発電施設(メガソーラー)が建設されていることへの批判が強まっています。貴重な自然が破壊され、タンチョウヅル(国指定特別天然記念物)やオジロワシ(国指定天然記念物)などの野生動物への悪影響も懸念されているからです。私もあの映像を見て、正直「これはやめるべきだ」と思いました。ただ、このニュースを切り取って再エネが全部だめだという議論もどうかと私は感じています。そんななか「なるほどこういう見方もあるのか」と思えるジャーナリストの方の記事があり、そこで提起された論点――“自然保護と脱炭素の両立は可能か”“過剰な再エネ叩きは本当に日本の利益になるのか”――は、私たち電力事業者にとっても避けて通れないテーマです。
本稿では、釧路湿原の事例に関する公開情報を整理しつつ、(1)自然保護を前提とした再エネの進め方、(2)猛暑や電気料金を巡る最新の科学・制度情報、(3)地域で納得感をつくるための実務論、の3点をまとめます。この記事を読んだ方の中でも賛否両論あるかと思いますが、日本のエネルギーの未来を考える一助となれば幸いです。
目次
1.釧路湿原のメガソーラーで何が起きているか
2.「自然保護」と「再エネ普及」をどう両立させるか
3.猛暑の原因・再エネ賦課金の現状を最新データで確認
4.行き過ぎた再エネ叩きが生むリスク
5.事業者・自治体・地域が取るべき実務アクション
6.まとめ
1. 釧路湿原のメガソーラーで何が起きているか
報道では、釧路湿原国立公園近接地で約6,600枚・約4.2ha規模の太陽光発電が造成中とされ、猛禽類やタンチョウへの影響、造成手法による湿原環境への負荷が懸念されています。釧路市教育委員会は文化財保護法に基づく意見書を文化庁へ提出し、希少生物への配慮不足を指摘。北海道側からも工事の見直しを求める動きが報じられています。
この問題は、私たちに「再生可能エネルギーの普及」という大きな目標と、「かけがえのない自然を守る」という当然の義務との間で、どうバランスを取るべきかという重い問いを投げかけています。
ポイント:事業規模や場所、造成方法が“自然保護上の許容範囲か”という論点で、関係機関の手続・調査・合意形成の妥当性が問われています。
2. 「自然保護」と「再エネ普及」をどう両立させるか
地球温暖化を防ぐために、CO2を出さない再生可能エネルギーの普及は急務です。しかし、そのために豊かな自然が破壊されてしまうのであれば、それは本末転倒と言わざるを得ません。
自然破壊を伴う開発は抑制しつつ、再エネは進める――この当たり前の原則を制度に落とし込む必要があります。日本弁護士連合会は2025年8月に、①住民説明会の実効化(専門家同席の容認など)、②FIT/FIP認定IDの取得・転売への要件付与等で乱開発を防ぐ、等の提言を公表しています。
低環境負荷の選択肢
・屋根置き・駐車場上・工場跡地等の優先:導入適地の可視化には環境省の「REPOS(再エネポテンシャル)」が使えます。
・営農型太陽光(ソーラーシェアリング)農水省:農地の一時転用許可を前提に営農を継続しながら発電。国もガイドライン整備などの支援を進めています。
結論:ゾーニングと手続の実効化、適地優先・営農型の拡大で、「自然保護」と「普及」を両立させる道は十分にあります。
3. 猛暑の原因・再エネ賦課金の現状を最新データで確認
この夏の異例の猛暑について、東大・京大・北大等の研究者で構成される「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」は、地球温暖化がなければ発生し得ないレベルだったと分析を公表しました。統計的手法で、人為起源の温暖化がイベントの確率を押し上げたことを定量化しています。
(参考:2024年9月の能登豪雨でも、総雨量が温暖化により約15%増加したとする官公的な分析が公表済み。極端現象の“重さ”が増す方向にあることが示唆されます。)
一方、SNSでは「メガソーラーが猛暑の原因」とする言説も見かけます。学術文献では、太陽光発電による影響は主に“局所的な微気候変化”として報告され、夜間に周辺より高い・日中に冷える等、立地や被覆・植生管理で結果が分かれます。都市・日本全体の猛暑の主因は温室効果ガス増加であることが最新の帰属研究から示唆されており、両者はスケールが異なります。
・「メガソーラーが猛暑の原因」は本当か
「太陽光パネルが熱を溜め込み、周囲の気温を上げる」という主張がSNSなどで見られます。しかし、科学的には、その影響は極めて限定的で、地域全体や日本の気温を押し上げるようなことはありえません。近年の猛暑の最大の原因が、化石燃料の使用による地球温暖化であることは、多くの研究機関が指摘する事実です。
・報道のバランスは取れているか
メガソーラーの問題点を批判的に報じることは重要です。しかし一方で、猛暑や豪雨といった形で私たちの生活を脅かす地球温暖化の深刻さや、その原因である火力発電への言及が十分になされているでしょうか。「再エネはコストが高い」といった古い情報もいまだに散見されます。
再エネ賦課金については、2025年度の単価が3.98円/kWhに設定。家計モデル(400kWh/月)では月額約1,592円、年額約19,104円の負担という、政府公表の目安があります。
ただし電気料金の上振れ要因には、化石燃料の輸入価格・為替といった外生要因が大きく、2022年にはエネルギー要因で過去最大の貿易赤字(約20.3兆円)にも直結しました。日本が化石燃料の輸入に費やすお金は、年間20兆〜35兆円。そのうち約6割が発電用に使われると仮定すると、国民一人あたり年間10万円〜17万円を負担している計算になります。
依存を減らすこと自体が家計・国富の安定化に資します。
参考:経済産業省 エネルギーセキュリティに関する日本の課題と対応
4. 行き過ぎた再エネ叩きが生むリスク
自然保護の名の下に「再エネ全否定」に傾くと、必要な脱炭素投資が停滞し、結果的に化石燃料依存の長期化=コスト・安全保障リスクの固定化につながります。再エネにも費用はありますが、燃料費のない電源を増やすことは長期の電力コスト安定・地域内経済循環に寄与します。
5. 事業者・自治体・地域が取るべき実務アクション
・初期段階のゾーニングと“見える化”:保全優先エリアの設定、REPOSや生息地データの重ね合わせ。
・住民説明・専門家同席の制度化:野生生物・地盤・排水の専門家が資料を同時提示し、懸念に応える。
・適地優先の設計:屋根上・カーポート・既存開発地・耕作放棄地などから順に。営農型は地域の一次産業と両立。
・転売・ID規律の強化:FIT/FIPの認定・転売に要件を付し、短期転売型の乱開発を抑制。
まとめ
釧路湿原のメガソーラー問題は、再生可能エネルギーの普及を進める上で、自然環境や地域社会への配慮がいかに重要であるかを改めて浮き彫りにしました。
釧路湿原のように自然保護の観点から“やめるべき案件”は確かにあります。同時に、屋根上・適地優先・営農型の拡大で再エネを正しいやり方で前に進めることは可能であり、
この一点をもって再生可能エネルギー全体を否定し、化石燃料に依存し続けることは、気候変動という、より大きな危機から目をそむけることにつながります。
猛暑の主因は温暖化であり、行き過ぎた再エネ叩きは問題の本質をぼかすだけ。
私たちは、一部の問題点を冷静に批判し改善を求めつつも、再生可能エネルギーが持つ大きな可能性を見失ってはいけません。火力発電への依存から脱却し、自然と共生できる形でエネルギーを転換していく。
地域の納得を積み上げる制度設計と現場オペレーションに、今こそ力点を移すべきだと考えます。
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