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2026.08.09 Sun

一次調整力の募集量が10月から約3割減|系統用蓄電池の収益前提はどう変わるか

 
一次調整力の募集量が10月から約3割減
 
電気新聞に「1次募集量を削減」という記事があったので調べてみました。2026年10月から、北海道・東北・東京の東エリア3社で一次調整力の募集量が減らされる、という内容です。
需要家目線で読めば「調整力の調達コストが下がる方向の話」で終わります。ですが、需給調整市場に系統用蓄電池を出している側から見ると、意味はまるで違ってきますよね。一次調整力は応動10秒以内という、蓄電池がもっとも強みを発揮する領域。そこの募集量が3割強削られるわけですから、これは収益前提に直接効く話です。
 
そして元資料を読み込むと、削減幅よりもむしろ構造の変化のほうが重要だとわかります。通年一律だった必要量が月ごとに動くようになり、しかも「必要量を決める主役」が入れ替わる。結果として、単機最大ユニットの容量が何MWであっても必要量が同じになる、という一見不思議な現象まで起きています。
今回はOCCTOの元資料をもとに、数字の中身と、収益シミュレーションで見直すべき前提を整理してみます。
 


 
目次

 


 

1. まず結論|3行で押さえる今回の見直し

 
先に要点だけまとめます。
 
・対象と時期:北海道・東北・東京の東エリア3社。2026年度下期(2026年10月1日)から運用開始
・削減幅:一次調整力の異常時必要量が3社合計で約300MW減(単機最大1,356MW想定の場合、756MW → 383〜440MW)
・構造変化:通年一律だった必要量が月別変動に。さらに必要量を決定づける要因が「単機最大脱落量」から「EPPS送電量 (※後述補足参照)」へシフト
出典:電力広域的運営推進機関「一次調整力(異常時必要量)の見直しについて」(第62回需給調整市場検討小委員会/第79回調整力の細分化及び広域調達の技術的検討に関する作業会 資料4、2026年7月31日)
 
3つ目が今回いちばん見落とされやすいポイントです。順に見ていきましょう。
 

2. 一次調整力市場はどれだけ縮むのか

 通年一律756MWから、月別383〜440MWへ

 
まず全体像です。東エリア3社合計の異常時一次必要量は次のように変わります。
 

前提となる単機最大ユニット容量 見直し前 見直し後
1,356MW 756MW(通年一律) 383〜440MW(月別)
1,000MW 600MW(通年一律) 383〜440MW(月別)

出典:同資料 p.32
 
月別の内訳はこうなっています。
 

異常時一次必要量
(MW)
月間最小需要
(MW)
4月 428 28,588
5月 440 26,681
6月 429 28,421
7月 415 30,790
8月 412 31,341
9月 422 29,675
10月 428 28,636
11月 419 30,122
12月 393 34,553
1月 383 36,152
2月 391 34,896
3月 414 30,976

出典:同資料 p.32
 
ここで「あれ?」と思いませんか。需要が最も小さい5月に必要量が最大の440MW、需要が最も大きい1月に最小の383MW。直感とは逆の動きをしています。
理由は後述する算定式にあります。需要が大きいほど周波数低下時の需要減少量も大きくなり、その分だけ確保すべき調整力が減る——という関係になっているためです。
 
つまり、月ごとの必要量の差は約60MW。募集量の年間カーブを織り込まずに収益を積むと、ここで読み違えます。
 
 

 東京・東北と北海道の内訳

資料には、シミュレーション条件下でのエリア別の数字も示されています。平常時分も含めた一次調整力の必要量です。
 

区分 東京・東北合計 北海道
平常時(①) 234MW 38MW
異常時・見直し前(②) 704MW 42MW
異常時・見直し後(③) 410MW 27MW
合計・見直し前(①+②) 948MW 80MW
合計・見直し後(①+③) 644MW 65MW

出典:同資料 p.23, p.24(東京・東北は2026年5月2時相当、北海道は2026年9月2時相当の必要量)
 
平常時分(需要予測誤差や時間内変動への備え)は今回の見直しの対象外なので変わりません。減るのは異常時分だけです。それでも東京・東北合計で948MW → 644MW、率にして約32%減。市場規模のインパクトとしては相応に大きいと言えます。
 
なお北海道エリアは絶対量が小さく、80MW → 65MWと差分も限定的です。エリアによって影響度がかなり違う点は押さえておきたいところです。
 


 

3. 必要量を決める「主役」が交代した

 
ここからが本題です。単に量が減ったのではなく、必要量の決まり方そのものが変わりました。
 
 

 需要減少量という新しい控除項

今回導入されたのは「周波数が下がれば需要も減る」という物理現象を控除に織り込む考え方です。モーターやポンプなど回転機は、周波数が下がれば回転が遅くなり消費電力が減ります。この分は調整力で埋める必要がない、という理屈ですね。
 
算定式はシンプルです。
 

需要減少量 = 負荷の周波数特性 × 周波数低下幅 × 系統容量
負荷の周波数特性 50Hz系統では保守的に最小値の3.0%MW/Hzを採用(北海道は本来4.0%MW/Hz、中西は3.33%MW/Hz)
周波数低下幅 異常発生エリア:0.4Hz/健全側(EPPS送電)エリア:0.2Hz
系統容量 前年度の各月の最小需要

出典:同資料 p.11, p.12, p.16, p.18
 
系統容量に「各月の最小需要」を使うことになったのが、月別変動化の直接の原因です。
 
そのうえで、異常時一次必要量は次の2つを比べて大きいほうを採用します。
 
・異常発生エリア:単機最大脱落量 -EPPS動作分(600MW)-需要減少量(0.4Hz分)
・健全側エリア:EPPS送電分(600MW)-需要減少量(0.2Hz分)
 
資料の計算例(系統容量25,000MW、単機最大1,356MW)では、異常発生エリア側が1,356-600-300=456MW、健全側が600-150=450MW。大きいほうの456MWが採用されています。
 


 
【補足】EPPSとは何か
 
EPPSは「Emergency Power Presetting Switch(緊急融通制御装置)」の略称です。周波数変換設備(FC)で連系されている一方のエリアで系統故障等により電源が脱落し、周波数があらかじめ設定した値を下回った場合に、もう一方のエリアの周波数が健全であることを条件として、あらかじめ設定した電力を瞬時に送電する機能を指します。
 
今回の見直しでは必要量を決定づける要素になっているため、少し詳しく整理しておきます。
 
・設置箇所:新信濃1FC、新信濃2FC、佐久間FC、東清水FCの4台に機能を具備
・最大送電量:60万kW(600MW)。3段階に分けて送電されます
・動作条件(50Hz→60Hzへ融通する場合):受電(故障)側エリアが-0.4Hz以下、送電(健全)側エリアが-0.1Hz以上
 
送電のタイミングは次のように整定されています。
 

段階 送電量 動作タイミング
1段 20万kW 0.2秒後
2段 30万kW 3.2秒後
3段 10万kW 3.5秒後
合計 60万kW 3.5秒後

 
ここが一次調整力との対比で重要なポイントです。一次調整力は発電機のガバナフリー機能でじわじわと出力を上げていき、10秒以内に必要量を出し切ることが求められます。対してEPPSは、0.2秒で20万kWを叩き込み、3.5秒で60万kWを出し切る。応動の速さがまるで違うわけです。
 
だからこそOCCTOの資料では、仮に1.0Hz程度の低下が10秒程度で起きた場合、10秒時点の融通量(動作量)は一次調整力とほぼ変わらず、電源脱落に伴う周波数低下に十分対応できると考えられる、と整理されています。10秒という一次調整力の土俵の上では、EPPSはすでに全量を出し終えている、という関係ですね。
 
また、EPPSの整定は次の3つの考え方に基づいて設計されています。
 
・受電(故障)側エリアの周波数低下の回復に寄与すること
・送電(健全)側エリアの周波数を著しく低下させないこと
・受電側エリアと送電側エリアの周波数偏差が、原則として逆転状態とならないこと
 
2つ目と3つ目に注目してください。「助けに行った側が倒れては元も子もない」という設計思想です。今回の見直しで健全側エリアにも一次調整力の確保が求められ、その必要量が「EPPS送電分600MW-需要減少量」で計算されるのは、まさにこの考え方の延長線上にあります。
 
なお、機能が4台のFCに分散して具備されているため、複数のFCが同時に故障するようなケースでは600MWを確保できない場合もあるとされています。
 
送電(健全)側の動作条件については、常時の周波数調整目標が±0.2Hzであることを考慮し、従来の-0.1Hz以上から-0.2Hz以上へ見直す方向性が示されています。動作条件が緩和されればEPPSが確実に動く確率が高まる、という趣旨で、一般送配電事業者等の準備が整い次第の実施とされています。今回の見直しで健全側エリアの周波数低下幅を0.2Hz(=-0.2Hzから-0.4Hzまでの幅)と置いているのは、この整定変更を前提にした数字です。
 
ちなみにEPPSを具備する4台のうち、新信濃1FC・2FCは長野県内にあります。東西の系統をつなぐ要が身近な場所にある、というのは少し感慨深いところですね。
出典:東京電力パワーグリッド・中部電力「緊急融通制御装置(EPPS)の整定について」(第2回運用容量検討会 資料1-2-2、2017年9月22日)、および電力広域的運営推進機関「一次調整力(異常時必要量)の見直しについて」(第62回需給調整市場検討小委員会 資料4、2026年7月31日)p.5, p.10, p.16, p.17
 


 

 単機1,356MWでも1,000MWでも必要量が同じになる理由

さて、先ほどの表をもう一度見てください。単機最大1,356MWのケースと1,000MWのケースで、見直し後の必要量が完全に同じ(383〜440MW)になっています。
 
これは資料にも注記があり、「EPPS送電分が必要量の決定要因であるため」と説明されています。
 
実際に計算してみましょう。1月(系統容量36,152MW)を例に取ります。
 
・健全側:600 -(3.0% × 0.2Hz × 36,152)= 600 - 約217 = 約383MW
・異常発生エリア(単機1,356MW):1,356 - 600 -(3.0% × 0.4Hz × 36,152)= 1,356 - 600 - 約434 = 約322MW
 
健全側のほうが大きいので、383MWが採用される。単機最大ユニットの容量が何MWであっても、健全側の値が上回る限り必要量は変わらない、というわけです。
 
この意味するところは小さくありません。従来、異常時必要量は「エリア内で最も大きい発電ユニットの容量」に紐づいていました。大型電源が新設されれば必要量が増え、廃止されれば減る。ところが見直し後は、EPPSによる周波数変換設備の融通量(600MW)が事実上の天井になります。
 
つまり、系統用蓄電池の事業計画において「大型電源の動向を見て一次の市場規模を予測する」というアプローチは、東エリアに関しては有効性が下がることになります。代わりに注視すべきは各月の最小需要トレンドです。資料によれば、東エリア3社の月間最小需要は年度ごとに大きな差は見られないとされており、これは予測可能性が高まるという意味ではプラスに働く面もあります。
 


 

4. 収益シミュレーションで見直すべき3つの前提

 
ここまでを踏まえ、既存の収益モデルで点検したい箇所を整理します。
 
① 通年一定の募集量という前提
見直し前は756MW(または600MW)が通年一律でした。ここを固定値で置いているモデルは、月別カーブへの差し替えが必要です。年間平均で見れば約415MW程度ですが、月ごとに±30MW程度の幅があります。
 
② 季節性の「向き」
繰り返しになりますが、需要が小さい春・秋に必要量が大きく、需要が大きい冬に小さくなります。他市場(容量市場、卸電力市場、三次調整力など)の季節性と組み合わせるとき、この逆相関の関係は稼働計画上むしろ使いようがあるかもしれません。冬は卸で、春秋は一次で、といった発想ですね。
 
③ 単機最大ユニット容量に紐づく前提
前章のとおり、東エリアでは単機最大脱落量が必要量を決めなくなります。エリア内の大型電源の新設・廃止情報をトリガーにしたシナリオ分岐を組んでいる場合、その分岐は当面働きません。
なお、募集量が減ったときに約定価格がどう動くかは、供給側(応札量)がどう変化するか次第です。応札量が変わらないまま募集量だけ減れば価格には低下圧力がかかりますし、逆に採算割れで撤退が進めば価格は保たれます。現時点で一方向に断定できる材料はありませんので、シナリオを複数持っておくのが現実的でしょう。
 


 

5. 中西エリア(60Hz)が対象外となった理由と立地への示唆

 
今回の見直しは東エリア3社限定です。中西エリア(60Hz系統)が見送られた理由は、周波数を守る仕組みの違いにあります。
 
・東京・東北エリア:「負荷側UFR」のみを導入。周波数が動作値を下回ったら検出して負荷を遮断する事後対応型
・中西エリア:「負荷側UFR」に加え「系統安定化システム」も導入。特定の事故を想定し、あらかじめ演算した量の負荷遮断を瞬時に行う事前対応型
 
問題は後者です。系統安定化システムは見直し前のGF量(=一次調整力の量)を前提に設計されているため、一次調整力が減ると周波数特性が変化し、システムの設計想定から逸脱する可能性がある。だから現時点での適用は難しい、という判断です。
 
資料では、中西エリアへの導入可否は「60Hz系統における周波数制御体系の見直しを行った際などに、別途検討する」とされています。
 
系統用蓄電池の立地を検討する立場からすると、当面のあいだ60Hzエリアでは一次調整力の市場規模が維持される、という読み方になります。もちろん立地判断は連系可否や系統混雑、用地コストなど多くの要素で決まりますから、これだけで決められる話ではありません。ただ、東西で市場環境に差が生じる期間が発生することは、ポートフォリオを考えるうえで頭に入れておいて損はないでしょう。
 


 

6. 募集量減少をどう受け止めるか|マルチユース化という文脈

 
最後に、少し引いた視点で。
 
今回の見直しは「必要量を科学的に精査して過剰な確保を減らす」という方向性の施策です。同じ方向の動きとして、2025年4月にはEPPS動作分を異常時対応調整力から控除する整理も行われています。制度が成熟するにつれ、安全マージンが少しずつ精緻化されていく——という大きな流れの中にある変化と捉えるのが妥当でしょう。
 
一方で、電気新聞の報道によれば、今回あわせて一次調整力の応札拡大に向けた要件緩和も提案されているとのことです。周波数変動にどれだけ敏感に応動するかを示す「調整率」について、現行要件が定まる前から系統に連系していた電源を対象に緩和する内容とされています。
 
募集量は絞りつつ、参加できる電源の幅は広げる。この組み合わせは、供給側から見れば競争環境が厳しくなる方向とも読めます。
 
だとすれば、系統用蓄電池の収益設計は今後ますます「一本足打法からの脱却」が問われることになります。一次調整力に加えて二次・三次、容量市場、卸電力市場、さらには将来の需給調整市場の商品設計変更まで見据えたマルチユース前提のモデル。この記事をお読みの事業者の方なら、すでに取り組んでおられる領域かと思いますが、今回の見直しはその必要性をあらためて裏づけるものと言えそうです。
 


 
まとめ
今回は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2026年7月31日に示した一次調整力(異常時必要量)の見直しを、系統用蓄電池の視点から整理しました。
 
要点は3つです。第一に、2026年10月1日から東エリア3社で異常時一次必要量が約300MW削減され、東京・東北合計では平常時分を含めた必要量が948MW → 644MWと約3割減ること。第二に、通年一律だった必要量が月別変動に変わり、しかも需要の小さい5月に最大440MW、需要の大きい1月に最小383MWと、直感とは逆の季節性を持つこと。第三に、必要量の決定要因が「単機最大脱落量」からEPPS送電分(600MW)へ移り、単機最大ユニット容量に依存しない構造になったことです。
 
収益シミュレーションの観点では、通年一定の募集量前提、季節カーブの向き、単機最大容量に紐づくシナリオ分岐——この3点が点検対象になります。また中西エリア(60Hz)は系統安定化システムの制約から当面対象外とされており、東西で市場環境に差が生じる可能性もあります。
 
制度の精緻化は今後も続いていくはずです。数字の裏側にある算定ロジックまで押さえておくことが、次の変更を先読みする力になります。
 


 
情熱電力からのお知らせ
需給調整市場の制度変更は、資料を1枚読んだだけでは影響が見えにくいものが多いですよね。今回の見直しも、削減幅の数字だけを追うと本質的な構造変化を見落としかねない内容でした。
 
情熱電力では、こうした制度動向を継続的に追いかけ、算定ロジックのレベルまで噛み砕いて整理しています。答えを押しつけるようなことはいたしませんので、壁打ち相手が欲しいときにでもお気軽にどうぞ。
 
TEL:0263-88-1183
お問い合わせ:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
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