諏訪湖の水草はなぜ増えた?除去費用9200万円と私たちの暮らし・電気のつながり

信濃毎日新聞に「諏訪湖の“厄介者”水草どうすれば 観光・漁業・国スポへの影響深刻、長野県の役割重く」という記事があったので調べてみました。
湖面をびっしりと覆う、丸みを帯びた三角形の葉。観光船のスクリューに絡まり、漁の網にまとわりつき、ボートのオールを重くする——諏訪湖のヒシは、いつのまにか「厄介者」と呼ばれるようになりました。
でも、この話には少し意外な背景があります。水草がここまで増えたのは、湖が汚れたからではなく、むしろ「きれいになったから」なんです。昭和の時代にアオコが大発生していた濁った湖に光が差し込むようになり、その光が水草を育てた。かつての環境対策が実を結んだ結果として、今度は別の課題が生まれた、というわけですね。
そして除去には年間9200万円という費用がかかっています。決して他人事の数字ではありません。私たちは電気を売る会社ですが、湖の話も、猛暑の話も、エネルギーの話とどこかでつながっています。今回は諏訪湖で何が起きているのかを整理しながら、「厄介者」を資源に変える発想まで、いっしょに見ていきましょう。
目次
- 1. 諏訪湖の水草、いま何が起きている?
- 2. 増えた理由は「水がきれいになったから」という逆説
- 3. 年間9200万円――除去にかかるコストと手間
- 4. 2028年の国スポ、そしてワカサギ減少という心配
- 5. 「厄介者」を資源に変える発想
- 6. 猛暑・気候変動と、私たちにできること
1. 諏訪湖の水草、いま何が起きている?
まずは現在地の確認から。信濃毎日新聞の報道によると、県内最大の湖である諏訪湖では、浮葉植物のヒシや、マツモ・クロモといった沈水植物が大量に繁茂し、船舶の運航に支障が出るほどになっています。観光船が進みにくい、漁の作業がしづらい——地元の観光や漁業に、じわじわと影響が広がっている状況です。
実際の除去作業も行われています。7月11日には岡谷市と市民団体「環境市民会議おかや」などが諏訪湖でヒシの除去作業を実施し、約100人が参加。2時間ほどの作業で約2トンを取り除いたと報じられています。参加者からは「根が深く、重くて大変」という声も。手作業での除去が、どれほど骨の折れる仕事かが伝わってきますね。
ここで押さえておきたいのは、水草が単純な「悪者」ではないということです。水草は野鳥の餌場であり、魚類や水生昆虫の産卵場所でもあります。水質の改善にも役立っている。つまり、ゼロにすればいいという話ではないんです。この「加減の難しさ」こそが、今回のテーマの核心だと言えるでしょう。
2. 増えた理由は「水がきれいになったから」という逆説
アオコの時代から水質改善へ
なぜ、こんなに水草が増えたのか。ここが一番おもしろいところです。
信濃毎日新聞によると、昭和30年代後半の諏訪湖は、家庭や工場からの排水で富栄養化が進み、アオコが異常発生していました。湖面が緑色に染まる、いわゆる「汚れた湖」の状態です。その後、下水道の普及によって2000年ごろから水質は大幅に改善しました。長年の対策が実を結んだ、大きな成果です。
ところが、水が澄んだことで、水中に光が届くようになりました。その光をエネルギーにして、ヒシが一気に繁茂するようになった——これが今の状況につながっています。
環境の話って、こういう「良かれと思ってやったことが、次の課題を生む」という展開がとても多いんですよね。
エネルギーの世界も実は似ています。省エネ機器が普及して1台あたりの消費電力は下がったのに、家庭の機器の総数が増えて全体の電力消費はなかなか減らない、といった具合に。ひとつの対策が万能ということは、なかなかありません。
数字で見る、水草の広がり
具体的な広がりを見てみましょう。長野県水産試験場諏訪支場の調査によると、2025年のヒシの繁茂面積は275ヘクタールで、これは諏訪湖のおよそ2割にあたります。加えて近年は沈水植物も増加しており、マツモが148ヘクタール、クロモが72ヘクタールに広がっているとのことです。
| 水草の種類 | タイプ | 繁茂面積(2025年) |
|---|---|---|
| ヒシ | 浮葉植物 | 275ヘクタール(湖の約2割) |
| マツモ | 沈水植物 | 148ヘクタール |
| クロモ | 沈水植物 | 72ヘクタール |
(出典:長野県水産試験場諏訪支場の調査、信濃毎日新聞報道より)
275ヘクタールと言われてもピンと来ないかもしれませんが、東京ドームおよそ59個分にあたる面積です。それが湖面を覆っていると想像すると、なかなかの規模感ではないでしょうか。
3. 年間9200万円――除去にかかるコストと手間
さて、ここからは私たちがつい気になってしまう「コスト」の話です。
諏訪湖を管理する県は、2018年に策定した保全・利活用の方針「諏訪湖創生ビジョン」(2023年改訂)の中で、刈り取り船による除去量を年510トン以上と定めています。実際にはここ数年、年約600〜700トンが除去されており、2025年度にかかった費用は9200万円と報じられています。
年間9200万円。これは公費、つまり私たちの税金でまかなわれている費用です。しかも刈り取り船が入れない浅瀬などは、住民の手作業に頼っているのが実情。冒頭で紹介した「100人×2時間で約2トン」という数字と、年間600〜700トンという数字を並べてみると、機械と人の手の両方がなければ回らない現場だということがよくわかります。
そして、ここには表に出にくいコストもあります。刈り取り船を動かす燃料、刈り取った水草を陸に上げて運搬・処理するためのエネルギー。除去そのものにもエネルギーが必要なんですね。だからこそ、後半でお話しする「刈ったものをどう活かすか」という視点が効いてきます。
4. 2028年の国スポ、そしてワカサギ減少という心配
諏訪湖の水草問題に、いま特に切実な視線を向けているのがスポーツ関係者です。
諏訪湖は2028年の「信州やまなみ国民スポーツ大会(国スポ)」で、ローイング、セーリング、トライアスロンの競技会場になります。県ローイング協会の関係者からは「放置しておくと大変。今から手を打たなければ」という危機感の声が上がっていると報じられています。実際、下諏訪ローイングパークで毎年9月に開かれる下諏訪レガッタでは、昨年、除去が追いつかず一部種目が中止に追い込まれる事態が起きました。セーリングでも、船底中央にあるセンターボードに水草が絡まると競技に影響が出るそうです。
もうひとつ深刻なのが、漁業資源の減少です。信濃毎日新聞によると、県水産試験場諏訪支場の推定でワカサギの資源量は2015年の3306万匹から、2025年には983万匹まで減少しました。10年でおよそ3分の1以下です。2016年にはワカサギの大量死も発生し、漁や一般客向けのワカサギ釣りが制限されました。
この大量死の原因は、まだ特定できていません。県は2024年4月、水質や生態系を総合的に調査研究する拠点として県諏訪湖環境研究センター(岡谷市)を開設し、湖底の貧酸素化などについて調査を進めています。近年は夏の猛暑など気候変動の影響も大きいとみられており、研究の重要性は増すばかりです。
5. 「厄介者」を資源に変える発想
刈った水草は堆肥になる
ここまで課題ばかり並べてきましたが、明るい話もあります。刈り取った水草は、捨てるだけの存在ではありません。
諏訪市の公式サイトによると、市民参加の除去作業で回収されたヒシは堆肥に生まれ変わり、活用されています。同じような取り組みは他の湖でも進んでいて、琵琶湖では大量に発生する水草を堆肥化し、農業などで利用する仕組みが公益財団法人淡海環境保全財団などによって運営されています。
つまり、こういうことです。
・湖から水草を取り除く(水面と生態系のバランスを整える)
・刈ったものを堆肥や資源として活用する(処分コストを価値に変える)
・処分のためだけに燃やす量を減らせる(エネルギーと排出の削減にもつながる)
「厄介者」というラベルを貼ったままだと、除去は永遠にコストです。でも「まだ使える資源」と捉え直せば、同じ作業が地域の中で循環を生む活動になります。この発想の転換、実はエネルギーの世界でずっと言われてきたことと同じなんですよね。捨てていた熱を回収する、余った電気を蓄める、使わない時間帯にシフトする。「無駄をなくす」ではなく「別の形で活かす」という考え方です。
なお、水草をどこまで取るべきかについては、まだ答えが出ていません。県は諏訪湖創生ビジョンに基づき、ヒシの生育環境を密度に応じて3段階に区分けして除去していますが、ヒシ以外の水草については除去量の指針がないと報じられています。諏訪湖創生ビジョンは2027年度から次期改訂に向けた議論が始まる予定で、ここが大きな節目になりそうです。
6. 猛暑・気候変動と、私たちにできること
最後に、いちばん身近な話をさせてください。
諏訪湖で起きている変化の背景には、夏の猛暑をはじめとする気候変動の影響があるとみられています。水温が上がれば水草は育ちやすくなり、湖底では酸素が減って魚がすみにくくなる。ワカサギの減少も、この流れと無関係ではないと考えられています。
そして猛暑の夏は、電力にとっても正念場です。エアコンの稼働で需要が跳ね上がり、電力の需給がひっ迫しやすくなる。発電量が増えれば、それだけCO2排出も増えます。湖の話と電気の話は、「暑くなる夏」というひとつの現象を、違う角度から見ているだけとも言えるんです。
とはいえ、「気候変動のために我慢して電気を切りましょう」と言うつもりはありません。熱中症のリスクがあるなかで、無理な節電はむしろ危険です。おすすめしたいのは、我慢しない省エネのほうです。
・エアコンの設定温度を1℃見直す(下げすぎ・上げすぎを避ける)
・フィルター掃除を月1〜2回。目詰まりは消費電力の増加につながります
・冷房と扇風機・サーキュレーターを併用して、空気を回す
・電力使用量の「見える化」で、どこに無駄があるかを把握する
・料金プランが今の使い方に合っているかを、一度だけでも見直す
どれも小さなことですが、地域全体で積み重なると意味のある量になります。諏訪湖のヒシ除去だって、100人が2時間で2トン。一人ひとりは小さくても、集まれば動くんですよね。
記事の中で、諏訪湖創生ビジョン推進会議の会長を務める方が「自然は変化するもの。行政だけでなく市民が理解した上で、諏訪湖と向き合うことが重要だ」と話していました。これは湖に限らず、エネルギーについても同じことが言えるのではないでしょうか。仕組みを知り、自分の暮らしの中でできることを選ぶ。そこからしか始まらないと、私たちは思っています。
まとめ
諏訪湖の水草問題を整理すると、こうなります。ヒシの繁茂面積は2025年で275ヘクタール(湖の約2割)、マツモが148ヘクタール、クロモが72ヘクタール。除去には年間600〜700トンの作業と9200万円の費用がかかっています。そして水草が増えた原因は、皮肉にも下水道の普及で水質が改善し、湖に光が届くようになったことでした。
一方で、水草は野鳥の餌場であり、魚の産卵場所でもあります。取りすぎても、放置しても困る。2028年の信州やまなみ国スポではローイングなどの会場になり、ワカサギの資源量は10年で3306万匹から983万匹へと減少しました。答えの出ていない問いが、いくつも重なっています。
それでも、刈った水草を堆肥として活かす取り組みのように、「厄介者」を資源に変える道は開かれつつあります。夏の猛暑という気候変動の影響は、湖にも電力需給にも同じように及んでいます。だからこそ、私たちにできる小さな省エネの積み重ねには、意味があると考えています。まずはご自宅やお店の電気の使い方を、あらためて眺めてみませんか。
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この記事に関連するページリンク
・信濃毎日新聞デジタル:諏訪湖の“厄介者”水草どうすれば 観光・漁業・国スポへの影響深刻、長野県の役割重く
・長野県諏訪湖環境研究センター:諏訪湖環境モニター調査結果
・諏訪市公式ホームページ:諏訪市における諏訪湖の環境保全への取組について
・公益財団法人淡海環境保全財団:水草堆肥について
・環境省:水草の大量繁茂に着目した湖沼水環境管理の手引き 技術資料1_本編 / 技術資料2_事例集