送電ロスとは?発電した電気の約5%が消える理由と、住友商事が実用化する炭素繊維の電線を解説

日本経済新聞に「住友商事、送電ロス3割減らす電線 出資先仏社の炭素繊維技術を活用」という記事があったので調べてみました。
発電所でつくられた電気は、そのまま全部がご家庭や工場に届いているわけではありません。送電線を通っている間に、一部が熱に変わって失われています。これを「送電ロス」と呼びます。ふだんの生活ではまず意識しない話ですよね。電気は目に見えませんし、届かなかった分が請求書に「ロス」として書かれるわけでもありません。
ところがこのロス、規模で見るとかなりの量になります。日本の高圧送電線の総延長は40万キロメートル超。住友商事の試算では、全部を高効率な電線に置き換えられた場合、年100億円分以上の送電ロスを解消できるとされています。
今回その住友商事が、電線の「芯」に炭素繊維を使うことで、送電ロスを15〜30%減らす電線を国内で実用化すると発表しました。そもそも送電ロスとは何なのか、なぜ芯を替えるだけで減るのか、そして私たちの電気代に関係してくるのか。順番に見ていきます。
目次
- 1. 送電ロスとは?発電した電気はどこへ消えるのか
- 2. なぜロスが生まれる?電線の抵抗と熱の仕組み
- 3. 炭素繊維の芯材で送電ロスが15〜30%減る理由
- 4. データセンター時代に効いてくる「送電容量1.5〜2倍」
- 5. 電気代への影響はあるのか
1. 送電ロスとは?発電した電気はどこへ消えるのか
送電ロスとは、発電所でつくった電気が送電線・配電線を通ってお客さまに届くまでの間に、一部が熱として失われてしまうことです。東京電力パワーグリッドは、この現象を「送配電線の抵抗により、一部の電気エネルギーが熱として失われること」と説明しています。失われた分が発電電力量に対してどれくらいかを示すのが「送配電ロス率」です。
では、どれくらい失われているのか。同社は自社エリアの送配電ロス率について「1980年代頃から約5%前後を推移するほど低くなり、諸外国との比較で優れた水準」としています。参考値として、日本4.8%(2010年度)、アメリカ5.8%(2009年度)、フランス6.9%(2009年度)を挙げています。
つまり、日本の送電網はもともと世界的に見て優秀な部類です。それでも100のうち5くらいは熱になって消えている、と考えるとどうでしょうか。少し惜しい気がしてきませんか。
※ここで挙げた数値は東京電力パワーグリッドのエリア実績および同社が示す参考値です。全国平均や最新年度の数値は、資源エネルギー庁の「電力調査統計」で確認できます。
2. なぜロスが生まれる?電線の抵抗と熱の仕組み
電気が流れると、電線はあたたかくなる
金属の中を電気が流れるとき、電線は必ず「抵抗」を持っています。抵抗があるところに電流を流すと熱が出ます。電気ストーブやドライヤーが熱くなるのは、まさにこの性質を利用しているからです。
送電線でも同じことが起きています。ただしこちらは熱を出したいわけではないので、出た熱はまるごと損失です。しかもこの熱は、電流の大きさの2乗に比例して増えます。電流が2倍になれば、熱は4倍。だから「たくさん送ろうとすると、ロスが一気に増える」という関係になります。
高い電圧で送るのは、ロスを減らすため
送る電力の量が同じなら、電圧を高くするほど電流は小さくて済みます。電流が小さければ発熱も小さい。だから発電所から都市部まで運ぶ「高圧送電線」では、何万ボルトという高い電圧が使われています。街なかの電柱で少しずつ電圧を下げ、最後に100Vや200Vにしてご家庭に届く、という流れです。
もうひとつの手が、電線そのものの抵抗を下げることです。抵抗は、電気の通り道が太いほど小さくなります。水道のホースが太いほど水が流れやすいのと同じイメージですね。今回の炭素繊維の電線は、この「通り道を太くする」ほうのアプローチにあたります。
3. 炭素繊維の芯材で送電ロスが15〜30%減る理由
鋼の芯を、炭素繊維に置き換える
大容量の電気を送る高圧送電線は、実は1本の金属の棒ではありません。中心に強度を受け持つ「芯」があり、その周りに電気を通すアルミを巻き付けた構造になっています。芯は電線がちぎれないよう引っ張りに耐える役割で、電気を運んでいるのは主に外側のアルミです。
一般的な送電線では、この芯に鋼(はがね)が使われています。住友商事が出資したフランスのエプシロン・コンポジットは、この芯を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でつくっています。CFRPは炭素繊維で樹脂を強化した複合材料で、軽いのに強く、たわみにくいのが特徴です。同社は「HVCRC®」という名称で架空送電線用の芯材を展開しています。
日経の記事によれば、炭素繊維の芯材は軽くて強く、たわみにくいため、同じ送電線でも電気を通すアルミの割合を増やせます。電気の通り道が太くなるので抵抗が減り、送電時に失われる電力量を15〜30%減らせるとされています。
| 項目 | 一般的な送電線(鋼芯) | 炭素繊維芯の送電線 |
|---|---|---|
| 芯材 | 鋼 | 炭素繊維強化プラスチック(CFRP) |
| 芯材の性質 | 重く、たわみやすい | 軽く、たわみにくい |
| 電気を通すアルミの量 | 従来どおり | 増やせる(芯材が軽く強いため) |
| 送電ロス | 基準 | 15〜30%減 |
| 送電容量 | 基準 | 1.5〜2倍 |
| 課題 | — | 大きく曲げると折れやすい。折れても外観から分かりにくい |
(出典:日本経済新聞2026年9月/2024年6月の各記事、住友商事ニュースリリース2024年6月12日をもとに作成)
「折れても外から見えない」という壁
いいことずくめに見えますが、弱点もあります。炭素繊維の芯材は、大きく曲げると折れやすいのです。しかも折れても外観からは把握しにくい。中の芯が折れているのに、外側のアルミは無事なので見た目では分からない、という状態が起こりえます。
これは送電線としてかなり厳しい問題ですよね。数十年使い続けるインフラで、健全性が目視で確認できないというのは品質管理上の大きな課題です。この理由から、日本向けには輸入できていませんでした。
そこで住友商事などは、芯材が折れていないかを数分で確認できる検査機を2026年内にも実用化する計画です。1回の検査で2キロメートル以上の電線の異常の有無を確認できるとされています。電線と検査機をセットで送配電会社や電線メーカーに提案し、敷設に向けた実証を進めていく方針です。
技術そのものは実績があります。エプシロン・コンポジットは欧州を中心に1万キロメートル以上の芯材を販売してきました。1987年設立、フランス・ボルドー近郊に本拠を置き、従業員は約200名。引抜成形という製法に独自技術を加えてCFRP製品を低コストでつくるのが強みです。住友商事は2024年6月にこの会社へ出資し、持ち分法適用会社としています。
4. データセンター時代に効いてくる「送電容量1.5〜2倍」
送電ロスが減るというのは、言い換えれば「同じ電線でより多くの電気を運べる」ということです。今回の技術は、日本で一般的な送電線と比べて送電容量を1.5〜2倍に高められるとされています。
これがいま注目される理由は、電力需要の伸び方が変わってきたからです。AIの普及でデータセンターの電力消費が急増し、大量に電気を使う施設では発電設備を近くに新設する動きが広がっています。とはいえ、発電所を建てる場所も、そこから電気を運ぶ送電線の空き容量も、いくらでもあるわけではありません。新しい送電線を1本引くには、用地の確保から建設まで長い年月がかかります。
(情熱電力の過去記事:データセンターの急増で電力網がどこまで逼迫しているかは、こちらで詳しく取り上げています)
電線を張り替えるだけで容量が1.5〜2倍になるなら、鉄塔やルートはそのまま使えます。既存設備を活かせるうえ、離れた場所にある発電設備も使いやすくなる。「新しく作る」より「いまあるものの性能を上げる」ほうが早い、という発想ですね。
再生可能エネルギーとの相性も良さそうです。太陽光や風力は、資源のある場所と電気を使う場所が離れがちで、送電網の容量が足りずに発電を抑えるケースが起きています。住友商事も出資リリースの中で、この芯材が「既存設備を利用しながらより多くの高圧電流を安全且つ高い送電効率で輸送できる」ことから、再生可能エネルギーの普及促進に貢献すると述べています。
5. 電気代への影響はあるのか
気になるのは、これが電気料金にどう響くのかというところですよね。
まず前提として、送電ロスの費用は最終的に電気料金の一部として広く負担されています。送配電網の維持・運用にかかる費用は「託送料金」というかたちで料金に含まれており、失われた電気の分もそこに含まれます。ロスが減れば、その分は理屈のうえでは負担の軽減方向に働きます。
ただし、すぐに請求額が下がると考えるのは早いと思います。住友商事の試算は「日本の高圧送電線40万キロメートル超がすべて高効率な電線に置き換わった場合、年100億円分以上の送電ロスを解消できる」というものです。あくまで全部置き換わったらの話で、実際の張り替えには工事費も時間もかかります。検査機の実用化はこれから、実証もこれからという段階です。
それでも、電力需要が増えていく局面で「いまある設備をもっと効率よく使う」手段が増えるのは、長い目で見て料金の上振れを抑える方向に働きます。長野県のような山間部を多く抱える地域では、そもそも発電地点と消費地が離れがちです。送電の効率が上がることの意味は、都市部より大きいかもしれません。
私たちが日々スイッチを入れるとき、その電気がどれだけの距離を旅してきたのかを考えることはあまりありません。でもその道のりの途中で少しずつ熱になって消えているものがあって、それを減らす研究が地道に続いている。そう思うと、電線の見え方も少し変わってきませんか。
(情熱電力の過去記事:そもそも電線をなくしてしまおうという研究も進んでいます)
まとめ
送電ロスとは、発電所でつくった電気が送電線を通る間に熱として失われてしまうことです。東京電力パワーグリッドは自社エリアの送配電ロス率について、1980年代頃から約5%前後で推移していると説明しています。世界的には低い水準ですが、量にすると相当な規模になります。
住友商事は、出資先であるフランスのエプシロン・コンポジットの炭素繊維技術を使い、この送電ロスを15〜30%減らす電線を国内で実用化します。高圧送電線は中心の芯にアルミを巻いた構造で、その芯を鋼から炭素繊維強化プラスチックに替えることで、電気を通すアルミの量を増やせるという仕組みです。送電容量も1.5〜2倍に高められるとされています。課題は芯材が折れても外から分かりにくいことで、2026年内にも1回で2キロメートル以上を数分で検査できる装置を実用化し、電線とセットで提案していく方針です。
データセンターの急増で電力需要が伸びるなか、新しい送電線を引くには時間がかかります。いまある鉄塔とルートを使ったまま容量を増やせる技術は、これから存在感を増していきそうです。
情熱電力からのお知らせ
電気は、発電所から届くまでの間にもいろいろなことが起きています。料金の内訳や、電気の使い方でどこが変わるのかといったことも、実際に見てみると意外と発見があるものです。
「うちの契約、これで合っているのかな」「請求書のこの項目は何だろう」など、気になることがありましたらお気軽にご相談ください。難しい言葉を使わずにご説明します。
情熱電力のこのお知らせページでは、
情熱電力が注目した電気に関連した様々な事柄をピックアップして掲載させていただいております。
随時、このページを更新して参りますので
ご興味を持たれた方はまたこのサイトにお越しいただければ幸いです。
この記事に関連するページリンク
・日本経済新聞:住友商事、仏炭素繊維加工に出資
・日本経済新聞:住友商事、送電ロス3割減らす電線 出資先仏社の炭素繊維技術を活用
・経済産業省:約款上の送電ロスの取扱いについて(電力・ガス取引監視等委員会資料)