【なるほど雑学】なぜ級は数字が減り、段は増える?日本文化の面白い秘密
日本経済新聞に、日本ならではの表現に関する気になる記事がありました。囲碁や将棋、柔道や剣道といった武道、さらには水泳や書道などの習い事や検定試験で使われる「段」と「級」。私たちは当たり前のように「2級から1級に上がった!」「初段から二段に昇段した!」と口にしますが、よく考えてみると不思議ではありませんか?なぜ「級」は数字が小さくなるほど上で、「段」は数字が大きくなるほど上なのでしょうか。この数字が逆向きに進む仕組み、実は海外ではほとんど見られない日本特有の文化で、その背景には江戸時代まで遡る深い歴史と、目標を達成するための巧みな工夫が隠されていました。今回は、明日誰かに話したくなる「段」と「級」の面白い小ネタをご紹介します。
すべての始まりは江戸時代の「囲碁」の世界
この段と級の仕組み、そのルーツは江戸時代前期の囲碁界にあると言われています。当時、囲碁の家元であった本因坊道策(ほんいんぼう どうさく)が、対局者同士の実力差を分かりやすく示すために「段位」の仕組みを整備したのが始まりとされています。
対局では、実力が下の者がハンディキャップとして先に石を置く「置き碁」というルールがありました。このハンディの差を体系的に示すものが「段位」だったのです。
では、なぜ一番上が「九段」なのでしょうか?
これは、囲碁の発祥地とされる中国で、「9」が最も位の高い数字と考えられていたことに由来するという説が有力です。
一方、「級」が登場するのは明治維新後のこと。幕府という後ろ盾を失った囲碁界で生まれた組織のひとつ「方円社」が、段位制を一時的に廃止し、1級を最上位とする「級位」を設けたことがきっかけでした。この試みは定着しませんでしたが、「級」という概念がここで生まれたのです。
「一人前」と「達人」を分けるうまい仕組み
その後、大正13年(1924年)に現在の「日本棋院」が設立されると、ついに「段」と「級」が組み合わさった制度が採用されます。
この制度のうまいところは、目標設定の仕方にあります。
日本棋院によると、「一人前に囲碁を打てるレベル」が「初段」とされており、これは非常に高いハードルなのだそうです。
つまり、
「級」:一人前(初段)を目指して修行する段階。ゴールに向かってカウントダウンしていくイメージ。
「段」:一人前(初段)になった人が、さらに熟練の道、達人の域を目指して上達していく段階。
このように、「初段」をひとつの大きな目標として、そこに至るまでの道のりを「級」、そこからの更なる高みを「段」とすることで、誰もが自分のレベルに合った目標を持ちやすくなったのです。
柔道の父が広めたモチベーション維持の知恵
この画期的な段級位制にいち早く着目し、他分野に広めるきっかけを作ったのが、柔道の創始者であり教育者でもあった嘉納治五郎(かのう じごろう)です。
彼は、修行者のやる気を引き出すために、この制度が非常に有効だと考えました。嘉納治五郎は、「昇級の機会の早く来るやうにするのを便である」と書き残しています。
目標までの道のりを細かく刻むことで、上達を実感しやすくなり、モチベーションを維持しやすくなる。この考え方は、剣道などの武道はもちろん、イトマンスイミングスクールのようなスポーツの習い事にも取り入れられています。イトマンでは30級から始まり、200メートル個人メドレーが泳げる1級を目指します。そして最近、新たに1級の上に「段位」を新設したそうです。これもまさに、「一人前になった後の、より高みを目指す」という本来の考え方に基づいていますね。
世界では少数派?日本ならではの文化
このように、日本では広く浸透している段級位制ですが、海外では一般的ではありません。
例えば、国際的な中国語検定である「HSK」は、初学者向けの1級から始まり、最上級者向けの6級へと、数字が大きくなるほどレベルが上がります。世界的に見れば、こちらのほうが直感的で分かりやすいとされています。
数字が逆向きに進む段級位制は、目標を細分化し、挑戦する人の気持ちに寄り添う、日本ならではの知恵と工夫が生んだ文化だったのですね。
まとめ
「級」の数字が減っていき、「段」の数字が増えていく理由。それは、「初段=一人前」という大きな目標を真ん中に置いた、日本独自の非常に合理的なシステムでした。
級:一人前になるためのカウントダウン。
段:一人前になってからのステップアップ。
この仕組みは、上達の目標を見失わせず、常にモチベーションを保たせるための先人たちの知恵の結晶と言えるでしょう。普段何気なく使っている言葉にも、調べてみると面白い歴史が隠れているものですね。
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それではまた!!
この記事に関連するページ
・日本経済新聞 2級→1級→初段→二段… 級と段で数字が逆向きに進むのはなぜ?
・公益財団法人 日本棋院 (https://www.nihonkiin.or.jp/)
・公益財団法人 講道館 昇段資格について