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2026.06.27 Sat

電気代に関わる?日本の原子力政策が3年ぶりに大転換──2040年までに最大5基の建て替え方針

 
原子力発電所
 
政府が原子力政策の指針となる「今後の原子力政策の方向性と行動指針」を3年ぶりに改定する方針だということで調べてみました。
「原子力」と聞くと、少し難しく感じる方も多いかもしれません。でも実は、この政策の方向性は、私たちが毎月支払う電気代や、将来にわたるエネルギーの安定供給に深く関わっています。特に、データセンターの急増やAI普及による電力需要の増加が現実のものとなっている今、「どこから電気を作るのか」という問題は、企業にとっても家庭にとっても身近なテーマです。
今回は、2026年6月5日に開催された「第49回原子力小委員会」(資源エネルギー庁)で示された改定案の内容を、できるだけかみ砕いてご紹介します。
 


 
目次

 


 

1. そもそも今回の改定、なぜ必要になったの?

現行の「今後の原子力政策の方向性と行動指針」は、2023年4月に策定されたものです。それからわずか3年で改定が必要になった背景には、大きく2つの環境変化があります。
 

①電力需要の急増

データセンターの新設ラッシュやAI・DXの普及、産業の電化(工場や輸送機器の電力化)などにより、国内の電力需要は増加傾向に転じています。2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」では、2040年度の発電電力量を1.1〜1.2兆kWh程度と見込んでいます(出典:資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画」)。
 

②エネルギー安全保障リスクの高まり

中東情勢の緊迫化や国際的な地政学リスクを背景に、化石燃料に過度に依存することへの不安が高まっています。こうした状況から、脱炭素かつ国産エネルギーに近い原子力の役割が改めて注目されているのです。
第7次エネルギー基本計画では「再エネ・原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することが必要不可欠」と明記されました。これを踏まえ、国は行動指針を3年ぶりに改定することとしました。
なお、改定案においても「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じてエネルギー政策を進めていくことが原点」という姿勢は引き続き堅持されています。
 


 

2. 新しい行動指針の全体像──6つの柱とは

改定後の行動指針は、「原子力発電の見通し・将来像」を前段に新設した上で、6つの柱で構成されています。
 

①原子力を長期的に活用していく上での大前提

以前のテーマは「再稼働への総力結集」でしたが、再稼働がある程度進んできたこと(2026年6月5日時点で15基が再稼働)を踏まえ、名称が変わりました。
内容としては、「安全神話からの脱却」を不断に問い直し、確率論的リスク評価(PRA)などのリスク評価手法の高度化を推進。また、2026年1月に発覚した中部電力・浜岡原子力発電所における地震動評価データの不正選定問題を受け、業界全体での品質保証活動の改善と安全最優先姿勢の再徹底も盛り込まれています。
立地地域との共生では、能登半島地震や南海トラフ地震を念頭に置いた「複合災害」対応の強化、地域の将来像を国・自治体・事業者が共に描く取り組みの支援拡大なども明記されています。
 

②再稼働の加速・既設炉の最大限活用

審査や安全対策工事の書類管理・プロセス管理を効率化するため、デジタル・AIの活用検討が盛り込まれました。
また現在、国内の原子力発電所はすべて13カ月サイクルで運転していますが、PWR(加圧水型軽水炉)プラントで15カ月運転の導入を進めるとともに、将来的に18カ月・24カ月運転への延長も検討。運転サイクルが長くなることで、年間の発電量を増やしながら定期検査の頻度を抑えることが期待されています。
さらに、電気事業法に基づく60年超の運転延長認可制度を着実に運用し、既設炉の最大限活用につなげる方針も明記されました。
 

③次世代革新炉の開発・設置

2026年4月に「次世代革新炉開発ロードマップ」が革新炉ワーキンググループによって公表されました。このロードマップでは、炉型を大きく3つに分けて整理しています。

炉型 開発段階 主な例
革新軽水炉・SMR(小型軽水炉) 技術面では社会実装段階 国内外の複数メーカーが開発中
高速炉 実証炉開発を推進 常陽(実験炉)など
高温ガス炉 実証炉開発を推進 HTTR(実験炉)など

今後は、廃炉が決定した発電所のサイト内での建て替えを優先的な対象としつつ、あらゆる制度・支援措置の在り方を検討していく方針です。
 

④バックエンドプロセスの加速化

「バックエンド」とは、使用済み燃料の再処理・廃炉・放射性廃棄物の最終処分など、原子力発電の「後処理」全般を指します。
六ヶ所再処理工場(青森県)については、再処理工場の竣工目標が「2026年度中」、MOX燃料工場が「2027年度中」とされており、竣工後の長期安定稼働に向けた取り組みが求められています。
廃炉については、NuRO(使用済燃料再処理・廃炉推進機構)を中心に、業界全体での知見・ノウハウの蓄積・共有が進められています。
最終処分地の選定については、2026年3月に南鳥島(東京都小笠原村)での文献調査申入れが行われ、同年5月に調査が開始されました(全国4地点目)。国が主体的に地域へ申入れを行う姿勢が、今回の改定案でも明確にされています。
 

⑤事業環境整備/サプライチェーン・人材基盤の維持・強化

原子力発電所の新増設や建て替えには、巨額の初期投資と長い建設期間が伴います。事業者が投資判断を下しやすくするための制度整備として、以下が検討・具体化の対象とされています。
 
・長期脱炭素電源オークション制度の活用・改善
・コーポレートPPA(企業による再エネ・脱炭素電源の長期購入契約)の促進
・英国のRABモデル(規制資産ベース)の教訓を踏まえた資金調達支援の検討
・原子力賠償制度の見直し
 
サプライチェーンについては、震災以降の建設空白期間によって現場の技能人材が約3割減少したとされており(出典:第49回原子力小委員会資料)、産官学横断の人材育成ロードマップを2026年度中に策定する予定とされています。
 

⑥国際的な共通課題の解決への貢献

日本は日仏首脳共同声明(2026年4月1日)で、既設炉の長期運転・次世代革新炉の開発・核燃料サイクルの推進など幅広い分野での協力強化を確認。また、米国では2026年4月に「Nuclear Dominance-3 by 33」が公表され、2033年までに核燃料サプライチェーンの構築・次世代革新炉の導入・産業基盤強化を一体的に推進する方針が示されるなど、国際的にも原子力活用の機運が高まっています。
 


 

3. 今回の改定で初めて示された「建て替えの必要量」とは?

今回の改定案でとりわけ注目されるのが、「原子力発電の見通し・将来像」の新設です。福島第一原発事故以降、政府が原子力の具体的な設備容量の目標を示すのはこれが初めてとなります。
試算の前提条件は以下のとおりです(出典:第49回原子力小委員会資料2)。

項目 前提条件
2040・2050年度の発電電力量 1.1〜1.2兆kWh(第7次エネ基より)
原子力の電源シェア 約2割
設備利用率の仮定 70%
運転期間の仮定 60年
大型炉1基あたりの設備容量 120万kW

この前提で試算すると、以下の「不足量(建て替え必要量)」が導き出されます。

時期 不足する設備容量(大型炉換算)
2040年代まで 約220〜550万kW(約2〜5基)
2050年代まで(2040年代分含む) 約1,270〜1,600万kW(約11〜14基)

なお、SMR(小型軽水炉)で賄う場合、1基あたりの設備容量を30万kWと仮定すると、大型炉1基分に対してSMR4基分が必要になります。
「2050年代に11〜14基の建て替え」と聞くと、かなり大規模な計画に感じるかもしれません。ただし、これはあくまで一定の仮定に基づく試算であり、今後の再稼働の進捗や電力需要の変化によって変動するとされています。それでも、国がこうした具体的な数値を初めて示したことは、長期投資の判断材料として産業界に一定のシグナルを送るという点で大きな意味があります。
 


 

4. 私たちの電気代・エネルギー生活への影響は?

 

電気代の安定化という観点

原子力発電は燃料費が相対的に安定しており、発電コストの変動が小さい電源です。再稼働や長期運転が進めば、燃料費高騰に左右されにくい電源の割合が増え、電気料金の安定化に一定の効果があると考えられています。ただし、安全対策工事費・廃炉費用・賠償費用なども電気料金に転嫁される仕組みがあるため、一概に「原子力が増えれば電気代が下がる」とは言い切れません。
 

脱炭素の選択肢という観点

企業が脱炭素を推進するうえで、安定した低炭素電源の確保は重要課題です。今回の改定案に盛り込まれた「コーポレートPPA(企業による原子力・再エネの長期購入契約)」の促進は、特に製造業や大規模施設をお持ちの法人のお客様にとって、将来的な選択肢が広がる動きといえます。
 

地域の視点から

例えば、長野県は原子力発電所の立地県ではありませんが、電力消費地として電源構成の変化の影響を受けます。また、今回の改定案では「電力消費地も含めて最終処分地の選定調査地域を拡大する必要がある」との考え方も示されており、原子力政策は立地地域だけの話ではなくなってきています。
 


 

5. まとめ

今回ご紹介した「今後の原子力政策の方向性と行動指針」の改定案は、日本のエネルギー政策にとって非常に重要な転換点となる内容です。
ポイントをまとめると、①データセンター急増などによる電力需要拡大やエネルギー安全保障の観点から原子力の重要性が再確認されたこと、②福島事故以降初めて、2040年代に最大5基・2050年代に最大14基の原子炉建て替えが必要との定量的な見通しが示されたこと、③再稼働の加速・次世代革新炉の開発・バックエンド処理・人材育成など幅広い課題が一体的に整理されたこと、の3点が今回の大きな特徴です。
私たち情熱電力は、こうしたエネルギーをめぐる政策の動きを継続的にウォッチしながら、皆さまに役立つ情報を発信していきます。電力のことで気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
 


 

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この記事に関連するページリンク

・資源エネルギー庁「今後の原子力政策の方向性と行動指針」(第49回原子力小委員会資料)
・資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画
・原子力規制委員会「適合性審査