インバランス料金が初の上限300円に|10月21日の需給逼迫と、10月1日の制度改正が重なった理由

電気新聞に「インバランス、初の300円/中部・北陸・関西エリア、広域予備率3%以下に」という記事があったので調べてみました。
10月21日の夕方、中部・北陸・関西の3エリアで、インバランス料金が4コマ続けて300円/kWhに張り付きました。300円は、いまの制度でつけられる上限いっぱいの値段です。しかもこの上限は、10月1日に200円から引き上げられたばかり。つまり改正の3週間後に、新しい天井に手が届いてしまったことになります。
「インバランス」は電力会社の裏側の話で、ふだん請求書に名前が出てくるものではありません。それでも、市場連動のプランで電気を買っている法人にとっては、料金の上がり方を決めている仕組みのひとつです。何が起きたのか、なぜ秋のこの時期だったのか、そして11月以降の調達をどう考えるか。順に見ていきます。
目次
- 1. インバランス料金とは?計画と実績のズレを精算する仕組み
- 2. 10月21日に何が起きたのか|4コマ連続で上限に張り付いた夕方
- 3. なぜ秋に逼迫するのか|端境期に定期点検が集中する構造
- 4. 10月1日の制度改正で、上限は200円から300円に上がっていた
- 5. 燃料高が重なっている|LNGは前年の約2倍の水準
- 6. 法人がいま確認すべき3つのこと
1. インバランス料金とは?計画と実績のズレを精算する仕組み
まず言葉から。インバランス(imbalance)は「不均衡」という意味の英語です。何と何の不均衡かというと、小売電気事業者が事前に出した「この30分でこれだけ使います」という計画と、お客さまが実際に使った量のズレのことを指します。
電気は貯めておけないので、使われる量とつくられる量は常に一致していなければなりません。計画と実績にズレが出たぶんは、その地域の送配電網を預かる一般送配電事業者が肩代わりして埋めます。その肩代わりを後から精算する単価が、インバランス料金です。
不足インバランスと余剰インバランス
ズレには2方向あります。寒波が来て想定より電気が使われれば「不足インバランス」、工場が急に稼働を止めて想定より使われなければ「余剰インバランス」です。不足のときは小売事業者が不足分を買い取り、余剰のときは余った分を売ることになります。
身近な場面で言えば、朝の気温予報が3℃外れただけで、暖房の立ち上がりは地域全体で大きく動きます。予測はどれだけ精度を上げても完全には当たらないので、インバランスは「失敗」ではなく、毎日必ず発生するものとして制度に組み込まれています。
情熱電力のような新電力も、30分ごとにこの差分を精算しています。固定単価のプランであれば、この変動は事業者側が引き受けて、お客さまの単価は動きません。一方で市場連動のプランでは、卸市場やインバランスの値動きがそのまま料金に伝わる設計のものがあります。同じ「電力会社との契約」でも、ここが大きく違うところです。
需給が厳しいほど高くなる設計になっている
2022年度に始まった現行のインバランス料金は、「調整力の限界的なkWh価格」と「補正インバランス料金」を比べて、高いほうを採用する仕組みになっています(インバランス単価中央算定システム 公表資料)。
後者の補正インバランス料金は、需給が厳しくなるほど単価が跳ね上がるように設計されています。これには理由があります。もしインバランスの精算単価が市場価格より安ければ、小売事業者は「市場で買うより、わざと不足を出して精算したほうが安い」と考えてしまいかねません。それを防ぐために、厳しい時間帯ほど割高にしてあるわけです。
2. 10月21日に何が起きたのか|4コマ連続で上限に張り付いた夕方
電気新聞によると、10月21日の午後3時半から5時半までの4コマで、中部・北陸・関西エリアのインバランス料金が上限単価の300円/kWhに到達しました。実需給の1時間前まで取引できる時間前市場でも、同日午後3時半〜4時に実勢最高値250円/kWhを記録しています。
この時間帯に何が行われていたかは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の公表記録で確認できます。同機関は10月21日16時06分、関西電力送配電エリアで供給力が不足し需給状況の悪化が認められたとして、他エリアからの電気の供給(融通)を指示しました。対象時間帯は16時30分〜17時30分、連系線のマージンを使った受電の合計は最大90万kWです。
| 供給した事業者 | 供給電力(最大値) |
|---|---|
| 東京電力パワーグリッド | 約55.0万kW |
| 中部電力パワーグリッド | 22万kW |
| 北陸電力送配電 | 20万kW |
| 中国電力ネットワーク | 0.0066万kW |
| 関西電力送配電の受電合計 | 最大90万kW |
出典:電力広域的運営推進機関「需給状況改善のための指示の実施について<関西電力送配電>(10月21日16時06分実施)」
融通の時間帯と、インバランスが300円に張り付いた時間帯は、ほぼ重なっています。しかも融通を出した側である中部・北陸でも同じく300円がついている。つまり、エリアをまたいで余力が乏しかったということです。中部エリアに含まれる長野県も、この日は当事者でした。
ちなみに広域予備率3%という水準は、需給ひっ迫警報の発信基準と同じです。注意報が5%未満、警報が3%未満なので(OCCTO公表資料)、21日の夕方はそこまで薄くなっていたことになります。
3. なぜ秋に逼迫するのか|端境期に定期点検が集中する構造
「真夏や真冬でもないのに、なぜ10月下旬に?」と思われた方も多いと思います。ここには構造的な事情があります。
10月は、冷房も暖房もあまり使わない「端境期(はざかいき)」です。需要が落ち着くこの時期は、発電所の定期点検を入れる絶好のタイミングでもあります。火力発電所の点検は法令で実施が定められていて、数年周期で計画的に行われます。関西電力の説明によれば、設備を解体して約7万個の部品を検査するため、2〜4か月ほどかかる場合もあるとのこと。同社が例に挙げている堺港発電所5号機の点検は、9月16日から11月4日にかけて行われました。
つまり端境期というのは、需要が軽いぶん供給力も薄くしてある時期なのです。ふだんはそれで釣り合っています。
問題は夕方です。10月下旬は日没が早く、太陽光の出力が落ちる時刻と、事業所がまだ動いている時刻が重なります。21日に300円がついたのは午後3時半から5時半。まさにこの時間帯です。需要そのものは真夏のピークに遠く及ばなくても、点検で供給力が削られているところに太陽光が沈めば、予備率は一気に細ります。
4. 10月1日の制度改正で、上限は200円から300円に上がっていた
ここが今回いちばん押さえておきたい点です。21日に300円がついたのは、「過去最悪の需給だったから」とだけ読むと誤ります。そもそも300円という値段は、3週間前まで存在しませんでした。
補正インバランス料金の上限値は「C値」と呼ばれ、2022年度の制度開始から2025年度までは暫定的に200円/kWhに置かれていました。これが当面の間300円/kWhに引き上げられ、あわせて「D値」も45円/kWhから50円/kWhに変更されています。施行日は当初2026年4月が予定されていましたが、JEPX(日本卸電力取引所)の時間前市場システムの更新が延期されたことに伴い、2026年10月1日となりました。
改正前の制度であれば、21日の需給でも単価は200円で頭打ちだったことになります。「極めて厳しい需給が来た」ことと「天井が上がった直後だった」ことは、どちらも効いています。片方だけで説明すると、実態を取り違えます。
広域予備率と単価の対応表
補正インバランス料金は、「補正料金算定インデックス」(広域予備率)の値に応じて機械的に決まります。インデックスをx(%)とすると、3%未満が300円、3%以上8%未満が「450−50x」、8%以上10%未満が「250−25x」、10%以上は補正が適用されません。1%刻みで並べると次のようになります。
| 補正料金算定インデックス(広域予備率) | 補正インバランス料金 |
|---|---|
| 3%以下 | 300円/kWh(C値・上限) |
| 4% | 250円/kWh |
| 5% | 200円/kWh |
| 6% | 150円/kWh |
| 7% | 100円/kWh |
| 8% | 50円/kWh(D値) |
| 9% | 25円/kWh |
| 10%以上 | 補正の適用なし |
出典:インバランス単価中央算定システム「よくあるご質問」(2026年10月1日更新)/C値300円の場合
予備率が1%下がるごとに50円ずつ上がっていく区間(3〜8%)があることがわかります。8%で50円だったものが、5%で200円、3%で300円。崖のように立ち上がる設計です。
同時に始まった「天井を下げる」仕組み
10月1日の改正では、上限の引き上げと同時に、歯止めも導入されました。「累積価格閾値制度」と呼ばれるセーフティネットです。
対象日の直前7日間で、スポット市場のエリアプライスが200円/kWh以上となったコマ数が累積30コマに達すると、その翌日から補正インバランス料金の上限が100円/kWhに引き下げられます。解除されるのは、直前7日間で100円/kWh以上となったコマ数がゼロになった時点です。
高値が単発で出るぶんには300円まで許容するが、それが何日も続くようなら天井を下げる、という設計です。2021年末から2022年初めにかけての高騰局面で、一部の新電力が精算に耐えられなくなった経緯を踏まえたものと言えます。
5. 燃料高が重なっている|LNGは前年の約2倍の水準
もうひとつ、今回の300円を「一日かぎりの事故」として片づけにくい事情があります。燃料そのものが高止まりしていることです。
JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の月次レポートによると、2026年9月25日時点のアジア向けスポットLNG(JKM)は25ドル前半/百万Btu。2025年9月が概ね11ドル台だったので、1年で約2倍になっています。欧州のTTFも24.1ドルで、欧州のガス貯蔵率は9月23日時点で70.4%と、前年同期の82.0%・過去5年平均の86.0%を下回る水準でした。
同レポートがアジアの価格上昇の要因として挙げているのは、欧州とアジアのあいだでの冬季カーゴの獲得競争、米国産LNGのアジア向け裁定取引が採算割れとなったこと、中東情勢の悪化による地政学的リスクプレミアム、南アジア諸国のスポット調達増加です。なお同レポートでは、ウクライナ情勢は2026年9月時点の上昇要因としては挙げられていません。欧州側の供給不安としては、ノルウェーからの計画外メンテナンスや貯蔵率の低さが挙がっています。
(情熱電力の過去記事:卸電力価格が日欧で3割上がった経緯はこちらで詳しく整理しています)
燃料が高いと何が起きるか。卸電力市場の値段は、その時間帯に最後に動いた1台(限界電源)の燃料費を映すことが多く、ガス火力が最後の1台になる時間帯では、燃料高がそのまま卸値に乗ります。逼迫していない平常時の単価も底上げされるということです。そのうえで21日のように予備率が削られると、補正インバランス料金の側が顔を出して、上限まで一気に走る。二階建てで効いてくる構図です。
6. 法人がいま確認すべき3つのこと
ここまでを踏まえて、法人の電力調達として確認しておきたいことを3つに絞ります。
・契約が固定単価か、市場連動か 自社の契約がどちらなのかは、意外と社内で共有されていないことがあります。市場連動であれば、21日のような日の影響が1〜2か月遅れで請求に現れます。契約書の単価の条項を、いちど読み直しておくことをおすすめします。
・市場連動なら、調整項の上限の有無 市場連動のプランには、卸市場価格やインバランスに連動する調整項が付くものがあります。そこに上限の定めがあるかどうかで、こうした日のリスクの大きさがまったく違ってきます。「上限なし」と書かれている場合は、300円という新しい天井がそのまま自社のリスクの上限になります。
・夕方のピークを動かせるか 15時半から17時半という時間帯は、多くの事業所がまだ動いている時間です。この帯の使用量を前倒しできる工程があるか、蓄電池や自家発で山を削れるか。すぐに答えが出る話ではありませんが、逼迫が秋にも起きるとなると、検討の優先度は上がります。
あわせて、11月の請求が上がる要因は別にもあります。2026年夏の電気・ガス料金支援が9月使用分で終わったことと、託送料金の改定です。こちらは需給とは関係なく、ほぼ確実に効いてきます。(情熱電力の過去記事:11月の請求が上がる2つの理由はこちらでまとめています)
まとめ
10月21日の夕方、中部・北陸・関西の3エリアでインバランス料金が300円/kWhの上限に張り付きました。制度開始以来はじめてのことです。
ただ、この「はじめて」には2つの意味が重なっています。ひとつは、広域予備率3%以下という、需給ひっ迫警報の基準と同じ水準まで余力が細ったこと。端境期で火力の定期点検が集中するなか、夕方に太陽光が沈む時間帯に需要が残り、エリアをまたいで融通を回してもなお足りませんでした。もうひとつは、10月1日に上限が200円から300円へ引き上げられたばかりだったこと。改正前なら200円で止まっていた値段です。
背景には、前年の約2倍というLNG価格の高止まりもあります。平常時の卸値が底上げされているところに、需給が細ると補正インバランス料金が立ち上がる。この二階建ては、冬に向けてもう何度か顔を出す可能性があります。
まずは自社の契約が固定単価か市場連動か、市場連動なら調整項に上限があるかを確認してみてください。そこがはっきりすれば、こうしたニュースを自社の数字として読めるようになります。
情熱電力からのお知らせ
情熱電力の高圧プランは固定単価制です。今回のような需給の急変や卸市場の値動きがあっても、契約期間中の単価は変わりません。市場連動のプランをご契約中で「今月の請求がどうなるか読めない」という状態が続いているようでしたら、いちど現在の契約内容を一緒に確認させてください。
切り替えありきのご提案はいたしません。いまの契約のままで問題ない場合は、そうお伝えします。お見積もりやご相談は無料です。
TEL 0263-88-1183 / https://jo-epco.co.jp/contact電気新聞に「インバランス、初の300円/中部・北陸・関西エリア、広域予備率3%以下に」という記事があったので調べてみました。
10月21日の夕方、中部・北陸・関西の3エリアで、インバランス料金が4コマ続けて300円/kWhに張り付きました。300円は、いまの制度でつけられる上限いっぱいの値段です。しかもこの上限は、10月1日に200円から引き上げられたばかり。つまり改正の3週間後に、新しい天井に手が届いてしまったことになります。
「インバランス」は電力会社の裏側の話で、ふだん請求書に名前が出てくるものではありません。それでも、市場連動のプランで電気を買っている法人にとっては、料金の上がり方を決めている仕組みのひとつです。何が起きたのか、なぜ秋のこの時期だったのか、そして11月以降の調達をどう考えるか。順に見ていきます。
目次
- 1. インバランス料金とは?計画と実績のズレを精算する仕組み
- 2. 10月21日に何が起きたのか|4コマ連続で上限に張り付いた夕方
- 3. なぜ秋に逼迫するのか|端境期に定期点検が集中する構造
- 4. 10月1日の制度改正で、上限は200円から300円に上がっていた
- 5. 燃料高が重なっている|LNGは前年の約2倍の水準
- 6. 法人がいま確認すべき3つのこと
1. インバランス料金とは?計画と実績のズレを精算する仕組み
まず言葉から。インバランス(imbalance)は「不均衡」という意味の英語です。何と何の不均衡かというと、小売電気事業者が事前に出した「この30分でこれだけ使います」という計画と、お客さまが実際に使った量のズレのことを指します。
電気は貯めておけないので、使われる量とつくられる量は常に一致していなければなりません。計画と実績にズレが出たぶんは、その地域の送配電網を預かる一般送配電事業者が肩代わりして埋めます。その肩代わりを後から精算する単価が、インバランス料金です。
不足インバランスと余剰インバランス
ズレには2方向あります。寒波が来て想定より電気が使われれば「不足インバランス」、工場が急に稼働を止めて想定より使われなければ「余剰インバランス」です。不足のときは小売事業者が不足分を買い取り、余剰のときは余った分を売ることになります。
身近な場面で言えば、朝の気温予報が3℃外れただけで、暖房の立ち上がりは地域全体で大きく動きます。予測はどれだけ精度を上げても完全には当たらないので、インバランスは「失敗」ではなく、毎日必ず発生するものとして制度に組み込まれています。
情熱電力のような新電力も、30分ごとにこの差分を精算しています。固定単価のプランであれば、この変動は事業者側が引き受けて、お客さまの単価は動きません。一方で市場連動のプランでは、卸市場やインバランスの値動きがそのまま料金に伝わる設計のものがあります。同じ「電力会社との契約」でも、ここが大きく違うところです。
需給が厳しいほど高くなる設計になっている
2022年度に始まった現行のインバランス料金は、「調整力の限界的なkWh価格」と「補正インバランス料金」を比べて、高いほうを採用する仕組みになっています(インバランス単価中央算定システム 公表資料)。
後者の補正インバランス料金は、需給が厳しくなるほど単価が跳ね上がるように設計されています。これには理由があります。もしインバランスの精算単価が市場価格より安ければ、小売事業者は「市場で買うより、わざと不足を出して精算したほうが安い」と考えてしまいかねません。それを防ぐために、厳しい時間帯ほど割高にしてあるわけです。
2. 10月21日に何が起きたのか|4コマ連続で上限に張り付いた夕方
電気新聞によると、10月21日の午後3時半から5時半までの4コマで、中部・北陸・関西エリアのインバランス料金が上限単価の300円/kWhに到達しました。実需給の1時間前まで取引できる時間前市場でも、同日午後3時半〜4時に実勢最高値250円/kWhを記録しています。
この時間帯に何が行われていたかは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の公表記録で確認できます。同機関は10月21日16時06分、関西電力送配電エリアで供給力が不足し需給状況の悪化が認められたとして、他エリアからの電気の供給(融通)を指示しました。対象時間帯は16時30分〜17時30分、連系線のマージンを使った受電の合計は最大90万kWです。
| 供給した事業者 | 供給電力(最大値) |
|---|---|
| 東京電力パワーグリッド | 約55.0万kW |
| 中部電力パワーグリッド | 22万kW |
| 北陸電力送配電 | 20万kW |
| 中国電力ネットワーク | 0.0066万kW |
| 関西電力送配電の受電合計 | 最大90万kW |
出典:電力広域的運営推進機関「需給状況改善のための指示の実施について<関西電力送配電>(10月21日16時06分実施)」
融通の時間帯と、インバランスが300円に張り付いた時間帯は、ほぼ重なっています。しかも融通を出した側である中部・北陸でも同じく300円がついている。つまり、エリアをまたいで余力が乏しかったということです。中部エリアに含まれる長野県も、この日は当事者でした。
ちなみに広域予備率3%という水準は、需給ひっ迫警報の発信基準と同じです。注意報が5%未満、警報が3%未満なので(OCCTO公表資料)、21日の夕方はそこまで薄くなっていたことになります。
3. なぜ秋に逼迫するのか|端境期に定期点検が集中する構造
「真夏や真冬でもないのに、なぜ10月下旬に?」と思われた方も多いと思います。ここには構造的な事情があります。
10月は、冷房も暖房もあまり使わない「端境期(はざかいき)」です。需要が落ち着くこの時期は、発電所の定期点検を入れる絶好のタイミングでもあります。火力発電所の点検は法令で実施が定められていて、数年周期で計画的に行われます。関西電力の説明によれば、設備を解体して約7万個の部品を検査するため、2〜4か月ほどかかる場合もあるとのこと。同社が例に挙げている堺港発電所5号機の点検は、9月16日から11月4日にかけて行われました。
つまり端境期というのは、需要が軽いぶん供給力も薄くしてある時期なのです。ふだんはそれで釣り合っています。
問題は夕方です。10月下旬は日没が早く、太陽光の出力が落ちる時刻と、事業所がまだ動いている時刻が重なります。21日に300円がついたのは午後3時半から5時半。まさにこの時間帯です。需要そのものは真夏のピークに遠く及ばなくても、点検で供給力が削られているところに太陽光が沈めば、予備率は一気に細ります。
4. 10月1日の制度改正で、上限は200円から300円に上がっていた
ここが今回いちばん押さえておきたい点です。21日に300円がついたのは、「過去最悪の需給だったから」とだけ読むと誤ります。そもそも300円という値段は、3週間前まで存在しませんでした。
補正インバランス料金の上限値は「C値」と呼ばれ、2022年度の制度開始から2025年度までは暫定的に200円/kWhに置かれていました。これが当面の間300円/kWhに引き上げられ、あわせて「D値」も45円/kWhから50円/kWhに変更されています。施行日は当初2026年4月が予定されていましたが、JEPX(日本卸電力取引所)の時間前市場システムの更新が延期されたことに伴い、2026年10月1日となりました。
改正前の制度であれば、21日の需給でも単価は200円で頭打ちだったことになります。「極めて厳しい需給が来た」ことと「天井が上がった直後だった」ことは、どちらも効いています。片方だけで説明すると、実態を取り違えます。
広域予備率と単価の対応表
補正インバランス料金は、「補正料金算定インデックス」(広域予備率)の値に応じて機械的に決まります。インデックスをx(%)とすると、3%未満が300円、3%以上8%未満が「450−50x」、8%以上10%未満が「250−25x」、10%以上は補正が適用されません。1%刻みで並べると次のようになります。
| 補正料金算定インデックス(広域予備率) | 補正インバランス料金 |
|---|---|
| 3%以下 | 300円/kWh(C値・上限) |
| 4% | 250円/kWh |
| 5% | 200円/kWh |
| 6% | 150円/kWh |
| 7% | 100円/kWh |
| 8% | 50円/kWh(D値) |
| 9% | 25円/kWh |
| 10%以上 | 補正の適用なし |
出典:インバランス単価中央算定システム「よくあるご質問」(2026年10月1日更新)/C値300円の場合
予備率が1%下がるごとに50円ずつ上がっていく区間(3〜8%)があることがわかります。8%で50円だったものが、5%で200円、3%で300円。崖のように立ち上がる設計です。
同時に始まった「天井を下げる」仕組み
10月1日の改正では、上限の引き上げと同時に、歯止めも導入されました。「累積価格閾値制度」と呼ばれるセーフティネットです。
対象日の直前7日間で、スポット市場のエリアプライスが200円/kWh以上となったコマ数が累積30コマに達すると、その翌日から補正インバランス料金の上限が100円/kWhに引き下げられます。解除されるのは、直前7日間で100円/kWh以上となったコマ数がゼロになった時点です。
高値が単発で出るぶんには300円まで許容するが、それが何日も続くようなら天井を下げる、という設計です。2021年末から2022年初めにかけての高騰局面で、一部の新電力が精算に耐えられなくなった経緯を踏まえたものと言えます。
5. 燃料高が重なっている|LNGは前年の約2倍の水準
もうひとつ、今回の300円を「一日かぎりの事故」として片づけにくい事情があります。燃料そのものが高止まりしていることです。
JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の月次レポートによると、2026年9月25日時点のアジア向けスポットLNG(JKM)は25ドル前半/百万Btu。2025年9月が概ね11ドル台だったので、1年で約2倍になっています。欧州のTTFも24.1ドルで、欧州のガス貯蔵率は9月23日時点で70.4%と、前年同期の82.0%・過去5年平均の86.0%を下回る水準でした。
同レポートがアジアの価格上昇の要因として挙げているのは、欧州とアジアのあいだでの冬季カーゴの獲得競争、米国産LNGのアジア向け裁定取引が採算割れとなったこと、中東情勢の悪化による地政学的リスクプレミアム、南アジア諸国のスポット調達増加です。なお同レポートでは、ウクライナ情勢は2026年9月時点の上昇要因としては挙げられていません。欧州側の供給不安としては、ノルウェーからの計画外メンテナンスや貯蔵率の低さが挙がっています。
(情熱電力の過去記事:卸電力価格が日欧で3割上がった経緯はこちらで詳しく整理しています)
燃料が高いと何が起きるか。卸電力市場の値段は、その時間帯に最後に動いた1台(限界電源)の燃料費を映すことが多く、ガス火力が最後の1台になる時間帯では、燃料高がそのまま卸値に乗ります。逼迫していない平常時の単価も底上げされるということです。そのうえで21日のように予備率が削られると、補正インバランス料金の側が顔を出して、上限まで一気に走る。二階建てで効いてくる構図です。
6. 法人がいま確認すべき3つのこと
ここまでを踏まえて、法人の電力調達として確認しておきたいことを3つに絞ります。
・契約が固定単価か、市場連動か 自社の契約がどちらなのかは、意外と社内で共有されていないことがあります。市場連動であれば、21日のような日の影響が1〜2か月遅れで請求に現れます。契約書の単価の条項を、いちど読み直しておくことをおすすめします。
・市場連動なら、調整項の上限の有無 市場連動のプランには、卸市場価格やインバランスに連動する調整項が付くものがあります。そこに上限の定めがあるかどうかで、こうした日のリスクの大きさがまったく違ってきます。「上限なし」と書かれている場合は、300円という新しい天井がそのまま自社のリスクの上限になります。
・夕方のピークを動かせるか 15時半から17時半という時間帯は、多くの事業所がまだ動いている時間です。この帯の使用量を前倒しできる工程があるか、蓄電池や自家発で山を削れるか。すぐに答えが出る話ではありませんが、逼迫が秋にも起きるとなると、検討の優先度は上がります。
あわせて、11月の請求が上がる要因は別にもあります。2026年夏の電気・ガス料金支援が9月使用分で終わったことと、託送料金の改定です。こちらは需給とは関係なく、ほぼ確実に効いてきます。(情熱電力の過去記事:11月の請求が上がる2つの理由はこちらでまとめています)
まとめ
10月21日の夕方、中部・北陸・関西の3エリアでインバランス料金が300円/kWhの上限に張り付きました。制度開始以来はじめてのことです。
ただ、この「はじめて」には2つの意味が重なっています。ひとつは、広域予備率3%以下という、需給ひっ迫警報の基準と同じ水準まで余力が細ったこと。端境期で火力の定期点検が集中するなか、夕方に太陽光が沈む時間帯に需要が残り、エリアをまたいで融通を回してもなお足りませんでした。もうひとつは、10月1日に上限が200円から300円へ引き上げられたばかりだったこと。改正前なら200円で止まっていた値段です。
背景には、前年の約2倍というLNG価格の高止まりもあります。平常時の卸値が底上げされているところに、需給が細ると補正インバランス料金が立ち上がる。この二階建ては、冬に向けてもう何度か顔を出す可能性があります。
まずは自社の契約が固定単価か市場連動か、市場連動なら調整項に上限があるかを確認してみてください。そこがはっきりすれば、こうしたニュースを自社の数字として読めるようになります。
情熱電力からのお知らせ
情熱電力の高圧プランは固定単価制です。今回のような需給の急変や卸市場の値動きがあっても、契約期間中の単価は変わりません。市場連動のプランをご契約中で「今月の請求がどうなるか読めない」という状態が続いているようでしたら、いちど現在の契約内容を一緒に確認させてください。
切り替えありきのご提案はいたしません。いまの契約のままで問題ない場合は、そうお伝えします。お見積もりやご相談は無料です。
TEL 0263-88-1183 / https://jo-epco.co.jp/contact
この記事に関連するページリンク
・電力広域的運営推進機関(OCCTO):需給状況悪化時の対応
・インバランス料金情報公表ウェブサイト:よくあるご質問
・電力・ガス取引監視等委員会:インバランス料金制度の詳細設計等について
・JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構):天然ガス・LNG関連情報 月報