次世代型地熱発電とは?初のロードマップが示す2040年140万kW・2050年770万kWの道筋

電気新聞に「地熱発電 実績と技術力、世界を牽引」という特集記事があったので、調べてみました。
毎年10月8日が「地熱発電の日」だということ、ご存じでしたか。1966年のこの日、岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本で初めて商用の地熱発電を始めました。今年でちょうど60年になります。
ただ、記念日になるほど歴史があるわりに、地熱が日本の発電電力量に占める割合は2022年度で約0.3%。資源量だけなら日本は世界第3位という恵まれた国なのに、です。この「資源はあるのに使えていない」という状態が、ずっと地熱の代名詞でした。
その前提が、いま変わろうとしています。国が2025年に初めて地熱のロードマップをまとめ、「次世代型地熱」と呼ばれる新しい技術で2050年に770万kWを目指すという数字を示したからです。何が新しくて、どこまで現実的なのか。順番に見ていきます。
目次
- 1. 10月8日は「地熱発電の日」|日本の地熱のいまの立ち位置
- 2. 次世代型地熱発電とは?従来型との違いを3つの方式で整理
- 3. 国が初めて示したロードマップ|2040年140万kW、2050年770万kW
- 4. なぜ日本が世界を牽引できるのか|タービンの世界シェアは7割
- 5. 企業の電力調達にとって、地熱の何が変わるのか
- 6. 残る課題|コスト、温泉との共生、そして時間
1. 10月8日は「地熱発電の日」|日本の地熱のいまの立ち位置
日本は火山国です。地下には熱がたっぷりある。これは感覚としても分かりやすいと思います。
数字でも裏づけがあります。資源エネルギー庁の次世代型地熱推進官民協議会の資料によると、国内にある150℃以上の地熱資源をすべて開発した場合の発電容量は2,347万kW。日本は世界第3位の地熱資源量を持つ国とされています。
ところが、実際に発電している量はごくわずかです。国内の地熱発電の導入量は約60万kW。資源量2,347万kWの40分の1ほどで、地熱が発電電力量に占める割合は2022年度で約0.3%にすぎません。第7次エネルギー基本計画では、これを2040年度に1〜2%まで引き上げる方針が示されていますが、裏を返せば、60年かけてもまだ0.3%だったということでもあります。
なぜ増えなかったのか。理由はいくつも重なっています。
・地熱の有望地は国立公園や温泉地と重なることが多く、開発できる場所が限られる
・地下に「熱水や蒸気がたまった層(貯留層)」がある場所でないと掘れない
・掘ってみないと当たりかどうか分からない。探査の段階だけで3〜5年かかる
・地元の温泉事業者との合意形成に時間がかかる
太陽光が10年あまりで一気に広がったのと比べると、地熱は時間のかかり方がまるで違います。この「場所の制約」と「時間の制約」を技術で外せないか、というのが次世代型地熱の出発点です。
2. 次世代型地熱発電とは?従来型との違いを3つの方式で整理
従来型の地熱発電は、地下2〜3kmにある200〜300℃の熱水・蒸気を汲み上げてタービンを回す方式です。1基あたりの出力は1万5,000kW程度とされています。
(情熱電力の過去記事:地熱発電の基本的な仕組みについては、こちらの記事で解説しています)
ここで決定的なのは、「天然の貯留層がある場所でしか成立しない」という点です。熱い岩盤があっても、そこに水と亀裂がそろっていなければ発電できません。
次世代型地熱は、この前提を外しにいきます。国の中間取りまとめでは、大きく3つの方式が挙げられています。
クローズドループ|熱水がなくても掘れる
亀裂のない高温の地熱層に坑井を掘り、地下で配管のループをつくって流体を循環させる方式です。地上から送り込んだ液体が、熱い岩盤に温められて戻ってくる。閉じた回路なので地下水と混ざりません。
最大の利点は、熱水や蒸気がない地域でも開発できることです。「熱はあるが水がない」場所が候補地に加わります。
EGS|岩盤に人工の貯留層をつくる
EGS(Enhanced Geothermal Systems=涵養地熱系)は、水圧で岩盤に人工的な亀裂をつくり、そこに水を圧入して蒸気を生産する方式です。天然の貯留層がないなら自分でつくる、という発想ですね。
クローズドループとEGSは、1地域あたり2万〜5万kW規模での展開が想定されています。従来型より小ぶりですが、立地できる場所の数が桁違いに増えます。
超臨界地熱|地下4〜6kmの400〜600℃を狙う
3つのなかで最も野心的なのがこれです。マグマ上部にある高温高圧の「超臨界状態」の熱水から蒸気を取り出します。深度3〜6km、温度は400〜600℃。従来型の倍近い温度です。
温度が高いぶん取り出せるエネルギーも大きく、1地域あたり20万kW級が想定されています。従来型1基の10倍以上の規模で、原子力や大型火力に近いスケール感になります。
| 方式 | 深さ・温度 | 想定規模(1地域あたり) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 従来型 | 地下2〜3km/200〜300℃ | 1.5万kW程度 | 天然の貯留層がある場所に限られる |
| クローズドループ | 高温の地熱層に坑井を掘削 | 2万〜5万kW | 熱水・蒸気がない地域でも開発できる |
| EGS | 岩盤に人工の貯留層を造成 | 2万〜5万kW | 水を圧入して蒸気を生産する |
| 超臨界地熱 | 地下3〜6km/400〜600℃ | 20万kW級 | 大規模発電が見込めるが技術的難度は最も高い |
出典:資源エネルギー庁「次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ」および同庁の解説記事
これら次世代型を含めた日本のポテンシャルは77GW超(7,700万kW超)と試算されています。従来型の2,347万kWの3倍以上です。第7次エネルギー基本計画で次世代型地熱が「地熱ポテンシャルを現状の4倍以上に拡大する可能性がある技術」と位置づけられたのは、この試算が背景にあります。
3. 国が初めて示したロードマップ|2040年140万kW、2050年770万kW
2025年4月に次世代型地熱推進官民協議会が発足し、同年10月に中間取りまとめが公表されました。地熱について国がロードマップを示したのは、これが初めてです。
| フェーズ | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| フェーズ1 | 2026〜2030年 | 国内での先行導入・実証 |
| フェーズ2 | 2030年代早期 | 次世代型地熱発電所の運転開始 |
| フェーズ3 | 2040年以降 | 国内普及と抜本的な導入量拡大 |
累積の導入容量は、2040年に約140万kW(1.4GW)、2050年に約770万kW(7.7GW)という見通しが置かれています。いまの導入量が約60万kWですから、2040年で2倍強、2050年にはそこからさらに5.5倍という絵になります。
2040年の140万kWの内訳は、超臨界地熱が約80万kW(20万kW×4地域)、EGS・クローズドループが約60万kW(2万kW×30地域)。2050年までの追加分約630万kWは、超臨界地熱が約280万kW(20万kW×14地域)、EGS・クローズドループが約350万kW(5万kW×70地域)と想定されています。
「4地域」「30地域」といった具体的な地域数まで置かれているのが、この見通しの特徴です。逆にいえば、この地域数を確保できるかどうかが、数字の現実味を左右することになります。
発電コストの目標は12〜19円/kWh。従来型の地熱は13.82〜36.81円/kWhとされているので、上振れ側が大きく下がる想定です。7.7GWが実現した場合の経済波及効果(生産誘発額)は約30兆〜47兆円、CO2削減量は年間約3,654万t-CO2と試算されています。
お金の話も出ています。政府の成長戦略では、次世代型地熱は「資源・エネルギー安全保障・GX」分野の重点項目に位置づけられ、2040年度までの官民投資額が1.0兆円と想定されました(経済財政諮問会議・日本成長戦略会議 合同会議 資料、2026年6月24日)。
ここで区別しておきたいのは、1兆円は官民を合わせた投資の想定額であって、国が出す補助金の額ではないという点です。国費のほうは別に決まっています。グリーンイノベーション基金の「次世代型地熱技術の開発」プロジェクトでは、国費負担額の総額上限が1,102億円と定められました。内訳は超臨界地熱が上限153億円、クローズドループが上限621億円、EGSが上限61億円です(経済産業省「研究開発・社会実装計画」令和8年6月15日)。
中間取りまとめのロードマップには、プロジェクト1件あたりの事業規模も示されています。超臨界地熱とクローズドループが「最大100億円/件」「最大300億円/件」、EGSが「最大50億円/件」「最大200億円/件」。いずれも掘削から噴気試験へと段階が進むにつれて規模が大きくなる想定とみられます。1件あたり数百億円という桁は、地熱がこれまで置かれてきた扱いとは明らかに違っています。
4. なぜ日本が世界を牽引できるのか|タービンの世界シェアは7割
ここが、日本にとっていちばん面白いところかもしれません。
国内の導入量は0.3%どまりなのに、地熱発電用のタービンでは日本メーカーが世界シェア7割を握っています(資源エネルギー庁資料)。国内で作れなかったぶん、海外のプラントに供給し続けてきた結果です。
地熱のタービンは、硫化水素などを含む蒸気にさらされ続けます。普通の火力用タービンとは材料も設計も違う。この腐食との戦いを60年続けてきた蓄積が、そのままシェアになっています。
次世代型になると条件はさらに厳しくなります。超臨界地熱の400〜600℃という領域では、坑井に使う鋼材や蒸気タービンに新しい材料が要るとされています。難度が上がるほど、既存の蓄積が効いてくる。日本勢が実証段階から関与している理由はそこにあります。
国内の地熱が増えることは、発電所が1つ増えるという話にとどまりません。国内に実証の場があることが、そのまま輸出産業の足腰になります。
5. 企業の電力調達にとって、地熱の何が変わるのか
ここからは、法人のエネルギー調達に関わる方に向けた話です。
地熱が再評価されている理由は、純国産であることだけではありません。「24時間動く再生可能エネルギー」だという点が大きい。
太陽光は夜に止まり、風力は風に左右されます。一方、地熱の設備利用率は天候に依存せず、ベースロード電源として使える数少ない再エネです。そしていま、企業の再エネ調達ではこの「時間帯」が論点になりつつあります。使った時間と同じ時間に発電された再エネでなければカウントしない、という考え方(アワリーマッチング)が国際的な基準改定で議論されているためです。
(情熱電力の過去記事:アワリーマッチングの議論とその影響は、こちらで詳しく整理しています)
この基準が厳しくなるほど、夜間も動く電源の価値は上がります。地熱が再注目されている背景には、こうした制度側の変化もあります。
ただし、期待の時間軸は正確に見ておく必要があります。
・2030年までは実証段階(フェーズ1)で、商用の電気として調達できる量はほとんどない
・運転開始はフェーズ2、2030年代早期から
・まとまった量になるのは2040年以降(フェーズ3)
つまり、いま進行中の調達計画に次世代型地熱を組み込める段階ではありません。2030年代後半以降の中長期シナリオで「選択肢が1つ増える可能性がある」という位置づけが実情に近いと思います。
一方で、発電設備・鋼材・掘削・エンジニアリングといった供給側に関わる企業にとっては、2026年から始まるフェーズ1がすでに事業機会です。2040年度までの官民投資額1兆円という想定のうち、最初に動くのがこの期間にあたります。
6. 残る課題|コスト、温泉との共生、そして時間
もちろん、計画どおりにいくとは限りません。中間取りまとめでも、論点は率直に並べられています。
コストは、目標の12〜19円/kWhに届くかどうかが前提条件です。現在の電力市場の水準と比べて競争力を持てるかは、実証の結果次第になります。
制度面では、温泉法における次世代型地熱の掘削許可の扱いが環境省の検討会で議論される予定です。また、クローズドループやEGSでは、周辺の開発事業者との間で地下の熱資源が取り合いになる可能性が指摘されています。従来型では自然公園法や保安林の制限が開発面積の課題とされてきましたが、次世代型には次世代型の、まだ答えの出ていない論点があるということです。
そして時間。従来型では探査段階だけで3〜5年、建設期間は5年と見込まれています。次世代型は深く掘るぶん、短くなる保証はありません。2026年に実証を始めて2030年代早期に運転開始という工程は、かなり詰まったスケジュールです。
それでも、「資源はあるのに使えない」という60年続いた説明が、初めて具体的な数字と期限を伴った計画に置き換わりました。地熱の話を、毎年10月8日に思い出すだけの記念日の話で終わらせないために、この先5年の実証は見ておく価値があると思います。
まとめ
10月8日の「地熱発電の日」から60年。日本は世界第3位の地熱資源量を持ちながら、発電電力量に占める割合は約0.3%にとどまってきました。天然の貯留層がある場所にしか掘れないという制約が、長らく壁になっていたためです。
その制約を外しにいくのが次世代型地熱です。熱水がなくても掘れるクローズドループ、人工的に貯留層をつくるEGS、地下4〜6kmの400〜600℃を狙う超臨界地熱。この3方式で、2040年に約140万kW、2050年に約770万kWという見通しが、国の初めてのロードマップとして示されました。
企業の調達という目線では、使える電気になるのは2030年代以降で、いますぐの選択肢ではありません。ただ、夜も動く再エネという地熱の性質は、時間単位での再エネ調達が問われるようになるほど効いてきます。
地熱発電用タービンの世界シェア7割という日本の強みが、国内でも生きるかどうか。この5年の実証が分かれ目になりそうです。
情熱電力からのお知らせ
次世代型地熱のように「10年先に効いてくる話」と、今月の電気代のように「いますぐの話」は、どちらも電力の話ですが切り分けて考えたほうがうまくいきます。
情熱電力は長野県の新電力として、ご家庭にも事業者さまにも、いまの契約で何が起きているかを分かりやすくお伝えすることを大切にしています。電気代の内訳が分からない、再エネ調達を将来どう組み立てるか相談したい。そんなときは気軽にお声がけください。
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・経済産業省:グリーンイノベーション基金事業 「次世代型地熱技術の開発」プロジェクト
・内閣官房:戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップ
・資源エネルギー庁(エネこれ):地熱発電も「次世代」へ!課題をクリアし日本の地熱を最大限に活用
・資源エネルギー庁:第7次エネルギー基本計画(令和7年2月)
・JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構):世界の地熱発電
・環境省:温泉の保護と利用 審議会等