核融合の実証はどこまで来たか|京都のUNITY-1が確かめている熱と燃料、日米で動く3つの試験施設

500℃まで熱した液体の金属を、配管の中でぐるぐる回す。核融合の発電実証に向けて、京都にある試験プラント「UNITY-1(ユニティワン)」がいま実際にやっているのは、そういう地道な作業です。装置を運営するのは、2019年設立のスタートアップ、京都フュージョニアリング。電気新聞の「核融合発電実証へ試験着々」という紙面で知り、同社の公表資料まで当たって調べてみました。
核融合については、当ブログでもこれまで「2030年代に実証」「成長戦略17分野に選定」といった、政策と投資の話を中心にお伝えしてきました。ただ、2026年に入ってからの動きを並べ直してみると、景色が少し変わっています。
構想や目標ではなく、装置を建てて、動かして、うまくいかないところを直す段階に入っている。しかも、その現場のひとつが日本にあり、この10月には米国の研究者に開放されることが日米の共同声明に書き込まれました。今回は「核融合はいつ実現するか」ではなく、「いま何を確かめているのか」を見ていきます。
目次
- 1. 核融合の「実証」は、いまどの段階にあるのか
- 2. UNITY-1とは? 京都の試験プラントが確かめている2つのこと
- 3. なぜトリチウムを「自前でつくる」必要があるのか
- 4. UNITY-1・2・3の違いと、2026年に起きた変化
- 5. お金はどこから来ているのか——資金調達と国の補助
- 6. 電気を売る側から見て、核融合をどう見ておくか
1. 核融合の「実証」は、いまどの段階にあるのか
核融合発電の説明は、たいてい原理の話から始まります。太陽と同じ反応を地上で起こす、燃料は海水から取れる、暴走しない——。ここは当ブログでも繰り返し触れてきたところです。
ただ、「原理はわかった。で、いまどこまでできているの?」という問いには、意外と答えにくいものがあります。ニュースに出てくるのは「2030年代に実証」「官民で数兆円」といった年号と金額ばかりで、現場で何が組み上がっているのかは見えてきません。(情熱電力の過去記事:フュージョンエネルギーが成長戦略17分野に選ばれた経緯はこちらで解説しています)
そこに答えを出そうとしているのが、京都府久世郡久御山町にある京都フュージョニアリングの京都リサーチセンターです。ここで2024年から建設が進んでいるのが、統合試験プラント「UNITY-1」。
大事な点を先に書いておきます。UNITY-1は、核融合反応そのものを起こす装置ではありません。核融合炉の「まわり」にあたる部分だけを取り出して、本番と同じ条件を模擬し、成立するかどうかを確かめる施設です。
なぜ、わざわざ「まわり」だけを先に作るのか。ここが今回のいちばんの読みどころです。
2. UNITY-1とは? 京都の試験プラントが確かめている2つのこと
UNITY-1が検証しているのは、大きく分けて2つです。ひとつは熱を取り出すこと、もうひとつは燃料を回収すること。どちらも「反応が起きたあと」の工程です。
リチウム鉛を500℃で回す——熱を取り出す
核融合反応で生まれるエネルギーの大部分は、中性子という粒子が持って飛び出します。これを受け止めて熱に変え、その熱でタービンを回して初めて「発電」になります。
この受け止め役がブランケットです。英語の blanket、つまり毛布のことで、炉心を毛布のように包む構造物を指します。UNITY-1ではこのブランケットの冷却材として、リチウム鉛(LiPb)という液体金属を採用しています。並行して、溶融塩(FLiBe)や純リチウムも小規模な系統で研究されています。
同社の公表資料によれば、これまでに液体金属を500℃まで加熱して系内を循環させる試験が完了しています。今後、この500℃の熱を空気に移す熱交換器と、熱せられた空気でタービンを回す発電設備を据え付ける計画で、将来的には最大1,000℃の熱輸送を目指すとしています。なお電気新聞の報道によれば、約1,000℃の熱を効率よく運ぶための真空断熱配管の実証を、報道時点の月内に始める予定とされています。
もうひとつ、UNITY-1には最大4テスラの磁場をつくる超電導磁石があります。病院のMRIが1.5〜3テスラ程度とされますから、それを上回る強さです。なぜ磁場が要るのか。電気を通す液体金属が磁場の中を流れると、流れを妨げる向きに力が働くためです。本番の核融合炉では炉心を強い磁場が囲んでいますから、「磁場の中でもちゃんと流れるか」を確かめないと、地上の実験室でうまくいっても本番で詰まります。
液体金属を回す。熱を取り出す。磁場の中でも流れるか見る。言葉にすると地味ですが、この地味な工程が成立しないかぎり、核融合は「発電」になりません。
VST——燃料になるトリチウムを回収する
もうひとつの検証が、燃料の回収です。ここで使われるのがVST(Vacuum Sieve Tray)という同社の独自装置。直訳すると「真空のふるい皿」で、液体金属を真空の中で細かい液滴にして落とし、そこから水素の仲間(水素同位体)を分離して取り出す仕組みです。
台所で、具だくさんのスープをざるに通して具だけを残すイメージに近いかもしれません。違うのは、液体金属という扱いにくい相手を、真空という条件下でふるいにかけている点です。
現時点の試験では、トリチウムは使っていません。重水素を含ませた液体金属をVSTに通し、水素同位体を回収できるかを確かめる段階です。放射性物質を扱わずに装置の性能を詰められるところまで詰めておく、という進め方になっています。
3. なぜトリチウムを「自前でつくる」必要があるのか
ここで、なぜ燃料の回収がそこまで重要なのかを整理しておきます。
核融合の燃料は、重水素とトリチウム(三重水素)です。重水素は海水から取れます。問題はトリチウムのほうで、自然界にはごくわずかしか存在しません。つまり、燃料を買ってくるという選択肢が事実上ありません。
ではどうするか。炉の中でつくるのです。ブランケットに含まれるリチウムに中性子が当たると、トリチウムが生まれます。つまりブランケットは「熱を受け止める毛布」であると同時に、「燃料をつくる工場」でもある。だから、リチウムを含む液体金属を回し、そこからトリチウムを取り出す工程が、炉の成立条件そのものになります。
ここで出てくるのがTBR(Tritium Breeding Ratio、トリチウム増殖率)という指標です。消費したトリチウムに対して、どれだけ新しく生み出せたかの比率で、1を超えないと炉は燃料切れを起こします。発電所としての採算以前に、燃料の収支が合うかどうかという話です。
このTBRが1を超えることを実際に確かめるための施設が、次に出てくるUNITY-3です。
4. UNITY-1・2・3の違いと、2026年に起きた変化
同社の「UNITY」は、いまや3つあります。役割が明確に分かれているので、表で整理します。
| 施設 | 場所 | 確かめること | 状況 |
|---|---|---|---|
| UNITY-1 | 京都府久御山町 | ブランケットから熱を取り出し、発電や水素製造につなげる。液体金属からの水素同位体の回収 | 建設の大部分が完了。液体金属500℃の循環を確認済み |
| UNITY-2 | カナダ・チョークリバー | 実機規模の燃料サイクル。実際のトリチウムを使い、炉心に燃料を供給する一連の流れを統合実証 | 国内で予備試験中。トリチウムを用いた運転開始を計画 |
| UNITY-3 | 米国テネシー州(ORNL内) | 加速器で核融合と同じ中性子を当て、模擬ブランケットのトリチウム生成量を測る。TBRが1を超えることの実証 | 詳細設計中。2028年末の完成を目標 |
熱を取り出す(UNITY-1)、燃料を回す(UNITY-2)、燃料が増えることを確かめる(UNITY-3)。3つがそろって初めて、発電所として成立するかどうかの答えが出ます。
そのうえで、2026年10月に起きた変化です。10月4日に発表された「日米技術繁栄ディールに関する共同声明」で、米エネルギー省(DOE)・オークリッジ国立研究所(ORNL)と同社の官民連携が、日米のフュージョン協力の例として明記されました。声明はこの連携がUNITY-3の建設を後押しし、米国の研究者にUNITY-1へのアクセスを提供するとしています。
日本にある装置に、米国の研究者が入ってくる。これは「日本が技術を持っている側だ」と、外交文書の中で位置づけられたということでもあります。核融合の話題で日本が語られるとき、たいていは「出遅れていないか」という文脈でした。少なくともこの分野については、そうではない構図が出てきています。
5. お金はどこから来ているのか——資金調達と国の補助
装置を3つ並行して建てるには、当然ながらお金がかかります。
同社は2026年8月24日、シリーズDラウンドの1stクローズで総額257.2億円の資金調達を発表しました。内訳はエクイティでの調達が167.2億円、融資枠・与信枠を含むデットファイナンスが90億円。これで累計のエクイティ調達額は329.8億円になります。
国の側も動いています。2026年9月14日には、グループ会社のStarlight Engineを幹事企業とするコンソーシアムが、経済産業省の「令和7年度補正 フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金」の条件付き採択事業者に選ばれたと発表しました(同社はコンソーシアム企業として参画)。高温超電導コイルを使ったトカマク型装置で、発電の実証を目指す事業です。
そして、日本の素材メーカーも関わり始めています。2026年10月7日には、ブランケットの構造材料となるバナジウム合金について大同特殊鋼との共同開発を発表。10月8日には、炉心の熱と粒子を受け止めるダイバータの開発を、米General Atomicsと始めると発表しています。
核融合を「どこか遠くの夢の技術」として見ていると、この部分が抜け落ちます。実際に進んでいるのは、配管、断熱材、合金、磁石、ポンプといった、製造業がふだん扱っているものの組み合わせです。当ブログで以前お伝えした「サプライチェーンの鍵を日本企業が握っている」という話は、この1年でさらに具体的になってきました。(情熱電力の過去記事:日本企業がどの部分を握っているかは、こちらで詳しく書いています)
6. 電気を売る側から見て、核融合をどう見ておくか
正直に書きます。核融合が明日の電気料金を下げることはありません。UNITY-1がいま確かめているのは発電の手前の工程で、商用の発電所が建つ時期は、まだ誰も断言できる段階にありません。電気新聞の報道によれば、同社の小西哲之氏は30年代の発電実証に向けてプラントを動かし続け、技術の信頼性と成熟度を高めると語っているとされますが、これは目標であって確定した予定ではない、という受け止め方が妥当です。
では、いま見ておく意味はどこにあるか。3つあると考えています。
ひとつめは、判断の材料として。「核融合が来るから再エネも蓄電池も要らない」という言い方を、たまに耳にします。ですが、燃料の収支が合うかをこれから確かめる段階の技術です。2030年代、2040年代の電源計画を、これを前提に立てることはできません。
ふたつめは、事業機会として。上に挙げたバナジウム合金やダイバータのように、必要とされているのは特殊な素材と加工の技術です。自社の技術がどこかで噛むかもしれない、という目で見ておく価値はあります。
みっつめは、電気の使い道として。UNITY-1が目指しているのは、発電だけではありません。1,000℃級の熱を取り出し、発電と水素製造の両方に使うことが構想に入っています。熱をどう運び、どう使い切るか——これは核融合に限らず、いま各地で進んでいる熱の利活用とまっすぐつながる話です。
遠い技術の話に見えて、入口は意外と近いところにある。長野県で電気を売っている私たちがこのニュースを追いかけているのも、そういう理由からです。
まとめ
核融合の話題は、これまで年号と金額で語られることがほとんどでした。けれど2026年の京都フュージョニアリングを追いかけると、中身はもっと手触りのあるものです。リチウム鉛を500℃まで熱して回す。4テスラの磁場の中でも流れるかを見る。VSTという独自の装置で、液体金属から水素の仲間を取り出す。核融合反応を起こす前の、「まわり」の工程を一つずつ潰していく作業です。
トリチウムは自然界にほとんど存在しないため、炉の中で自分でつくるしかありません。だからブランケットは熱を受け止める毛布であると同時に、燃料をつくる工場でもある。この燃料の収支(TBR)が1を超えるかどうかを確かめるのがUNITY-3で、2028年末の完成を目標に米国で設計が進んでいます。
そして2026年10月、日米の共同声明に、京都のUNITY-1を米国の研究者に開放することが書き込まれました。資金面でもシリーズDで257.2億円、経産省の発電実証事業にも条件付きで採択されています。バナジウム合金やダイバータでは、日本の素材メーカーが関わり始めました。
明日の電気代は変わりません。けれど、「夢の技術」という棚から下ろして、配管と合金と磁石の話として見ておく時期には入っています。
情熱電力からのお知らせ
核融合のような先の長い技術の話と、毎月の電気代の話は、別のもののようでいて地続きです。どんな電源がどれだけ使えるかという見通しが、そのまま料金の形に効いてくるからです。
情熱電力では、電気料金プランのご相談はもちろん、「いまの契約でいいのか」「これから何に備えておくべきか」といった、少し先を見た話もお受けしています。法人のお客様からは、調達の組み立て方についてのご相談も増えてきました。
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・経済産業省:フュージョンエネルギーの早期実現に向けた検討状況について
・低炭素投資促進機構(GIO):フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金
・文部科学省:核融合研究開発