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2026.10.02 Fri

排出量取引(GX-ETS)とは?CO2に値段がつく仕組みをやさしく解説【連載第1回】

 
工場から出るCO2と、排出枠を表すチケットを天秤にかけた排出量取引のイメージ
 
日経ビジネスに「GX-ETS始動 炭素コスト時代、企業価値を左右する排出量取引」というまとめ記事があったので、経済産業省が公表している資料まで含めて調べてみました。
 
排出量取引。ニュースでは何度も見かける言葉です。けれど「で、結局なにをする制度なの?」と聞かれると、説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。排出枠、無償割当、償却、キャップ・アンド・トレード。制度の解説記事はどれも、最初の一文目からこうした言葉で埋まっています。読むのをやめてしまっても無理はありません。
 
この制度は2026年4月に本格的に始まりました。直接の対象は300〜400社ほどで、多くの会社にとっては「うちは関係ない」で済む話に見えます。ただ、燃料や電気の値段を通じて、じわじわと広い範囲に効いてくる仕組みでもあります。
 
そこで今回から数回に分けて、排出量取引を一番やさしいところから追いかけていきます。第1回は、専門用語をできるだけ日常の言葉に置き換えながら、制度の骨格だけをつかむことを目指します。
 


 
目次

 


 

1. 排出量取引(GX-ETS)とは?CO2に値段がつく仕組み

 
排出量取引制度は、正式には「GX-ETS」と呼ばれます。GXはグリーントランスフォーメーション、ETSはEmissions Trading Schemeの略です。
 
ひとことで言えば、CO2に値段をつける制度です。これまでCO2は、出しても直接おカネがかかるものではありませんでした。それを「出すならその分の費用がかかる」形に変えるのが、この制度の狙いです。
 

 排出枠は「CO2を出してよい量」のチケット

制度の中心にあるのが「排出枠」です。国が対象企業に対して、1年間にCO2をどれだけ出してよいかを示した枠を配ります。イメージとしては、CO2を出すためのチケットだと思ってください。1枚で1トン分です。
 
対象企業は1年間の実績を集計し、実際に出した量と同じ枚数のチケットを国に納めます。この納める行為を「償却」と呼びます。聞き慣れない言葉ですが、会計の減価償却とは別物で、ここでは「使ったチケットを回収してもらうこと」くらいの意味です。
 

 余れば売れる、足りなければ買う

面白いのはここからです。配られたチケットが余ったら、他社に売ることができます。逆に足りなければ、市場で買って埋め合わせます。
 
上限(キャップ)を決めて、その範囲でチケットを配り、あとは企業どうしで融通しあう。だからこの方式は「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれます。
 
この設計には理由があります。削減が得意な会社は、頑張った分だけチケットが余り、売却益になります。削減にコストがかかりすぎる会社は、無理に設備を入れ替えるより買ったほうが安く済みます。社会全体で見れば、安く減らせるところから順に減っていく。CO2の削減を「義務」から「損得の判断」に移すのが、この制度の発想です。
 

制度の言葉 ふだんの言葉でいうと
排出枠 CO2を1トン出してよいチケット
無償割当 そのチケットを国がタダで配ること
償却 出した分のチケットを期限までに納めること
ベンチマーク方式 同業他社と比べた効率のよさで配る枚数を決めるやり方
未償却相当負担金 チケットが足りなかったときに払う、割増の負担金

 


 

2. 対象になるのはどんな会社?300〜400社という規模感

 
では、どんな会社が対象になるのでしょうか。
 
基準はひとつです。CO2の直接排出量が、前年度までの3カ年度平均で年10万トン以上。経済産業省の説明資料によると、この条件に当てはまるのは日本全体で300〜400社程度で、日本全体の温室効果ガス排出量の6割近くをカバーするとされています(経済産業省GXグループ「2026年度より開始する排出量取引制度について」2026年1月)。
 
年10万トンというのは、かなり大きな数字です。電力、鉄鋼、化学、セメント、石油、自動車といった業種の大手企業が中心になります。中小企業の大半は、直接の対象にはなりません。
 
なお判定は事業者単位で行われ、子会社や関連会社はそれぞれ別の事業者として扱われます。グループ全体で足し上げて10万トン、という数え方ではない点に注意してください。
 
 

 対象は「直接排出(スコープ1)」だけ

もうひとつ、押さえておきたいのが「何を数えるのか」です。
 
対象になるのは直接排出、いわゆるスコープ1だけです。自社でボイラーを焚いた、炉で燃料を燃やした、というように、自分の活動から直接出るCO2を指します。
 
一方、電力会社から買った電気を使ったことで発生するCO2(間接排出・スコープ2)は、この制度の対象外です。電気を使う側と発電する側で二重に数えてしまうためです。また対象はCO2に限られ、メタンなど他の温室効果ガスは含まれません。
 
「うちも電気をたくさん使うから対象かもしれない」と心配された方、ひとまずご安心ください。判定に使うのは、あくまで自社で燃やした分です。
 


 

3. 排出枠はどうやって配られるのか

 
チケットは、いきなり有料で売られるわけではありません。制度の当面のあいだは、国が無償で割り当てます。企業の負担が一気に増えて、国際競争力が落ちてしまうことを避けるためです。
 
配り方は主に2通りあります。
 
・ベンチマーク方式……製品を1トンつくるのに出てよいCO2の基準値を業種ごとに決め、そこに生産量を掛けて枠を算定する方法です。基準は同業種内の上位50%の水準から始まり、5年後には上位32.5%の水準まで引き下げられていく予定とされています
・グランドファザリング方式……過去の排出実績を基準に、毎年度一定の比率で枠を減らしていく方法です。削減率は年率1.7%に設定されています
 
ここが、この制度のいちばん大事なところかもしれません。ベンチマーク方式では、枠の量が「たくさん出したかどうか」ではなく「同業他社と比べて効率がよいかどうか」で決まります。同じ製品を同じ量つくっていても、エネルギー効率の高い工場は枠が余り、低い工場は足りなくなる。省エネの巧拙が、そのまま損益に出る仕組みです。
 
しかも基準値は年々厳しくなっていきます。今年ちょうど足りていた会社が、何もしなければ数年後には足りなくなる。設計としては、そういう向きに力がかかっています。
 


 

4. CO2の値段はいくら?2026年度は1トン1700〜4300円

 
気になるのは値段です。
 
排出枠の価格には、上下に目安が設けられています。2026年度は、上限にあたる「参考上限取引価格」が1トンあたり4300円、下限にあたる「調整基準取引価格」が1700円とされています。価格が上がりすぎても下がりすぎても制度が機能しなくなるため、幅を持たせて安定させる考え方です。
 
そして2027年度以降は、前年度の価格に「3%+物価上昇率」を乗じて決められる方針が示されています。つまり、値段は毎年少しずつ上がっていく前提で設計されているということです。
(情熱電力の過去記事:電気の環境価値に値段がつく仕組みは、非化石証書でもすでに動いています)
 
企業どうしが実際に排出枠を売買する取引市場は、2027年度の秋ごろに開設される予定とされています。制度が始まってすぐ市場が立ち上がるわけではなく、1年半ほどの助走期間がある形です。
 


 

5. 排出枠が足りなかったらどうなるのか

 
チケットを納める期限は、割り当てを受けた年度の翌年度1月31日です。
 
もし足りないまま期限を迎えたらどうなるか。「未償却相当負担金」を国に納めることになります。金額は、足りなかった量に参考上限取引価格を掛け、さらに1.1を乗じた額。GX推進法41条1項に定められています。
 
つまり、放っておくと上限価格の1.1倍を払うことになる。市場でチケットを買ったほうが確実に安い、という設計です。罰として重くしているというより、「ちゃんと市場で調達してください」という誘導に近い作りになっています。
 
なお、J-クレジットやJCMクレジットを無効化した分は、排出実績量から差し引くことができます。自社の削減だけで足りない場合の逃げ道が、市場での購入以外にも用意されているわけです。また、余った枠を翌年度以降に繰り越す「バンキング」も認められるとされています。
 


 

6. 対象外の会社にも関係がある理由と、これからの予定

 
ここまで読んで、「やっぱりうちには関係ないな」と思われた方も多いと思います。直接の義務という意味では、そのとおりです。
 
ただ、この制度はもっと大きな枠組みの一部です。政府が示している予定を並べると、こうなります。
 

時期 何が起きるか
2026年4月 改正GX推進法が施行。対象事業者はCO2の直接排出量の算定を開始
2026年9月30日 対象である旨の届出と移行計画を提出(初年度はここまで)
2027年度 排出枠の割当が始まる。秋ごろに排出枠の取引市場が開設予定
2028年度 化石燃料賦課金を導入。化石燃料の輸入事業者等が対象
2033年度 発電部門を対象に、排出枠の有償オークションを段階的に導入

2028年度に始まる化石燃料賦課金は、化石燃料を輸入する事業者にCO2の量に応じた負担を求めるものです。輸入の段階でかかる費用は、燃料や製品の価格を通じて、最終的には広く波及していくことになります。
(情熱電力の過去記事:政府のGX政策とエネルギー自給率の全体像は、こちらで整理しています)
 
2033年度からは、発電部門で排出枠の有償オークションが段階的に始まる予定です。発電に炭素のコストが乗れば、電気の料金にも反映されていく可能性があります。
 
さらに実務の面では、対象企業のサプライチェーンに入っている会社に、CO2排出量のデータ提出を求められる場面が増えていくと見られます。自社に義務がなくても、取引先の義務が降りてくる。これは非化石証書や再エネ調達をめぐって、すでに起きはじめていることでもあります。
 
なお、2026年度は初年度の特例として、対象事業者がやることは届出と移行計画の提出までです。排出枠の実際の割当は2027年度からになります。制度が本当に動き出すのは、これからだと考えてよさそうです。
 


 
まとめ
排出量取引制度(GX-ETS)は、CO2に値段をつけ、削減を損得の問題に変える仕組みです。国が排出枠というチケットを無償で配り、対象企業は1年間に出した量と同じだけのチケットを納める。余れば売れて、足りなければ買う。それがキャップ・アンド・トレードの骨格でした。
 
直接の対象は、CO2の直接排出量が3カ年度平均で年10万トン以上の300〜400社。2026年度の価格の目安は1トンあたり1700〜4300円で、2027年度以降は毎年引き上げられていく方針が示されています。取引市場の開設は2027年度秋ごろ、発電部門の有償オークションは2033年度から。値段が上がる方向に、あらかじめ設計されている制度だと言えます。
 
自社が対象でなくても、燃料への賦課金や取引先からの要請という形で、影響はいずれ届きます。今すぐ何かをする必要はなくても、何が起きようとしているのかを知っておくことには意味があるはずです。
 
次回は、対象になった企業が実際に何をしているのか、鉄鋼や石油といった業界の対応を追いかけてみようと思います。
 


 
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排出量取引そのものは大企業向けの制度ですが、その周辺で動いている再エネ電力の調達や非化石証書、電気料金のメニュー選びは、規模の大小にかかわらず関わってくるテーマです。
 
「取引先からCO2のデータを求められたが、どこから手をつければいいか分からない」「電気の契約を見直したい」といったご相談も承っています。難しい制度の話を、できるだけ噛み砕いてご説明します。気になる方はお気軽にお問い合わせください。
 
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この記事に関連するページリンク
・経済産業省:排出量取引制度の概要
・GX推進機構:排出量取引制度・化石燃料賦課金
・経済産業省:排出量取引制度 セットアップマニュアル
・環境省:国内排出量取引制度 | 国内排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)
・日経ビジネス:GX-ETS始動 炭素コスト時代、企業価値を左右する排出量取引