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2026.08.22 Sat

欧州EV市場で地殻変動、VWがテスラ超え|低価格EVが電気の使い方をどう変えるか

 
欧州EV市場で地殻変動のイメージ
 
日経ビジネスに「欧州EVで地殻変動 VW陣営がテスラ抜く、傘下シュコダは低価格で快進撃」という記事があったので調べてみました。
 
「EVはもう頭打ちらしい」——数年前、そんな話をあちこちで耳にしました。ところが欧州では今、まったく逆のことが起きています。2026年4月に欧州で最も売れたEVは、テスラでもBMWでもなく、チェコのメーカー・シュコダのコンパクトSUV「エルロック」。しかも年間販売台数では、フォルクスワーゲン(VW)グループがついにテスラを追い抜きました。
 
風向きを変えたのは、技術でもブランドでもなく「価格」です。ガソリン車と変わらない値段のEVが次々に登場し、市場が一気に動き出しました。
 
ただし話はそこで終わりません。よく見ると、売れば売るほど各社の利益率は下がっている。この「売れているのに儲からない」という構造は、実はエネルギー業界にいる私たちにとっても他人事ではありません。
 
そしてもうひとつ。EVが増えるということは、電気の使われ方が変わるということでもあります。海外の話に見えて、じつは日本のご家庭や事業所の電気代にもつながる話なんです。順番に見ていきましょう。
 


 
目次

 


 

1. 欧州EV市場で何が起きたのか

 
まずは、何がそんなに「地殻変動」なのか。数字から見ていきましょう。
 
 

 月間トップはシュコダのコンパクトSUV

スウェーデンの調査会社EVボリュームズによると、2026年4月の欧州EV販売台数ランキングは次のような顔ぶれになりました。
 

順位 車種 販売台数(2026年4月)
1 シュコダ エルロック 10,597台
2 ルノー5 / アルピーヌ A290 9,318台
3 シュコダ エンヤック 8,598台
4 テスラ モデルY 8,131台
5 フォルクスワーゲン ID.3 7,618台
6 フォルクスワーゲン ID.4 7,061台
7 メルセデス・ベンツ CLA 6,528台
8 BMW iX1 5,743台
9 リープモーター T03 5,606台
10 アウディ Q4 e-tron 5,385台

出所:EVボリュームズ(日経ビジネス2026年8月14日付記事より)
 
トップに立ったシュコダ エルロックは、VWグループ傘下のチェコメーカーが手がけるコンパクトSUVです。2025年1月の発売以降、上位に定着し、今回で4度目の月間首位。支持を集めた最大の理由は価格で、最安モデルは約3万3000ユーロ(約610万円)からと、同クラスのガソリン車並みの水準を実現しています。
 
トップ10のうち5車種がVWグループ(シュコダ2、VW2、アウディ1)というのも、なかなかの光景ですよね。
 
 

 VWグループがテスラを逆転した理由

こうしたブランド横断の積み上げによって、VWグループは2025年、欧州のEV年間販売台数で初めて首位に立ちました。車種別ではテスラ「モデルY」が年間15万台で首位を守ったものの、グループ全体ではVWが上回った形です。
 
ただ、この逆転にはテスラ側の事情もありました。2025年、テスラは欧州で深刻な不買運動に直面します。イーロン・マスクCEOによる欧州政治への発言が消費者の反発を招いたためで、業績は大幅な減益となりました。
 
興味深いのは、その後の展開です。テスラは2025年10月にモデルYの廉価版を投入し、従来の最安モデルから約5000ユーロ引き下げて3万9990ユーロに設定。すると販売は急速に持ち直しました。米紙ニューヨーク・タイムズは有識者の見方として「価格帯が下がるほど、人々は倫理や道徳を重視しなくなる」と報じています。
 
身も蓋もない話ではありますが、価格の力の強さがよくわかる出来事でした。
 


 

2. 主戦場は3万ユーロ台から2万ユーロ台へ

 
いま欧州で起きているのは、要するに値下げ競争です。しかもその舞台が、みるみる下の価格帯に移動しています。
 
ランキング2位のルノー5は、往年の人気車をEVで復刻したモデルで、価格は2万4900ユーロから。フランス政府の補助金を使えば実質2万1370ユーロで購入できると訴求しています。
 
これに真正面から対抗するのがVWです。2026年7月に「ID.ポロ」の廉価版を2万4995ユーロで発売し、2027年には最安モデル「ID. EVERY1」を投入予定。価格は2万ユーロ程度とされています。ステランティスもシトロエン「ë-C3」の航続距離を抑えた廉価版を1万9990ユーロで投入済みで、2028年に量産する新型車は1万5000ユーロ程度になるとの見方も業界内にあるようです。
 
つまり、3万ユーロ台の戦いは、すでに2万ユーロ台の消耗戦へ移りつつある。ここに各国政府の購入補助金の拡充も重なりました。
 
欧州自動車工業会(ACEA)によると、2024年に補助金打ち切りで急減したEV販売は、2025年の新車登録台数でドイツが前年比43.2%増、イタリアが同44.2%増、フランスが同12.5%増と回復基調が鮮明になり、2026年はさらに加速しています。
 
ちなみに日本勢はというと、トヨタ「bZ4X」が2025年に欧州で約2万7000台。健闘はしているものの、トップ10入りには届いておらず、中国勢・韓国勢の後塵を拝しているのが現状です。
 


 

3. 売れているのに儲からない、というジレンマ

 
ここからが、今回いちばんお伝えしたい部分かもしれません。
 
EVが売れている。市場は拡大している。なのに、欧州の自動車大手の業績は良くないのです。
 
日経ビジネスの記事に掲載された図表によると、欧州主要メーカーの2025年のEBITマージン(利払い・税引き前利益の売上高比率)は、ステランティス、VW、メルセデス・ベンツ、ルノー、BMW、ボルボ・カーのいずれも2024年から低下しました。しかも各社ともEV(BEV)販売比率は総じて上がっているのに、です。ステランティスに至ってはEBITマージンがマイナス圏に沈んでいます。
 
ある外資系自動車コンサルタントは「売れば売るほど赤字になる。各社がEV事業の利益率を公表したがらないのは、十分な収益を確保できていないためだ」と指摘しています。
 
 

 相次ぐ工場閉鎖と人員削減

背景にあるのは、過去の過剰投資です。欧州ではEUが主導してEVシフトを推進し、各社が生産能力を大きく広げました。ところが市場は補助金依存の色合いが濃く、普及は想定より遅れた。結果として設備も人員も余ってしまった、という構図です。
 
この2年間で発表された主なリストラ計画を並べてみると、規模の大きさがわかります。
 

発表・報道時期 メーカー 主な施策 削減規模
2024年11月 ステランティス 英国・ルートン工場を閉鎖(他工場へ集約) 約1,100人
2024年12月 フォルクスワーゲン 当面のドイツ国内工場閉鎖は見送り、生産縮小と雇用削減で労使合意 ドイツで3万5000人超
2025年2月 アウディ ベルギーのブリュッセル工場を完全閉鎖 約3,000人
2025年2月 メルセデス・ベンツ 生産コスト削減を発表、割増金支給による希望退職者を募集 ドイツで約5,500人が応募
2025年5月 ボルボ・カー 事務職を中心にリストラ 約3,000人
2026年4月 ルノー グローバル技術職(エンジニア)をリストラ 最大2,400人
2026年6月 BMW 2026年末に向け世界で自然減による人員削減、希望退職も募集 最大8,000人(従業員の5%)
2026年6月 フォルクスワーゲン ドイツ国内4工場の閉鎖計画を提示 最大10万人規模を検討
2026年7月 ポルシェ 新たな大規模リストラ計画が浮上 追加で5,000〜6,000人(累計最大9,000人)

出所:日経ビジネス2026年8月14日付記事の図表をもとに作成(太字表記のVWグループ各社を含む)
 
ステランティスは2025年12月期決算で、EV販売戦略の見直しなどを理由に222億ユーロ(日本円で約4兆円規模)の損失を計上し、最終赤字に転落しました。
 
低価格化は市場を広げる特効薬であると同時に、利益を削るもろ刃の剣でもある。ここは、電気を扱う私たちの業界にも通じる話だと感じます。中東情勢の影響で電力仕入れ価格は高騰しており。やはり、安さだけで選ばれる商売は、続けるのが本当に難しいのです。
 


 

4. 欧州メーカーが中国企業との距離を縮める背景

 
では、赤字を出さずに安いEVをつくるにはどうすればいいか。欧州各社が選んだ答えのひとつが、中国メーカーとの提携でした。
 
ステランティスは浙江零跑科技(リープモーター・テクノロジー)と合弁会社リープモーター・インターナショナルを設立(出資比率51%)し、2026年5月にはスペイン工場でのEV共同生産と部品の共同調達を進める方針を発表しました。VWは小鵬集団(シャオペン)に出資し、メルセデス・ベンツは北京汽車集団(BAIC)とスマートの合弁を持つなど、資本関係の網はかなり複雑に広がっています。ボルボ・カーやアストンマーティン、ルノーグループも中国・中東資本と結びついています。
 
一方で、同じ2026年5月にはイタリアのフェラーリが初のEV「ルーチェ」を発表しました。価格は55万ユーロ(約1億円)とされます。ブランド力があれば高価格でも成立する。けれども大衆車メーカーは薄利多売を志向せざるを得ない——この対比が、いまの欧州の難しさを象徴しています。
 
どこまで価格を下げるのか。そのために中国メーカーとどこまで手を組むのか。欧州メーカーは、経営の根幹に関わる決断を迫られています。
 


 

5. EVが増えると電気の使い方はどう変わる?

 
さて、ここまで自動車の話をしてきましたが、EVは「走る電気製品」でもあります。普及するということは、電気の需要そのものが増え、使われる時間帯も変わるということです。
 
 

 EV1台でどれくらい電気を使うのか

ざっくり試算してみましょう。年間走行距離1万km、電費7km/kWhと仮定すると、必要な電力量は年間約1,400kWhです。一般的な家庭の年間使用量が4,000kWh前後とされていますので、EV1台で3割前後上乗せされるイメージになります(車種・使い方・気温によって大きく変わりますので、あくまで目安としてご覧ください)。
 
この「3割増し」を、どの時間帯に、どの料金単価で使うか。ここで電気代はかなり変わってきます。
 
・夜間の単価が安いプランなら、就寝中の充電でコストを抑えやすい
・逆に時間帯を意識せず夕方のピーク帯に充電すると、割高になりやすい(市場連動プランなど)
・普通充電(200V)の設備を入れる際、契約容量(アンペア)の見直しが必要になる場合がある
 
寒い地域では冬場の電費が落ちるため、想定より電力量が増えることもあります。冬の冷え込みが厳しい長野県では、このあたりを見込んでおくと安心です。
 
 

 法人が見落としがちな「基本料金」の話

事業所での社用車EV化を検討されている方に、ぜひ知っておいていただきたい点があります。
 
高圧受電の事業所では、電気料金の基本料金がその月(および過去1年)の最大需要電力(デマンド)によって決まります。つまり、充電器を複数台まとめて稼働させ、事業所の使用電力のピークが一段上がってしまうと、使った量以上に基本料金が跳ね上がることがあるのです。
 
・充電のタイミングを操業ピークとずらす
・複数台を同時に満充電にしない運用ルールをつくる
・充電器導入前に、現在のデマンド推移を確認しておく
 
こうした一手間で、年間のコストはかなり変わります。「EVにしたら燃料費が浮くはずだったのに、電気代が思ったより増えた」という事態は、事前の設計で避けられることが多いのです。
 


 

6. 日本の私たちが今から準備できること

 
欧州の動きを追いかけて感じるのは、EVが「環境のための特別な車」から「価格で選ばれる普通の車」に変わりつつある、ということです。補助金がなくても売れる水準まで価格が下がれば、普及のスピードは一段と上がります。
 
日本でも同じ流れが来たとき、慌てないために準備できることはシンプルです。
 
・自宅や事業所の電気の使い方(量と時間帯)を、まず把握しておく
・契約中の料金プランが、いまの使い方に合っているか点検する
・充電設備の導入を検討する段階で、電気の契約とセットで考える
 
EVを買うかどうかはまだ先の話、という方も多いと思います。それでも、電気の使い方を見直しておくこと自体は、今日からできて、今日から効果が出ることです。
 
欧州で起きている地殻変動は、遠い国のニュースのようでいて、「エネルギーをどう安く、賢く使うか」という、私たちの毎日の課題とまっすぐつながっています。
 


 
まとめ
2026年4月の欧州EV販売でトップに立ったのは、VWグループ傘下シュコダのコンパクトSUV「エルロック」でした。年間販売でもVWグループがテスラを逆転し、市場の勢力図は大きく塗り替わっています。原動力は低価格化で、主戦場は3万ユーロ台から2万ユーロ台へと移りつつあります。
 
一方で、欧州主要メーカーの2025年のEBITマージンは軒並み低下し、工場閉鎖や人員削減が相次いでいます。売れているのに儲からない——低価格化がもろ刃の剣であることを、数字が物語っています。各社が中国メーカーとの提携を深めているのも、この収益構造の厳しさゆえです。
 
そしてEVの普及は、電気の需要と使う時間帯を変えていきます。ご家庭なら年間の使用量が3割前後増える可能性があり、事業所なら基本料金を左右するデマンドの管理が重要になります。どちらも、事前に把握して設計しておけば十分に対応できることばかりです。
 
海外の大きなニュースも、たどっていけば足元の電気代につながっている。そう考えると、少し身近に感じていただけるのではないでしょうか。
 


 
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