欧州EV市場で地殻変動、VWがテスラ超え|低価格EVが電気の使い方をどう変えるか

日経ビジネスに「欧州EVで地殻変動 VW陣営がテスラ抜く、傘下シュコダは低価格で快進撃」という記事があったので調べてみました。
「EVはもう頭打ちらしい」——数年前、そんな話をあちこちで耳にしました。ところが欧州では今、まったく逆のことが起きています。2026年4月に欧州で最も売れたEVは、テスラでもBMWでもなく、チェコのメーカー・シュコダのコンパクトSUV「エルロック」。しかも年間販売台数では、フォルクスワーゲン(VW)グループがついにテスラを追い抜きました。
風向きを変えたのは、技術でもブランドでもなく「価格」です。ガソリン車と変わらない値段のEVが次々に登場し、市場が一気に動き出しました。
ただし話はそこで終わりません。よく見ると、売れば売るほど各社の利益率は下がっている。この「売れているのに儲からない」という構造は、実はエネルギー業界にいる私たちにとっても他人事ではありません。
そしてもうひとつ。EVが増えるということは、電気の使われ方が変わるということでもあります。海外の話に見えて、じつは日本のご家庭や事業所の電気代にもつながる話なんです。順番に見ていきましょう。
目次
- 1. 欧州EV市場で何が起きたのか
- 2. 主戦場は3万ユーロ台から2万ユーロ台へ
- 3. 売れているのに儲からない、というジレンマ
- 4. 欧州メーカーが中国企業との距離を縮める背景
- 5. EVが増えると電気の使い方はどう変わる?
- 6. 日本の私たちが今から準備できること
1. 欧州EV市場で何が起きたのか
まずは、何がそんなに「地殻変動」なのか。数字から見ていきましょう。
月間トップはシュコダのコンパクトSUV
スウェーデンの調査会社EVボリュームズによると、2026年4月の欧州EV販売台数ランキングは次のような顔ぶれになりました。
| 順位 | 車種 | 販売台数(2026年4月) |
|---|---|---|
| 1 | シュコダ エルロック | 10,597台 |
| 2 | ルノー5 / アルピーヌ A290 | 9,318台 |
| 3 | シュコダ エンヤック | 8,598台 |
| 4 | テスラ モデルY | 8,131台 |
| 5 | フォルクスワーゲン ID.3 | 7,618台 |
| 6 | フォルクスワーゲン ID.4 | 7,061台 |
| 7 | メルセデス・ベンツ CLA | 6,528台 |
| 8 | BMW iX1 | 5,743台 |
| 9 | リープモーター T03 | 5,606台 |
| 10 | アウディ Q4 e-tron | 5,385台 |
出所:EVボリュームズ(日経ビジネス2026年8月14日付記事より)
トップに立ったシュコダ エルロックは、VWグループ傘下のチェコメーカーが手がけるコンパクトSUVです。2025年1月の発売以降、上位に定着し、今回で4度目の月間首位。支持を集めた最大の理由は価格で、最安モデルは約3万3000ユーロ(約610万円)からと、同クラスのガソリン車並みの水準を実現しています。
トップ10のうち5車種がVWグループ(シュコダ2、VW2、アウディ1)というのも、なかなかの光景ですよね。
VWグループがテスラを逆転した理由
こうしたブランド横断の積み上げによって、VWグループは2025年、欧州のEV年間販売台数で初めて首位に立ちました。車種別ではテスラ「モデルY」が年間15万台で首位を守ったものの、グループ全体ではVWが上回った形です。
ただ、この逆転にはテスラ側の事情もありました。2025年、テスラは欧州で深刻な不買運動に直面します。イーロン・マスクCEOによる欧州政治への発言が消費者の反発を招いたためで、業績は大幅な減益となりました。
興味深いのは、その後の展開です。テスラは2025年10月にモデルYの廉価版を投入し、従来の最安モデルから約5000ユーロ引き下げて3万9990ユーロに設定。すると販売は急速に持ち直しました。米紙ニューヨーク・タイムズは有識者の見方として「価格帯が下がるほど、人々は倫理や道徳を重視しなくなる」と報じています。
身も蓋もない話ではありますが、価格の力の強さがよくわかる出来事でした。
2. 主戦場は3万ユーロ台から2万ユーロ台へ
いま欧州で起きているのは、要するに値下げ競争です。しかもその舞台が、みるみる下の価格帯に移動しています。
ランキング2位のルノー5は、往年の人気車をEVで復刻したモデルで、価格は2万4900ユーロから。フランス政府の補助金を使えば実質2万1370ユーロで購入できると訴求しています。
これに真正面から対抗するのがVWです。2026年7月に「ID.ポロ」の廉価版を2万4995ユーロで発売し、2027年には最安モデル「ID. EVERY1」を投入予定。価格は2万ユーロ程度とされています。ステランティスもシトロエン「ë-C3」の航続距離を抑えた廉価版を1万9990ユーロで投入済みで、2028年に量産する新型車は1万5000ユーロ程度になるとの見方も業界内にあるようです。
つまり、3万ユーロ台の戦いは、すでに2万ユーロ台の消耗戦へ移りつつある。ここに各国政府の購入補助金の拡充も重なりました。
欧州自動車工業会(ACEA)によると、2024年に補助金打ち切りで急減したEV販売は、2025年の新車登録台数でドイツが前年比43.2%増、イタリアが同44.2%増、フランスが同12.5%増と回復基調が鮮明になり、2026年はさらに加速しています。
ちなみに日本勢はというと、トヨタ「bZ4X」が2025年に欧州で約2万7000台。健闘はしているものの、トップ10入りには届いておらず、中国勢・韓国勢の後塵を拝しているのが現状です。
3. 売れているのに儲からない、というジレンマ
ここからが、今回いちばんお伝えしたい部分かもしれません。
EVが売れている。市場は拡大している。なのに、欧州の自動車大手の業績は良くないのです。
日経ビジネスの記事に掲載された図表によると、欧州主要メーカーの2025年のEBITマージン(利払い・税引き前利益の売上高比率)は、ステランティス、VW、メルセデス・ベンツ、ルノー、BMW、ボルボ・カーのいずれも2024年から低下しました。しかも各社ともEV(BEV)販売比率は総じて上がっているのに、です。ステランティスに至ってはEBITマージンがマイナス圏に沈んでいます。
ある外資系自動車コンサルタントは「売れば売るほど赤字になる。各社がEV事業の利益率を公表したがらないのは、十分な収益を確保できていないためだ」と指摘しています。
相次ぐ工場閉鎖と人員削減
背景にあるのは、過去の過剰投資です。欧州ではEUが主導してEVシフトを推進し、各社が生産能力を大きく広げました。ところが市場は補助金依存の色合いが濃く、普及は想定より遅れた。結果として設備も人員も余ってしまった、という構図です。
この2年間で発表された主なリストラ計画を並べてみると、規模の大きさがわかります。
| 発表・報道時期 | メーカー | 主な施策 | 削減規模 |
|---|---|---|---|
| 2024年11月 | ステランティス | 英国・ルートン工場を閉鎖(他工場へ集約) | 約1,100人 |
| 2024年12月 | フォルクスワーゲン | 当面のドイツ国内工場閉鎖は見送り、生産縮小と雇用削減で労使合意 | ドイツで3万5000人超 |
| 2025年2月 | アウディ | ベルギーのブリュッセル工場を完全閉鎖 | 約3,000人 |
| 2025年2月 | メルセデス・ベンツ | 生産コスト削減を発表、割増金支給による希望退職者を募集 | ドイツで約5,500人が応募 |
| 2025年5月 | ボルボ・カー | 事務職を中心にリストラ | 約3,000人 |
| 2026年4月 | ルノー | グローバル技術職(エンジニア)をリストラ | 最大2,400人 |
| 2026年6月 | BMW | 2026年末に向け世界で自然減による人員削減、希望退職も募集 | 最大8,000人(従業員の5%) |
| 2026年6月 | フォルクスワーゲン | ドイツ国内4工場の閉鎖計画を提示 | 最大10万人規模を検討 |
| 2026年7月 | ポルシェ | 新たな大規模リストラ計画が浮上 | 追加で5,000〜6,000人(累計最大9,000人) |
出所:日経ビジネス2026年8月14日付記事の図表をもとに作成(太字表記のVWグループ各社を含む)
ステランティスは2025年12月期決算で、EV販売戦略の見直しなどを理由に222億ユーロ(日本円で約4兆円規模)の損失を計上し、最終赤字に転落しました。
低価格化は市場を広げる特効薬であると同時に、利益を削るもろ刃の剣でもある。ここは、電気を扱う私たちの業界にも通じる話だと感じます。中東情勢の影響で電力仕入れ価格は高騰しており。やはり、安さだけで選ばれる商売は、続けるのが本当に難しいのです。
4. 欧州メーカーが中国企業との距離を縮める背景
では、赤字を出さずに安いEVをつくるにはどうすればいいか。欧州各社が選んだ答えのひとつが、中国メーカーとの提携でした。
ステランティスは浙江零跑科技(リープモーター・テクノロジー)と合弁会社リープモーター・インターナショナルを設立(出資比率51%)し、2026年5月にはスペイン工場でのEV共同生産と部品の共同調達を進める方針を発表しました。VWは小鵬集団(シャオペン)に出資し、メルセデス・ベンツは北京汽車集団(BAIC)とスマートの合弁を持つなど、資本関係の網はかなり複雑に広がっています。ボルボ・カーやアストンマーティン、ルノーグループも中国・中東資本と結びついています。
一方で、同じ2026年5月にはイタリアのフェラーリが初のEV「ルーチェ」を発表しました。価格は55万ユーロ(約1億円)とされます。ブランド力があれば高価格でも成立する。けれども大衆車メーカーは薄利多売を志向せざるを得ない——この対比が、いまの欧州の難しさを象徴しています。
どこまで価格を下げるのか。そのために中国メーカーとどこまで手を組むのか。欧州メーカーは、経営の根幹に関わる決断を迫られています。
5. EVが増えると電気の使い方はどう変わる?
さて、ここまで自動車の話をしてきましたが、EVは「走る電気製品」でもあります。普及するということは、電気の需要そのものが増え、使われる時間帯も変わるということです。
EV1台でどれくらい電気を使うのか
ざっくり試算してみましょう。年間走行距離1万km、電費7km/kWhと仮定すると、必要な電力量は年間約1,400kWhです。一般的な家庭の年間使用量が4,000kWh前後とされていますので、EV1台で3割前後上乗せされるイメージになります(車種・使い方・気温によって大きく変わりますので、あくまで目安としてご覧ください)。
この「3割増し」を、どの時間帯に、どの料金単価で使うか。ここで電気代はかなり変わってきます。
・夜間の単価が安いプランなら、就寝中の充電でコストを抑えやすい
・逆に時間帯を意識せず夕方のピーク帯に充電すると、割高になりやすい(市場連動プランなど)
・普通充電(200V)の設備を入れる際、契約容量(アンペア)の見直しが必要になる場合がある
寒い地域では冬場の電費が落ちるため、想定より電力量が増えることもあります。冬の冷え込みが厳しい長野県では、このあたりを見込んでおくと安心です。
法人が見落としがちな「基本料金」の話
事業所での社用車EV化を検討されている方に、ぜひ知っておいていただきたい点があります。
高圧受電の事業所では、電気料金の基本料金がその月(および過去1年)の最大需要電力(デマンド)によって決まります。つまり、充電器を複数台まとめて稼働させ、事業所の使用電力のピークが一段上がってしまうと、使った量以上に基本料金が跳ね上がることがあるのです。
・充電のタイミングを操業ピークとずらす
・複数台を同時に満充電にしない運用ルールをつくる
・充電器導入前に、現在のデマンド推移を確認しておく
こうした一手間で、年間のコストはかなり変わります。「EVにしたら燃料費が浮くはずだったのに、電気代が思ったより増えた」という事態は、事前の設計で避けられることが多いのです。
6. 日本の私たちが今から準備できること
欧州の動きを追いかけて感じるのは、EVが「環境のための特別な車」から「価格で選ばれる普通の車」に変わりつつある、ということです。補助金がなくても売れる水準まで価格が下がれば、普及のスピードは一段と上がります。
日本でも同じ流れが来たとき、慌てないために準備できることはシンプルです。
・自宅や事業所の電気の使い方(量と時間帯)を、まず把握しておく
・契約中の料金プランが、いまの使い方に合っているか点検する
・充電設備の導入を検討する段階で、電気の契約とセットで考える
EVを買うかどうかはまだ先の話、という方も多いと思います。それでも、電気の使い方を見直しておくこと自体は、今日からできて、今日から効果が出ることです。
欧州で起きている地殻変動は、遠い国のニュースのようでいて、「エネルギーをどう安く、賢く使うか」という、私たちの毎日の課題とまっすぐつながっています。
まとめ
2026年4月の欧州EV販売でトップに立ったのは、VWグループ傘下シュコダのコンパクトSUV「エルロック」でした。年間販売でもVWグループがテスラを逆転し、市場の勢力図は大きく塗り替わっています。原動力は低価格化で、主戦場は3万ユーロ台から2万ユーロ台へと移りつつあります。
一方で、欧州主要メーカーの2025年のEBITマージンは軒並み低下し、工場閉鎖や人員削減が相次いでいます。売れているのに儲からない——低価格化がもろ刃の剣であることを、数字が物語っています。各社が中国メーカーとの提携を深めているのも、この収益構造の厳しさゆえです。
そしてEVの普及は、電気の需要と使う時間帯を変えていきます。ご家庭なら年間の使用量が3割前後増える可能性があり、事業所なら基本料金を左右するデマンドの管理が重要になります。どちらも、事前に把握して設計しておけば十分に対応できることばかりです。
海外の大きなニュースも、たどっていけば足元の電気代につながっている。そう考えると、少し身近に感じていただけるのではないでしょうか。
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