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2026.08.21 Fri

原発191基分の蓄電所計画と「連系まで54か月」の現実|系統用蓄電池投資の今

 
原発191基分の蓄電所計画
 
日本経済新聞に「原発191基分の計画、接続待ち5年も 過熱する蓄電所投資」という記事があったので調べてみました。系統用蓄電池、いわゆる「蓄電所」への投資が過熱していて、完成前の施設が資産運用の商品として売買されるようになっている、という内容です。
 
数字を見て、正直あらためて驚きました。大手電力の送電網に接続できるかを事業者が問い合わせた容量は、2026年3月末時点で191ギガワット。原発の出力に換算すると191基分、運転中の蓄電所の227倍にあたるそうです。
 
そして「接続待ちは5年前後」という記述。ここは他人事ではありませんでした。情熱電力が申請した系統用蓄電所についても、中部電力パワーグリッドから「54か月後連系予定」という回答が実際に届いています。4年半です。
 
この記事では、資源エネルギー庁が2026年7月28日の分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループに提出した資料もあわせて読み込みながら、なぜここまで蓄電所投資が過熱したのか、記事でも触れられていた「電気代への転嫁」という論点をどう読むべきなのか、そして国がいま何をしようとしているのかを、実際に申請を出している事業者の立場から整理します。
 


 
目次

 


 

1. 「原発191基分」という数字の正体

接続検討・契約申込み・連系済みは、まったく別の数字

 
まず、191ギガワットという数字の性格を押さえておきたいと思います。これは「接続検討の申込量」です。事業者が「この場所に蓄電所をつくりたいので、送電網につなげますか」と大手電力に問い合わせた容量の合計であって、建設が決まった量ではありません。
 
蓄電所が実際に動き出すまでには、大きく3つの段階があります。資源エネルギー庁の資料と報道を並べると、その落差がはっきり見えてきます。
 

段階 容量 時点・出典
接続検討の申込み(つなげるか問い合わせた段階) 191ギガワット(1億9,100万kW) 2026年3月末時点/日本経済新聞
契約申込み(実際に契約手続きに進んだ段階) 約3,000万kW(約30ギガワット) 2025年12月末時点/資源エネルギー庁
連系済み(すでに動いている設備) 64万kW(約0.64ギガワット) 2025年12月末時点/資源エネルギー庁

出典:資源エネルギー庁「分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループでの議論について」(2026年7月28日、第4回分散型エネルギー推進戦略WG 資料1)、日本経済新聞「原発191基分の計画、接続待ち5年も 過熱する蓄電所投資」(2026年8月) ※契約申込み・連系済みの数値は再エネ併設蓄電池を含みません。時点が異なるため単純比較にはご注意ください。
 
問い合わせが191ギガワット、契約手続きに進んだものが約30ギガワット、そして実際に動いているのは64万kW。桁が2つ違います。元記事の「運転中の227倍」という表現とも、おおむね整合する数字です。
 
もう一つ、「原発191基分」という表現にも注意が必要です。これは出力(キロワット)を並べた比較であって、発電量(キロワットアワー)ではありません。原発は燃料がある限り運転を続けられますが、蓄電所は充電した分しか放電できず、多くは2〜4時間程度で放電し終わります。同じ191ギガワットでも、供給できるエネルギーの総量はまったく違います。
 
 

2040年度の見通しと比べても桁が違う

では、将来はどのくらい必要とされているのでしょうか。前掲の資源エネルギー庁資料には、系統用・再エネ併設蓄電池の2040年度の導入見通しとして280万kW〜1,000万kW(2.8〜10ギガワット)という数字が示されています。外部機関が各々の手法で試算した見通しであり、国の目標そのものではないと注記されていますが、目安としては十分でしょう。
 
つまり、2040年度に必要と見込まれる量の上限と比べても、いま接続検討に持ち込まれている191ギガワットは19倍以上ということになります。全部が建つ前提で系統を増強するのは、どう考えても現実的ではありません。
 
とはいえ、送電網の側から見れば話は別です。系統の受け入れ枠は「出力」で管理されるため、191ギガワットの申込みは、実際に建つかどうかにかかわらず、系統の計画に重くのしかかります。ここが今回の問題の入口です。
 


 

2. 「54か月後連系予定」という回答が届きました

 
元記事には「待ち時間は5年前後にのぼるケースも出てきた」とありました。この数字、読んだときに思わずうなずいてしまいました。
 
情熱電力が申請した系統用蓄電所についても、中部電力パワーグリッドから「54か月後連系予定」という回答をいただいています。54か月、つまり4年半後です。
 
4年半という時間が事業に何をもたらすか、想像していただけるでしょうか。
 
・蓄電池の機器価格は下がるかもしれないし、為替や資源価格で上がるかもしれない
・金利水準が変われば、資金調達の前提が崩れる
・そして何より、収益の前提となる市場制度そのものが変わる
 
最後の項目が、いま多くの事業者を悩ませています。申請した時点の制度と、実際に動き出す時点の制度が同じである保証はどこにもありません。実際、この数年だけを見ても市場ルールは大きく動きました。接続を待っている間に、事業計画の前提が入れ替わってしまうわけです。
 
接続に時間がかかる理由自体は、技術的にはシンプルです。電線や変電所の増強が必要で、その工事には順番と時間がかかる。ただ、その順番待ちの列に、実現性の高い計画と低い計画が混在していることが、待ち時間をさらに押し上げています。
 


 

3. なぜ蓄電所投資はここまで過熱したのか

需給調整市場という「稼ぎ場所」

 
蓄電所事業者の主な収入源のひとつが「需給調整市場」です。
 
電力は、使う量と発電する量が常に一致していないと周波数が乱れ、最悪の場合は停電につながります。そのバランスを保つために、送配電会社は「必要なときにすぐ出力を増減できる能力」=調整力を、あらかじめ確保しておく必要があります。この調整力を売買する場が需給調整市場で、蓄電所は「調整できる能力」を提供した対価として、送配電会社から収入を得る仕組みです。
 
蓄電池は応答が非常に速く、この用途と相性が良い。だからこそ、政府も2021年度から開発への補助を始め、2026年度の補助金規模は350億円と前年度の2倍超に拡大したと報じられています。
 
 

19.5円から10円へ、3段階で下がった上限価格

過熱の直接的な引き金になったのが、この市場の「上限価格」です。国が定める売値の上限は、2026年3月中旬まで1キロワット・30分あたり19.5円でした。この上限に張り付いた価格で売り続けられれば、6億円ほどとされる一般的な蓄電所投資が数年で回収できる計算になります。
 
不動産や金融の感覚からすれば、これは相当に魅力的な利回り商品です。エネルギー企業だけでなく、不動産・金融・商社・ゼネコンといった他業種からの参入が相次いだのは、無理もない話でした。実際、完成前の蓄電所が6億〜7億円台で売り出され、送電網への接続申請を早く出した土地そのものを転売するビジネスまで生まれています。
 
上限価格はその後、次のように引き下げられました。
 

時期 上限価格(1kW・30分あたり) 備考
2026年3月中旬まで 19.5円 この水準を前提に多くの事業計画が組まれた
2025年10月(有識者会議の案) 7.2円(案) 事業者から猛反発。撤退懸念の指摘も相次いだ
2026年3月から 15円 段階的な引き下げの第1段階
2026年9月から 10円 第2段階

出典:日本経済新聞「原発191基分の計画、接続待ち5年も 過熱する蓄電所投資」(2026年8月)ほか
 
「国は蓄電所に投資をさせたいのか、させたくないのか分からない」——元記事に紹介されていた事業者の声です。7.2円案が出たときの反発の大きさも、決着が19.5円から一気にではなく15円・10円と段階を踏んだことも、この市場の難しさをよく表しています。
 


 

4. 「蓄電所のもうけが電気代になる」は本当か

 
ここは少し丁寧に扱いたいところです。
 
元記事には、蓄電所の「もうけ」を企業や家計が電気代として払うことになる、投機目的の事業者が増えればこの仕組みへの世論の理解が得られにくくなる、という趣旨の記述がありました。仕組みの説明として間違ってはいないのですが、この部分だけを切り取ると、蓄電所そのものが電気代を押し上げる悪者のように読めてしまいます。実際の構造は、もう少し立体的です。
 
 

調整力のコストは蓄電所以前から存在する

送配電会社が確保する調整力の費用は、託送料金を通じて回収され、最終的には皆さまが支払う電気料金に含まれます。これは事実です。
 
ただし、この構造は蓄電所が登場する前からまったく同じでした。これまで調整力の主役は火力発電所で、需要の変動に合わせて出力を上げ下げする待機のコストを、私たちは電気料金の一部として払ってきました。「調整力にお金を払っている」こと自体は、新しい話ではないのです。
 
 

比べるべきは「蓄電所がない世界」

そこで問うべきは、「蓄電所が儲けているかどうか」ではなく、「蓄電所が入ったことで、調整力の調達費用は増えたのか減ったのか」だと考えています。
 
蓄電池は火力より応答が速く、待機のために燃料を燃やし続ける必要もありません。同じ調整力を、より安く確保できる可能性がある。加えて、蓄電所は電気が余って安い時間帯に充電し、足りなくて高い時間帯に放電します。これは卸電力市場の価格差を縮める方向に働き、再生可能エネルギーの出力制御(せっかく発電できるのに止めてしまう損失)を減らす効果も期待されています。これらは調整力コストとは別の経路で、電気料金の水準に効いてきます。
 
つまり、蓄電所は「コストを追加する存在」であると同時に「コストを減らしうる存在」でもある。片側だけを見て評価するのは、やはり早いと思うのです。
 
 

国が本当に問題視しているのは「偏り」

では国は何を課題だと考えているのか。前掲の資源エネルギー庁資料には、系統用蓄電池の主な課題として、はっきりこう書かれています。
 
「調整力としての活用が中心であり、アービトラージ活用は限定的」
 
アービトラージとは、安い時間に充電して高い時間に放電し、その価格差で稼ぐ運用のことです。国の問題意識は「事業者が儲けていること」ではなく、収益が需給調整市場に偏りすぎていて、卸電力市場を通じた価格平準化や再エネの出力制御抑制という、社会的な便益の大きい使われ方が進んでいないことにあります。
 
そう読むと、上限価格の段階的な引き下げも、後述する補助金要件の見直しも、同じ一本の線でつながって見えてきます。「投機は悪だから排除する」ではなく、「調整力への一本足打法から、卸市場も含めた多面的な運用へ誘導する」。エネ庁の担当者が語った「調整能力を効率的に調達しつつ、国民負担への影響を軽微にする仕組みをつくる必要がある」という言葉も、この文脈で読むほうが自然でしょう。
 
そしてもう一点。実現性の低い申込みが系統の枠を押さえてしまうと、本当に動かしたい設備の連系が後ろにずれます。私たちが受け取った「54か月」という回答も、その列の長さと無関係ではないはずです。これは電気代の問題とは別の軸にある、社会全体の機会損失です。
 


 

5. すでに始まっている「選別」の中身

 
再エネ業界には、太陽光発電の苦い記憶があります。固定価格買取制度(FIT)によって太陽光は爆発的に普及した一方で、無許可で森林を伐採するような事業者の参入も招きました。「2012年ごろの空気と似ている」という開発事業者の証言は、重く受け止めるべきものだと思います。
 
同じことを繰り返さないための手当ては、すでに具体的な形で動き出しています。
 
 

「空押さえ」対策として実施される規律

資源エネルギー庁の資料には、発電等設備の系統接続に係る規律確保として、次の内容が明記されています。
 
接続検討のプロセスでは、
・土地に関する書類提出の要件化
・1事業者当たりの接続検討申込数の上限設定
・事業者ニーズに合わない案件に対する接続検討の早期回答
 
契約申込みのプロセスでは、
・土地使用権原提出の要件化
・契約申込み時の保証金の引上げ
・工事費負担金の分割払いにおける初回の最低支払額の設定
 
いずれも狙いは共通しています。土地の裏付けと支払い能力を早い段階で確認し、「本当に建てる意思と実力がある計画に、系統の枠を配る」ということです。裏を返せば、土地・資金・運用体制がそろっている事業者にとっては、むしろ環境が整いつつあるとも言えます。
 
 

待ち行列そのものを短くする取り組み

列に並ぶ人を減らすだけでなく、列の進みを速くする施策も同じ資料に並んでいます。
 
・空き容量(予想潮流)マップやウェルカムゾーンマップを、各一般送配電事業者のホームページで公開する
・今後1年間に系統に接続予定の電源情報を公開し、出力制御の予見可能性を高める
・緊急時に充電を停止する装置(N-1充電停止装置)の導入や、特定の時間帯における充電制限への同意を前提に、系統を増強せずに早期の接続を認める「早期連系追加対策」を実施する
・中長期的には、充電側(順潮流側)についても、系統容量を確保せずに接続できるノンファーム型接続の導入を目指して検討を進める
 
とくに最後の2つは、「54か月」という待ち時間に直接効きうる話です。すべての条件を満たすわけではありませんが、条件付きで早くつなぐという選択肢が制度として用意されつつあることは、開発を検討している方にはぜひ知っておいていただきたいところです。
 
 

補助金の採点基準も変わった

お金の出し方も変わります。令和7年度補正予算の系統用蓄電池導入支援事業では、公募にあたって次のような要件・評価軸が示されています。
 
・事業計画のうち卸電力取引市場での取引量が一定割合以上であれば、採点審査で高く評価する
・将来的に系統混雑緩和に資する仕組みが整備された場合、必要なエリアで一般送配電事業者との協議に応じることを必須要件とする
・経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けたメーカーが、自社の製造拠点で製造したセルを使う場合に高く評価する(OEMは対象外)
・騒音等への対策など、地域との共生に配慮した取組を計画している場合に高く評価する
 
加えて、系統用蓄電池に関する地域共生ガイドラインの作成や、長期にわたり電力システムに貢献する事業者を評価する仕組みの検討も進められています。安全性についても、製品評価技術基盤機構(NITE)のガイドラインへの準拠を評価に盛り込む方向が示されました。なお、これらは令和7年度補正予算における取扱いであり、今後の予算措置によっては変更の可能性があるとされています。
 
騒音対策が補助金の採点項目に入ったことは、象徴的だと思います。開発会社の幹部からも「乱開発が続けば近隣住民との騒音トラブルが増えるだろう」という声が出ていました。長野県内でも各地で計画の話を耳にするようになりましたが、地域に受け入れられない設備は、制度が許しても長くは続きません。
 


 

6. 電気を使う側から見た蓄電所

 
ここまで事業者側の話が続きましたが、電気を使う立場からはどう見えるでしょうか。
 
短期的には、調整力の調達費用は託送料金を通じて電気料金に反映されます。上限価格が19.5円から15円、そして9月から10円へと下がっていくことは、この部分の負担を抑える方向に働きます。
 
中長期で見れば、蓄電所が増えることの意味はもう少し前向きです。国が補助金の採点で卸電力市場での取引を評価するようになったのも、まさにそこを狙ってのことでしょう。太陽光が大量に発電する昼間の電気を夜に回せるようになれば、出力制御で捨てられる電気は減り、夕方から夜にかけての高い電気を燃料費のかかる火力に頼る度合いも下がります。時間帯によって価格が動く料金メニューを使っている法人のお客さまにとっては、市場価格の山と谷が緩やかになること自体がメリットになり得ます。
 
一方で、注意していただきたいのは「蓄電所投資」を利回り商品として勧められたときです。前提となる市場価格の上限が数年で半分近くまで下がった事実、連系まで4年半かかる案件が現実にある事実、そして補助金の採否を分ける要件が変わった事実。この3つは、投資判断の前提として必ず確認しておきたいところです。収益シミュレーションがどの時点の上限価格で組まれているか、需給調整市場以外の収益をどう見込んでいるか、連系予定時期はいつか——この3点を尋ねるだけでも、計画の解像度はずいぶん変わります。
 


 
まとめ
系統用蓄電池の接続検討申込は2026年3月末時点で191ギガワット、原発191基分に相当する規模まで膨らみました。一方、資源エネルギー庁の資料によれば2025年12月末時点で契約申込みは約3,000万kW、実際に連系済みなのは64万kWです。桁が2つ違います。2040年度の導入見通しの上限(1,000万kW)と比べても、申込量は19倍以上。計画と現実の距離は、そのくらい離れています。
 
過熱の背景には、需給調整市場の上限価格が1キロワット・30分あたり19.5円と高く、数年で投資を回収できる計算が成り立ったことがあります。その上限は2026年3月に15円、9月から10円へと引き下げられました。
 
「蓄電所のもうけが電気代になる」という説明は、仕組みとしては誤りではありませんが、それだけでは片手落ちです。調整力のコストは火力の時代から存在していましたし、国が資料で課題として挙げているのも「儲けすぎ」ではなく、収益が需給調整市場に偏り、卸電力市場を活かしたアービトラージ運用が限定的であることでした。上限価格の引き下げも補助金要件の見直しも、その偏りを正す方向で一貫しています。
 
土地使用権原の要件化、保証金の引上げ、卸市場での取引や地域共生を評価する補助金。選別はすでに始まっています。情熱電力が受け取った「54か月後連系予定」という回答が少しでも短くなるよう、業界の健全な成熟を願っています。
 


 
情熱電力からのお知らせ
情熱電力は長野県松本市の新電力として、電力の小売はもちろん、系統用蓄電池ビジネスにも実際に取り組んでいます。今回の「54か月後連系予定」という回答も、その過程で受け取ったものです。
 
制度が短い周期で動くいまの電力市場では、「うちの契約はどう影響を受けるのか」「この収益シミュレーションの前提は今も有効なのか」といった疑問が出てくるのは自然なことだと思います。電気料金の見直しでも、蓄電所や再エネの制度についてでも、気になることがあればお気軽にご相談ください。専門用語をできるだけ使わずに、いまわかっていることと、まだわからないことを分けてご説明します。
 
TEL:0263-88-1183 お問い合わせ:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
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