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2026.09.04 Fri

食料品の消費税1%はいつから?小売が手放しで喜べない理由と、レジ改修・総額表示の特例を解説

 
スーパーマーケットのPOSレジと食品の陳列棚、消費税率の変更に備える売り場の様子
 
日経ビジネスに「『日本の恥』レジ改修に高いハードル 消費減税特需にも喜べぬスーパー」と「消費減税、総菜・ビールの『プレミアムシフト』加速」という2本の記事があったので、まとめて調べてみました。
 
飲食料品の消費税が1%になる。この話題については、以前「消費税減税で家計は本当に楽になる?」という記事でも触れましたが、あのときは家計の側から見た話でした。今回は売り場の側、つまりスーパーやお店のレジの向こう側で何が起きているのかを追いかけています。
 
読んでみて意外だったのは、減税でいちばん恩恵を受けそうな小売業界が、あまり喜んでいないことでした。理由はレジです。税率を変えるだけと思いきや、そう単純ではないようで。そのうえ8月の閣議決定から今日までのひと月で、制度の中身もかなり動いています。決まったこと、まだ決まっていないこと、そして2年後に何が待っているのかを、順番に整理してみますね。
 


 
目次

 


 

1. 食料品の消費税1%はいつから?決まったことを整理

 
まず、確定している事実から押さえておきましょう。
 
2026年8月5日、政府は臨時閣議で「飲食料品に係る消費税率の引下げ」及び「給付付き税額控除」の基本方針を決定しました。内閣官房が公表しているこの基本方針には、令和9年(2027年)4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を1%とする、と明記されています。
 
セットで用意されているのが給付のしくみです。基本方針では、飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲内で、公的機関が保有する所得情報を活用した「所得に連動したきめ細かな給付」を令和9年度に導入するとしています。対象は中低所得の現役勤労者と、18歳以下のこどもを扶養している方。経過措置として、15歳以下のこどもの人数に応じた加算も行われます。そして令和11年度(2029年度)から、給付付き税額控除の本格導入へ移行する流れです。
 
つまり今回の2年間は、本格的な制度が始まるまでの「つなぎ」という位置づけになります。
(情熱電力の過去記事:減税で家計の手取りが本当に増えるのかは、こちらで詳しく整理しています
 
ここで気をつけたいのが、対象の範囲です。安くなるのは、あくまで軽減税率の対象になっている飲食料品だけ。外食やお酒はもともと軽減税率の対象外なので10%のまま変わりませんし、私たちの本業に関わる電気・ガスも10%のままです。同じ軽減税率でも、定期購読の新聞は8%に据え置かれる方向で検討が進んでいます。
 

区分 現在 2027年4月〜2029年3月 2029年4月〜
飲食料品(軽減税率の対象) 8% 1% 8%に戻る予定
外食・お酒 10% 10%(変更なし) 10%
新聞(定期購読) 8% 8%で据え置く方向 8%
電気・ガス・ガソリン 10% 10%(変更なし) 10%

(出典:内閣官房「『飲食料品に係る消費税率の引下げ』及び『給付付き税額控除』の基本方針」令和8年8月5日閣議決定。新聞の扱いは報道ベースで、今後の法案審議で確定します)
 
なお、財源については基本方針に金額の明示はありません。特例公債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直しなど、歳出・歳入のあらゆる見直しを通じて確保する、という方針が書かれているだけです。報道では年間5兆円規模の財政負担という見方も出ていますが、確定した数字ではない点は押さえておきたいところです。
 


 

2. なぜ小売業は喜べないのか──POSレジ改修という壁

 
さて、ここからが本題です。
 
食料品が安くなれば、買い物は増える。スーパーにとっては追い風のはず──と思いきや、業界の受け止めはずいぶん違いました。日経ビジネスの取材に対し、日本スーパーマーケット協会の会長でライフコーポレーション社長でもある岩崎高治氏は、生活が厳しくなっている消費者を迅速に支援する必要があるとして減税の意義には理解を示しつつも、スーパーマーケット業界にとって追い風になるという議論は少し違う、と述べています。歓迎しているとばかり受け取られるのは心外だ、とも。
 
なぜでしょうか。最大の理由が、システム改修です。
 
日本で消費税が導入されたのは1989年。それ以降、POS(販売時点情報管理)レジは常に「消費税がある」ことを前提に設計されてきました。不正や会計ミスを防ぐ観点から、そもそも税率を0%に設定できない仕様の製品も少なくないそうです。商品価格にゼロをかけたり、ゼロで割ったりするとエラーになる、という話まであります。
 
個人商店や、汎用的なクラウド型POSを使っている小規模チェーンであれば、税率の変更はソフトのアップデートが中心になるため短時間で終わります。問題は、全国に店舗を展開する大手スーパーやドラッグストアが導入している「ターミナル型」のレジです。ハードとシステムが一体になった高機能モデルで、レジ機能だけでなく在庫管理や上位の会計システムとも連携していて、しかも企業ごとにカスタマイズされている。ここを触るのが、想像以上に重い作業になるわけですね。
(情熱電力の過去記事:スーパーのレジをめぐっては、こんな話題も取り上げたことがあります)
 
 

 「0%」ではなく「1%」が選ばれた理由

ここで、多くの人が抱いた疑問に答えが出ます。「実質ゼロにするなら、いっそ0%でよかったのでは?」という疑問です。
 
日経ビジネスが取材した大手POSベンダー関係者によれば、税率が0%の場合は技術者を派遣して設定や周辺システムを根幹から見直す必要があり、すべての顧客に対応するには1年程度かかるといいます。一方、1%であれば既存の8%の枠組みを前提とした設定変更が中心になるため、必要な期間は半年程度に短縮されるとのこと。
 
「0%」ではなく「1%」。この一見中途半端な数字は、早期の実施を優先した結果として選ばれたもの、という見方ができそうです。ライフコーポレーションも、システムの変更やテスト、財務経理への連携を含めて、ベンダーと協力して移行するまでに半年間の準備を想定しているとしています。
 
2027年4月から逆算すると、準備は2026年秋には動き出していないと間に合わない計算になります。法案がまだ国会に出ていない段階でこの逆算をしなければならない、というのが現場の実情です。
 
 

 ポイント経済圏がもうひとつのハードルに

もうひとつ、見落とされがちな論点があります。ポイントです。
 
ターミナル型POSを使っている企業の多くは、購入額に応じたポイント付与や割引サービスを展開しています。そして店頭のPOSシステムは、そのポイント経済圏と密接に連動しています。
 
税率が変わると、商品の価格情報を直すだけでは済みません。ポイントを税抜き価格で計算するのか、税込み価格で計算するのか。その計算ロジックそのものを見直す必要が出てきます。値札を貼り替える話とはまったく次元の違う作業で、対応には膨大な時間がかかるとされています。
 
ちなみに高市首相は2026年5月11日の参院決算委員会で、税率を柔軟に変更できない現在のレジシステムについて「日本として恥ずかしい」という趣旨の答弁をして話題になりました。ただ、現場の技術者からすれば、30年以上かけて「税率は滅多に変わらない」前提で積み上げてきたものを、半年で組み替えろと言われている状況でもあるわけです。
 
 


 

3. 値札は貼り替えなくていい?総額表示の特例と経過措置

 
ここからが、元記事が書かれた8月上旬から動いた部分です。
 
2026年9月2日、自民党の税制調査会が制度設計案を了承しました。目玉は「総額表示」の特例です。
 
総額表示は、税込みの支払総額を値札に示すことを求めるルールで、2021年4月から法律で義務づけられています。ところが税率が変わる4月1日の一晩で、店中の値札を全部貼り替えるのは現実的ではありません。とくに24時間営業のコンビニなどは、店を閉めて作業する時間そのものがない。
 
そこで了承されたのが、税率を変更する前後2か月間について、総額表示の義務を猶予するという特例です。店頭で税率を誤認されないような表示をすることを条件に、実際の税率とは異なる価格表示のままにすることを認める方向とされています。2029年4月に8%へ戻すときにも、同様の特例が適用される見通しです。
 
もうひとつ、契約が税率変更日をまたぐケースへの経過措置も検討されています。食品の定期便やカタログ販売について、税率引き下げの3か月前にあたる2027年1月1日を「指定日」とし、その日より前に価格などの条件を提示していて、4月1日までに申し込まれた契約には旧税率の8%を適用する、という考え方です。
 

時期 できごと
2026年7月30日 首相会見で基本方針を表明
2026年8月5日 臨時閣議で基本方針を決定
2026年9月2日 自民党税制調査会が制度設計案(総額表示の特例など)を了承
2026年9月 与党税制改正大綱の決定(予定)
2026年秋 臨時国会に関連法案を提出・審議(予定)
2027年1月1日 経過措置の「指定日」(検討中)
2027年4月1日 飲食料品の税率が1%に
2029年4月1日 8%に戻る予定

(2026年9月2日時点。大綱の決定や法案の提出時期は今後変わる可能性があります)
 
外食産業への支援策や、農家への支援のあり方については、まだ具体化していません。年末の税制改正論議に持ち越されるという見方も報じられていて、ここは引き続き注視が必要なところです。
 


 

4. 「減税前の値上げ」と、消費者のプレミアムシフト

 
システム改修のハードルを越えた先で待っているのが、価格の問題です。
 
多くの食品メーカーにとって、4月と10月は価格改定のタイミングにあたります。つまり減税が始まる2027年4月は、もともと値上げが集中しやすい時期でもあるわけです。
 
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林啓介研究員は、企業が減税分を十分に価格へ反映せずに値上げを実施すれば、国の税収が企業収益に付け替えられるだけになり、消費者の恩恵はゼロになると危惧しています。
 
さらに第一ライフ資産運用経済研究所の星野卓也主席エコノミストは、興味深い読みを示しています。4月の減税実施と同時に値上げをすれば消費者からの批判を浴びて目立ってしまう。それを避けるため、減税を見越して2月や3月のうちに先行して値上げをしておき、減税開始時に価格を調整して着地させる企業が出てくるのではないか、という指摘です。
 
一方で、価格が下がったときの消費者の動きは、単純な「安いほうへ流れる」ではないようです。小売店のPOSデータを解析するトゥルーデータによると、2023年10月の酒税改正でビールの税率が下がった際、改正の直前まで安価な発泡酒を買っていた消費者のうち、約4割が改正直後にビールへ移ったといいます。価格差が縮まった瞬間、人は「安いもの」ではなく「ワンランク上のもの」へ動いた、というわけですね。
 
これは「プレミアムシフト」と呼ばれる現象で、2027年4月にも同じことが起きる可能性があります。節約のためにプライベートブランドを選んでいた人が、ナショナルブランドや、より品質の高い商品へ一気に動く。総菜店やスーパーが期待しているのは、実は「量が売れること」よりも、この「単価が上がること」のほうかもしれません。
 
ただし、世代によって反応は違うようです。トゥルーデータの分析では、酒税改正前にビールを買っていた人のうち、40代以上ほどビールを買い続ける傾向が強かった一方、20〜30代は価格が近づいてもビールに流れるとは限らず、第3のビールやリキュール類を買う人の割合が他の世代より高かったとされています。価格や税率よりも、自分の好みや場面で選ぶ。若い世代の消費行動は、税率だけでは動かないということですね。
 


 

5. 2年後の出口──1%から8%への「7ポイント増税」

 
そして、いちばん重い論点がこれです。
 
今回の減税は、景気条項なしで「2年限定」と区切られています。2029年4月に税率を1%から8%へ戻すとき、消費者の目線では7ポイントの増税になります。
 
これは過去に例のない上げ幅です。2014年4月の増税は5%から8%への3ポイント。2019年10月は8%から10%への2ポイントで、しかも食料品は8%に据え置かれました。それでも、消費行動には大きな揺れが起きています。
 
トゥルーデータによれば、2014年4月に消費税が5%から8%へ引き上げられる直前の3月には、歯磨き粉や衣料用洗剤などで前年同月比およそ60%増という駆け込み需要が発生しました。その反動で、増税後の4月には売り上げが前年同月比60〜70%台にまで落ち込んでいます。同社の船越万史氏は、購買間隔の短いビールやお菓子などは2か月ほどで回復するものの、日持ちのする商品は長期間にわたって不調が続くと分析しています。
 
3ポイントでこれです。7ポイントとなれば、駆け込みも反動も、前回より大きく長くなる可能性がある。岩崎氏も、今回の7%分の差は前回の増税と比べても反動減が長引く可能性があると警戒を強めています。
 
もうひとつ気になるのが、「つなぎ」としての整合性です。今回の2年間の減税は、2029年度から始まる給付付き税額控除までのつなぎとされています。ところが一律の消費減税は、消費額の大きい高所得者ほど金額ベースの恩恵が大きくなる。一方、導入予定の給付付き税額控除は中低所得層ほど恩恵が大きくなるよう設計されるものです。星野氏は、この2つはターゲットも恩恵の当たり方もまったく異なる制度で、つなぎにはなっていないと指摘しています。
 
さらに、そもそも2年後に本当に戻せるのか、という問題もあります。星野氏は、政治の力学を考えれば非常にやめづらくなるのではないかとも見ています。予定どおり終わるのか、なし崩し的に延長されるのか。ここは、これから2年間ずっとついて回る論点になりそうです。
 


 

6. これから決まること・私たちにできる備え

 
現時点で「まだ決まっていないこと」を整理しておきます。
 
・関連法案はまだ国会に提出されていません(2026年秋の臨時国会に提出予定)
・与党の税制改正大綱は2026年9月に決定される見込みです
・総額表示の特例や経過措置は、あくまで自民党税調が了承した「案」の段階です
・外食産業への支援策、農家への支援のあり方は具体化していません
・レジ改修への補助金が用意されるかどうかも、まだ明らかになっていません
 
事業者の立場でいえば、いちばん大事なのは「自分の店のレジがどのタイプか」を早めに把握しておくことでしょう。クラウド型でソフトのアップデートだけで済むのか、ベンダーに個別対応をお願いする必要があるのか。ここが分かれ目です。慌てて買い替えなくても設定変更だけで済むケースも多いとされているので、まずは取引しているベンダーに確認してみるのが確実だと思います。
 
そして消費者の立場でいえば──2027年2月から3月にかけての値札は、いつもより注意深く見ておいたほうがよさそうです。4月に税率が下がったとき、「あれ、思ったより安くなっていないな」と感じたら、その前の2か月に何が起きていたかを思い出してみてください。
 
最後にもうひとつ。今回の減税の対象は飲食料品だけで、電気・ガスは10%のまま変わりません。光熱費は減税では下がらない。だからこそ、契約プランの見直しや使い方の工夫といった、自分の手で動かせる部分の重みが相対的に増していく、とも言えそうです。
 


 
まとめ
飲食料品の消費税が2027年4月から2年間、8%から1%になります。2026年8月5日に基本方針が閣議決定され、9月2日には総額表示に前後2か月の猶予を設ける特例案が自民党税調で了承されました。ただ法案の提出はこれからで、外食や農業への支援策、レジ改修の補助はまだ決まっていません。
 
売り場が手放しで喜べない理由は、レジにありました。1989年から「消費税がある」前提で組み上げられてきたPOSシステムは、税率の変更に驚くほど弱い。0%ではなく1%が選ばれたのも、対応期間を1年から半年に縮めるためという見方があります。ポイント付与の計算ロジックまで見直しが必要で、準備は2027年4月から逆算するとすでに始まっている時期です。
 
そして2年後、税率は1%から8%へ。消費者から見れば7ポイントの増税です。2014年の3ポイントの増税でも駆け込みと反動は大きく残りました。減税が始まる前の値上げ、始まった後のプレミアムシフト、そして出口の反動減。この2年間は、価格をめぐる長い攻防戦になりそうです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
食料品の税率が下がっても、電気やガスの税率は10%のまま変わりません。日々の暮らしや事業のコストの中で、光熱費だけは「制度が下げてくれる」部分が今回はないということになります。
 
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