猛暑で高原野菜が作れない?気候変動が変える農業と、増え続ける「暑熱対策の電気代」

複数の気になる記事をについて調べてみました。信濃毎日新聞に掲載されていた「セロリやレタスの栽培には暑すぎる」「投資に次ぐ投資『やらざるを得ない』」「県産ワイン高まる評価、盛り上がり期待の裏で苦慮する生産者の姿」という3本の記事です。
読んでいて、思わず手が止まりました。標高1000メートルの高原で、農家さんが「この暑さで作れるのは奇跡だ」とつぶやく。レタスの収穫は、午前10時を過ぎるとしなびてしまうので、深夜1時半から始める。牛舎では送風機を倍に増やし、それでも足りずに細霧発生装置の導入を考えている――。
「今年は暑いですね」で片づけていた夏が、実は私たちの食卓のずっと手前で、これほど大きな変化を起こしていたのかと驚かされます。
そして、その対策のかなりの部分が「電気を使う」ものだという点も、電力に携わる私たちにとっては見過ごせないところです。送風機、細霧装置、換気扇、予冷庫、深夜作業の照明。暑さ対策は、そのまま電気の使い方の話でもあります。
この記事では、農業現場でいま何が起きているのかを整理したうえで、「暑さとエネルギーコスト」という視点から、これからの向き合い方を考えてみたいと思います。
目次
- 1. 「作れるのは奇跡だ」高原野菜の産地で起きていること
- 2. 畜産の現場は「投資に次ぐ投資」
- 3. 適地は動く――ワイン用ブドウが映す気候変動
- 4. 暑さ対策は、そのまま「電気の使い方」の話
- 5. 「使う量」と「単価」、両方から見直すという考え方
1. 「作れるのは奇跡だ」高原野菜の産地で起きていること
まずは、信濃毎日新聞の記事で紹介されていた現場の様子から見ていきましょう。
夏でも涼しい高原は、暑さに弱い野菜づくりにぴったりの場所――というのが、これまでの常識でした。ところがその前提が、いま静かに崩れつつあります。
セロリから長ネギへ、苦渋の品目転換
諏訪郡原村の標高約1000メートルの畑で、父の代からセロリを栽培してきた清水金幸さん(48)は、今年すべての畑を長ネギに切り替えました。約5ヘクタールのうち3ヘクタールで昨年からネギに挑戦し、手応えを得たうえでの全面転換だったといいます。
背景にあるのは、気温上昇です。セロリの栽培は25度までが適温とされていますが、原村では今年7月に最高気温30度超の真夏日が計14日。昨年は7月に22日、8月に19日を数え、8月3日には観測史上最高となる34.3度を記録しました。すでに「適地」の条件から外れつつある、というわけです。
数字にも表れています。夏場に全国へ流通するセロリの約9割を占めるとされる諏訪地方ですが、信州諏訪農協管内のセロリ農家は36戸。30年前の90戸近くから、大幅に減っています(信濃毎日新聞)。
肥料や農薬、資材コストの高騰も重なり、「収入を減らさないための苦渋の決断」だったという言葉が、とても重く響きます。
レタスの収穫は午前1時半から
北佐久郡御代田町で約8ヘクタールのサニーレタス・グリーンリーフレタスを育てる荻原寿行さん(55)の話も印象的でした。
標高約860メートルの畑で、以前は昼前までに終わればよかった収穫作業が、いまは「午前10時を過ぎるとしなびてだめになってしまう」。そのため2、3年前から作業開始を2時間早め、午前1時半から収穫しているそうです。
一部では、高温の影響で葉が黒くなる生理障害「チップバーン」も発生。1、2年前からは葉焼けも見つかるようになったといいます。「こんなことは今までになかった」という戸惑いの言葉が、変化の速さを物語っています。
深夜1時半から作業する――これは同時に、照明や設備を動かす時間帯が変わるということでもあります。この点は、あとでもう一度触れます。
2. 畜産の現場は「投資に次ぐ投資」
野菜だけではありません。畜産の現場も、暑さとの闘いが続いています。
乳牛約270頭を飼育する三村牧場(松本市)の三村誠一社長(64)は、「牛は寒さに強いが暑さには弱い」と話します。牛舎の至るところに送風機を設置し、ここ5年で約500万円を投じて台数を2倍に増設。さらに約500万円をかけて細霧発生装置の導入を検討しているそうです。
「今後、今より涼しくなることは考えられない。やらざるを得ない」
この一言に、現場のリアルが凝縮されている気がします。
暑さの影響は、想像以上に多岐にわたります。
・牛の食欲・体力が落ち、乳量の減少や乳脂肪分の低下につながる
・夏場は餌の食いつきが悪くなるため、高価な輸入牧草に切り替える必要がある
・牛の体温が上がると人工授精の受胎率が低下し、10年前の夏に比べて3、4割下がっているという
・出産時に体調を崩すリスクも高まる
養豚でも同様で、年間約2800頭を出荷する飯田市の矢沢宏輝さん(56)は「以前に比べて、夏の出荷量が2割ほど落ちている」と話しています。
そして両者に共通するのが、「コストは上がるが、価格転嫁は難しい」という悩みです。消費が落ちることへの心配から、簡単には値上げに踏み切れない。設備投資も餌代も電気代も上がる一方で、売価は据え置き。この構図は、実は多くの中小事業者に共通するのではないでしょうか。
さらに、気温上昇は害虫の問題も呼び込みます。県農業試験場(須坂市)によると、暖冬傾向で虫が越冬しやすくなり、近年の害虫発生数は平年より多い状態。コメの汁を吸って変色をもたらす「斑点米カメムシ類」については、2024年に中南信、25年には全域へ注意報が出され、今年も7月29日に全域へ注意報が発出されています(信濃毎日新聞)。
3. 適地は動く――ワイン用ブドウが映す気候変動
ここまで厳しい話が続きましたが、変化は「マイナスだけ」でもありません。
南佐久郡小海町では、標高約1150メートルの畑でワイン用ブドウの栽培に挑む長谷川達也さん(31)の取り組みが紹介されていました。横浜市出身で農業経験はなかったものの、温暖化によって栽培適地が変わってきていることに可能性を見いだし、2021年に移住。ピノ・グリやピノ・ブランなど冷涼地向けの欧州系品種を中心に、約3500本を育てています。
「数十年後、小海が国内有数の栽培適地になる可能性がある。先行投資する意義は大きい」という言葉には、前向きなエネルギーを感じます。
実際、農林水産省のまとめによると2023年のワイン用ブドウ生産量は5199トンで全国1位。近年は全国シェアの3〜4割を占めているとされます。ワイナリー数も2023年3月の71カ所から、今年7月時点で93カ所に増えました。
一方で、既存産地では負の影響も出ています。標高400〜500メートル台の畑では果実の着色不良や酸度の低下が課題となり、暑さに強い品種への転換が急がれている状況。「温暖化は今後も進むと思われるが、現場でできる対策は少ない。さすがに暑くなり過ぎた」という生産者の声も紹介されていました。
つまり、気候変動は「適地の地図を書き換えている」ということ。高いところへ、北へ、と条件が移動していく。農業に限らず、私たちの暮らしや事業の前提も、少しずつ書き換わっているのかもしれません。
4. 暑さ対策は、そのまま「電気の使い方」の話
さて、ここからは電力会社らしい視点で見てみます。
3本の記事に共通していたのは、「暑さへの対応=設備投資」という構図でした。そしてその設備の多くは、電気で動きます。つまり暑さ対策を進めるほど、電力使用量は増える方向に働くということです。
現場で増えている暑熱対策と、必要な電力
記事に登場した対策を、電気との関係で整理してみました。
| 対策 | 主な目的 | 電力との関係 |
|---|---|---|
| 送風機の増設 | 牛舎内の体感温度を下げる | 台数×稼働時間で消費が増加。夏季は長時間連続運転になりやすい |
| 細霧発生装置 | 気化熱で畜舎・ハウスを冷やす | ポンプの稼働に電力が必要。送風機との併用が前提になることが多い |
| 換気扇・循環扇(ハウス) | 施設内の高温を逃がす | 日中のピーク時間帯に稼働が集中しやすい |
| 予冷庫・冷蔵設備 | 収穫物の鮮度保持 | 外気温が高いほど冷却負荷が増え、消費電力も増える |
| 深夜・早朝作業の照明 | 高温時間帯を避けて作業 | 使用時間帯が夜間へシフト。人件費(深夜手当)も上がる |
| 空調服・休憩所の空調 | 働き手の熱中症予防 | 充電・空調運転の電力に加え、装備コストが発生 |
こうして並べてみると、「暑さ対策のコスト」は設備の購入費だけでなく、その後ずっと続くランニングコスト――つまり電気代として効いてくることがよくわかります。送風機を2倍に増やせば、単純計算で送風にかかる電力も2倍。しかも猛暑が長引けば、稼働する日数そのものが増えていきます。
一度入れた設備は、翌年も、その次の年も動き続けます。だからこそ、初期投資の検討と同じくらい、「動かし続けるコスト」を見ておくことが大切なんですね。
働き手を守る対策も、いまや法律の話に
もうひとつ押さえておきたいのが、人への対策です。
記事では、年間約6千トンのレタスを出荷するトップリバー(御代田町)が、電動ファン付き作業服を用意したり、深夜手当を払ってできるだけ日が出ていない時間に作業してもらったりと、働き手の暑さ対策にも費用がかさんでいることが紹介されていました。同社の2025年12月期の売上高は約15億円、従業員は約100人。それだけの規模でも、暑さ対策の負担は小さくないということです。
そして2025年6月1日には、労働安全衛生規則の改正により、職場の熱中症対策が罰則付きで事業者の義務となりました。暑さ指数(WBGT)28度以上、または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれる場合に、報告体制の整備や対応手順の作成、関係者への周知などが求められます。
農業に限らず、屋外作業や空調の効きにくい工場・倉庫を抱える事業者さんにとっては、「暑さ対策は、やったほうがいいこと」から「やらなければならないこと」へと位置づけが変わったわけです。休憩所の空調やスポットクーラー、送風設備の導入が進めば、当然そこにも電気が要ります。
5. 「使う量」と「単価」、両方から見直すという考え方
では、増えていく電気の負担とどう向き合えばいいのでしょうか。
考え方はシンプルで、電気代は「使う量(kWh)× 単価」+基本料金で決まります。ということは、打ち手も大きく2方向あるということです。
【使う量を見直す】
・送風機やファンの運転時間を、温度・湿度センサーやタイマーで最適化する
・古いモーターやポンプは、更新時にインバータ制御・高効率タイプを検討する
・予冷庫や冷蔵設備の断熱・扉の開閉時間を見直す(地味ですが効きます)
・作業時間帯のシフトによって、電気を使う時間帯そのものが変わっていないか確認する
【単価と契約を見直す】
・契約電力(基本料金の元になる部分)が実態に合っているか確認する
・夏場のピークがいつ・どれくらい出ているかを、実績データで把握する
・季節や時間帯で使い方に偏りがあるなら、それに合ったプランを検討する
・複数拠点がある場合は、まとめて見直すことで整理しやすくなることもある
特に農業や畜産のように、「夏に使用量が跳ね上がり、冬は落ち着く」といった季節変動の大きい業種では、年間を通じた使い方の形(ロードカーブ)を把握することが、見直しの第一歩になります。深夜作業へのシフトが進んでいる場合も、使用時間帯が変わったことで、契約内容との相性が変わっている可能性があります。
「うちは電気なんて大して使っていないから」と思っていても、明細を並べて数年分を比べてみると、じわじわ増えていることに気づくケースは少なくありません。まずは現状を数字で見てみる。ここから始めるのが、いちばん確実だと思います。
補助制度の面では、農林水産省が畜産分野の暑熱対策や、野菜の夏季高温対策に関する情報をまとめています。設備投資を検討される際は、こうした情報も合わせてチェックしてみてください。
まとめ
夏でも涼しい高原だからこそ育ってきたセロリやレタス、カーネーション。その前提が、気温上昇によって少しずつ崩れつつある――信濃毎日新聞の3本の記事は、その現実を丁寧に伝えていました。
品目をセロリから長ネギへ全面転換した農家さん。午前1時半から収穫を始めるレタス農家さん。5年で約500万円を投じて送風機を倍増し、さらに細霧装置を検討する牧場。一方で、温暖化によって新たに適地となった土地でワイン用ブドウに挑む若い生産者もいます。
厳しい変化と、新しい可能性。その両方が同時に起きているのが、いまの現場なのだと感じます。
そして忘れてはいけないのが、暑さ対策の多くが電気で動いているということ。送風機も、細霧装置も、予冷庫も、休憩所の空調も、導入した瞬間からランニングコストが発生し続けます。2025年6月からは職場の熱中症対策が罰則付きで義務化され、人を守るための設備投資も避けて通れなくなりました。
だからこそ、「使う量」と「契約・単価」の両面から、電気の使い方を点検してみる価値があります。天候は選べませんが、電気との付き合い方は選べます。まずは直近の明細を眺めるところから、始めてみませんか。
情熱電力からのお知らせ
暑さ対策の設備を増やしたら、電気代がどれくらい変わるのか気になる。夏だけ使用量が跳ね上がるけれど、いまの契約で合っているのだろうか。深夜作業が増えて、使う時間帯が変わってきた気がする――。
そんなときは、お気軽にご相談ください。株式会社情熱電力は、事業所や農業施設の電気の使い方を、明細と実績データから一緒に確認するお手伝いをしています。難しい言葉はできるだけ使わず、「いま何にどれくらいかかっているのか」をわかりやすくご説明することを大切にしています。
すぐに切り替えを決める必要はありません。「現状を知っておきたい」だけでも大歓迎です。地元の事業者さんとして、顔の見える距離でお話しできればうれしく思います。
お問い合わせ
TEL:0263-88-1183
Web:https://jo-epco.co.jp/contact
この記事に関連するページリンク
・信濃毎日新聞デジタル:セロリやレタスの栽培には暑すぎる 長野県の高原野菜産地が強める危機感
・農林水産省:畜産・酪農の暑熱対策
・農林水産省:野菜における夏季の高温対策
・厚生労働省(富山労働局):職場における熱中症対策の強化について