いまどうなってる?ホルムズ海峡はまだ閉じたまま|電気代への影響を業界目線で解説

複数の気になる記事を見つけたので、まとめて調べてみました。日本経済新聞に掲載された「トランプ米政権、対イランで出口失う」「米イラン覚書、迫る60日交渉期限」「ホルムズ海峡『イランのもの』」という一連の記事です。
春先はあれだけ大きく報じられていたホルムズ海峡の問題が、最近はニュースの扱いがずいぶん小さくなっているから「もう落ち着いたのかな」と感じている方も多いのではないでしょうか。
ところが実態はまったく逆で、海峡は事実上封鎖されたまま、米国とイランの交渉も止まったまま。つまり「解決したから報じられなくなった」のではなく、「動きがないから報じられなくなった」だけなのです。
私たち電力業界にとって、ホルムズ海峡は他人事ではありません。ここを通る原油やLNGは、そのまま発電コストに直結します。今回は、いま中東で何が起きているのかを整理したうえで、それが皆さまの電気代にどうつながるのかを、できるだけかみくだいてお伝えします。
目次
- 1. いま、ホルムズ海峡で何が起きているのか
- 2. 米国の「3つの圧力」がすべて行き詰まった理由
- 3. 形骸化する覚書と、迫る60日の交渉期限
- 4. ホルムズ海峡と日本の電気代は、どうつながっているのか
- 5. 報道が減っても、備えは減らせない
1. いま、ホルムズ海峡で何が起きているのか
まずは現在地の確認からいきましょう。
2026年6月17日(米東部時間)、米国とイランは戦闘終結に向けた覚書に署名しました。60日以内にホルムズ海峡の開放や核開発問題の解決につなげる——そんな内容でした。日本時間6月18日から数えて60日後は、8月17日。まさに今日が期限です。
ところが、その覚書はほとんど履行されていません。イランは米国の経済制裁が解除されないことを理由に、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を継続。米軍も7月にイランへの海上封鎖を再開しました。
8月14日にはトランプ大統領が支持者向けの演説でホルムズ海峡について「近く米国の領土と宣言するつもりだ」と発言。これに対しイランのガリババディ外務次官は翌15日、X(旧ツイッター)で「空母でも命令でも演説でもホルムズ海峡を奪うことはできない」「ホルムズ海峡はイランのものであり続ける」と反論しました。海峡の封鎖と開放は「イランの指揮下でのみ行われる」との主張です。
歩み寄りどころか、言葉の応酬が激しくなっている——これが今の状況です。
なお、イランはオマーンと共同で海峡を管理する体制づくりを進めているとも報じられています。海峡に入る船は北側、出る船は南側の航路を使うという構想で、イラン側は2〜4か月の暫定措置と説明しているものの、将来的に続くとの見方も根強いようです。
2. 米国の「3つの圧力」がすべて行き詰まった理由
日経新聞の分析記事がとてもわかりやすかったので、そのフレームをお借りします。米国がイランに対して使える手段は、大きく「軍事攻撃」「経済圧力」「外交交渉」の3つ。ところが今、そのすべてに出口が見えなくなっているというのです。
順番に見ていきましょう。
軍事攻撃:兵器の消耗という現実的な壁
意外に思われるかもしれませんが、いちばん壁が高いのが軍事オプションです。
理由は「弾切れ」。精密打撃や高度な迎撃が可能な高性能ミサイルを米軍は消耗しており、これ以上使えば軍全体の運用に影響しかねない状況とされています。主力の防空ミサイル「パトリオット」は、一連の戦闘で在庫が3分の1になったとの試算もあり、トランプ大統領自身も「(在庫が)逼迫しているものもある」と認めています。
米ワシントン・ポストによれば、イランとの軍事衝突が始まって以降、多目的無人機(ドローン)MQ9リーパーを少なくとも45機失ったとのこと。これは保有数の約25%に相当します。
かといって精度の低い弾薬を使った接近戦や地上戦に踏み切れば、米兵に被害が出かねません。11月に中間選挙を控えるトランプ大統領にとって、これは最も避けたい展開でしょう。
ここで注目したいのが、イスラエルの軍事専門家ダン・オルバック氏のコメントです。「西側諸国が使う武器は技術の高度化に加えサプライチェーン(供給網)の多様化、規制などで高価かつ生産に時間がかかる」——つまり、お金を投じればすぐ補充できるものではない、という指摘です。
一方でイラン側が使うドローンや機雷は、軍事力・経済力が劣る国でも比較的簡単に入手できます。この「非対称性」が、事態を長引かせている大きな要因になっています。
経済圧力:イランの「生き残り経済」
軍事が使えないなら経済で——というのが8月に入ってからの米国の軸足です。
ベッセント財務長官は8月13日、米ニュースマックスのインタビューで「前例のない措置となる」「世界が経験したことのない経済的孤立だ」と述べ、対イラン経済制裁の強化を明言しました。
実際、制裁の効果は数字に表れています。銀行システムを標的にした制裁により、イランのインフレ率は年間80%を超える水準に。米メディアによると鶏肉価格は前年比2.9倍に高騰しています。欧州の調査会社ケプラーによれば、貴重な外貨収入源である原油の輸出は6月下旬に比べて7割落ち込んだとのことです。
ただ、それでも屈しない。イランはすでに戦時経済の態勢を敷き、補助金や配給制で家計をかろうじて支える「生き残り経済」(米ウォール・ストリート・ジャーナルの表現)に移行しているとされます。国力はむしばまれますが、時間を稼ぐことはできる。米ブルームバーグ通信によると、米国は2018年以降イランに2200件の制裁措置を追加してきましたが、それでも交渉で譲歩を引き出せていません。
対照的に、トランプ大統領に残された時間は多くありません。11月の中間選挙まで3か月を切り、ロイター通信などの世論調査ではイランとの衝突を支持する国民は35%にとどまっています。
外交交渉:海峡の管理権で平行線
では外交はどうか。こちらもホルムズ海峡の管理権をめぐって完全に平行線です。
トランプ大統領が8月12日にSNSでホルムズ海峡を米国が「完全に掌握」したと主張すると、イラン軍は「作りごとだ」と一蹴、13日には「ウソだ」と切り捨てました。さらにイランは8月8日、ホルムズ海峡の解放にあたって制裁解除など6条件を提示。戦闘で受けた損害賠償などを含むこれらの条件を米国が受け入れなければ、協議にすら応じない構えです。
イランのアラグチ外相も8月15日、現地メディアに「米国との交渉再開は決定されていない」と述べています。
米ポリティコが「選択肢はほぼ残っていない」と評したのも、うなずける状況です。
3. 形骸化する覚書と、迫る60日の交渉期限
6月の覚書に何が書かれ、それがどうなったのか。整理すると次のとおりです。
| 覚書の内容 | 現在の履行状況 |
|---|---|
| レバノンを含むすべての戦線での即時かつ恒久的な停戦 | 米イランが散発的に交戦、レバノンでもイスラエルが軍事作戦 |
| 30日以内に米国がイランに対する海上封鎖を終結 | 海上封鎖は7月に再開 |
| 30日以内にホルムズ海峡の通航を戦闘前の水準に回復 | イランによる事実上のホルムズ海峡封鎖が継続 |
| 米国がイラン制裁、資産凍結を解除 | 制裁、資産凍結が継続 |
| 核交渉を推進 | 交渉は進まず |
……見事に全項目が未履行です。
日経新聞によれば、この覚書は合意を優先したために両国が都合よく解釈できる曖昧さを含んでおり、署名直後から互いに「相手が違反している」と指摘し合う事態が続いていたといいます。
直近の経緯も並べておきましょう。
| 時期(2026年) | 出来事 |
|---|---|
| 6月17日 | 米イランが戦闘終結に向けた覚書に署名 |
| 6月21〜22日 | 米イランがスイスで協議 |
| 6月25〜28日 | 覚書後初めて攻撃の応酬 |
| 7月7日 | 米がイラン産原油などの禁輸措置復活を発表 |
| 7月12日 | イランがホルムズ海峡を再封鎖 |
| 7月14日 | 米軍がイランの海上封鎖を再開 |
| 7月20日 | イエメンの親イラン武装組織フーシがサウジアラビアに海上封鎖を宣言 |
| 8月8日 | イランがホルムズ解放に制裁解除など6条件を提示 |
交渉期間は延長が可能とされていますが、シンクタンク・国際危機グループのアリ・バエズ氏は「現在の『戦争でも平和でもない』状況が今後数か月も続くとは考えにくい」と分析しています。良い方向に動く可能性も、悪い方向に振れる可能性も、どちらもあるということです。
4. ホルムズ海峡と日本の電気代は、どうつながっているのか
さて、ここからが本題です。「中東の話が、なぜ日本の電気代に関係するの?」と思われる方もいるかもしれません。順を追って説明しますね。
日本のエネルギーは、いまも中東に支えられている
まず前提として、日本は一次エネルギー国内供給の約56%を石油と天然ガスに頼っています(2024年度速報値:石油34.8%、天然ガス・都市ガス20.8%。出典:資源エネルギー庁「令和6年度エネルギー需給実績(速報)」2025年12月12日)。
そして、その石油の調達先が問題です。日本の原油輸入の中東依存度は94.0%。さらに、ホルムズ海峡を通って運ばれてくる分だけを取り出しても93.0%にのぼります(出典:資源エネルギー庁「燃料調達をめぐる動向と電力・ガスの安定供給について」2026年3月27日)。
つまり日本に届く原油のほぼすべてが、あの海峡を通っているということです。ここが詰まるということの意味の重さ、伝わりますでしょうか。
発電の面から見ても構造は同じです。2024年度の電源構成は、LNG火力が32%、石炭火力が29%、石油等が7%。火力発電だけで約68%を占めています(出典:同上)。燃料価格の変動が、そのまま発電コストの変動になる構造です。
LNGは「依存度は低いが、価格は連動する」
ではLNGはどうでしょう。実はここが誤解されやすいポイントです。
LNGの中東依存度は10.8%、そのうちホルムズ海峡を通るのは6.3%(カタール5.3%+UAE1.0%)にとどまります。オーストラリア39.7%、マレーシア14.8%と調達先が多角化しているためで、原油のような直撃は受けにくい構造です(出典:資源エネルギー庁 前掲資料/ホルムズ海峡依存度の内訳はジェトロ「日本のLNG輸入量のホルムズ海峡依存度は6.3%」2026年3月11日)。
「なんだ、それなら安心では?」と思われるかもしれません。ところが、そうはいきません。
数量として届くかどうかと、いくらで買えるかは別の話だからです。アジアのLNGスポット価格指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)は、中東情勢に非常に敏感に反応します。実際、今年3月のJKMは2月末の10ドル後半から急騰し、3月3日にはカタールのラス・ラファン工業地帯への軍事攻撃によるLNG輸出施設の稼働停止を受けて、25ドル前半と3年以上ぶりの高値を記録しました。その後も3月19日時点で25ドル半ばと、高値圏で推移しています(出典:JOGMEC「2026年3月:天然ガス・LNG関連情報」)。
わずか2週間ほどで倍以上。依存度が1割に満たなくても、価格はこれだけ動くのです。国内のLNG在庫は数週間分程度とされており、備蓄で長期間吸収できる性質のものでもありません。
原油価格そのものも、交渉の一言一言に反応し続けています。ブレント原油は4月中旬に一時1バレル103ドル前後まで上昇した後いったん落ち着きましたが、8月6日には「ホルムズ海峡合意に不透明感」として一時83ドル台まで上げ幅を拡大しました。報道が減っても、市場は静かに反応し続けているということです。
燃料費調整制度と「3〜6か月のタイムラグ」
ここでぜひ知っておいていただきたいのが、燃料費調整制度の仕組みです。
電気料金は「基本料金+電力量料金+燃料費調整額+再エネ賦課金」で構成されています。このうち燃料費調整額は、原油・LNG・石炭の輸入価格(貿易統計)の3か月平均をもとに算定され、その約2か月後の料金に反映されます。
つまり、今日のニュースが電気代に表れるのは数か月先。「中東で何かあった」→「すぐ電気代が上がる」のではなく、静かに、しかし確実に、後からやってくるのです。新電力ネットのコラムでも、原油高の影響は「3〜6か月後に電力・ガス料金が上昇する」形で表れると指摘されています。
これが厄介なところで、報道が減って世間の関心が薄れた頃に、ちょうど請求書に効いてくる。今がまさにその時期にあたります。
参考までに直近の市場環境を挙げると、2026年8月9日の週で原油は78.86ドル/バレル、卸電力市場(JEPX)の価格は20.21円/kWh。電灯料金は2026年4月時点で25.94円/kWhとなっています。
いま適用中の政府支援も確認しておきましょう
もうひとつ、家計や経費に直結する話を。政府による電気・ガス料金の負担軽減支援が、2026年7月使用分から再開しています。
| 使用分 | 電気(低圧) | 電気(高圧) | 都市ガス |
|---|---|---|---|
| 2026年7月 | 3.5円/kWh | 1.8円/kWh | 14.0円/m³ |
| 2026年8月 | 4.5円/kWh | 2.3円/kWh | 18.0円/m³ |
| 2026年9月 | 3.5円/kWh | 1.8円/kWh | 14.0円/m³ |
出典:経済産業省「2026年7月、8月及び9月使用分の電気・ガス料金支援の実施に伴い、電気・都市ガス料金の値引きを行うことができる特例認可・承認を行いました」(2026年6月12日公表)
冷房需要のピークにあたる8月が最も手厚く、低圧で4.5円/kWhの値引きです。ちなみに今年の冬(2026年1〜3月使用分)も、低圧で1・2月が4.5円/kWh、3月が1.5円/kWhの支援が実施されていました(経済産業省 2025年12月16日公表)。
ここで注意していただきたいのが、10月以降の支援は本稿執筆時点で決まっていないということです。仮に支援が切れたタイミングで、ホルムズ海峡由来の燃料高が数か月遅れで反映されてくると、値上がりの体感はかなり大きくなります。この「二重の切り替わり」には、ぜひ気を配っておいてください。
5. 報道が減っても、備えは減らせない
ここまで読んでいただいた方はもうお気づきだと思いますが、状況は「解決」に向かっているわけではありません。米国民の意識調査でも、ロイターの世論調査で50%が今後1年間、中東の不安定化が続くと回答し、安定するとの回答は17%にとどまりました。58%はガソリン価格が上昇すると予想しています。
では、私たちに何ができるのでしょうか。地政学リスクそのものはコントロールできませんが、「燃料価格に振り回される幅」を小さくすることはできます。
・使用量そのものを減らす
空調の設定温度、待機電力、照明のLED化、断熱。地味ですが、燃料単価が上がるほど1kWh削減の価値も上がります。とくに事業所では、高効率空調や省エネ設備への更新が効いてきます。
・使う時間帯を見直す
法人のお客さまであれば、デマンド(最大需要電力)の管理が基本料金に直結します。ピークをずらすだけで年間コストが変わることも珍しくありません。
・料金プランの中身を理解しておく
燃料費調整額に上限があるプランなのか、市場連動型なのか。これによって燃料高騰時の影響の出方はまったく異なります。ご自身の契約がどちらなのか、一度確認しておくことをおすすめします。
・自家消費という選択肢
太陽光発電や蓄電池は、燃料価格の変動から一定の距離を取る手段になります。導入コストとのバランスは必要ですが、選択肢として知っておいて損はありません。
・情報を「切れ目なく」追う
今回のように、報道が減ったからといってリスクが消えたわけではありません。原油・LNGの価格推移や燃料費調整額の告知をときどきチェックする習慣は、家計にも経営にも役立ちます。
私たち情熱電力も長野県松本市から、こうしたエネルギー情勢の変化をできるだけわかりやすくお伝えしていきたいと考えています。
まとめ
ホルムズ海峡をめぐる米国とイランの対立は、6月の覚書からほぼ何も履行されないまま、8月17日(本日)の交渉期限を迎えようとしています。米国が持つ軍事攻撃・経済圧力・外交交渉という3つの手段は、兵器の消耗、イランの「生き残り経済」、海峡の管理権をめぐる対立によって、いずれも出口を失っている状況です。
そして日本にとって、これは決して遠い国の話ではありません。輸入原油の94%が中東由来、うち93%はホルムズ海峡を通ってきます。電源構成の約68%を火力が占める以上、海峡の状況は発電コストに直結します。しかも燃料費調整制度には数か月のタイムラグがあるため、影響は静かに、後からやってきます。
大切なのは、報道の量とリスクの大きさは比例しないと知っておくこと。そのうえで、使用量の削減、ピークの平準化、契約プランの再確認といった、自分たちでコントロールできる部分を着実に整えておくことです。不確実な時代だからこそ、足元の備えが効いてきます。
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