アワリーマッチングとは?GHGプロトコル改定で再エネ調達が変わる理由と、地熱が再注目される背景

NIKKEI GX(日本経済新聞)に「地熱、アワリーマッチで再び脚光 眠る世界3位の資源量」という記事があったので調べてみました。
東芝傘下のジャパンセミコンダクターが、熊本県の地熱発電所とバーチャルPPAを結び、地熱由来の環境価値の調達を始めたという内容です。半導体工場は24時間動き続けますから、昼しか発電しない太陽光とは相性が悪い。そこで地熱、というわけです。
ただ、この記事の本当のポイントは地熱そのものではなく、その手前にある「アワリーマッチング」という聞き慣れない言葉のほうにあります。これは、企業が使った電気と再エネの証書を、年間ではなく1時間ごとに突き合わせるという考え方です。
もしこれが国際的な算定ルールになると、「年間で帳尻を合わせて再エネ100%」という、いま多くの企業がとっている方法が通用しなくなるかもしれません。地熱が注目されているのは、その先を読んだ動きなんですね。
今回は、このアワリーマッチングが何を変えようとしているのか、議論がいまどこまで進んでいるのかを、できるだけ丁寧に整理します。
目次
- 1. アワリーマッチングとは?「年間で帳尻を合わせる」からの転換
- 2. なぜいま議論に?GHGプロトコルScope2改定の現在地
- 3. もうひとつの関門「デリバラビリティ」と日本の電力網
- 4. 日本の非化石証書は時間単位に対応できる?
- 5. 地熱発電が再び注目される理由
- 6. 企業がいまからできること
1. アワリーマッチングとは?「年間で帳尻を合わせる」からの転換
まず、いまのルールを確認しておきましょう。
企業が「再エネ100%を達成しました」と言うとき、その多くは年間の合計で計算しています。1年間に使った電力量が1,000万kWhなら、1年間で1,000万kWh分の再エネ証書を買って償却する。これで帳簿上は再エネ100%になります。
ここには、ひとつ目をつぶっている点があります。電気を使った時刻と、再エネが発電された時刻が一致していなくてもいいという点です。
たとえば、24時間稼働する工場が深夜2時に使った電気は、実際には火力発電所がまかなっているのかもしれません。それでも、昼間に発電した太陽光の証書を年間でまとめて買えば、深夜の分も相殺されて「再エネ100%」になる。これが現行の考え方です。
アワリーマッチング(Hourly Matching、時間単位マッチング)は、ここを変えようとするものです。”1月15日の深夜2時に使った電気は、1月15日の深夜2時に発電された再エネの証書でなければ相殺できない” そういうルールにしよう、という提案です。
| 比較する点 | 年間マッチング(現行) | アワリーマッチング(議論中) |
|---|---|---|
| 突き合わせる単位 | 1年間の合計 | 1時間ごと |
| 深夜の電力をどう扱うか | 昼の太陽光の証書で相殺できる | その時間に発電した電源の証書が必要 |
| 必要なデータ | 年間の使用量と証書の枚数 | 時間別の使用量と、発電時刻のわかる証書 |
| 相性のいい電源 | 太陽光・風力でも問題が出にくい | 蓄電池との組み合わせ、または出力が一定の電源 |
| 24時間操業の工場にとって | 証書を買い足せば達成できる | 夜間をどう埋めるかが最大の課題になる |
この話が「グリーンウォッシングを防ぐ」という文脈で語られるのは、こういう事情があるからです。年間マッチングでは、証書を買うお金が、本当に電力網の脱炭素化につながったのかが見えにくい。時間単位にすれば、「足りない時間帯」がはっきりするので、蓄電池や安定電源への投資を促す価格シグナルになる、という考え方ですね。
※グリーンウォッシングとは、実際の環境への配慮が伴っていないのに、環境に良い取り組みをしているように見せかけることを指します。「白く塗って取り繕う(ホワイトウォッシュ)」と「グリーン(環境)」を組み合わせた言葉です。
※ここで気をつけたいのは、年間マッチングで再エネ100%と表示すること自体は、現行ルールに沿った正当な方法だという点です。ルール違反ではありません。それでも「実態と離れているのではないか」という指摘が出ているのが、いまの議論の出発点になっています。
一方で、「そこまで厳格にすると、再エネを買おうとする企業そのものが減ってしまう」という反論もあります。この対立が、いま国際的な議論の中心にあります。
2. なぜいま議論に?GHGプロトコルScope2改定の現在地
アワリーマッチングが急に話題になっているのは、GHGプロトコルという国際基準の改定作業が進んでいるためです。
GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出量を計算するときの事実上の世界標準です。そのうち、購入した電気や熱による排出を扱うのが「Scope2」。このScope2のガイダンスは2015年に作られたもので、今回が本格的な改定になります。
ポイントは、まだ確定していないということです。ここは誤解されやすいので、順を追って見ていきます。
パブコメ1,072件が示した賛否
GHGプロトコルは2025年10月20日に改定案のパブリックコンサルテーション(意見募集)を開始しました。当初は同年12月19日までの予定でしたが、関係者からの要望を受けて2026年1月31日まで延長されています。注目度の高さがうかがえますね。
その結果が2026年7月29日に公表されました。56カ国から1,072件の回答があり、そのうち約4割が企業からのものだったと報じられています。
意見は、きれいに割れました。
・賛成側:グリーンウォッシングの抑制につながる。蓄電池やクリーン電源への投資を促す価格シグナルになる
・慎重側:北米・欧州以外では時間別データや取引制度の整備が追いついていない。管理・監査コストが増え、中小企業が参加しづらくなる
そして「義務化ではなく、企業が選べる仕組みにすべきだ」という意見が多く寄せられました。
これを受けて、GHGプロトコルの独立基準委員会(ISB)は改定案をそのまま採用せず、マーケット基準について複数の報告アプローチを検討するよう技術作業部会(TWG)に指示しています。つまり、「厳格化するか/しないか」の二択ではなく、複数の算定方法を併存させる方向に舵が切られつつある、ということです。
今後のスケジュールは、統合草案のパブリックコンサルテーションが2027年第2四半期、最終的な公表が2028年第4四半期という見通しが示されています。すぐに算定方法が変わるわけではありません。
先に動くSBTiの新基準
ただ、「2028年まで様子を見ていればいい」とも言い切れません。別のルールが先に動くからです。
科学的根拠に基づく削減目標の認定機関であるSBTiが、2026年6月に企業ネットゼロ基準のバージョン2.0を公表しました。この新基準では、年間の電力使用量が1,000万kWh(10GWh)以上の大企業に対し、時間単位で再エネとマッチングできた電力の割合を報告することが求められます。適用開始は2027年2月とされています。
さらに、任意の認定プログラムとして「現時点で50%、2030年までに75%、2035年までに90%」という時間単位マッチングの目標水準も示されました。
GHGプロトコル本体の結論が出る前に、SBTi認定を取っている企業は時間別データの把握を迫られる。この「時間差」が、先進的な企業を早めに動かしている理由のひとつです。
3. もうひとつの関門「デリバラビリティ」と日本の電力網
改定案で議論されているのは、時間だけではありません。もうひとつ「デリバラビリティ(供給可能性)」という論点があります。
こちらは「いつ」ではなく「どこ」の話です。証書が、自社の拠点に物理的に届きうる範囲から調達されているか。これを問うものです。
ここで効いてくるのが、電源ごとの「置ける場所」の違いです。太陽光は、日射さえあれば全国どこにでも設置できます。屋根の上でも、休耕地でも構いません。一方、地熱は火山帯の上にしか置けず、国内の主要な発電所は東北と九州に集中しています。洋上風力も、適した海域は限られます。
つまり、太陽光はデリバラビリティの影響を受けにくく、地熱や洋上風力は受けやすい。東京の本社が、九州の地熱発電所の証書だけで自社の排出を相殺する。こうした調達が、物理的な実態を伴っていると言えるのか、という問題意識ですね。
日本にとっては、ここがなかなか厳しい論点です。東日本と西日本では周波数が異なり、連系線の容量にも制約があります。地域をまたいだ証書の調達が「供給可能性を満たさない」と判断されるリスクが指摘されています。
改定案では、市場の境界を越えて調達する場合、エリア間の価格差が一定以内であることや、送電権を確保していることなどで供給可能性を示す必要があるとされています。ただし、具体的な基準値はまだ示されていません。
調達方法によって、影響の受け方はかなり変わってきそうです。
・オンサイトPPA(自社の屋根などに設置)→ 発電と消費の場所が一致するため、影響を受けにくい
・同じエリア内のフィジカルPPA → 要件を満たしやすい
・遠方エリアのバーチャルPPA → 要件を満たせない可能性があり、懸念が集まっている
冒頭のジャパンセミコンダクターが熊本の地熱発電所と契約した事例も、同社の工場が岩手県と大分県にあることを踏まえると、この論点と無関係ではないかもしれません。もっとも、改定案の最終的な線引き次第ですから、現時点で断定はできませんが。
4. 日本の非化石証書は時間単位に対応できる?
では、日本の制度はこの流れに対応できるのでしょうか。
現在、国内で環境価値を売買する主な手段は非化石証書です。ただ、この制度にはいくつか構造的な課題が指摘されています。
自然エネルギー財団は、次のような点を挙げています。
・証書は年度単位で管理されており、発電した時間の情報は含まれていない
・非FIT非化石証書は、取引が完了した後でなければトラッキング(属性情報の付与)ができない。つまり、買う時点では発電方法などの条件を確認できない
・発電期間(年単位)と証書の有効期間(年度単位)に3カ月のずれがある
海外の主要な証書も「発電した日」の情報までで、時間までは扱えないものが多いとされます。ただ、少なくとも発行時点で属性情報を持っているという点が日本の制度とは異なります。
時間単位のマッチングを証明するには、時間別の電力使用データと、発電時刻のわかる属性情報を紐づける必要があります。いまの非化石証書の仕組みのままでは、そこに届きません。2030年以降の算定に新ルールが適用される見込みであることを考えると、制度の改正にはそれほど余裕がない、という見方もできます。
なお、非化石証書そのものの価格についても、2027年度から上限・下限の見直しが段階的に進む方針が示されています。環境価値の調達は、ルールと価格の両面で転換期にあると言えそうです。
(情熱電力の過去記事:非化石証書の価格見直しについては、こちらで詳しく解説しています)
5. 地熱発電が再び注目される理由
ここまで来ると、冒頭の日経の記事がなぜ地熱を取り上げたのかが見えてきます。
時間単位でマッチングするなら、1年を通じて昼も夜も発電し続ける電源がいちばん扱いやすい。太陽光は夜に止まり、風力は風任せです。再エネのなかで、ベース電源として安定稼働できるものは、現状ほとんど地熱しかありません。
(情熱電力の過去記事:そもそも地熱発電がどうやって電気をつくっているのかは、こちらでまとめています)
実際、企業の動きは先行しています。
・ジャパンセミコンダクターは、わいた第2地熱発電所(熊本県小国町)と15年契約のバーチャルPPAを締結。2026年6月から地熱由来の環境価値の調達を開始し、年9,251トンの温暖化ガス削減効果を見込む
・パナソニックエナジーは2025年に九電みらいエナジーとコーポレートPPAを締結し、年約50ギガワット時の供給を受ける
・わいた第2発電所は2026年3月に商用運転を始めたばかりだが、すでにNTT西日本、肥後銀行なども契約
半導体工場は24時間稼働し、消費電力も大きい。「24時間365日電気を使い続ける工場と相性がいい」という東芝側のコメントは、まさにアワリーマッチングを見据えたものだと思います。
世界3位の資源量と、追いつけなかった30年
需要がこれだけあるのに、供給が追いついていないのが日本の地熱の現状です。
日本は火山国で、地熱の資源量は世界3位。1990年代後半には設備容量で世界5位、世界シェアの約7%を占める「地熱大国」でした。しかし、その後は海外の増設ペースに追いつけず、足元のシェアは3%台まで落ちています。
政府の目標も未達です。2015年に公表された長期エネルギー需給見通しでは、2030年度までに設備容量を140万〜150万kW(2015年度は53万kW)まで増やし、総発電量に占める比率を1〜1.1%とする案が示されました。ところが2023年12月時点の国内導入量は約60万kWで、2030年度目標の4割程度にとどまっています。
資源エネルギー庁の資料でも、地熱の電源構成比は現状0.3%程度で、2040年度の見通しは1〜2%程度とされています。
なぜ進まなかったのか。理由は大きく3つあります。
・有望地域が温泉地や自然公園と重なることが多く、地元との合意形成や複数の許認可手続きが必要
・調査から掘削まで時間がかかる
・十分な蒸気を確保できなかったときのリスクが大きい
ある大手エネルギー企業の元幹部は「地熱はばくちの要素が大きく、企業としてリスクを取りにくかった」と振り返っています。結果として、国内の再エネ投資は開発期間が短く資金を回収しやすい太陽光に偏りました。
これを受けて政府は2020年度から、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が初期段階の資源調査を自ら担う仕組みを整えています。2020〜2023年度に全国74カ所で地表調査、8カ所で掘削調査を実施しました。民間企業の探査リスクを国が引き受ける、という発想です。
次世代地熱が開こうとしている市場
さらに、これまで使えなかった熱を活用する「次世代型地熱」への期待も高まっています。
資源エネルギー庁の次世代型地熱推進官民協議会の中間取りまとめ(2025年10月31日)によると、次世代型地熱のポテンシャルは77GW超。内訳はクローズドループ・EGS(涵養地熱系)で66GW、超臨界地熱で11GW以上とされています。従来型の資源量2,347万kW(23.5GW)と比べても、桁がひとつ違う規模です。
導入の見通しは、2040年に約1.4GW(140万kW)、2035〜2050年に約7.7GW(770万kW)。2030年代早期の運転開始を目指すとされています。発電コストの目標は12〜19円/kWh。従来型地熱の13.82〜36.81円/kWhと比べると、コスト面でも改善が見込まれています。
国際エネルギー機関(IEA)は、次世代型地熱の世界市場が2040年ごろに2,000億ドル(約31兆5,000億円)に達する可能性があると試算しています。
そして日本企業は、設備面で強みを持っています。日本地熱協会によると、東芝エネルギーシステムズ、富士電機、三菱重工業の3社で、累積納入実績ベースの世界の地熱タービンの7割近くを占めてきました。JFEスチールも耐食性のある鋼管を製造できます。発電事業者としてだけでなく、サプライヤーとしての活躍も期待されているわけです。
6. 企業がいまからできること
ここまで読んで、「結局うちは何をすればいいのか」と感じた方も多いと思いますので整理してみます。
まず、慌てて契約を変える必要はありませんGHGプロトコルの最終基準は2028年の公表見込みで、複数の算定方法が併存する方向に議論が動いています。いま持っている契約が直ちに無効になるわけではなく、既存の長期契約への経過措置(レガシー条項)も議論されています。
そのうえで、備えとして意味がありそうなのは次の3点です。
① 時間別の電力使用データを把握しておく
スマートメーターの30分値は、多くの事業者がすでに取得できる状態にあります。自社の消費が、どの時間帯にどれだけ偏っているのか。これを知らないと、そもそも何がどれだけ足りないのかを議論できません。最初の一歩としてはここが現実的です。
② 「夜の電気をどうするか」を論点として持っておく
昼の消費が中心の事業所なら、アワリーマッチングの影響は比較的小さい。一方、24時間操業や夜間の消費が大きい事業所では、夜間をどう埋めるかが課題になります。蓄電池を組み合わせるのか、安定電源の環境価値を調達するのか。選択肢は複数あります。
③ 証書とPPAの比率を見直す余地があるか考えておく
証書だけに頼った脱炭素は、将来の算定ルールで評価が厳しくなる可能性があります。すぐに切り替える話ではありませんが、次の契約更改のタイミングで検討する価値はあるでしょう。
私たちがお客様とお話ししていても、「再エネ100%のメニューに変えたけれど、それが何を意味するのかよくわからない」という声をいただくことがあります。今回の議論は、まさにその「意味」を問い直すものです。難しい話に見えますが、突き詰めれば「使った電気と、作られた電気を、どこまで厳密に結びつけるか」という、とてもシンプルな問いです。
まとめ
アワリーマッチングは、企業が使った電気と再エネ証書を1時間単位で突き合わせる考え方です。年間の合計で帳尻を合わせる現在の方法に比べると、はるかに厳しい要求になります。
GHGプロトコルのScope2改定では、この時間単位のマッチングと、証書が物理的に届きうる範囲からの調達を求める「デリバラビリティ」が主要な論点になりました。2026年1月まで延長されたパブリックコンサルテーションには56カ国から1,072件の意見が集まり、賛否は分かれています。独立基準委員会は改定案をそのまま採用せず、複数の報告手法を検討する方向に進んでいます。最終基準の公表見込みは2028年です。
ただ、SBTiの新基準では年間1,000万kWh以上を使う企業に時間単位の報告を求める動きが先行しています。日本の非化石証書は年度単位で管理され、発電時刻の情報を持たないため、制度面の対応も課題として残ります。
こうした流れのなかで再評価されているのが地熱発電です。1年を通じて安定して発電できる数少ない再エネであり、九州では企業との大型契約が相次いでいます。世界3位の資源量を持ちながら導入は2030年度目標の4割程度にとどまっていますが、次世代型地熱の目標も示され、潮目は変わりつつあります。
いますぐ契約を見直す必要はありません。まずは自社の時間別の電力使用を把握すること。そこから始めてみてはいかがでしょうか。
情熱電力からのお知らせ
「再エネメニューに切り替えたけれど、これで本当に大丈夫なのか」「時間別の使用量って、どうやって見ればいいの?」
こうしたご相談が、法人のお客様から増えています。国際的な算定ルールの話は複雑ですが、まず自社の電気の使い方を知るところからなら、今日からでも始められます。
情熱電力では、お客様の使用状況を一緒に確認しながら、何が必要で何が必要でないかを、できるだけわかりやすくご説明しています。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
この記事に関連するページリンク
・GHG Protocol(ghgprotocol.org):Scope 2 consultation
・資源エネルギー庁:次世代型地熱推進官民協議会
・資源エネルギー庁:地熱発電の推進に関する研究会
・自然エネルギー財団:転機を迎える「非化石証書」国際的な基準に合わせた改正を
・SBTi(sciencebasedtargets.org):「Corporate Net-Zero Standard V2」
・日本経済新聞/NIKKEI GX:地熱、アワリーマッチで再び脚光 眠る世界3位の資源量