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2025.12.25 Thu

革命?!空気で電気を貯める時代へ!住友重機械が挑む「液化空気蓄電(LDES)」と電力ビジネスの転換点

 
LDESのイメージ図
 
日本経済新聞に長期エネルギー貯蔵(LDES)に関する気になる記事があったので調べてみました。再生可能エネルギーの導入が進む一方で、いま大きな問題となっているのが、発電しても使いきれずに捨ててしまう「出力制御」の急増です。
これまでの蓄電ビジネスの主役はリチウムイオン電池でしたが、数時間程度の調整には向いているものの、季節をまたぐような長期的な貯蔵にはコストや劣化の面で課題がありました。そんな中、住友重機械工業が「空気を液体にして貯める」という画期的な設備の商用化に乗り出しました。これは単なる技術開発の話ではありません。日本の電力ビジネスの構造を根底から変える「LDES(長期エネルギー貯蔵)」時代の幕開けを告げるニュースです。本記事では、この新技術の正体と、電力ビジネスに携わる方が今知っておくべき「蓄電の新たな常識」を深掘りします。
 


 
目次
・「空気を冷やして液体にする」驚きの蓄電メカニズム
・なぜリチウムイオン電池だけでは不十分なのか?LDESの必要性
・効率50%の壁をどう超える?住友重機械の戦略と広島ガスの挑戦
・重力、CO2、岩石……百花繚乱のLDES技術が市場を塗り替える
・【注意喚起】日本の制度設計は間に合っているか?投資回収のハードル
・まとめ:再エネを「捨てる」から「使い倒す」時代へ
 


 
「空気を冷やして液体にする」驚きの蓄電メカニズム
住友重機械工業が英ハイビューパワー社と提携して進めているのは、「液化空気蓄電(LAES)」という技術です。
仕組みは驚くほど物理的です。余った再エネ電力を使って空気をマイナス190度まで冷却し、液体状態にします。液体になると空気の体積は700分の1にまで凝縮されるため、大規模な貯蔵が可能になります。電気が足りなくなったら、この液体を再び気体に戻し、その膨張エネルギーでタービンを回して発電します。
この技術の最大の武器は、100メガワット超の電力を1日以上保存できるという点にあります。
 
なぜリチウムイオン電池だけでは不十分なのか?LDESの必要性
現在、蓄電池市場を席巻しているリチウムイオン電池ですが、電力ビジネスを長期的に俯瞰すると、それだけでは「リスク」があります。
・放電時間の限界: リチウムイオン電池は数分〜数時間の微調整には最適ですが、半日以上の蓄電では自己放電によるロスやコスト効率が悪化します。
・資源リスク: レアメタルの価格高騰やサプライチェーンの不安がつきまといます。
・出力制御の深刻化: 現在、東電を除く9エリアで出力制御が頻発しています。夏に余った電気を冬に使う、あるいは晴天時の余剰を数日間保存するといった「長期エネルギー貯蔵(LDES)」がなければ、再エネ比率をこれ以上引き上げることは困難です。
 
効率50%の壁をどう超える?住友重機械の戦略と広島ガスの挑戦
液化空気蓄電の課題は、充放電効率が50〜60%程度に留まることです。80%を超えるリチウムイオン電池に比べると見劣りするように思えます。
しかし、住友重機械は広島ガスの廿日市工場に導入する国内初の商用設備において、LNG(液化天然ガス)の冷熱を活用する工夫を凝らしています。未利用の熱エネルギーを組み合わせることで、システム全体の効率を底上げし、商用ベースでの採算性を確保する狙いです。2025年内の稼働を目指しており、一般家庭80世帯分の1カ月分に相当する電力を蓄電できる能力を持ちます。
 
重力、CO2、岩石……百花繚乱のLDES技術が市場を塗り替える
LDESの世界では、液化空気以外にも革新的な技術が続々と登場しています。

技術カテゴリー 注目企業 エネルギー蓄積の仕組み
重力蓄電 TMEIC(三菱電機・東芝JV) 重りを高所に上げ、落とす際のエネルギーで発電。
CO2蓄電 日揮HD(伊エナジードーム提携) CO2をドームに貯め、液化・気化の過程で充放電。
岩石蓄熱 海外ベンチャー等 岩石に熱を蓄え、蒸気を作ってタービンを回す。

これらの技術は2020年代後半から続々と商用化フェーズに入ります。
 
【注意喚起】日本の制度制度は間に合っているか?
ここで、蓄電ビジネスに関心のある皆さまに注意していただきたい点があります。それは「投資回収の難易度」です。
LDESはリチウムイオン電池のように頻繁に充放電を繰り返すモデルではないため、現在の卸電力市場(スポット市場)の価格差だけでは、莫大な設備投資を回収するのが困難です。 英国やドイツでは、最低収入を保証する支援策が始まっていますが、日本でも2025年度から「長期脱炭素電源オークション」にLDES専用枠が新設されています。しかし、「落札後4年以内の運転開始」という厳しい条件があり、技術確立と建設期間のバランスをどう取るかが、事業者にとっての大きな壁となっているようです。
 
まとめ
住友重機械による液化空気蓄電の始動は、日本のエネルギー政策が「再エネを入れる」段階から「再エネを賢く貯めて使う」段階へ移行したことを象徴しています。 効率性や設置コスト、そして制度の動向。これらを総合的に見極める目を持つことが、これからの電力ビジネスで勝ち残る鍵となるでしょう。
 


 
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それではまた!!
 
この記事に関連するページ
・経済産業省:蓄電池以外のエネルギー貯蔵システム(LDES)の技術動向・課題整理
・LDES Council(グローバルなLDES推進団体):https://ldescouncil.com/