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2026.10.26 Mon

岩石蓄熱とは?東芝など3社が製紙工場で実証、電気を700℃の石にためて180℃の蒸気にする仕組み

 
製紙工場内に設置されたコンクリート製の蓄熱槽と、内部で熱を帯びた天然石による岩石蓄熱の仕組み
 
電気新聞に「岩石蓄熱、180度の蒸気に」という記事があったので調べてみました。
 
電気を熱に変えて、石にためる。そして必要なときに180℃の蒸気として取り出し、工場の乾燥工程に送り込む——という設備が、静岡県島田市の製紙工場で本格的に動き出しました。東芝・中部電力・新東海製紙の3社が、2026年10月14日に実証運転の開始を発表しています。
 
「電気をためる」と聞くと、多くの方はまず蓄電池を思い浮かべますよね。実際このブログでも、系統用蓄電池の話は何度も取り上げてきました。ただ、工場が本当に困っているのは電気そのものより「熱」だったりします。紙を乾かす、ものを煮る、焼く、蒸す。そこで使われているのは今も燃料を燃やしてつくる蒸気で、ここを脱炭素するのは簡単ではありません。
 
今回の設備は、その「熱の脱炭素」に正面から取り組むものです。しかも中身は、静岡県内で採ってきた天然石。加工もせず、ふるいで大きさをそろえて敷き詰めただけの石です。なぜ石なのか、どのくらいためられるのか、蓄電池と比べて安いのか。順番に見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 岩石蓄熱とは?電気を石にためて蒸気にする仕組み

 
岩石蓄熱は、その名のとおり「岩石に熱をためる」技術です。流れはとてもシンプルで、次の3段階になります。
 
・電気ヒーターで空気を熱する
・その熱い空気を蓄熱槽に送り込み、中に詰めた天然石を温める
・熱が必要になったら空気の流れを切り替え、槽の熱気を蒸気発生器へ送って蒸気をつくる
 
島田工場の設備では、この蒸気が約180℃になります。配管で工場に送られ、紙の水分を飛ばすロールを温める——つまり製紙の乾燥工程にそのまま使われます(電気新聞 2026年10月16日)。
 
ポイントは、電気を電気のまま保存していないところです。蓄電池は「電気→化学エネルギー→電気」と往復しますが、岩石蓄熱は「電気→熱」で止めてしまう。熱として使うなら、わざわざ電気に戻す必要はないですよね。工場が欲しいものが蒸気なのであれば、熱のまま置いておくほうが素直だという考え方です。
 
蓄熱材に石を選ぶ理由も、聞いてみると納得感があります。島田工場の蓄熱槽に入っているのは静岡県内で採取した天然石で、加工は一切していません。ふるいで大きさをそろえ、敷き詰めてあるだけ。だから材料費が安く済む、というのが3社の説明です(電気新聞)。レアメタルの調達リスクに悩まされてきた蓄電池とは、だいぶ事情が違います。
(情熱電力の過去記事:太陽光の分野でも蓄熱を使う技術が出てきています)
 


 

2. 新東海製紙・島田工場の実証設備を数字で見る

 
まず全体像を整理しておきます。
 

項目 内容
設置場所 新東海製紙 島田工場(静岡県島田市)
実施者 東芝/中部電力/新東海製紙(2024年の連携協定には島田市も参加)
熱容量 約10MWh(約1万kWh時)級。この組み合わせでは国内初の規模。約880世帯の1日分の電力使用量に相当
蓄熱温度 700℃級
取り出す熱 約180℃の蒸気。紙製造の乾燥工程で使用
電気の出どころ 島田工場内のバイオマス発電由来の電力を、工場の熱需要に合わせて活用
事業の枠組み 環境省 令和6年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択
期間と見通し 2026年度末まで実証。2027年度の社会実装を予定

出典:東芝・中部電力・新東海製紙の2026年10月14日発表、および電気新聞(2026年10月16日・同ウェブサイト)
 
 

 700℃の蓄熱槽と、約70トンの天然石

 
実物はかなり大きいようです。電気新聞の記者が10月14日の報道公開で見たところ、工場の片隅に長さ約9メートル、幅と高さが約4メートルの鉄筋コンクリート製の蓄熱槽が据えられていて、その内部に静岡県内で採取した約70トンもの天然石が詰め込まれているとのこと。
 
ここで技術的に効いてくるのが「700℃」という温度です。コンクリート製の槽としては極めて高い温度で、この構造健全性の検証を中部電力が担当しています。壁には約80カ所に温度センサーを埋め込み、高温部と低温部の境目を含めて挙動を確かめているそうです(電気新聞)。
 
設計上の工夫として、槽全体を一度に熱くしない点も挙げられています。空気の入り口側は高温、出口側は低温に保つ——出口側の送風機や配管まで高温に耐える仕様にすると、設備費がかさんでしまうからです。発表どおり設備の寿命がコンクリートで決まるのであれば30〜40年程度になる見込みで、これは蓄電池より長いですね。
 
 

 EMSが蓄熱と放熱のタイミングを決める

 
もうひとつの主役が、東芝のエネルギーマネジメント技術(EMS)です。10月13日から稼働しています。
 
EMSがやっているのは、工場の電力需給の見通しと熱需要の見通しを組み合わせて、「いつ蓄熱して、いつ放熱するか」の計画と運転タイミングを自動で決めることです。蒸気発生器や電気ヒーター、送風機までまとめて自動制御します。中央操作室の制御画面には、蓄熱量や放熱の計画、運転費用、CO2排出量などが表示されているとのことです。
 
ここに、ちょっと面白い技術的な課題が隠れています。蓄熱槽の中の温度分布は、外からは直接わかりません。そこで東芝は、解析データを機械学習させた低次元化モデル(ROM)という独自手法で、槽内の温度分布を高速・高精度に予測しているそうです。石の塊が相手でも、中で何が起きているかを「読む」ところが腕の見せどころ、というわけですね。
 
なお3社は2022年に、熱容量約500kWh時級の試験設備で予備的な実証を行い、蓄放熱の特性データと予測手法を先につくっています。いきなり1万kWh時級に挑んだわけではなく、20倍への段階的なスケールアップだと見ておくとよさそうです。
 


 

3. なぜ「熱」なのか。工場の脱炭素が電化だけで進まない理由

 
ここが、この実証のいちばん大事なところだと思っています。
 
日本ガス協会の資料「ガスファクト」によると、民生・産業部門のエネルギー消費およそ8,300PJのうち、熱が60.4%、電力が30.3%、原料などの非エネルギー利用が9.2%という内訳になっています(同資料の出典は資源エネルギー庁「エネルギー動向」2025年6月版ほか。産業部門だけを切り出した数字ではなく、民生と合算した値である点にご注意ください)。
 
※補足:PJ=ペタジュール。ジュールは熱量・エネルギーの単位で、1PJは1,000兆ジュールです。電気に換算すると1PJは約2億7,800万kWh、8,300PJなら約2兆3,000億kWh分にあたります(1kWh=3.6メガジュールで換算)。電気だけでなく、燃料として燃やした分も合わせた総エネルギー量なので、日本の年間電力消費よりずっと大きな数字になります。電気はkWh、灯油はリットル、都市ガスは立方メートルとバラバラのままでは熱と電気を比べられないため、すべてジュールに換算して並べています。
 
つまり、エネルギーの使われ方の大半は、実は電気ではなく熱です。そして工場の熱の多くは、今も燃料を燃やしてつくる蒸気でまかなわれています。「再エネの電気に切り替えました」だけでは、ここに手が届かないんですね。
(情熱電力の過去記事:CO2に値段がつく仕組みについてはこちらで解説しています)
 
一方で、再生可能エネルギー側には逆の悩みがあります。春や秋のように需要が軽い時期は、つくった電気が余ってしまい、太陽光や風力の出力が抑えられる(出力制御)場面が増えてきました。資源エネルギー庁の次世代電力系統ワーキンググループでも、この見通しが毎年議論されています。
 
余っている電気と、脱炭素したい熱。この2つをつなぐのが蓄熱という発想です。電気が余っている時間帯に石を温めておいて、工場が蒸気を欲しいときに出す。しかも島田工場の場合は、系統から買う電気ではなく工場内のバイオマス発電由来の電力を使うので、「発電のタイミング」と「熱が欲しいタイミング」のズレをこの設備が吸収する形になります。
 
効率についても数字が出ています。実証の目標は、投入した電力の7割以上に相当する分を取り出すこと。設備を納入した東芝の担当者は「熱だけを取り出す場合、蓄熱した直後に放熱すれば8割程度に達する」と話しています(電気新聞)。ためた熱は時間とともに逃げていくので、「ためてすぐ使う」ほど成績がよくなる、という素直な話ですね。
 


 

4. 蓄電池とどう違う?コストと使いどころを比べる

 
気になるのはお金の話ですよね。初期費用は公表されていませんが、電気新聞の取材に対して、同じ1万kWh時級の蓄電池と同程度だという説明がされています。そして蓄熱容量を増やしていくと——5万kWh時級になると天然石が安価に調達できるため——蓄電池よりも割安になると見込んでいるとのことです。
 
整理すると、こうなります。
 

比べる軸 岩石蓄熱 蓄電池
取り出せるもの 熱(蒸気)。島田工場では約180℃ 電気。そのまま売電・自家消費できる
主な材料 天然石とコンクリート。今回は県内産の石を無加工で使用 リチウムなどの資源。調達や経済安全保障の論点がある
初期費用 非公表。1万kWh時級では蓄電池と同程度とされる 価格の実績が積み上がっており、比較の基準になる
大容量化したとき 5万kWh時級では石が安く、蓄電池より割安になると3社は見込む 容量に比例してセル費用が増える
想定寿命 コンクリートで決まり30〜40年程度の見込み 充放電の回数に応じて劣化する
向いている場面 蒸気や温水を日常的に大量に使う工場 市場取引、調整力、停電対策など電気での活用

出典:電気新聞(2026年10月16日)、および東芝・中部電力・新東海製紙の2026年10月14日発表をもとに作成
 
どちらが優れているという話ではありません。欲しいものが電気なら蓄電池、欲しいものが蒸気なら蓄熱。設備の性格がそもそも違います。自社の使用実態が「電気が重いのか、熱が重いのか」を知っているかどうかで、検討の入り口が変わってくる、という理解でよいと思います。
 


 

5. いつから使える?商用化の時期と、法人が今できる準備

 
スケジュールははっきりしています。実証は2026年度末まで。そのうえで2027年度の社会実装が予定されています。電気新聞によれば、すでに繊維や化学、自動車など幅広い業界から引き合いが寄せられていて、顧客が投資を決めれば2027年度にも製品化できるとのことです。
 
残された検証課題もあわせて示されています。蓄熱槽と蒸気発生器、それをつなぐ配管をどう敷地に配置するか。国内の工場向けに、余裕のない敷地でも成立する置き方ができるか。材料費やCO2排出量をどこまで抑えられるか。このあたりが実証の後半で詰められていく見込みです。
 
では、工場や事業所をお持ちの方が今できることは何か。導入を決める段階にはまだ早いので、現実的には「自社の熱を把握しておく」ことに尽きると思います。
 
・年間で、どの設備がどれだけ蒸気や温水を使っているか
・必要な温度帯はどのくらいか(180℃前後で足りるのか、もっと高温が要るのか)
・蒸気が足りない時間帯、逆に余っている時間帯はいつか
・工場内に自家発電(太陽光・バイオマスなど)があるなら、その発電カーブと熱需要のズレはどれくらいか
 
このあたりが数字で言えるようになっていると、蓄熱に限らず、ヒートポンプでも燃料転換でも省エネ補助金の申請でも、そのまま使えます。逆にここが曖昧なままだと、どんな新技術が出てきても「うちに合うのか」が判断できません。技術の進み方より、自社のデータ整備のほうが先なんですよね。
 


 
まとめ
電気を700℃の石にため、180℃の蒸気として工場の乾燥工程に送る。東芝・中部電力・新東海製紙の3社が島田工場で始めた岩石蓄熱の実証は、熱容量約1万kWh時という国内初の規模で、約880世帯の1日分の電力使用量に相当します。中身は静岡県内で採った約70トンの天然石で、加工もせず敷き詰めただけ。レアメタルに頼らない点と、コンクリートで決まる30〜40年という寿命の見込みは、蓄電池にはない持ち味です。
 
効率の目標は投入電力の7割以上、熱だけを蓄熱直後に取り出せば8割程度。実証は2026年度末まで続き、2027年度の社会実装が予定されています。
 
この話のいちばんの含意は、脱炭素の主戦場が「電気」から「熱」へ広がってきたことだと思います。エネルギーの使われ方の多くは熱で、そこは再エネ電力への切り替えだけでは届きません。工場や事業所をお持ちの方は、まず自社の熱の使い方を数字でつかんでおく。技術の選択肢が増えていく局面では、その準備がそのまま判断力になります。
 


 
情熱電力からのお知らせ
情熱電力は長野県松本市の新電力として、工場や事業所にも電気を供給しています。
 
蓄熱のような設備を検討する段階になると、どうしても「自社がいつ、どれだけエネルギーを使っているか」という話から始まります。そのうちの電気の部分については、契約内容や使用実績をもとに、使い方とコストを整理するお手伝いができます。「基本料金がどう決まっているのか把握できていない」「電気代の内訳を一度見直したい」といったところからでも構いません。
 
電気料金や契約のご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。
 
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