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2026.09.14 Mon

国産ウナギの3割が「出所不明」?密漁・闇流通と完全養殖のいま

 
ウナギのイラスト
 
日経ビジネスに「国産ウナギ3割が出所不明 山田水産、国内初の完全養殖で闇流通打破」という記事があったので調べてみました。
 
土用の丑の日にウナギを食べる。日本人にとってはすっかりおなじみの習慣ですよね。スーパーの店頭に並ぶかば焼きを見て、「今年はちょっと高いな」「でも年に一度くらいは」なんて思われた方も多いのではないでしょうか。
 
ところが、その一尾がどこから来たのかを追いかけていくと、なかなか複雑な世界が広がっています。国内で流通するウナギのほとんどは養殖ものですが、その元になる稚魚「シラスウナギ」は今も天然の採捕に頼っています。そして水産庁のデータを見ると、漁師さんが届け出た採捕量と、実際に養殖池に入れられた量が、どうにも合わない。この差が、密漁や不透明な取引の存在を物語っているとされているのです。
 
一方で、長年「不可能」と言われてきた完全養殖の商業化に成功した企業も現れました。今回は、ウナギをめぐる流通の課題と、その先に見えてきた新しい可能性について、一緒に見ていきたいと思います。
 


 
目次

 


 

1. 私たちが食べているウナギは、ほぼすべて「養殖」

 
まず前提の整理から。国内で流通しているウナギは、日本を含む東アジア地域に生息する「ニホンウナギ」という品種です。
 
このニホンウナギ、生まれ故郷は日本から約2000キロ離れたマリアナ海溝付近だとされています。そこで産卵・ふ化した幼生が海流に乗って東アジアを回遊し、日本近海にたどり着くころには全長5センチほどの稚魚「シラスウナギ」になっている。それが河口や河川で10年ほどかけて親ウナギに育ち、再び産卵のためにマリアナ海溝付近へ戻っていく——という壮大な旅をしています。
 
ここで驚きの数字をひとつ。水産庁によると、2025年に捕れた国産ウナギのうち、川などで捕れる「天然もの」はわずか約0.08%。つまり、私たちが口にしているウナギのほぼすべては、天然のシラスウナギを漁師さんが採捕し、それを買い取った養鰻(ようまん)業者が養殖池で育てた養殖ウナギ、ということになります。
 
「養殖なんだから安定供給できるのでは?」と思われるかもしれません。ところがそうはいきません。スタート地点となる稚魚は、あくまで天然頼み。ウナギの生態系にはいまだ解明されていない点が多く、卵から稚魚を経て親ウナギまで育てる「完全養殖」は長年、極めて困難とされてきたからです。
 


 

2. 「白いダイヤ」と呼ばれる稚魚と、合わない数字

 
天然に依存している以上、シラスウナギの供給には当然、大きな波があります。不漁の年には価格が跳ね上がり、業界では「白いダイヤ」とも呼ばれてきました。
 
その高騰ぶりは、ちょっと想像を超えています。国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅危惧種に指定した2014年には、1キロ当たりの取引価格が一時300万円に到達。2017年には427万円と、いずれも同時期の金価格を上回ったとされています。5センチほどの透明な稚魚が、金より高い。ここまでの利権が生まれれば、当然、そこに群がる動きも出てきます。
 
 

 採捕量と池入れ量、約3割のズレ

それを物語るのが、国への報告量と、実際に養殖池へ放たれた量とのズレです。
 
水産庁によると、近年で最も不漁だった2024年の漁期(2023年11月~2024年5月)における国内のシラスウナギ採捕量は約5トン。これに対して池入れ量は約7.1トンと報告されています。差し引き約2.1トン、全体の約3割にあたる量の出所が確認できていない、ということになります。
 

漁期 国内採捕量(報告ベース) 池入れ量 差(出所不明分)
2024年漁期(2023年11月~2024年5月) 約5トン 約7.1トン 約2.1トン(約3割)
2026年漁期(2025年11月~2026年5月)※豊漁 輸出入を差し引いた上で 約1.2トン

※出所:水産庁のデータをもとに作成
 
注目したいのは、豊漁とされた2026年の漁期(2025年11月~2026年5月)でさえ、輸出入を差し引いても1.2トンものズレが生じているという点です。これらは未報告の非正規ルートで取引されたものとされ、水産庁は密漁や不正取引によるものだと見ています。
 
東海地方のある警察幹部は「長年、ウナギの稚魚は反社会的勢力のシノギ(資金供給源)の一部とされており、特に不漁期ほど密漁者は増え摘発は増える」と話しているそうです。夏の食卓に上がる一尾の裏側に、こうした構造があるというのは、なんとも複雑な気持ちになりますね。
 
 

 なぜズレは無くならないのか

もちろん、行政も手をこまねいていたわけではありません。政府は2023年、シラスウナギを漁業法上の「特定水産動植物」に指定して罰則を強化。採捕についても知事許可漁業の対象としました。多くの県では、出荷先を県内に限定したり、買い取り価格を安価に設定したりといったルールを設けたうえで、漁師さんに許可を出しています。
 
それでもズレが生まれ続けているのはなぜか。保全生態学を専門とする中央大学法学部の海部健三教授は、こう指摘しています。
 
・県が指定する場所にしか売れず、安く買いたたかれる地域では、より高い価格で買ってくれる県外の業者へ横流しする強い動機が生まれる
・それが数字に表れているのではないか
 
つまり、規制そのものが「正規ルートで売ると損をする」構造を生んでしまっている面がある、ということですね。ルールをつくれば解決、という単純な話ではないところに、この問題の難しさがあります。
 


 

3. 2023年、そして2025年12月。ルールはこう変わった

 
そんな中、大きな一歩となったのが2025年12月の制度変更です。この月から、シラスウナギが「水産流通適正化法」(特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律)の対象に追加されました。
 

時期 できごと
2010年 水産研究・教育機構が、ニホンウナギの完全養殖に世界で初めて成功
2014年 IUCNがニホンウナギを絶滅危惧種に指定(稚魚価格が1キロ300万円に高騰)
2023年 シラスウナギを漁業法上の特定水産動植物に指定、罰則強化・知事許可漁業化
2025年12月 水産流通適正化法の対象にシラスウナギを追加、届け出・漁獲番号の伝達を義務化

この改正のポイントは、採取から池入れまでに関わるすべての漁業者・流通業者に、行政への届け出が義務づけられたことです。取引の際には、漁師さんが自身の届け出番号と、取引日時などで構成された「漁獲番号」を伝達し、その記録を3年間保存することが求められます。
 
狙いはシンプルで、養殖業者が番号のない不正なシラスウナギを買えない仕組みをつくること。つまり、密漁品の「売り先」を断つわけです。海部教授も「最近では池入れ報告量に占める国内採捕量の割合がかなり伸びてきており、少しずつ是正されていくのではないか」と期待を示しています。
 
食品のトレーサビリティ(追跡可能性)という言葉、最近よく耳にしますよね。ウナギの世界でも、ようやく「どこから来たのか」を辿れる仕組みが動き始めた、ということになります。
 


 

4. 国内初の「完全養殖ウナギ」商業化という一手

 
規制によって流通を浄化していく——これがひとつのアプローチだとすれば、まったく別の角度から業界に一石を投じているのが、ウナギ養殖・加工大手の山田水産(大分県佐伯市)です。
 
同社は、卵から人工的にふ化させたウナギを親とし、その卵から稚魚を経て親ウナギに育てる「完全養殖」の商業化に、国内で初めてこぎつけました。
 
完全養殖のすごさは、天然の稚魚を一切採取しなくてよい点にあります。不漁期でも安定的な価格で提供できるうえ、そもそも稚魚を買わないのですから、密漁品が入り込む余地もありません。冒頭で見た「出所不明の3割」問題を、川上から断ち切れる可能性を持っているわけです。
 
ニホンウナギの完全養殖自体は、2010年に水産庁所管の水産研究・教育機構(横浜市)が世界で初めて成功しています。ただ、デリケートな幼生を人工的に育てるのは非常に難しく、生存率の低さが長年の課題でした。山田水産は2022年に同機構から技術移転を受け、民間で大量生産するための検証に協力。専門部門を置いて採卵や人工授精、ふ化などのノウハウを吸収し、2024年以降は年間1万匹以上の安定生産に成功しているといいます。
 
 

 支えたのは研究室ではなく現場の力

では、なぜ同社にそれができたのでしょうか。山田信太郎社長の言葉が印象的です。「私も含め多くの社員は研究者ではないが、ウナギと向き合ってきた時間は研究者よりも長い」。
 
同社は1973年に鮮魚運搬業として設立され、水産加工事業を経て1997年に養鰻業へ参入した企業です。一般的な養殖では、早く成長させるためにエサを多給し、病気になれば薬品を投与する手法がとられますが、同社は成長ホルモンや抗生剤などを使わない「無薬養鰻」にこだわってきました。
 
山田社長いわく、「ウナギが病気になる原因は、ウイルスや細菌よりも食べ過ぎとストレスで、人間と同じ。病気にさせなければ薬はいらない」。食べ過ぎとストレス、というのは耳が痛い方もいらっしゃるかもしれませんね。
 
そのために、鰻師(うなぎし)と呼ばれる現場の職人たちが、ウナギの泳ぎ方、エサの食べ方、養殖池の匂いといったわずかなサインを読み取り、データとして記録し続けてきました。この蓄積されたデータとストレスコントロールの技術こそが、繊細な幼生の生存率を高める工程で存分に発揮された、というわけです。
 
最先端の技術課題を解いたのが、実は何十年も積み上げてきた現場の観察力だった。ビジネスのヒントとしても、なかなか示唆に富む話だと思います。
 


 

5. 立ちはだかるコストの壁と、「安さ」を追わない選択

 
さらに同社は、育てたウナギを自社加工場でかば焼きにする一貫生産体制を敷いています。稚魚の育成から最終製品までを手掛けているからこそ、完全養殖の研究成果を「かば焼き」という商品の形で世に出すことができました。
 
イオンは2026年5月から7月20日にかけて、山田水産の完全養殖ウナギのかば焼きを試験販売。価格は1尾(131グラム)4860円からに設定されました。
 
ただ、ここで正直な数字が出てきます。山田水産によると、現状の完全養殖ウナギ1尾にかかる生産コストは、なんと2万4000円。販売価格の5倍近くですから、当然、採算は合っていません。今回の試験販売は、購入者へのアンケートで味や価格に対する評価を調査し、今後の開発に生かすことが目的とされています。
 

項目 内容
試験販売期間 2026年5月~7月20日(イオン)
販売価格 1尾(131グラム)4860円から
現状の生産コスト 1尾あたり約2万4000円
生産実績 2024年以降、年間1万匹以上を安定生産

興味深いのは、山田社長が大量生産による「価格破壊」には懐疑的だという点です。「安さを追求することは、これまでつくり上げてきたウナギの価値を下げることにもなりかねない」——そう冷静に受け止めています。
 
絶滅危惧種であるニホンウナギの完全養殖という持続可能性を武器に、目指すのは「いつでも安心してウナギが食べられる社会を実現するために業界構造を変え、食文化を守ること」。安売り競争ではなく、価値を守りながら供給を安定させる。ここに、この挑戦の本質があるように思います。
 


 

6. 消費者としてできること

 
とはいえ、私たち消費者にできることはあるのでしょうか。正直、目の前のパックを見ただけで密漁品かどうかを見分けるのは不可能です。
 
それでも、次のような視点は持てるかもしれません。
 
・「安ければいい」だけで選ばない——極端な安さの裏側には、誰かが負担している何かがあるかもしれない
・産地や生産者の情報を開示している商品を選ぶ——トレーサビリティを重視する事業者を、購買という形で応援できる
・完全養殖のような新しい取り組みを知っておく——今は高価でも、消費者の関心が集まれば技術は前に進む
・「年に一度、いいものを味わう」という付き合い方も選択肢のひとつ
 
こう並べてみると、これはウナギに限った話ではありませんよね。安さの追求が行きすぎたとき、どこかにひずみが生まれる。そのひずみが、資源の枯渇だったり、不透明な流通だったりする。逆に、多少コストがかかっても持続可能な仕組みに切り替えていく努力が、長い目で見れば私たちの選択肢を守ってくれる。
 
密漁リスクや不透明な流通、安売り競争の波に翻弄されやすいウナギ業界において、山田水産は完全養殖への挑戦を通して新たな市場と価値を切り開こうとしています。日本の食文化を持続可能な未来へと導けるか。その道標となる可能性を秘めた取り組みだと言えそうです。
 


 
まとめ
今回は、ウナギをめぐる流通の課題と完全養殖の商業化について見てきました。あらためて要点を整理します。
 
国内で流通するウナギのほぼすべては養殖もので、その元になる稚魚シラスウナギは今も天然の採捕に依存しています。水産庁のデータによれば、2024年の漁期では採捕報告量約5トンに対し池入れ量が約7.1トン。約3割にあたる2.1トンの出所が確認できておらず、密漁や不正取引によるものと見られています。豊漁だった2026年漁期でも約1.2トンのズレが残りました。
 
これに対し、2023年の漁業法上の指定・罰則強化に続き、2025年12月には水産流通適正化法の対象にシラスウナギが追加され、届け出と漁獲番号の伝達が義務化されました。不正な稚魚の「売り先」を断つ仕組みが動き始めています。
 
そしてもうひとつの道が、山田水産による国内初の完全養殖ウナギの商業化です。1尾あたり2万4000円という生産コストの壁は残るものの、天然稚魚に頼らない供給という選択肢が現実のものになりつつあります。
 
安さだけを追いかけると、どこかにひずみが生まれる。ウナギの話は、私たちの暮らしを支えるさまざまな仕組みにも通じる、大事な視点を教えてくれているような気がします。
 


 
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