政府が決めた「パワーGX」とは?原油の調達分散と、エネルギー自給率16.4%という日本の現実

日本経済新聞に「原油調達「過渡期」の支援 政府のエネ政策、GXとの整合性が論点」という記事があったので調べてみました。
2026年8月26日、政府はGX実行会議で、中東情勢を踏まえたエネルギー政策の総合パッケージを決定しました。ニュースでは「パワーGX」という耳慣れない言葉が飛び交っていましたが、正直なところ「で、結局これは何なの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
ざっくり言うと、今回の決定は「当面は石油をきちんと確保する。ただし、石油に頼る量そのものは減らしていく」という、一見すると矛盾しているようで実はセットになっている二本立ての方針です。
ホルムズ海峡の問題は、当ブログでも何度か取り上げてきました。今回はそこに国としての答えが一つ出た、という節目にあたります。少し硬い話になりますがお付き合いいただければと思います。
目次
- 1. 政府が決めた「パワーGX」とは何か
- 2. なぜいま「原油の調達先分散」なのか
- 3. 数字で見る日本のエネルギー自給率16.4%
- 4. 「過渡期」の先に描かれている絵
- 5. 積み残された課題──ナフサ備蓄は見送りに
- 6. この決定は、私たちの電気代にどう響くのか
1. 政府が決めた「パワーGX」とは何か
2026年8月26日、政府はグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議を開き、中東情勢を踏まえたエネルギー政策の総合パッケージを正式に決定しました。
高市早苗首相はこの場で、2つの強靱化の観点からパワーアップさせ「パワーGX」として強力に進める、と述べています。新しい制度の名前というより、既存のGX政策に「エネルギー安全保障」の視点を足して束ね直した、という理解が近そうです。
その中身は、化石燃料について次の2つを政策の柱に据えたことに集約されます。
・調達リスクの抑制(当面、石油を安定して確保する)
・依存度の低減(中長期では、化石燃料に頼る量を減らす)
一見すると逆を向いた方針に見えますが、経済産業省の幹部は「あくまでGXに移行する途中の取り組みで、脱炭素を目指す方針は揺るがない」と説明しています。つまり石油の確保はゴールではなく「過渡期」の措置である、という位置づけです。
2. なぜいま「原油の調達先分散」なのか
ホルムズ海峡に9割超を頼っていた
今回のパッケージの中心は、原油の輸入先の分散やパイプラインの建設支援といった、化石燃料の安定供給対策です。
背景にあるのは、言うまでもなくホルムズ海峡の実質封鎖です。日本は原油の9割超をホルムズ海峡経由に依存していました。9割超という数字は、裏を返せば「ここが止まったら代わりがほとんどない」ということでもあります。今回の事態は、その脆弱さをはっきりと浮き彫りにしました。
(情熱電力の過去記事:ホルムズ海峡の現状については、こちらで詳しく整理しています)
一本の海峡に国のエネルギーの大半がぶら下がっている状態は、平時には効率的でも、有事にはあまりに危うい。今回の政策転換は、その反省から出てきたものと言えます。
新しい交付金制度のしくみ
経済産業省は、石油元売り企業などに対して、ホルムズ海峡を通らない原油の代替調達を促すため、新たな交付金制度を創設する方針です。
しくみとしては、事業者から集めた納付金を原資として、代替調達に取り組む企業へ交付金を支給する形が想定されています。業界内でお金を回して、リスクの高いルートから離れる動きを後押しする、という設計ですね。
詳細な制度設計はこれから詰める段階で、秋の臨時国会への新法案提出を目指すとされています。裏を返せば、まだ確定した制度ではありません。ここは続報を待ちたいところです。
3. 数字で見る日本のエネルギー自給率16.4%
ここで、日本の立ち位置を数字で確認しておきましょう。
国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年時点の日本のエネルギー自給率は16.4%で、主要7カ国(G7)の中で最も低い水準です。経済協力開発機構(OECD)諸国で見ても、ルクセンブルクに次いで2番目に低いとされています。
理由はシンプルで、火力発電への依存度が高く、その燃料のほぼすべてを輸入しているからです。カナダのように自国の資源で必要量を大きく上回る国もあれば、日本のように8割以上を外から買っている国もある。同じG7でも、この差はかなり大きいものがあります。
そして政府は、2025年に閣議決定した現行のエネルギー基本計画で、2040年度の電源構成について次の目標を掲げています。
| 電源 | 2040年度の目標比率 |
|---|---|
| 再生可能エネルギー | 4〜5割 |
| 原子力 | 2割 |
合わせて6〜7割を脱炭素電源でまかなう、という絵です。この数字を達成できれば自給率も自然と上がっていく、という関係になっています。
4. 「過渡期」の先に描かれている絵
再生可能エネルギーと原子力で7割へ
温暖化ガスの排出実質ゼロは2050年の目標ですから、予定通りに進んでも、あと20年以上かかります。その間、すぐに化石燃料を使わなくなるわけではありません。当面は発電に天然ガスを燃やす必要がありますし、自動車の多くはまだガソリンで動いています。
だからこそ「過渡期」という言葉が使われているわけですが、この期間をどう過ごすかで、その先の姿はかなり変わってきます。
ペロブスカイト・次世代地熱・洋上風力
化石燃料への依存を下げる具体策として、今回のパッケージにはペロブスカイト太陽電池、次世代地熱、洋上風力の導入を進める方針が明記されました。
いずれも日本の地理的な条件と相性がよいとされる技術です。ペロブスカイト太陽電池は軽くて曲げられるため、これまで設置が難しかった建物の壁面などにも使えます。
(参考 情熱電力の過去記事:ペロブスカイト太陽電池の国内の進捗はこちら)
地熱は火山国である日本の資源量が世界でも有数ですし、洋上風力は四方を海に囲まれた立地を生かせます。
加えて、運転開始から年数がたった原子力発電所を2040年代までに最大5基建て替える目標も、あらためて打ち出されました。
5. 積み残された課題──ナフサ備蓄は見送りに
一方で、今回のパッケージには積み残された課題もあります。
供給の途絶が危ぶまれたナフサ(粗製ガソリン)について、ナフサそのものを備蓄する仕組みの導入は見送られました。ナフサは石油化学製品の原料で、プラスチックや樹脂の出発点になる物質です。
代わりに、石油の国家備蓄でナフサ分を考慮することになりました。これまでは備蓄日数の算定制度上、対象外だった部分です。経済産業省は今後、ナフサ由来の化学製品の供給対策として、樹脂などの中間材料の在庫を増やすといった具体策を検討する方向とされています。
原油そのものより、その先の製品の方が生活に近い場面も多くあります。ここは引き続き注視したい論点です。
6. この決定は、私たちの電気代にどう響くのか
最後に、いちばん気になるところに触れておきます。
正直に申し上げると、今回のパッケージは「電気代をすぐ下げる」ための施策ではありません。交付金制度も制度設計はこれからで、法案が通るのは早くても秋以降です。今月・来月の請求額が変わるという性質のものではないことは、はっきりさせておきたいと思います。
では意味がないのかというと、そうではありません。調達ルートが分散されれば、どこか一本が止まったときの衝撃は小さくなります。電気料金が跳ね上がる最大の要因は燃料価格の急変ですから、「急に上がりにくくする」方向に効いてくる施策だと考えられます。
そしてもう一段長い目で見れば、自給率16.4%という数字をどこまで押し上げられるかが、日本の電気代の安定を左右します。輸入に頼る比率が下がるほど、海外の情勢に振り回されにくくなるからです。今回の決定は、その長い道のりの途中経過にあたるものと言えるでしょう。
まとめ
2026年8月26日に政府が決定したエネルギー政策の総合パッケージ「パワーGX」は、化石燃料について「調達リスクの抑制」と「依存度の低減」という2つの柱を掲げたものでした。
短期的には、ホルムズ海峡を通らない原油の代替調達を促す新たな交付金制度を創設し、秋の臨時国会への法案提出を目指します。中長期的には、2040年度に再生可能エネルギーで4〜5割、原子力で2割という電源構成を目指し、ペロブスカイト太陽電池や次世代地熱、洋上風力の導入を進める方針です。
その背景にあるのが、IEAの示す自給率16.4%という数字です。G7で最下位という現実を前に、当面の安定確保と将来の脱炭素を両立させようという舵取りが始まりました。
ナフサ備蓄の見送りなど積み残しもあり、制度の詳細もこれからです。それでも、一本の海峡に依存し続ける状態から抜け出す方向に国が動き出したこと自体は、私たち電力に関わる者にとって大きな意味を持ちます。長野県内でも、電気代の先行きを気にされる声は日に日に増えています。続報が出たら、またこのブログで取り上げていきます。
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この記事に関連するページリンク
・内閣官房:GX実行会議
┗ 今回のパッケージを含む、会議の配布資料と決定事項の原文が確認できます
・経済産業省:我が国のGX実現に向けて
・資源エネルギー庁:石油備蓄の現況
┗ 国家備蓄・民間備蓄のしくみと現在の備蓄日数が確認できます
・資源エネルギー庁:エネルギー基本計画について
┗ 2040年度の電源構成目標を含む、国のエネルギー政策の全体像が読めます
・日本経済新聞:原油調達「過渡期」の支援 政府のエネ政策、GXとの整合性が論点
┗ 今回の元記事および関連の解説記事が読めます