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2026.09.22 Tue

卸電力価格が日欧で3割上昇。IEA中間報告に見るガス火力のコストと、法人の電気代への影響

 
日本と欧州で上昇し米国と豪州で横ばい以下となった卸電力価格の国際比較とガス火力発電
 
電気新聞に「日欧で卸電力3割上昇 ホルムズ封鎖 ガス火力コスト増で」という記事があったので調べてみました。元になっているのは、国際エネルギー機関(IEA)が2026年7月に公表した「Electricity Mid-Year Update 2026(電力に関する2026年中間報告)」です。
 
そこに書かれていたのは、2026年4〜6月の平均卸電力価格が、日本とEUで前年同期を3割以上上回った、という数字でした。燃料が高いのだから電気も高い。そう言ってしまえばそれまでなのですが、面白いのはここからです。同じ時期、米国の卸電力価格は前年とほぼ変わらず、オーストラリアにいたっては約45%も下がっていました。
 
世界中が同じLNG高に直面しているのに、電気の値段の動き方はまるで違う。この差はどこから来るのか。そして、卸電力市場で起きていることは、法人のお客さまの電気料金にどんな順番で届いてくるのか。数字の出どころを確かめながら、順を追って見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. IEA中間報告が示した「日欧3割上昇」とは

 
IEAが2026年7月23日に公表した「Electricity Mid-Year Update 2026」には、こう書かれています。2026年第2四半期(4〜6月)の平均スポット卸電力価格は、EUと日本で前年同期比30%を超える上昇となった、と。
 
その原因としてIEAが挙げているのが、ホルムズ海峡を通るLNGの流れが止まったことです。同報告は「世界のLNG供給の2割近くが一時的に失われた」とし、それによってアジアと欧州の天然ガス価格が「2022〜23年のエネルギー危機以来の高値」まで押し上げられた、と説明しています。
 
そして、そのガス高がそのまま電気の卸値に転嫁された。電気新聞はこの構図を「ガス火力発電コストが上昇して卸電力価格を押し上げた」とまとめています。
 
各国・地域の上昇率を並べると、次のようになります。
 

国・地域 2026年4〜6月の平均卸電力価格(前年同期比)
日本 約33%の上昇
EU平均 約33%の上昇
ドイツ 約38%の上昇
フランス 約58%の上昇
米国 前年とほぼ同水準
インド 10%未満の上昇
オーストラリア 約45%の下落

出典について補足しておきます。IEA「Electricity Mid-Year Update 2026」(2026年7月公表)の要旨に明記されているのは、EUと日本が「30%超の上昇」、米国が「前年とほぼ変わらず」、インドが「10%未満の上昇」、オーストラリアが「約45%低い水準」という表現です。日本・EU・ドイツ・フランスの個別の数値(33%・33%・38%・58%)は、電気新聞2026年9月8日付の報道によるものです。記事に掲載されていた本文や注記に明記された数字だけを使用しています。
 


 

2. なぜガス火力のコストが卸電力価格を決めるのか

 
同じ燃料高なのに、なぜ国によってこれだけ差が出るのか。IEAはその理由を、各国・地域の電源構成と柔軟性の違いにあると総括しています。少し仕組みの話になりますが、ここが分かると今後のニュースの読み方が変わります。
 
 

電源構成が価格の振れ幅を決める

卸電力市場の価格は、ざっくり言えば「その時間帯に最後に動いた発電所の燃料費」で決まります。需要が増えていくと、発電コストの安い電源から順番に動かしていき、足りない分を高い電源で埋める。その最後の1台がガス火力なら、ガスの値段がそのまま市場価格になる、というイメージです。
 
つまり、ガス火力が電源構成に占める割合が大きい国ほど、LNG価格の変動が電気の卸値に直結します。
 
日本の場合、資源エネルギー庁の「令和5年度(2023年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」によると、発電電力量に占めるLNG(天然ガス)火力の割合は32.9%。石炭火力が28.3%、再生可能エネルギーが22.9%、原子力が8.5%と続きます。電気新聞が「天然ガス火力が発電電力量全体の約3割を占める」と書いているのは、この数字のことですね。
 
3割がガスということは、需要が伸びる時間帯の「最後の1台」はかなりの頻度でガス火力になります。LNGが高くなれば、卸値も素直に上がる。日本の卸電力価格がLNG価格に敏感なのは、この構造そのものが理由です。
 
 

ホルムズ依存はわずか6.3%、それでも効く理由

ここで、多くの方が引っかかるであろう数字に触れておきます。
 
日本のLNG輸入のうち、ホルムズ海峡を通ってくる量は年間約400万トン。全体に占める割合は6.3%にとどまります(2025年の貿易統計をもとにした資源エネルギー庁の資料、およびジェトロの報道による)。カタール産のシェアも5.3%です。
 
6.3%なら残りの9割以上は無事なのだから、そこまで困らないのでは。そう考えたくなります。ところが実際には、日本の卸電力価格は3割上がりました。
 
理由は、LNGが世界でひとつながりの市場だからです。IEAが言うように、世界全体の供給の2割近くが一時的に消えると、その穴を埋めようとする買い手が一斉に市場に出てきます。欧州も、アジアの他の国も、同じスポットカーゴを取り合う。日本が直接ホルムズ海峡から買っていなくても、価格そのものが世界中で吊り上がるため、輸入ルートが無事でも調達単価は上がってしまうのです。
 
「うちは中東から買っていないから大丈夫」が通用しない。ここが、LNGという燃料の厄介なところです。
(情熱電力の過去記事:ホルムズ海峡の現状については、こちらで業界目線から整理しています
 


 

3. 米国・インド・豪州との差はどこから生まれたか

 
では、値上がりを免れた国は何が違ったのでしょうか。
 
米国は、天然ガスの自給率が100%を超えます。国内で採れたガスを国内で燃やしているので、アジアや欧州のスポット価格がいくら跳ねても、発電コストへの跳ね返りは限定的です。結果として、第2四半期の平均卸電力価格は前年とほぼ同水準にとどまりました。
 
インドは、そもそも発電に占めるLNGの比率が小さい国です。価格ショックの入り口が狭いぶん、上昇率も10%未満で収まりました。
 
そしてオーストラリアは、約45%の下落です。電気新聞は、再生可能エネルギーによる発電量の拡大に加えて蓄電池の設置が急速に進んだことで、需要ピーク時にガス火力へ頼る度合いが下がったことが背景にある、と伝えています。
 
先ほどの「最後の1台」の話を思い出してください。ピーク時に動く最後の1台がガス火力ではなく蓄電池に置き換わっていけば、その時間帯の市場価格はガスの値段から切り離されていきます。燃料が高いときに価格が下がる、という一見不思議な現象は、こうして起こります。
 
日本の自給率が低いという話は以前から何度も出てきますが、今回の数字を並べると、効いている要素が2つあることが見えてきます。ひとつは、限界電源の燃料をいくらで買えるか。米国が値上がりを免れたのは、国内のガス価格がアジアのスポット価格と切り離されていたからで、これは自給率の話です。もうひとつは、その燃料価格が卸値にどれだけ伝わるか。オーストラリアが下落したのは、ピーク時の最後の1台がガス火力から蓄電池に置き換わりつつあるからで、これは電源構成の話です。日本は、この2つがどちらも不利な側に立っています。
 


 

4. 法人の電気代への影響はいつ出るのか

 
ここからは、事業者の皆さまにとっての実務の話です。
 
卸電力価格が上がったからといって、翌月の請求書がすぐ3割増える、というわけではありません。契約している料金プランによって、効いてくる速さと大きさがまったく変わります。
 

料金の形 卸電力価格の上昇がどう効くか
市場連動型(30分単位) 当月の使用分にそのまま反映される。最も速く、振れ幅も大きい
市場連動型(月次連動) 月ごとの平均価格で反映。日々の乱高下はならされるが、方向は同じ
固定単価+燃料費調整 燃料価格の平均値をもとに、2〜5カ月ほど遅れて反映される
完全固定単価 契約期間中は単価が動かない。影響は電力会社側が負う

(情熱電力の過去記事:法人契約で市場連動型を選ぶときのリスクは、こちらで詳しく解説しています
 
注意していただきたいのは、遅れて効くタイプほど「今は静かだから大丈夫」と見えてしまう点です。燃料費調整は、燃料価格の平均をとって数カ月後の請求に乗せる仕組みですから、4〜6月に起きたことが手元に届くのは秋以降になります。今の請求書が落ち着いて見えても、それは影響がないという意味ではありません。
 
もうひとつ。IEAの同じ報告では、世界の電力需要が2026年に3.6%、2027年にさらに3.8%伸びると見込んでいます。再生可能エネルギーが2026年に石炭を抜いて世界最大の電源になる見通しも示されました。燃料高と需要増が同時に進む局面では、価格は下がりにくい方向に傾きます。
 


 

5. 事業者が今から備えられる3つのこと

 
大きな地政学の話を聞いても、自社で打てる手がなければ意味がありません。今日から動かせるところを3つに絞ります。
 
・契約の「形」を確認する まずは請求書と契約書を開いて、自社の料金が上の表のどれに当たるかを確かめてください。市場連動なのか、燃料費調整付きの固定単価なのか。ここが分からないままだと、値上がりが来ても原因が特定できません。
 
・ピーク時間帯の使い方を見直す 卸電力価格が跳ねるのは、需要が集中して高い電源まで動員される時間帯です。設備の起動時刻をずらす、空調の設定を少し見直すといった調整でも、高い時間帯の使用量が減れば効き目があります。オーストラリアの例は、ピークをどう埋めるかが価格を決めるという話でもありました。
 
・数カ月先を見た資金計画を立てる 燃料費調整のタイムラグを考えると、今期の予算は「今の単価」ではなく「数カ月後に来る単価」で組んでおくほうが安全です。年度後半の電気代を少し厚めに見ておく。それだけでも、資金繰りの驚きはかなり減らせます。
 


 
まとめ
IEAの2026年中間報告が示したのは、2026年4〜6月の平均卸電力価格が日本とEUで前年同期比3割超の上昇、一方で米国はほぼ横ばい、オーストラリアは約45%下落という、くっきり分かれた結果でした。
 
差を生んだのは2つの層です。限界電源の燃料をいくらで買えるかという自給率の問題と、その燃料価格が卸値にどれだけ伝わるかという電源構成の問題。米国は前者で、豪州は後者で値上がりを免れました。ガス火力が3割を占め燃料をほぼ輸入に頼る日本は、どちらの守りも持っていません。
 
事業者にとって大事なのは、この上昇が自社の電気代にいつ届くかです。市場連動なら即座に、燃料費調整付きなら数カ月遅れて効いてきます。今の請求書が落ち着いていることは、影響がない証明にはなりません。
 
まずは契約の形を確認し、ピーク時間帯の使い方を見直し、年度後半の電気代を少し厚めに見積もっておく。派手さはありませんが、この3つが効きます。
 


 
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この記事に関連するページリンク
・IEA(国際エネルギー機関):電力に関する2026年中間報告 エグゼクティブサマリー
・資源エネルギー庁:LNGをめぐる動向と電力・ガスの安定供給について