蓄電池は「コスト」から「投資」へ——国の試算が示した採算ラインと、いま動いているお金

資源エネルギー庁のスペシャルコンテンツ「エネこれ」に『知っているようで知らない「蓄電池」——なぜ今、導入が広がっているの? どんな役割があるの?』という記事があったので、調べてみました。
蓄電池という言葉は、たぶん誰でも知っていますよね。スマホの中にも入っていますし、モバイルバッテリーを持ち歩いている方も多いはずです。「電気を溜めておくもの」——その理解で間違いではありません。
ただ、わたしたちが日々お客様とお話ししていて感じるのは、そこから先がほとんど知られていない、ということです。蓄電池がいま、電力システムの中でどんな役割を任されつつあるのか。そして——ここがいちばんお伝えしたいところなのですが——蓄電池が「非常時にしか使わない備え」から「毎日の充放電で、かけた費用を少しずつ取り戻していく設備」へと、性格を変えつつあること。買って置いておく“保険”ではなく、置いたあとに働いてもらう“設備投資”として考えられるようになってきた、という言い方のほうが近いかもしれません。
このブログでは系統用蓄電池のビジネスを何度も扱ってきましたが、今回は少し引いた目線で、事業所やご家庭に置く蓄電池の採算まで含めて整理してみます。今すぐ導入を検討されていなくても構いません。頭の片隅に置いておいていただけたら、それでうれしいです。
目次
- 1. 蓄電池とは?「電気を溜める箱」で終わらない3つの役割
- 2. なぜ今なのか——春に起きている「もったいない」の正体
- 3. 蓄電池で電気代が下がる仕組みと、収益の出どころ
- 4. いくらになれば投資として成り立つのか——国の試算が示した分かれ目
- 5. お金はもう動き出している——オークションに並んだ「溜める設備」
1. 蓄電池とは?「電気を溜める箱」で終わらない3つの役割
蓄電池は、充電と放電をくり返して使える電池のことです。エネこれの記事でも、スマートフォンの内蔵電池やモバイルバッテリーが身近な例として挙げられています。ここは、たぶん多くの方のイメージどおりだと思います。
知られていないのは、そこから先です。置いて動かさない「定置用蓄電システム」が、いま電力システムの中で3つの立ち位置に分かれて広がっている、という話になります。
系統用・再エネ併設・需要家側
資源エネルギー庁は、定置用蓄電システムを次の3つに分類しています。
・系統用:電力網そのものにつながり、電気が余るときに蓄え、足りないときに放出する。電力系統全体の安定化を担う
・再エネ併設:太陽光発電所や風力発電所に併設し、発電した電気を必要な時間帯にまわして送る
・需要家側設置(家庭用・業務産業用):工場や事業所、ご家庭に置く。太陽光と組み合わせて電気代の削減に使えるほか、停電時の備えにもなる
ご家庭や事業所に置く3つ目だけが「蓄電池」だと思われがちですが、実際にはいちばん上の系統用が、いま最も勢いよく増えている分野です。発電所でも送電線でもない、これまで電力システムになかった種類の設備が、新しく積み上がりつつある——そう捉えていただくのが近いと思います。
2. なぜ今なのか——春に起きている「もったいない」の正体
電気には、ほかの商品にない厄介な制約があります。使う量と発電する量を、常にぴったり一致させなければならない。売れ残った分を倉庫に置いておく、ということができないからです。
ところが太陽光や風力は、天候や時間帯で発電量が変わります。しかも、よく晴れた日にたくさん発電してくれるのは、必ずしも電気がたくさん必要な日とはかぎりません。
いちばんわかりやすいのが春です。エネこれの記事でも触れられていますが、4月から5月は日照時間が長く太陽光がよく発電する一方、冷房も暖房もあまり使わないため、電気の使用量は年間でいちばん少ない水準まで落ちます。発電が多く、需要が少ない。そうなると、せっかく発電できる再生可能エネルギーの出力を抑える「出力制御」が必要になってしまいます。
この「もったいない」を減らせるのが蓄電池です。余った電気をその場で捨てるのではなく溜めておいて、足りない時間帯に放出する。それだけで、需給のバランス調整にも、再エネを無駄にしないことにも、同時に効いてきます。
そして、この話は今後さらに重くなります。国は2040年度の電源構成について、再生可能エネルギーの割合を4〜5割程度とする見通しを示しています。天候まかせの電源が全体の半分近くを占める世界では、「溜めておける設備」がどれだけあるかが、電力システムの成立条件そのものになっていきます。
3. 蓄電池で電気代が下がる仕組みと、収益の出どころ
では、事業所やご家庭に置いた蓄電池は、どうやって電気代を下げるのでしょうか。
基本は単純で、電気が高い時間帯・需要がピークになる時間帯に、買う電気を減らすことです。安い時間帯や太陽光が余っている時間帯に充電しておき、高い時間帯に蓄電池から使う。電力会社から買う量そのものが減りますから、その分だけ請求が軽くなります。
高圧で契約されている事業所の場合は、もうひとつ効きどころがあります。基本料金です。高圧の基本料金はその月のピーク需要(最大需要電力)で決まる仕組みのため、ピークの時間帯だけ蓄電池で肩代わりできれば、使った総量が同じでも基本料金を押し下げられます。従量料金の削減とは別の、いわば二段目の効果ですね。
ディマンド・リスポンス(DR)という考え方
こうした、需要側の工夫で電力の需給バランスに協力する取り組みを、ディマンド・リスポンス(DR)と呼びます。エネこれの記事でも、蓄電池を使ったDRのイメージが紹介されています。
聞き慣れない言葉だと思うので、少し噛み砕いておきますね。ディマンド・リスポンスは直訳すると「需要(ディマンド)の応答(リスポンス)」。電気が足りなければ発電所を動かして合わせる、というのが長らくの前提でしたが、そうではなく、使う側が使い方を変えて応えましょう、という発想です。資源エネルギー庁は、需要家が「使う量や時間をコントロールすることで、電力需要のパターンを変化させること」と説明しています。
方向は2つあります。
・下げDR:需要がふくらむ時間帯(夕方の15時〜18時頃など)に、使用を控えたり蓄電池から放電したりして、電力会社から買う量を減らす
・上げDR:春や秋の昼間のように太陽光が余りそうな時間帯に、あえて充電したり電気を使ったりして、余りそうな電気を引き受ける
2章で触れた出力制御の話は、まさに上げDRの出番です。発電が多すぎて抑えるしかない時間帯に、使ってくれる先があれば、抑えずに済む。昔ながらの「節電のお願い」が下げDRの一種だとすれば、上げDRはその逆向きの協力、ということになります。
そして蓄電池が面白いのは、この両方を1台でこなせることです。昼に余った電気を引き受けて充電し(上げDR)、夕方のピークにその電気を放電する(下げDR)。しかも下げDRのほうは、我慢して使用を控えるのではなく、蓄電池に肩代わりさせるだけなので、仕事も暮らしも止まりません。「節電=我慢」という前提から外れられるのが、蓄電池を使ったDRのいちばんの強みだと思います。
ここが、冒頭で申し上げた「性格の変化」にあたる部分です。これまでの蓄電池は、BCP対策——つまり災害や停電への備えとしての位置づけが中心でした。あったほうがいいのは間違いないけれど、費用をかけて導入しても、出番は非常時だけ。会計のうえでは、どうしてもコストとして扱われます。
一方、DRや市場取引に日々の運用を預ける蓄電池は、平時にも働きます。電気代の削減だけでなく、調整力や供給力として評価されることで、収入の側にも乗ってくる。非常時の備えであることは変わらないまま、投資として回収を考えられる対象に変わりつつある——これが、いま現場で起きていることです。
(情熱電力の過去記事:ご家庭の蓄電池が電力市場に参加できるようになる制度については、こちらで解説しています)
もちろん、「置けば自動的に儲かる」という話ではありません。どこまで本当なのか、国の試算を見てみましょう。
4. いくらになれば投資として成り立つのか——国の試算が示した分かれ目
経済産業省の「分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ」(第2回・2026年3月6日)に、需要家側蓄電システムの収益性を試算した資料が提出されています。業務・産業用を対象に、運用期間20年・IRR(内部収益率)10%以上を「経済性あり」と置いて評価したものです。
試算の主な前提は次のとおりです。数字の意味を掴んでいただくために、代表的なものだけ並べます。
| 項目 | 置かれた数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 建設費(2023年度水準) | 10.6万円/kWh | 工事費を含む平均システム価格 |
| 建設費(2030年度目標) | 6万円/kWh | 業務・産業用の目標価格 |
| 経済性の判定 | 20年・IRR10%以上 | 運転維持費2%/年、廃止措置費用5% |
| 容量劣化 | 1%/年(20年で80%) | 充放電深度80%、充放電効率90% |
| 需要家モデル | 契約容量1,000kW 太陽光500kW 蓄電池200kW |
料金は九州電力の高圧プランを前提 |
結果が、なかなか示唆的でした。
| 前提(建設費と見込む収入) | 「経済性あり」となった需要家 |
|---|---|
| 10.6万円/kWh (2023年度水準・電気代削減のみ) |
確認されなかった |
| 6万円/kWh (2030年度目標・kWの貢献を加算) |
経済性ありの需要家が出現。負荷率の低いグループでは50%を超えた |
| 6万円/kWh (さらに市場収入などを加算) |
割合がさらに増え、最大で90%を超えた |
読み方を整理します。現在の価格水準のままで、電気代の削減だけを収入と考えるなら、投資としては成り立たない。これが出発点です。「高い買い物」という受け止め方は、数字のうえでも間違っていませんでした。
ところが、価格が2030年度の目標である6万円/kWhまで下がり、ピークカットによるkWの貢献を評価に入れると、採算に乗る需要家が現れます。さらに容量市場や需給調整市場といった収入を積み上げる前提では、対象の9割を超える水準まで届く。つまり「コストか投資か」の分かれ目は、蓄電池という製品の性質ではなく、価格の低下と、運用で収入を取りにいけるかどうかの組み合わせで決まる、ということです。
なお、この試算の対象はエネマネ補助事業のオープンデータ3,072件のロードカーブで、資料自身が「全需要家を代表するものではない」と断っています。また電気料金の前提は九州電力の高圧プランで、エリアが違えば結果も動きます。あくまで「分かれ目がどのあたりにあるか」を掴むための数字として見ていただくのが適切だと思います。
ちなみに同じ資料では、需要家側の蓄電池の導入見通し(ストック)も示されています。2030年に27GWh(15GW)、2040年には60GWh(33GW)。そのうち大半は家庭用で、2040年のストックは約53GWh(約31GW)と見込まれています。
5. お金はもう動き出している——オークションに並んだ「溜める設備」
「将来そうなる」という話だけでは、肌感覚として伝わりにくいかもしれません。すでに動いているお金の話もしておきます。
わかりやすいのが、長期脱炭素電源オークションです。これは20年間の固定収入を保証することで脱炭素電源への投資を促す制度で、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営しています。応札年度2025年度の約定結果では、リチウムイオン蓄電池・揚水(新設を除く)が81.9万kW、リチウムイオン以外の蓄電池・揚水(新設)・長期エネルギー貯蔵(LDES)が88.6万kWの約定となりました。脱炭素電源全体の約定容量が426.1万kWですから、そのかなりの部分を「溜める設備」が占めた計算になります。
発電しない設備に、20年間の固定収入を前提に資金が入る。補助金で後押しする実証段階ではなく、投資案件として扱われている——系統用の世界では、その転換がもう起きています。
(情熱電力の過去記事:系統用蓄電池に実際いくらの補助金が流れたのかは、こちらで詳しく取り上げました)
需要家側、つまり事業所やご家庭に置く蓄電池も、同じ方向を向いています。価格が下がり、市場への参加経路が整うほど、「非常時のための備え」と「日々働く設備」の両立が現実的になっていく。4章の試算は、まさにその途中経過を示したものでした。
言い換えると、いまの蓄電池は「買うかどうか」だけの判断ではなくなりつつある、ということです。買ったあとどう運用するか——誰に運用を預け、どの収入を取りにいくか。そこまで含めて考えられるかどうかで、同じ設備が「コスト」にも「投資」にもなります。
まとめ
蓄電池は電気を溜めるもの。その理解は正しいのですが、いま起きていることはもう少し先にあります。
電気は使う量と発電量を常に一致させなければならず、天候まかせの再生可能エネルギーが増えるほど、その調整は難しくなります。春には、発電できるのに抑えざるをえない「出力制御」も起きています。蓄電池はその余った電気を受け止めて必要な時間帯に戻す役割を任されつつあり、系統用・再エネ併設・需要家側という3つの立ち位置で広がっています。
そして性格も変わりつつあります。これまでは非常時にしか出番のないBCP対策の設備——会計のうえではコストでした。それが、ピークカットによる基本料金の削減や、容量市場・需給調整市場での評価を通じて、日々働いて回収を目指せる対象になりつつあります。国の試算も、現在の価格水準では採算に乗らない一方、2030年度の目標価格と市場収入を前提にすれば対象の9割超が採算ラインに届きうる、という姿を示していました。
導入を今すぐ決める必要はありません。ただ、「あったほうがいいけれど高い買い物」という前提のまま判断を止めてしまうと、条件が変わったことに気づけません。蓄電池はそういう段階に入りつつある設備です。頭の片隅に置いておいていただけたら、と思います。
情熱電力からのお知らせ
蓄電池の採算は、価格だけでは決まりません。ご契約の種別や、その事業所のピークの出方——いわゆる負荷率によって、効き方は大きく変わります。国の試算でも、負荷率の低いグループほど収益性が高いという結果が出ていました。
情熱電力は松本市の電力小売会社として、お客様の実際の使用実績をお預かりしています。「うちの場合はどうなのか」を、一般論ではなく手元の数字から一緒に見ていくことができます。蓄電池を検討されている方も、まだ具体的な予定はないけれど話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご相談ください。
TEL 0263-88-1183
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