根羽村はなぜ子どもが増えた?人口800人の村の移住策に学ぶ「小さいこと」の活かし方

信濃毎日新聞に『「一見イケてない」村で増える子ども 人口800人を逆手に取った長野県・根羽村の移住策』という記事があったので調べてみました。
この見出しに目が留まったのには、個人的な理由があります。私自身、根羽村には何度か足を運んでいて、良い印象を持っている村だからです。
人口が800人を切る小さな村で、子どもの数が増えている。そう聞いて、数字を疑った方もいるかもしれません。でも、これは国勢調査に出ている話です。
人口減少というと、もう流れは決まっていて、できるのは減り方をゆるやかにすることだけ——そんなふうに受け止めてしまいがちですよね。実際、県内のほとんどの市町村で子どもの数は減り続けています。その中で、根羽村だけが違う動き方をしました。しかも総人口は減っているのに、子どもだけが増えているという、説明のつきにくい増え方です。
何をしたのか。調べていくと、出てきたのは大きな予算でも目新しい制度でもなく、「小さいことを隠さない」という、ずいぶん地味な方針でした。これが、私たちのような小さな会社にも刺さる話だったので、整理してみます。
目次
- 1. 根羽村で何が起きた?2025年国勢調査が示した数字
- 2. 「一見イケてなさそう」を逆手に取るとは?
- 3. 移住の相談窓口を若い移住者が担う仕組み
- 4. なぜ「昔ながらの村民」に受け入れられたのか
- 5. 規模の小ささは弱点か|電力会社から見た根羽村
1. 根羽村で何が起きた?2025年国勢調査が示した数字
まず、数字から確認していきます。
今回の元になっているのは、2025年10月1日を基準日とする国勢調査(令和7年国勢調査 人口等基本集計)です。総務省統計局が2026年9月29日に公表し、県は10月2日にプレスリリースを出しています。
15歳未満が8人増、増加率14.0%は県内トップ
信濃毎日新聞によると、県内で15歳未満の人口が増えたのは3つの町村だけでした。その内訳がこちらです。
| 町村 | 15歳未満人口 | 2020年調査からの増減 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 根羽村 | 65人 | +8人 | +14.0% |
| 御代田町 | 1,948人 | +33人 | +1.7% |
| 天龍村 | 73人 | +1人 | +1.4% |
出典:信濃毎日新聞の報道(2025年国勢調査より)をもとに作成
増加率14.0%が、他の2町村と桁違いなのがわかります。もちろん、母数が65人と小さいので、8人増えれば率は大きく動きます。率だけを取り出して「すごい」と言うのはフェアではありません。
ただ、分母が小さいということは、減るときも同じように急だということです。県内の多くの小規模自治体で実際に起きているのはそちらのほうで、根羽村だけが逆を向いた、という事実は残ります。
総人口は減っている。それでも子どもが増えた意味
もうひとつ、見落とせない数字があります。根羽村の総人口は852人から784人へと、68人減っています。784人という数字は、県のプレスリリースでも確認できました。
つまりこれは、「村全体が盛り返した」話ではありません。村は小さくなり続けている。その中で、年齢の構成だけが入れ替わっているのです。
村の調べでは、2021年からの5年間に生まれた子どもは20人で、その前の5年間と横ばい。一方、県の統計ではコロナ禍のあとの2021年・2022年・2024年に転入が転出を上回っています。生まれた数が増えたのではなく、子育て世代が入ってきた、ということですね。
人口が減る中で設備や仕組みをどう維持するかという問題は、水道でも電気でも、小さな自治体ほど重くのしかかります。
(情熱電力の過去記事:小さな自治体がインフラの維持で直面している課題は、水道の料金にも表れています)
2. 「一見イケてなさそう」を逆手に取るとは?
ここからが本題です。
村の移住施策を請け負っているのは、一般社団法人「ねばのもり」。自身も東京から移住した杉山泰彦さん(35)が2020年に設立した組織です。
杉山さんの言葉として記事に出てくるのが、「一見してイケてなさそうな前提」という表現でした。人口800人の村である、という事実を、隠すでもなく飾るでもなく、そのまま前に出す。これが出発点になっています。
実際、移住希望者と自治体を結ぶポータルサイトに出した記事の見出しは、こうです。
・「850人の村で生きる人はどんな働き方や生き方をしているか、お届けします」
・「小さい村だからこそ1人が出せるインパクトがある」
人口の少なさを課題として書くのではなく、そこで暮らすとどうなるかという具体として書いている。同じ事実でも、置き場所を変えると意味が変わる、という話です。
ここで、少し個人的な話をさせてください。
冒頭にも書いたとおり、私は根羽村に何度か足を運んでいます。村の入り口にある「ネバーランド」に寄るのが毎回の楽しみです。ここのアイスクリームが名物で、「生ソフトクリームアイス」はふるさと納税の返礼品にもなっています。ほかにも村ならではの商品が並んでいます。
ただ、それ以上に印象に残るのは森です。手入れの行き届いた林がどこまでも続いていて、走っているだけで気持ちがいい。
そして行くたびに思うのが、時間の流れ方が違う、ということです。村に入ってしばらくすると、自分の歩く速さや話す速さが、勝手に落ちてくる感覚があります。
不思議なのは、それが「何もない」から来るものではないことです。急かすものがない、と言ったほうが近いかもしれません。気がつくと、ずいぶんおおらかな気持ちになっています。
この感覚は、たぶんパンフレットや移住案内では伝わりません。行ってみて初めてわかる種類のものだと思います。
大規模な移住フェアに出ない理由
ねばのもりは、大規模な移住フェアにはほぼ参加しないそうです。
理由がはっきりしています。安曇野市や軽井沢町のような知名度の高い自治体と横に並んだとき、勝てないから。
これ、かなり勇気のいる判断だと思うんです。移住フェアは「たくさんの人に会える場」で、参加しないという選択は、機会を自分から捨てているようにも見えます。
でも、同じ土俵に上がった瞬間、比較の軸は相手が決めたものになります。知名度、ブランド、アクセスの良さ——どれも人口800人の村が逆転できる項目ではありません。だったらその土俵には上がらない。代わりに、村を知ってくれた人を一人も取りこぼさないほうに力を使う。
杉山さんは「村を知った人が好きになる確率は高い」とした上で、「知ってくれた人をなるべく逃さないよう、村のことを調べれば調べるほど、村の魅力を感じられるようにしている」と話しています。
先ほど書いた私の感覚も、たぶんこれと同じ話です。資料を読んで好きになるのではなく、一度行くと、理屈の前に体のほうが先に納得してしまう。だったら、来てもらうまでをどう設計するかに力を注ぐ。順番として筋が通っています。
広く浅くではなく、狭く深く。資源が限られている側が取るべき戦い方として、理屈が通っていますよね。
3. 移住の相談窓口を若い移住者が担う仕組み
もうひとつの特徴が、相談窓口を誰が担当しているかです。
根羽村では、移住相談の窓口を若い移住者自身が務めています。愛知県から移住し、村の移住コーディネーターを務める魚住奈都子さん(31)は、相談への向き合い方をこう説明しています。
「その人が好きなものを聞いたり、実際に移住したらどうなるかを一緒に想像したりしながら友達感覚で話を聞く」
ねばのもりが相談に乗り、実際に村を案内する案件は年間十数件。19〜22年は年平均25人がUターン・Iターンで移り住んだといいます。
杉山さんが大学卒業後に100近くの地域を訪ねて気づいたのが、外部の人が地域と関われる「窓口になる人」「関わりしろ」の大切さだったそうです。
窓口が誰なのかわかっている、というのは、思っている以上に大きいことだと思います。制度の説明だけなら資料を読めば足ります。でも「自分がここで暮らしたらどうなるか」は、先に同じことをやった人に聞くのがいちばん早い。しかも相手が近い年代なら、想像の精度が上がります。
案内した人が、次に案内する側になる。この循環ができているのが、根羽村の仕組みの要のように見えます。
4. なぜ「昔ながらの村民」に受け入れられたのか
とはいえ、外から来た人が地域で何かを始めるとき、いちばん難しいのは地元との関係のはずです。記事はそこにも触れていました。
根羽保育所長の松下剛樹さん(44)は、杉山さんについて「最初はとにかく苦手でした」と振り返っています。
背景があります。政府が地方創生を掲げた10年あまり前から、村に関わる県外企業が増えた。けれど補助金を得たきり事業が立ち消えになったことがあり、移住者が地域と関わりを持たずに摩擦が生じることもあった。警戒するのは当然ですよね。
転機になったのが2019年の村の盆踊りでした。当時は村教育委員会にいた松下さんが、年々参加者が減る盆踊りを立て直したいと考え、思い切って杉山さんに相談します。
返ってきた提案は、「企画段階から村民に関わってもらうこと」でした。
2人で中学校に出向いて盆踊りの歴史を伝えると、中学生が興味を持った。ワークショップを開き、住民手作りの竹灯籠で会場への道を照らした。松下さんの言葉を借りれば、「例年の踏襲でやる—から、みんなでつくろうというスタンスに変わった」。
ここが一番うまいところだと思います。外から来た人が「新しいやり方」を持ち込んで実行したのではなく、村の人が主役になる形を提案した。手柄を取りにいかなかった、と言ってもいいかもしれません。
松下さんは、杉山さんと関わる中で「視野が広がり、村の魅力を再認識した」と話しています。移住者が増えたことで、若者や子どもが参加するイベントも活発になりました。
杉山さんのまとめ方が、この記事でいちばん印象に残りました。
「大切なのは、地域で起きていることを地域の人が面白がる状態をつくり、発信すること。そうしたら自然と移住したくなるでしょ?」
外向けの発信を頑張る前に、中にいる人が面白がっている状態をつくる。順番が逆なんですね。
5. 規模の小ささは弱点か|電力会社から見た根羽村
ここまで移住の話をしてきましたが、読みながら、これは自分たちの話でもあるなと感じていました。
その前に、ひとつ付け加えさせてください。この村とは、思っているより近いところでつながっています。
根羽村は面積の94%が森林で、「根羽すぎ」「根羽ひのき」の産地として知られています。村内の全戸が森林組合の組合員で、1戸あたりおよそ5.5ヘクタールの山林を持っている。植林から伐採、製材、販売までを村の中で完結させる「トータル林業」に取り組んでいて、2017年には森林面積の86%にあたる7,294ヘクタールで森林認証を取得しました(いずれも根羽村が内閣府の地方創生SDGs提案に提出した資料による)。
そして、情熱電力のお客さまの中にも、根羽産のヒノキを使って事業をされている方がいらっしゃいます。あの森で育った木が、村の外で誰かの仕事になっている。そう考えると、根羽村の話は「どこか遠い地域の成功事例」ではなくなります。
話を戻します。私たちは地域の小さな電力会社です。全国規模の会社と並べられたとき、知名度でも広告の量でも、どう考えても勝てません。比較サイトの一覧に並ぶと、判断材料は料金の数字だけになります。
でも、根羽村のやり方を見ていると、勝てない土俵で消耗する以外の道があることがわかります。
規模が小さいと、一件あたりに使える時間が長くなります。窓口が誰なのかがはっきりしていて、途中で担当が入れ替わらない。電話をすれば、前回の話を覚えている人間が出る。決めるまでの人数が少ないので、話が早い。
どれも、大きい組織が真似しようとすると構造的に難しいことばかりです。規模の小ささは、我慢して受け入れる条件ではなく、そこからしか生まれない性質がある、ということだと思います。
地域に根ざした事業が、規模ではないところで選ばれていく例は、ほかの地域でも見てきました。
(情熱電力の過去記事:白馬の民宿とJA大北の取り組みにも、同じ発想が見えます)
もうひとつ、杉山さんの「村を知った人が好きになる確率は高い」という言葉も効きます。知られていないことと、良くないことは、まったく別の問題です。前者なら、伝え方の問題として手の打ちようがある。
子どもが8人増えた、という数字は、全国で見れば小さなものです。でも人口784人の村にとっては、確かな変化です。小さい側には小さい側の勝ち方がある——根羽村の5年間は、そのことを数字で示してくれているように思います。
まとめ
2025年の国勢調査で、根羽村の15歳未満人口は65人となり、5年前から8人増えました。増加率14.0%は県内で群を抜いています。総人口は852人から784人へ減る中での増加で、村の年齢構成そのものが入れ替わり始めていることを示す数字です。
背景にあるのは、大きな予算でも新しい制度でもありませんでした。人口800人という「一見イケてなさそう」な前提を隠さずに前へ出すこと。知名度で勝てない土俵には上がらず、知ってくれた人を取りこぼさないほうに力を注ぐこと。相談窓口を若い移住者が担い、次の移住者を迎えること。そして、外向けの発信より先に、村の人自身が面白がれる状態をつくること。
どれも、小さいからこそ成り立つやり方です。規模が小さいことは、克服すべき弱点とは限りません。一件あたりに時間をかけられる、窓口が誰かわかる、決定が早い——これらは大きな組織が簡単には真似できない性質です。
私たちのような小さな電力会社にとっても、学ぶところの多い事例でした。
情熱電力からのお知らせ
「規模が小さいからこそできること」を、私たちも日々考えています。電気料金のことでも、設備のことでも、これってうちの場合どうなるんだろう、という段階のご相談で構いません。一覧表の数字だけでは判断しづらい部分こそ、直接お話しするのが早いと思っています。
気になることがありましたら、お気軽にお声がけください。
TEL 0263-88-1183
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