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2026.06.24 Wed

新たな「蓄電池・電源産業戦略」を解説:2035年に売上高3倍を目指す日本のロードマップ

 
解説します!
 
日本の今後の蓄電池・電源産業に関する「蓄電池産業戦略推進会議」が行われました。
電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの主力電源化を達成する上で、蓄電池は必要不可欠なコア技術です。リチウムイオン電池(LIB)の世界市場は、2025年の23兆円から2035年には46兆円、2040年には55兆円規模にまで成長すると試算されており、グローバルな開発・投資競争は日増しに激化しています。このような激変する市場環境と国際規制に対応するため、2026年6月、従来の戦略を発展させた新たな「蓄電池・電源産業戦略」が策定されました。本記事では、蓄電池ビジネスやクリーンエネルギートレンドに注目する皆様へ向けて、日本の製造基盤強化策やデータセンター需要への対応、そして次世代技術の展望まで、知っておくべき重要ポイントを丁寧に解説します。
 


 
目次

1. 2026年6月策定「蓄電池・電源産業戦略」3つの新目標と変更点

2. 国内製造基盤の現状とデータセンターによる新たな需要

3. 製造装置の「パッケージ化」とバッテリーメタルの安定確保

4. 全固体電池・革新型電池の技術開発ロードマップ

5. 国際規制への対応:日本版バッテリーパスポートと人材育成

6. まとめ

 


 

1. 2026年6月策定「蓄電池・電源産業戦略」3つの新目標と変更点

2022年8月に策定された前身の「蓄電池産業戦略」から約4年、世界的な競争環境の激化や欧州バッテリー規則などの環境変化を踏まえ、今回新たに「蓄電池・電源産業戦略」へとアップデートされました。
従来の3つの柱(Target)を維持しつつ、より現実的かつ多角的なアプローチへと目標が変更されています。
 
 

【1st Target】国内製造基盤の確立

 
変更点: 従来の「遅くとも2030年まで」という期限を「2030年から2030年代半ば」へと約5年後ろ倒しに調整。
目標内容: 車載用・定置用を見据え、蓄電池・部素材・製造装置の国内製造基盤150GWh/年(マザー工場)の確立を目指します。
 
 

【2nd Target】グローバルプレゼンスの確保

 
変更点: 従来の「製造能力(グローバルで600GWh/年)」というボリューム目標を「金額(売上高)」ベースの目標へ転換。
目標内容: 日本企業の蓄電池関連売上高(セル、パック、モジュール、蓄電システム等)を、現状の約1.7兆円から2035年までに5兆円程度(約3倍)へと成長させることを目指します。
 
 

【3rd Target】次世代電池市場の獲得

 
変更点: 従来の「2030年頃の全固体電池本格実用化」に加え、「製造基盤の確立時期」が明記されました。
目標内容: 2030年代半ばに向けて、需要規模に応じた全固体電池の製造基盤を確立し、海外市場の獲得を視野に入れます。
 


 

2. 国内製造基盤の現状とデータセンターによる新たな需要

蓄電池は「経済安全保障推進法」に基づく特定重要物資に指定されており、国の「供給確保計画」の認定によって手厚い助成が行われています。現在、蓄電池7件、部素材27件、製造装置8件の計画が認定されており、政府支援や民間投資を合わせることで、足元の国内セル生産能力は100GWh/年以上に増強される見通しです。
 
今後の需要として車載用・定置用が大半を占める事実に変わりはありませんが、新たに急拡大が予想されているのがデータセンター需要(AIデータセンターなど)です。データセンターでは、急峻な電力変動の平滑化や、停電直後のバックアップ(BBU)といった高度な電気制御ニーズが存在します。
 
ここで重要となるのが、蓄電池の「エネルギー密度(容量・Wh)」と「パワー密度(出力・W)」のトレードオフ関係です。
AIデータセンターやHEV(ハイブリッド車)などには「高出力」、BEV(電気自動車)や定置用には「高容量」が求められます。日本はこれら多様なアプリケーションに対応するため、全固体電池の開発に留まらず、パワー密度という新たな競争軸でも優位性を狙う方針を示しています。
 


 

3. 製造装置の「パッケージ化」とバッテリーメタルの安定確保

日本の蓄電池製造装置は高品質である一方、中小企業が多くサプライチェーンが細分化されているため、「価格」や「納期」で海外勢に後れを取っているという課題がありました。
この状況を打開するため、電池サプライチェーン協議会(BASC)の加盟企業9社は合弁会社を設立し、建屋・原動・設備を一貫して製造するプラットフォーム「Swiftfab」を2026年4月に開始しました。「総投資額1/4、リードタイム1/2、生産準備工数1/2」を目標に掲げ、2029年の量産ライン実装を目指しています。
 
また、リチウム、ニッケル、コバルトなどの「バッテリーメタル」の確保も深刻な課題です。日本はこれらの多くを特定の国や、中国での製錬工程に依存しているため、高い地政学リスクを抱えています。
戦略文書によると、国内150GWhの製造にはリチウム10万トン、ニッケル9万トンが必要と試算されていますが、現時点で電池用途として確保されているのはリチウム3.5万トン、ニッケル4.9万トンに留まっており、JOGMECによるリスクマネー出資などを通じたさらなる権益確保が急がれます。
 


 

4. 全固体電池・革新型電池の技術開発ロードマップ

次世代技術の主役である「全固体リチウムイオン電池(硫化物質系、酸化物系、高分子系)」は、高エネルギー密度と優れた急速充電特性を両立する技術として、グリーンイノベーション基金などを活用した開発が進んでいます。
 
さらにその先を見据え、2040年頃の実用化を目指す「革新型電池」の研究も本格化しています。資源制約の少ない安価な材料ベースでありながら、高い安全性を誇る「ハロゲン化物(フッ化物)電池」や「亜鉛負極電池」などが対象となっており、長期的な技術リーダーの地位維持を狙います。
 


 

5. 国際規制への対応:日本版バッテリーパスポートと人材育成

欧州市場では「欧州バッテリー規則」が施行され、ライフサイクル全体の温室効果ガス(GHG)排出量を規制するカーボンフットプリントや、責任ある鉱物調達(デューディリジェンス)への対応が義務付けられています。
 
これに対応するため、日本国内でも企業間で安全にデータを共有する仕組みとして「日本版バッテリーパスポート」の構築が進められています。2024年5月には、運用を担う「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」がサービス提供を開始しました。また、2028〜2030年頃を目処に、欧州の再生材使用義務に適合した電池の製造・販売を目指しています。
 
さらに、国内150GWh/年の工場を安定稼働させるためには、サプライチェーン全体で合計3万人の人材育成・確保が必要とされています。産学協働の「バッテリー先進人材普及ネットワーク(BATON)」などを通じて、関西で培った育成モデルを全国の大学や地域へ展開する動きが活発化しています。
 
安全性の面でも、道路運送車両の保安基準(改正UN-R100)が導入され、新型車は2027年9月、継続生産車は2030年9月から、バッテリー火災の抑制や乗員保護(内部短絡試験の追加など)に係る厳しい判定要件が適用される予定です。
 


 

6. まとめ

新たな「蓄電池・電源産業戦略」は、単に電池を作るだけでなく、データセンター需要への対応、製造装置のパッケージ化(Swiftfab)、資源確保、そして欧州規制を見据えた「日本版バッテリーパスポート」の構築までを網羅した、極めて総合的な戦略へと進化しました。
 
市場が激変する中で目標時期の調整(5年の後ろ倒し)などは行われたものの、売上高を3倍の5兆円へと引き上げる野心的な方針は、日本が再び世界のエネルギー市場で主導権を握るための重要な羅針盤となります。蓄電池ビジネスに関わる企業にとって、この国の動向と技術ロードマップを把握しておくことは、今後の投資や事業計画を左右する極めて重要な要素と言えるでしょう。
 


 

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今回の新たな「蓄電池・電源産業戦略」でも示された通り、蓄電池はこれからの電力系統の安定化、そして企業様の脱炭素経営(BCP対策・再生可能エネルギーの自家消費拡大)において、ますます外せない重要設備となっています。特にデータセンターや工場、商業施設における電気制御ニーズは今後さらに高度化していきます。
 
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この記事に関連するページリンク
・経済産業省:蓄電池産業戦略推進会議 (第8回が最新)
 ┗ 資料:蓄電池・電源産業戦略(案)
 ┗ 資料:参考資料