燃料費調整の上限額とは?関西電力は55カ月自己負担、経過措置料金と平均燃料価格のしくみを解説

電気新聞(日本電気協会新聞部)に「関電、55カ月続く自己負担」という記事があったので調べてみました。2026年9月3日付、電力大手10社の燃料費調整の状況を並べた解説記事です。
報道などで論じられる電気代の話題は、たいてい「上がった」「下がった」という使う側の負担の話です。ところがこの記事は反対側——燃料の値上がり分を料金に乗せられず、電力会社が自社でかぶっている話でした。関西電力は2022年3月分から55カ月続き、負担額は2026年度までの累計で1630億円。九州電力も9月分から再突入です。
ただし、これはすべての電気料金の話ではありません。上限があるのは「経過措置料金」(規制料金)——2016年の自由化後も消費者保護のために残された、昔ながらのメニュー(家庭なら従量電灯)だけです。
つまり関西電力は、従量電灯などの経過措置料金について、実際の仕入れ値より安い前提で料金を計算し、その差をかぶり続けてきたわけです。仕入れが上がったのに売値を上げられない状態ですね。カギは明細の「燃料費調整額」と、その計算のもとになる「平均燃料価格」。この2つから順に整理していきます。
目次
- 1. 燃料費調整額とは?電気代が毎月動く理由
- 2. 燃料費調整に上限がある料金と、ない料金の違い
- 3. 上限を超えた分は誰が負担するのか
- 4. 関西電力は55カ月で1630億円|各社の自己負担はいくらか
- 5. 九州電力が2026年9月分から再び上限を超えた背景
- 6. 経過措置料金は撤廃すべきか|業界で続く議論
1. 燃料費調整額とは?電気代が毎月動く理由
毎月の電気代の明細を見ると、「燃料費調整額」という行があります。プラスの月もマイナスの月もあって、金額もころころ変わる。あの正体は何なのか、というところから始めましょう。
日本の発電は、いまも原油・LNG(液化天然ガス)・石炭といった輸入燃料に大きく頼っています。これらの価格は国際市況と為替で日々動きますが、発電会社にはどうにもできない要素です。そこで、燃料価格の変動分だけを毎月自動で電気料金に反映させ、そのうえで会社の経営努力の成果がきちんと見えるようにする——そのための仕組みが燃料費調整制度です。
つまり燃料費調整額は、電力会社の値上げ・値下げの判断ではなく、あらかじめ決められた計算式に燃料価格を入れて自動的に出てくる金額ということになります。
平均燃料価格はどう決まるのか
計算のもとになるのが「平均燃料価格」です。電気新聞の用語解説では、次のように整理されています。
・原油・LNG・石炭の円建て輸入価格(貿易統計価格)に基づいて各社が算定する燃料価格の、3カ月平均値(規制料金の場合) 、毎月更新する
ポイントは3つあります。ひとつめは、貿易統計という公的な統計の価格を使うこと。ふたつめは、円建てであること。原油価格そのものが横ばいでも、円安が進めば平均燃料価格は上がります。みっつめは、3カ月の平均であること。ある月に燃料が急騰しても、その月からいきなり満額が乗るのではなく、平均としてならされてから料金に反映されます。
この「3カ月平均」と、統計が確定するまでの事務手続きがあるため、燃料価格の動きが電気代に届くまでには数カ月のタイムラグがあります。ニュースで「原油が上がった」と聞いてもすぐ明細が変わらないのは、そのためです。実際に何月分の輸入価格が何月分の料金に反映されるかは、各社が毎月公表している燃料費調整単価の資料に明記されていますので、気になる方はご契約先の公表資料を見てみてください。
なお、平均燃料価格は「原油換算1キロリットル当たり○万○千円」という形で示されます。原油・LNG・石炭という単位の違う3つの燃料を、原油の熱量に換算してひとつの数字にまとめているわけです。
基準燃料価格との差が「調整額」になる
もうひとつの用語が「基準燃料価格」です。こちらは電気新聞の用語解説によると、規制料金を改定した際に定めた平均燃料価格のこと。言いかえれば、その料金メニューを作ったときに前提とした燃料の値段です。
毎月の燃料費調整額は、この基準燃料価格と、その月の平均燃料価格との差から計算されます。
・平均燃料価格が基準燃料価格より高い月 → 燃料費調整額はプラス(電気代に上乗せ)
・平均燃料価格が基準燃料価格より安い月 → 燃料費調整額はマイナス(電気代から差し引き)
「基準」という言葉が入っているとおり、これは物差しの目印です。目印から上にはみ出したか、下に沈んだかで、毎月の調整額の符号と大きさが決まります。ここまでが燃料費調整制度の基本構造です。
2. 燃料費調整に上限がある料金と、ない料金の違い
ここからが今回の記事の本題です。じつはこの燃料費調整には、料金メニューによって上限があるものと、ないものがあります。
上限があるのが、冒頭でも触れた「経過措置料金」です。2016年の電力小売全面自由化のとき、すべてを自由料金に移してしまうと、料金を比較して選ぶ余裕のない需要家が不利になる恐れがありました。そこで従来の規制料金を「経過的に」残したのが、この経過措置料金です。名前のとおり、いずれ役目を終える前提で置かれている料金だということですね。
消費者保護を目的とした料金なので、燃料費調整にも歯止めが設けられています。ご自分の契約でいうと、料金プランの名前が「従量電灯A」「従量電灯B」などで、切り替えをしたことがなければ、この経過措置料金である可能性が高いです。
その歯止めの水準が、電気新聞の記事に明記されています。経過措置料金の燃調による上限額は、基準燃料価格の1.5倍。平均燃料価格がこの上限を超えた分は、料金に転嫁できません。
一方、自由料金には制度上こうした上限の縛りがありません。実際、燃料価格が急騰した2022年以降、上限を撤廃する会社が相次ぎました。当社も2022年に、燃料費調整額の上限を撤廃しています。同じ「燃料費調整額」という名前の行が明細に並んでいても、上限の扱いは契約しているメニューによって違う、ということです。
もっとも、上限がないことは「仕入れの急騰をそのまま売値に追いつかせられる」という意味ではありません。調達価格が短期間に跳ねる局面では料金の改定が追いつかず、事業者側が差を負う時期はどうしても出てきます。上限のある料金とない料金では、負担のかかり方の形が違う——というだけの話です。
(情熱電力の過去記事:当社が上限を撤廃した経緯はこちらでご案内しています)
3. 上限を超えた分は誰が負担するのか
では、経過措置料金で平均燃料価格が上限を超えたとき、その差はどこへ行くのでしょうか。答えは、電力会社の自己負担です。
電気新聞の記事は、この点をはっきり書いています。経過措置料金の燃料費調整は消費者保護の観点から上限額が設定され、それを超えた分は電力会社の自己負担になる。そして燃料価格の高止まりが続けば、負担額は積み上がっていく——と。
具体的な数字を見てみましょう。九州電力の2026年9月分の平均燃料価格は、原油換算1キロリットル当たり4万1800円。上限額は4万1100円ですから、700円の超過です。
| 項目(九州電力・2026年9月分) | 金額(原油換算1kL当たり) |
|---|---|
| 平均燃料価格 | 4万1800円 |
| 燃調の上限額(基準燃料価格の1.5倍) | 4万1100円 |
| 差額(料金に転嫁できない分) | 700円 |
1キロリットルあたり700円と聞くとわずかに思えますが、これが供給する電気の量ぶんだけ、しかも毎月積み上がっていきます。上限を超えている間、この差は料金のどこにも行き場がなく、毎月そのまま会社側に残ります。
そもそもの発端は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻でした。エネルギーの需給が不安定化して発電燃料価格が急騰し、同年から電力各社で上限額を超え始め、費用の持ち出しが増えていきました。そして2026年は、中東有事による化石燃料の供給不安を背景に、大手電力が輸入する発電燃料価格がまた上昇しています。
(情熱電力の過去記事:この夏の上限超過と、家庭でできる対策についてはこちらでまとめています)
4. 関西電力は55カ月で1630億円|各社の自己負担はいくらか
ここで「持ち出しが増えた」と書きましたが、実際いくらなのか。電気新聞の記事に載っている数字を、会社ごとに並べてみます。
上限超過が長引いたのは、2023年6月の値上げに踏み切らなかった3社でした。値上げをしなかった中部・関西・九州の3社は基準燃料価格を据え置く形になり、上限額の超過状態が続きました。基準燃料価格は「料金を改定したときに定めた平均燃料価格」ですから、料金を改定しなければ物差しの目印も動かない、ということです。
| 電力会社 | 上限を超えていた期間 | 自己負担額 |
|---|---|---|
| 関西電力 | 2022年3月分から55カ月(継続中) | 2026年度までの累計で1630億円 |
| 九州電力 | 2022年7月分〜2025年6月分の約3年間(1度目)。2026年9月分から再突破し、通算37カ月+継続中 | 1度目の超過期間で625億円 |
| 中部電力ミライズ | 2022年10月分〜2023年7月分の10カ月間(解消済み) | この間の累計で約420億円 |
| 北海道・東北・東京・北陸・中国・四国・沖縄の7社 | 2023年6月に超過状態を解消 | — |
※期間・金額はいずれも電気新聞2026年9月3日付の記事に記載された数値です。
この7社が超過を抜け出せたのは、2023年6月に経過措置料金を値上げすると同時に、基準燃料価格を大幅に引き上げたためです。物差しの目印を上に動かしたので、平均燃料価格が上限内に収まった、という理屈です。中部電力ミライズは値上げをしませんでしたが、燃料価格の低下とともに10カ月で超過を解消しました。
いっぽう関西電力は、他電力の値上げに追随せず基準燃料価格を据え置きました。その理由について同社は「競合他社の動向も含め、経営環境などを慎重に見極めた上で総合的に判断した」としています。当時の経営環境として記事が挙げているのは、2023年に高浜発電所1、2号機の再稼働が控えるなど、収支改善の原動力となる「原子力7基体制」の実現が迫っていたことです。原子力の再稼働で燃料費そのものを抑えられる見通しがあったぶん、値上げをしないという選択が取れた、という構図でしょう。
ただ、その結果として上限超過は55カ月に及び、自己負担は累計1630億円まで積み上がりました。関西電力は2026年度の1年間の自己負担額を約260億円、九州電力は約20億円と想定していますが、両社とも燃料価格の動向次第で負担がより増える可能性もあるとの見方を示しています。
5. 九州電力が2026年9月分から再び上限を超えた背景
九州電力は、2025年6月分でいったん上限超過を抜けていました。それが2026年9月分の料金から、1年3カ月ぶりに再び上限を超えたことになります。7月末に公表された9月分の単価から、ということですね。
1度目の超過期間、九州電力の経営環境は厳しいものでした。特定重大事故等対処施設(特重施設)の未完成により、2022年度に玄海3、4号機が停止して収益を圧迫。翌2023年に4基体制へ復帰しています。それでも料金を上げなかったことについて、同社は「経営全般の効率化にも取り組み、料金水準の維持に努めた」と説明しています。この間の自己負担額が625億円です。
ここから読み取れるのは、経過措置料金の上限が、単に「消費者を守る安全弁」というだけの存在ではないということです。この上限は、電力会社に対して「燃料が高くなっても、料金改定という手続きを踏まないかぎり転嫁はできない」という制約を課しています。だから各社の判断は、燃料価格の見通しと、原子力の再稼働のような供給力の見通し、そして競合他社の動きを見比べた経営判断になる。今回の記事に並んだ会社ごとの差は、その判断の違いがそのまま出た結果と言えます。
6. 経過措置料金は撤廃すべきか|業界で続く議論
こうして費用の持ち出しが発生し得る経過措置料金について、記事は制度そのものへの議論も紹介しています。
需要家保護を前提としながらも、本来は早期に撤廃されるべきという論が有識者らにあるとのこと。全面自由化から10年が経ち、料金メニューを選べる環境が整ってきたなかで、規制料金を残し続ける意味を問う声です。いっぽうで、仮に同料金が残る場合も、電力業界内からは改定審査プロセスの合理化などが必要という声が上がっているとされます。燃料価格が動いてから料金改定が認められるまでに時間がかかると、その間の負担が会社に溜まってしまうためです。
撤廃するのか、残したうえで手続きを速くするのか。どちらに転んでも、私たちの電気代の決まり方に影響する話です。もし経過措置料金がなくなれば、上限という安全弁もなくなります。燃料が高騰した局面では、いまより素直に料金へ反映されることになるでしょう。逆に、自由料金には価格の決め方に幅があるぶん、比較して選ぶ余地もあります。
だからこそ、ご自分の契約がどのメニューなのか、燃料費調整額に上限があるのかないのか、そして基準燃料価格がいくらに設定されているのかを一度確認しておくことをおすすめします。この3つは、契約先の料金表や公表資料に必ず書かれています。電気代のニュースを見たときに「わが家(自社)はどちらの側の話なのか」がすぐ分かるようになります。
まとめ
今回は、電気新聞の「関電、55カ月続く自己負担」という記事をきっかけに、燃料費調整制度のしくみを整理してきました。
要点をまとめます。燃料費調整額は、原油・LNG・石炭の円建て輸入価格(貿易統計価格)から算定される平均燃料価格と、料金改定時に定めた基準燃料価格との差で毎月自動的に決まります。そして経過措置料金(規制料金)には、基準燃料価格の1.5倍という上限があり、そこを超えた分は料金に転嫁できず、電力会社の自己負担になります。
その自己負担が、関西電力では2022年3月分から55カ月続き、2026年度までの累計で1630億円。九州電力は1度目の約3年間で625億円、中部電力ミライズは10カ月で約420億円。そして九州電力は2026年9月分から再び上限を超えました。中東有事による燃料価格の上昇が、また同じ構図を呼び戻しているかたちです。
電気代の話は、どうしても「上がるか下がるか」に目が行きます。でもその裏側では、誰がどこまで負担するのかというルールが静かに効いています。上限があるから守られている部分と、上限があるから溜まっていく部分。その両方を知っておくと、これから出てくる料金のニュースを一段深く読めるはずです。
情熱電力からのお知らせ
「うちの契約は規制料金なのか自由料金なのか、正直よく分かっていない」——実は、こうしたご相談をいただくことは少なくありません。明細のどこを見れば燃料費調整額が分かるのか、上限があるのかないのか、そのあたりを一緒に確認するだけでも、電気代の見え方はかなり変わります。
当社は電力小売(新電力)として、料金の中身をできるだけ分かりやすくお伝えすることを大切にしています。ご家庭でもお店・事業所でも、明細を1枚お手元に置いてお電話いただければ、その場で一緒に見ていくことができます。気になる方はお気軽にご相談ください。
TEL 0263-88-1183
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この記事に関連するページリンク
・資源エネルギー庁:燃料費調整制度について
・電力・ガス取引監視等委員会:電気の経過措置料金に関する専門会合
・中部電力ミライズ:燃料費調整制度
・九州電力株式会社:燃料費調整制度について
・資源エネルギー庁:エネルギーコストの状況