永久磁石のリサイクルとは?レアアースの中国依存を減らす国の2000億円計画をやさしく解説

日経ビジネスに「永久磁石のリサイクル市場、離陸なるか EVと風力が廃磁石の供給源に」という記事があったので調べてみました。
「永久磁石」と聞いても、正直あまりピンと来ないかもしれません。冷蔵庫に貼るマグネットくらいしか思い浮かばない、という方も多いと思います。ところがこの部品、電気自動車(EV)の駆動モーターにも、風力発電機にも、工場の産業用ロボットにも入っていて、電気を「力」に変える工程のど真ん中にあります。
そして今、この永久磁石が経済安全保障のテーマとして扱われはじめました。2026年7月21日に政府が公表した官民投資ロードマップでは、永久磁石に2040年度までに2000億円を投じ、2030年時点で国内供給される原材料の約3割をリサイクルで賄うという目標が示されています。
なぜ磁石にそこまでの投資が必要なのか。レアアースとはそもそも何なのか。専門用語をできるだけかみ砕きながら、順番に見ていきましょう。
目次
- 1. 永久磁石とは?モーターを回している「見えない主役」
- 2. レアアースとは?磁石の性能を決める金属
- 3. なぜ今リサイクルなのか|中国依存という供給リスク
- 4. 政府の目標はいくら?2000億円と「原材料の3割」
- 5. 廃磁石はどこから出てくる?EVと風力タービンが供給源に
- 6. 壁は技術よりも「値段」|企業が今から見ておきたいこと
1. 永久磁石とは?モーターを回している「見えない主役」
永久磁石とは、電気を流し続けなくても磁力を保ち続ける磁石のことです。反対に、電気を流している間だけ磁石になるものを電磁石と呼びます。
モーターは、この永久磁石と電磁石が引き合ったり反発したりする力で回っています。つまり永久磁石は、電気を回転の力に変えるための「相手役」です。ここが強ければ強いほど、同じ大きさ・同じ電力でより大きな力が出せます。逆に言えば、磁石の性能がそのまま、モーターを小さく・軽く・省エネにできるかどうかを決めてしまうわけです。
EVの航続距離、エアコンの省エネ性能、産業用ロボットの精度。どれも「磁石の強さ」に支えられている、と言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、設計上はかなり近い話です。
ネオジム磁石が特別に強い理由
現在もっとも広く使われている高性能な永久磁石が「ネオジム磁石」です。ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする磁石で、1980年代に日本で生まれた技術がもとになっています。
ネオジム磁石は他の磁石に比べて磁力が大きく、EVの駆動モーターや風力発電機、ロボット、航空宇宙・防衛機器まで幅広く使われています。強い磁石が小さく作れるということは、同じ性能のモーターをより小型にできるということ。だからこそ、車載や家電のように「スペースが限られる場所」で選ばれてきました。
2. レアアースとは?磁石の性能を決める金属
ここで出てくるのがレアアース(希土類)です。名前に「レア(希少)」とついているので、地球上にほとんど存在しない金属だと思われがちですが、実はそうではありません。地殻の中にはそれなりの量が含まれています。
難しいのは、採掘した鉱石から目的の元素だけを取り出す「分離・精製」の工程です。レアアースは化学的な性質がよく似た元素の集まりで、混ざったものを分けるのに手間もコストも環境負荷もかかります。だから「精製できる場所が限られる」。これがレアアースの本質的な希少性です。
ネオジム磁石におけるレアアースの役割は、ざっくり言えばこうなります。
・ネオジム(Nd)……磁石の主成分。磁力そのものを生み出す
・ジスプロシウム(Dy)/テルビウム(Tb)……少量加えることで、熱に強くする
ジスプロシウムとテルビウムは「暑さ対策」の材料
磁石は熱に弱く、温度が上がると磁力が落ちます(減磁と呼びます)。ところがEVの駆動モーターも、風力発電機のモーターも、動いている間はかなりの高温になります。そこで、ジスプロシウムやテルビウムといった「重レアアース」を少量加えて、高温でも磁力が落ちにくくしているわけです。
添加量はわずかでも、これがないと車載用途には使えません。しかもこの2つは化学的性質が特に似ていて、分離・精製が難しい元素とされています。リサイクルの技術的な難所も、まさにここにあります。
3. なぜ今リサイクルなのか|中国依存という供給リスク
永久磁石のリサイクルは、環境対策の話にとどまりません。経済安全保障と産業競争力に直結するテーマとして扱われています。
その理由は、供給の偏りです。日経ビジネスの記事(SMBC日興証券作成の資料に基づく)によれば、磁石用レアアースの世界市場において、中国は採掘の58.9%、精製の91.3%、焼結永久磁石の製造の94.4%を占めているとされています。
注目したいのは、工程が進むほど集中度が上がっている点です。掘るところでは6割弱ですが、精製すると9割、磁石にすると9割半ば。鉱石が化学工場を通るほど、選択肢が減っていくという構図になっています。
(情熱電力の過去記事:レアアースをめぐる各国の駆け引きについては、こちらでも取り上げています)
そして日本で発生した使用済みの「廃磁石」も、その多くは海外で分離・精製されてから再輸入されているのが実情です。捨てているようで、実は買い戻している。ここを国内で回せるようにできれば、特定国への依存を抑え、供給が止まったときの耐性を高められる、というのがリサイクル推進の狙いです。
かつて日本は焼結永久磁石で高い世界シェアを持っていましたが、中国企業の台頭に伴って大きく低下しました。一方で、関連特許や高度な製造技術にはまだ一定の競争力が残っているとされています。廃磁石の回収から再生磁石の製造までをつなぐ循環網を国内に築ければ、縮小した磁石生産の基盤を立て直す足がかりになるかもしれません。
4. 政府の目標はいくら?2000億円と「原材料の3割」
2026年7月21日、政府は戦略17分野の主要製品・技術に関する官民投資ロードマップを公表しました。62項目について主に2040年度までの累計投資額を積み上げたもので、重複を除いた総額は370兆円を超えます。
(情熱電力の過去記事:この370兆円の投資計画の全体像は、こちらで詳しく解説しています)
このうち永久磁石については、次の2つが示されました。
・2040年度までに2000億円(0.2兆円)を投じる
・2030年時点で、国内供給される永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄う
「原材料の3割」という目標は、2026年4月に経済産業省が示したマテリアル(重要鉱物・部素材)分野のロードマップ案や、同時期にまとめられた循環経済行動計画にも同じ内容で記載されています。循環経済行動計画では、メタルリサイクルの推進に向けて2030年までに官民で約1兆円の投資を目指すとされており、永久磁石はその柱のひとつという位置づけです。
金額だけ見ると2000億円は370兆円のごく一部ですが、狙っているのは「量」ではなく「詰まったときに困る場所」の解消だと考えると、位置づけが見えやすくなります。
5. 廃磁石はどこから出てくる?EVと風力タービンが供給源に
では、リサイクルの原料になる廃磁石はどこから集めるのでしょうか。
現在の主役は、国内の磁石生産工場から出るスクラップ(製造工程の端材)です。ただし国内生産量そのものが限られているため、集まる量には天井があります。そこで焦点になるのが、使用済み製品からの回収です。当面は、家電リサイクル法という既存の回収ルートが使えるエアコンが有力とされています。
中長期で見て大量の回収が見込めるのは、1台・1基あたりの磁石の量が多い製品、つまりEVと風力タービンです。
| 用途 | 磁石重量(kg/台) |
|---|---|
| 風力タービン(洋上) | 650(kg/MW) |
| 風力タービン(陸上) | 160(kg/MW) |
| 産業用ロボット | 8.5 |
| EV(ハイブリッド車を含む) | 1.9 |
| エアコン | 0.325 |
| 従来型車両(エンジン車) | 0.225 |
| 冷蔵庫 | 0.2 |
| デスクトップPC | 0.013 |
| スマートフォン | 0.001 |
出所:欧州政策研究センター(CEPS)の文献調査および専門家ヒアリングをもとにSMBC日興証券が作成した資料より、主要な項目を抜き出して作表。風力タービンは出力1MWあたりの磁石含有量です。
EV1台に1.9kg、エンジン車が0.225kg。同じ「車」でも8倍以上の差があります。スマートフォンの0.001kgと比べれば、EVはおよそ1,900台分。回収の対象として見たときのインパクトの違いが、数字で見るとよくわかります。
ただし、ここには時間の問題があります。製品は売れてから捨てられるまでに長いタイムラグがあるためです。2010年代前半から普及したEVからの廃磁石が増えてくるのは2030年前後から。風力タービンは運転期間を20年程度とすると、回収が本格化するのは2040年代以降になります。
つまり、原料が足りないのは今なのに、大量に出てくるのは十数年後。この時間差をどう埋めるかが、投資計画の難しいところです。
6. 壁は技術よりも「値段」|企業が今から見ておきたいこと
リサイクルの方法は、大きく2つに分かれます。
| 方式 | やり方 | 課題 |
|---|---|---|
| 長ループ | 磁石を化学処理して、レアアース酸化物までいったん戻す | 性質の似たジスプロシウムとテルビウムの分離・精製が難しい |
| 短ループ | 粉砕・水素処理などで、磁石の原料としてそのまま再利用する | 工程は短くコストも抑えやすい一方、組成の追跡と高度な選別が欠かせない |
技術面の課題に対しては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が高性能な溶媒や小型抽出装置、低温での電解還元の開発を進めています。事業化の目標は2031年頃、十分な事業規模の実現は2040年を見込むとされています。
ただ、記事が指摘しているのは、技術が確立してもそれだけでは足りない、という点です。海外の処理コストとの差を縮められなければ、国内事業は自立しにくい。結局のところ、壁は技術よりも値段だということですね。
海外の先行例が示す市場拡大の条件は、次の3つに整理されています。
・需要の創出……自動車メーカーや産業機械メーカーとの長期の「オフテイク契約」(あらかじめ買い取りを約束する契約)で、販売先と投資回収の見通しを確保する
・原料の安定調達……家電・自動車・風力発電設備からの回収ルートと、工場スクラップの回収ルートを統合し、集荷拠点や引取契約を整える
・価格競争力……割高な再生品を選ぶ動機をつくる。価格差を公費だけで埋めれば財政負担が膨らむため、再生品の利用目標、公共調達、防衛用途での需要創出、需要家によるプレミアム負担を組み合わせる
国内では信越化学工業、三徳、三菱電機、ダイキン工業、豊田メタル、DOWAエコシステムなどが、エアコン・自動車・風力発電設備を対象に、廃磁石の回収網の構築やリサイクル技術の実証を進めています。
では、磁石メーカーでもリサイクル事業者でもない企業にとって、これは他人事でしょうか。そうとも言い切れません。事業者として見ておきたいのは、次のあたりです。
・設備を更新するとき、外したモーターがどこへ行くのかを確認しておく。産業用ロボットは1台あたり8.5kg、業務用エアコンにもまとまった量の磁石が入っています ・廃棄物処理の委託先が、磁石の回収に対応しているかを聞いてみる ・調達側であれば、再生材の利用が今後どこまで求められるかを取引先と共有しておく
「再生品を選ぶ動機をつくる」という政策の方向性は、いずれ調達基準や取引条件という形で現場に降りてきます。今のうちに、自社の設備のどこに磁石が入っているかを把握しておくだけでも、動き出したときの反応速度は変わってきます。
まとめ
永久磁石は、電気を回転の力に変えるモーターの中心にある部品です。中でもネオジム磁石は磁力が大きく、EVや風力発電機、産業用ロボットに欠かせません。その性能を支えているのがレアアースで、ネオジムが磁力を生み、ジスプロシウムやテルビウムが高温でも磁力を落ちにくくしています。
問題は、レアアースの分離・精製と磁石の製造が特定の国に大きく偏っていることです。日本で出た廃磁石も、多くは海外で処理されてから戻ってきています。だからこそ政府は、2040年度までに2000億円を投じ、2030年時点で国内供給される永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄う目標を掲げました。
回収の本命はEVと風力タービンですが、まとまった量が出てくるのは2030年前後から2040年代にかけて。原料が足りない今と、大量に出てくる将来との時間差をどう埋めるかが課題です。そして最後に残るのは、技術よりも価格の壁。再生品を選ぶ理由をどうつくるかが、この計画が実を結ぶかどうかの分かれ目になりそうです。
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