
日経ビジネスに『レトロイノベーションが変える市場競争 Z世代に広がるアナログ価値の再発見』という記事があったので調べてみました。スマートフォンをやめてガラケー(フィーチャーフォン)に戻す若者や、タッチパネルから物理ボタンへ回帰する自動車など、「あえて不便」を選ぶ消費トレンドが世界的に広がっているそうです。デジタル疲れやサブスク疲れが叫ばれる中、シンプルな道具を選び直す動きは、私たちの暮らしや仕事のあり方にもヒントを与えてくれます。
そして電力会社として気になったのが、こうしたシンプルな製品は総じて消費電力も控えめになりやすいという点。
今回は「レトロイノベーション」の中身と、電気代や省エネの視点から見えてくる意外なつながりについて、わかりやすくご紹介します。
目次
- 1. 世界で広がる「レトロイノベーション」とは
- 2. なぜ「あえて不便」が選ばれるのか、3つの市場要因
- 3. 成功企業に共通する3つの力
- 4. 電力会社の視点:シンプルな製品と電気代の関係
- 5. ビジネスパーソンが今日から意識したいポイント
1. 世界で広がる「レトロイノベーション」とは
みなさんは「ブレインロット(脳の腐食)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。もともとはオンラインで時間を浪費することへのユーモラスな表現でしたが、今では終わりのないスマホのスクロールがもたらす精神的な疲労を指す言葉として使われるようになっています。
こうした背景から、2021年から2024年にかけて18~24歳の間でフィーチャーフォン(従来型携帯電話)の購入が148%急増したというデータがあるそうです。通話とメールしかできないデバイスのために、あえてスマートフォンを手放す動きが広がっているといいます。
・1990年代のゲーム機を現代仕様で復刻した「Analogue 3D」
・タイプライター感覚を再現しつつクラウド同期機能を備えた「Freewrite Traveler」
・通知やアプリの干渉を排し、紙のような書き心地を再現する電子インク端末「reMarkable」
これらに共通するのは、単なる懐古趣味ではなく、過去の技術を現代の材料や仕組みで再構築し、新しい価値として提供している点です。この潮流は「レトロイノベーション」と呼ばれ、経営戦略の新しい軸として注目され始めています。自動車業界でも、長らくタッチパネルが主流だった操作系に物理ボタンが復活する動きがあり、2024年の調査ではドライバーの89%が主要機能について触覚的な物理コントロールを好むと回答したとされています。
2. なぜ「あえて不便」が選ばれるのか、3つの市場要因
なぜ今、便利さを追求してきたはずの消費者が、あえて機能の少ない製品を選ぶのでしょうか。海外の研究者らが12の製品カテゴリーで30件のレトロイノベーション事例を分析した結果、次の3つの要因が浮かび上がったとされています。
①ウェルネスと環境への配慮
「アプリ断食(appstinence)」と呼ばれる運動があるように、常時接続の環境から距離を置きたいというニーズは、実はベビーブーマー世代ではなくZ世代が主導しているそうです。画面疲れやデジタルデトックス、プライバシーへの懸念から、あえてシンプルな道具を選ぶ動きが広がっています。加えて、頻繁な買い替えや「計画的陳腐化」への環境負荷への意識も高まっており、修理しやすさや長寿命設計を打ち出す製品が支持を集めています。
②耐久性・「所有」への回帰
あるセキュリティー企業のソフトウエア更新の不具合が、史上最大級のIT障害に発展し、空港の手続きが手作業に戻る事態が起きたことは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。こうした事例は、デジタルシステムの脆弱性を改めて浮き彫りにし、物理的な記録や手動での照合手段の価値を見直すきっかけになっています。実際、米国やシンガポールの国立公文書館では、デジタル保存と並行してフィルム保存が続けられているそうです。また、ストリーミングやデジタル購入が「所有」ではなく「アクセス権」に過ぎないという認識が広がったことも、物理メディアへの回帰を後押ししています。
③本物志向・オーセンティシティー危機
生成AIの普及により、コンテンツが本物か合成物かを見分けにくくなったことで、消費者は対面での体験によりリアリティーを求めるようになっているといいます。世界のボードゲーム市場は2025年に170億ドルを超え、2030年までに約300億ドル規模へ拡大する見通しとされており、これも本物志向の高まりを象徴する動きのひとつといえるでしょう。
| 分野 | 製品・取り組みの例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 携帯電話 | Nokia 3210 4G、Lightフォン | 通話・メール中心、アプリを意図的に排除 |
| カメラ | ポラロイド I-2、instax mini Evo | アナログとデジタルの融合 |
| 記録・執筆 | reMarkable、Freewrite Traveler | 単一用途への集中、通知を排除 |
| 音楽 | ハイブリッド型アナログ盤プレーヤー | 物理的な儀式とBluetooth・Wi-Fi機能の両立 |
3. 成功企業に共通する3つの力
こうしたレトロイノベーションを事業機会として取り込むには、企業側にも相応の戦略的能力が求められます。海外の研究者らは、成功している企業に共通する力として次の3つを挙げています。
レガシーマネジメント
自社や他社が持つ既存の資産、休眠中の特許やデザイン、レガシーな製造プロセスを再発見し、現代の材料や生産方法で再活性化する力です。フィンランドのHMDグローバルがノキアブランドのライセンスを取得し、1999年の大ヒットモデルをベースに4G通信やUSB-C充電を備えた「Nokia 3210 4G」を開発した例が紹介されています。
新旧の融合
「昔ながらの体験」と「現代的な利便性」を組み合わせる力です。富士フイルムが、デジタルカメラへの投資を進めながらも銀塩化学やフィルム生産ラインといったアナログの技術力を維持し続け、後に白黒フィルムのラインを再導入できた事例が象徴的です。
選択的デザイン
コア機能を残しながら、何を削ぎ落とすかを見極める「引き算」の力です。米Lightは、インターネット接続やアプリをあえて排除し、通話とメールに特化した端末を設計。売上高は2022年から2024年にかけて前期比で倍増したとされています。逆にオランダのFairphoneは、物理スイッチひとつでスマホ機能を完全にオフにできる仕組みを「追加」する形で選択的デザインを実現しています。
4. 電力会社の視点:シンプルな製品と電気代の関係
ここまでレトロイノベーションの中身を見てきましたが、電力小売事業に携わる私たちが特に興味深く感じたのは「選択的デザイン」という考え方です。
常時ネットワークに接続し、通知やアプリを動かし続けるスマートデバイスは、便利である一方、待機電力や充電の頻度が高くなりがちな側面があります。一方で、通話・メールに機能を絞ったガラケーや、通信機能を持たないアナログレコードプレーヤー、単一用途に特化した電子インク端末などは、構造がシンプルな分、使用時間あたりの消費電力を抑えやすい傾向があるといえるでしょう。
もちろん、レトロな製品に買い替えることだけが省エネの答えではありません。ただ、「本当に必要な機能は何か」「常時稼働させておく必要があるのか」を見直す視点は、オフィスや家庭の電気代を見直す際にもそのまま応用できます。使っていない機器の電源を落とす、スタンバイ状態の家電を整理するといった小さな選択的デザインの積み重ねが、月々の電気代にも表れてきます。
5. ビジネスパーソンが今日から意識したいポイント
レトロイノベーションのトレンドは、モノづくりや商品企画に携わる方だけの話ではありません。オフィス運営やコスト管理を担うビジネスパーソンにとっても、次のような視点で参考になるはずです。
・自社が持つ「休眠資産」(過去の設備やノウハウ)を棚卸ししてみる
・便利さを追加するだけでなく、「何を減らせるか」を検討してみる
・常時稼働している機器やシステムを見直し、本当に必要な稼働時間かを確認する
・電気の使い方や契約プランそのものを、一度立ち止まって見直してみる
「次は何を足すか」ではなく「今あるものから何を引けるか」という視点は、コスト管理においても有効な考え方です。電気代の見直しも、まさにその一例といえるでしょう。
まとめ
今回は日経ビジネスの記事をもとに、世界的に広がる「レトロイノベーション」というトレンドをご紹介しました。デジタル疲れや本物志向を背景に、あえてシンプルな製品を選ぶ消費者が増えており、企業には「レガシーマネジメント」「新旧の融合」「選択的デザイン」という3つの力が求められています。中でも「選択的デザイン」の発想は、常時稼働する機器の見直しなど、電気代のコスト管理にもそのまま応用できる考え方です。便利さを積み上げるだけでなく、何を減らせるかを見つめ直すことが、これからのビジネスにもヒントを与えてくれそうです。
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・資源エネルギー庁:省エネ型製品情報サイト








