【需給調整市場】新技術で三次調整力②の必要量が2割減!?蓄電池事業者が知るべき「予測精度向上」について

 
系統用蓄電所のイメージ
 
先日も需給調整市場の上限価格が下げられるという記事を書きましたが、その需給調整市場に関する気になる記事があったので調べてみました。
今回のテーマは、調整力の「価格」ではなく「量」のお話です。 太陽光発電の導入が進む中、その出力変動をカバーするための「三次調整力②」の調達費用高騰が課題となっていました。これに対し、第58回「需給調整市場検討小委員会」にて、太陽光の発電予測精度を飛躍的に高めることで、そもそも必要な調整力の量(必要量)を減らそうという、非常に技術的な提案がなされました。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の成果を活用したこの新手法、なんと導入により必要量が年間20%以上も削減できる可能性があるとのこと。市場のパイ(規模)に関わる重要なトピックですので、系統用蓄電池事業に関心のある方はぜひチェックしてください。
 


 
目次
1.なぜ「三次調整力②」の費用が高騰していたのか?
2.鍵を握る「太陽光発電出力予測」の高度化
3.驚きの試算結果:新手法導入で必要量が約22%減
4.2026年に向けて:市場はどう変わる?
 
1. なぜ「三次調整力②」の費用が高騰していたのか?
需給調整市場において、2024年4月から全商品の取引が開始されましたが、特にFIT(固定価格買取制度)電源由来の変動に対応する「三次調整力②」の調達費用高騰が問題視されてきました。
三次調整力②とは? FIT特例を利用している太陽光発電などの「予測誤差」を埋めるための調整力です。 具体的には、「前日の予測値」と「実需給直前(ゲートクローズ)」の間のズレに対応するために用意されます。
これまで、この「ズレ」を安全側に見積もるあまり、本来必要以上に多くの調整力を確保しようとし、結果として応札不足や価格高騰を招いていました。そこで今回、「予測の精度を上げれば、確保すべき予備力(=コスト)は減らせるのではないか?」という議論が進んでいるのです。
 
2. 鍵を握る「太陽光発電出力予測」の高度化
予測精度向上のために、NEDO事業で開発された以下の2つの技術的アプローチが注目されています。
 
・複数気象モデルの統合: 一つの予報だけでなく、複数の気象モデルを組み合わせることで、予測の「大外し」を減らす技術です。既に一部エリアで導入されており、これだけでも約17%の必要量低減効果があるとされています。
・信頼区間幅予測の活用(新提案): これまでの手法(信頼度階級予測)は、過去の実績に基づいて「今日はAパターン(信頼度高)」「今日はBパターン(信頼度低)」とテーブルを選ぶ方式でした。 これに対し、今回の「信頼区間幅予測」は、その日の日射量予測の下振れリスクを直接計算し、ダイレクトに必要な調整力を割り出す手法です。
 
3. 驚きの試算結果:新手法導入で必要量が約22%減
今回の委員会で提案されたのは、従来の手法と新しい手法を組み合わせたハイブリッドな方式です。
 
新ルールの概要
・「従来の信頼度階級予測」と「新しい信頼区間幅予測」の両方で必要量を計算。
・そのうち、小さい方の値を採用する。
広域機関が中部エリアを対象に行った試算によると、この新手法を導入した場合の効果は劇的です。
 
【試算結果(中部エリア)】
・三次調整力②の年間必要量が 約22% 低減
・電力量にして 約878GW(ギガワット) 減少
※出典:需給調整市場検討小委員会資料より
「小さい方を採用して大丈夫なの?」という懸念もありますが、不足量のシミュレーションを行っても、現状の運用(余力活用など)で十分にカバーできる範囲に収まることが確認されており、安定供給への影響はないと判断されています。
 
4. 2026年に向けて:市場はどう変わる?
この技術開発はまだ終わりではありません。 今回提案された新手法に加え、2026年秋頃にはさらに高精度な「日射量予測技術」そのものが市場導入される予定です。
系統用蓄電池事業者としての視点で見ると、「市場規模(募集量)が縮小する=売上が減る」とネガティブに捉えることもできます。しかし、マクロな視点で見れば、「過剰な調達が適正化され、市場の持続可能性が高まる」と捉えるべきでしょう。 無駄なコストが削ぎ落とされた筋肉質な市場になることで、本当に必要な場面での調整力の価値は、より明確になっていくはずです。
 
まとめ
今回のニュースのポイントは以下の3点です。
1.コスト削減の切り札: 三次調整力②の高騰対策として、太陽光の出力予測技術の高度化が進んでいる。
2.新手法の効果: 従来手法と新手法(信頼区間幅予測)の「いいとこ取り(最小値採用)」をすることで、必要量を約2割削減できる見込み。
3.今後の展望: 2026年に向けて技術はさらに進化し、需給調整市場はより効率的な運用へとシフトしていく。
市場のルールや技術的背景は日々変化しています。単に「価格が高い・安い」だけでなく、その背景にある「なぜこの量が必要なのか」というロジックを理解しておくことが、長期的な事業戦略において重要になります。
 


 
情熱電力からのお知らせ
今回ご紹介したように、調整力市場は「価格」だけでなく「必要量の算出ロジック」から大きく変わろうとしています。こうした制度変更は、系統用蓄電池の収支シミュレーションや運用計画に直結する重要な要素です。
情熱電力では、最新の市場動向を踏まえた系統用蓄電池事業の立ち上げ支援を行っております。「市場の変化が激しくてついていけない」「自社の計画への影響を知りたい」という事業者様は、ぜひ一度ご相談ください。並走しながら御社のエネルギービジネスをサポートいたします。
 
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