
日本経済新聞に「電力メーターで『DR家電』制御 東電など、28年度にも商用」という記事があったので調べてみました。
内容をひとことでまとめると、東京電力ホールディングス子会社の東京電力パワーグリッド(PG)をはじめとする送配電3社が、各家庭に設置されているスマートメーターを使って、エアコンや蓄電池、電気給湯器などを「一括で」制御する実証実験を始めた、というものです。2028年度末ごろには一部地域での商用化を目指すといいます。
スマートメーターは、すでにほぼ全ての家庭に設置されています。つまり、新しい機器を後から取り付けなくても、全国の家庭がまるごと「電力需給の調整役」になり得るということ。これはエネルギー業界にとって、かなりインパクトの大きい話です。
電気を「使う側」だったはずの私たちが、電力システムを支える一員になる。デマンドレスポンス(DR)と呼ばれるこの仕組みは、法人のエネルギーコスト戦略にも直結してきます。今回は、この動きが何を意味するのか、ビジネスの視点から整理してみました。
目次
- 1. 東電など送配電3社が始めた「スマートメーターDR」実証とは
- 2. そもそもデマンドレスポンス(DR)とは何か
- 3. DR市場は35年度に735億円へ 数字で見る成長性
- 4. 商用化までのロードマップと、残された課題
- 5. ビジネスパーソンが今から押さえておきたい3つの視点
1. 東電など送配電3社が始めた「スマートメーターDR」実証とは
まずは、今回のニュースの中身から見ていきましょう。
実証を始めたのは、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力パワーグリッドの送配電3社です。2026年度から、複数のスマートメーターに対して同時に指令を出し、そのスマートメーターが管理する住宅内の複数の家電類を一括制御できるかを検証しています。
ポイントは「複数」「一括」という部分です。実は2025年度までの段階で、スマートメーターを介して単体の機器の稼働を調整することにはすでに成功していました。今回はそれを、エリア単位・機器複数台へとスケールアップさせる段階に入った、というわけです。
制御の対象として想定されているのは、太陽光発電、電気給湯器、EV充電器、蓄電池といった、家庭にあるエネルギー関連機器です。どれも「使うタイミングを少しずらしても生活に大きな支障が出にくい」ものばかり。ここが重要なところです。
従来の家庭向けDRとの決定的な違い
家庭でのDRは、これまでも前例がありました。ただ、従来方式には大きなハードルがあったのです。
従来のやり方は、家電メーカーのクラウドから、家庭に設置した専用の通信機器を経由して機器を制御するというもの。つまり、参加する家庭ごとに専用機器を置き、インターネット環境を整備する必要がありました。手間もコストもかかるため、なかなか広がりません。
そこで送配電各社が着目したのが、スマートメーターです。
・すでにほぼ全ての家庭に設置されている
・旧型も順次、更新時期を迎える
・電気給湯器など、需給調整に使えるあらゆる製品につながっている
東電PGの小林直樹・次世代ネットワークイノベーション推進担当部長は、スマートメーターが「電気給湯器など需給調整に使えるあらゆる製品に接続されている」点を利点として挙げています(日本経済新聞の報道より)。
新方式では、送配電各社の共通サーバーからスマートメーターへ指令を送り、そこから各機器を動かします。専用機器が不要になるということは、参加のハードルが一気に下がるということ。ここが今回のニュースの核心です。
鍵を握る「第2世代スマートメーター」
この仕組みを支えるのが、2025年度から順次導入が始まった第2世代の次世代スマートメーターです。
第2世代には、次のような機能があります。
・電力データを5分ごとに計測できる
・「IoTルート」と呼ばれる、エネルギー関連家電との通信機能を持つ
一方で、課題もあります。スマートメーターはもともと送受信するデータ量が多くないため、通信容量が限られているのです。実用化にあたっては、この限られた通信容量のなかで検針情報の送信と需給調整の指令を両立できるかが鍵になるとされています。
実証では、検針情報の送信とタイミングをずらしてDR指令を出す方法などを試すとのこと。地味に聞こえるかもしれませんが、こうした通信設計の詰めこそが商用化を左右します。
また、2026年7月には、再エネの需給を束ねるアグリゲーターのShizen Connect(東京・中央)や、家電を手掛けるパナソニック エレクトリックワークスなどが実証に加わりました。実際の需給調整の場面で、アグリゲーターが求める制御の仕方にシステムや家電そのものが対応できるかを確かめる段階に入っています。
2. そもそもデマンドレスポンス(DR)とは何か
ここで、DRという言葉自体を整理しておきましょう。
デマンドレスポンス(Demand Response、略してDR)とは、個人や企業など電力の需要家が、供給事業者の要請に応じて電力の使用量を増減させることを指します。再生可能エネルギーによる発電が広がるなか、その変動を吸収する仕組みとして利用が進んできました。
リアルタイムに電力使用量を監視・制御できるようになったことなどから、電力会社やアグリゲーター(特定卸供給事業者)による取り組みとして広がっています。アグリゲーターの事業者数は、2026年1月時点で136社。ガス事業者や商社なども参入しており、プレーヤーの顔ぶれはかなり多様です。
「下げDR」と「上げDR」の違い
DRには、方向の違う2つのパターンがあります。
・下げDR:供給量の足りない時間帯に、電力使用量の削減を需要家に求めること
・上げDR:電力が余るときに、使用量の増加を要請すること
「節電」のイメージが強いDRですが、実は「もっと使ってください」という上げDRも同じくらい重要です。
具体的な手法としては、日本政策投資銀行によると、生活や業務に重大な影響を及ぼさない照明・空調設備などの使用量を減らす「節電」、需要家が工場などの稼働タイミングを調整する「シフト」、系統や自家発電設備からの調達比率を調整する「代替」があるとされています。
要請を受けた需要家は、自ら設備を調整する手動式か、IoT機器などで自動制御する方式のいずれかで対応します。今回のスマートメーターDRは、後者の自動制御を、専用機器なしで実現しようという話ですね。
参加する側にとってのメリットは、電気料金の割引につながる特典ポイントなどのインセンティブです。一方でアグリゲーターは、DRによって生み出した電力の「調整力」を、需給調整市場や容量市場で売買できます。調整力とは、需要と供給の差を最終的に一致させる供給力のことです。
実例もあります。東京製鉄は九州電力と連携し、九州工場で上げDRを実施してきました。太陽光による発電量の増加を背景に、電力会社から事前に要請を受け、稼働予定でない日にシフトを組み替えるなどして最終的に需要を増やした、というケースです。
再エネの出力抑制がDRを後押ししている
なぜ今、DRの導入機運がここまで高まっているのか。背景には再生可能エネルギーの拡大があります。
電力は需給のバランスが崩れると周波数が乱れ、大規模停電(ブラックアウト)につながりかねません。天候や時間によって発電量が変動する再エネが増えるなかで、電力会社が発電事業者に再エネ発電を抑えるよう求める「出力抑制」の要請頻度は増えています。
ただ、再エネの出力抑制は、実質的にせっかく作れる電気を捨てているのと同じこと。発電設備の有効利用という観点では、大きな課題でした。
ここでDRを活用できれば、「電気が余る時間帯に、家庭の給湯器やEVに充電しておく」といった形で、再エネを効率よく使えるようになります。捨てるはずだった電気が、価値のある電気に変わるわけです。
DRは工場でも取り組みが進んでいますが、手法の一つとして、家庭用ヒートポンプ給湯器やEVなど家庭の機器を制御する手法の注目度が高まっています。数は力、というシンプルな理屈です。
3. DR市場は35年度に735億円へ 数字で見る成長性
では、この市場はどれくらいの規模になるのでしょうか。
矢野経済研究所(東京・中野)は、アグリゲーターが市場取引で得る収入と、需要家が電力の需要抑制で得るインセンティブを合算した国内のDR関連市場規模について、2035年度に2023年度比3.4倍の735億円になると予測しています。
公表されているグラフから読み取れる推移は、おおむね以下の通りです。
| 年度 | DR関連の国内市場規模(億円) |
|---|---|
| 2021年度 | 約135 |
| 2023年度 | 約215 |
| 2024年度(予測) | 約230 |
| 2025年度(予測) | 約255 |
| 2030年度(予測) | 約430 |
| 2035年度(予測) | 735 |
※出所:矢野経済研究所。2035年度の735億円および「2023年度比3.4倍」は公表値、その他の年度は公表グラフから読み取った概数です。アグリゲーターが市場取引で得る収入と、需要家が需要抑制で得るインセンティブを合算したもの。
注目したいのは、2025年度から2030年度にかけての伸びです。ここで市場が一段跳ねる想定になっていますが、まさにこの時期に、今回のスマートメーターDRの商用化(2028年度末ごろ)が重なります。
さらに制度面でも追い風があります。これまでDRによる調整力の市場取引は、大型の工場や蓄電所など電力量の大きい特別高圧・高圧由来に限定されていました。経済産業省は2026年度に、一般家庭など低圧からの電力にも解禁する見通しとされています。
「家庭の電気も市場で取引できるようになる」。この規制緩和と、スマートメーターという全国共通のインフラ。この2つが噛み合ったとき、家庭DRは一気に現実味を帯びてきます。
4. 商用化までのロードマップと、残された課題
27年度フィールド実証、28年度末に商用化へ
今後のスケジュールを整理してみましょう。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| ~2025年度 | スマートメーターを介して単体機器の稼働調整に成功 |
| 2026年度 | 送配電3社が複数機器の一括制御の実証を開始。7月にアグリゲーターや家電メーカーも参加 |
| 2027年度 | 実際の顧客宅のスマートメーターを使ったフィールド実証へ |
| 2028年度末ごろ | 一部地域での商用移行を目指す |
※日本経済新聞の報道をもとに作成
実証では、送配電3社で共通のサーバーや家電の制御方式を構築します。将来的には全国で仕組みを共通化することを見据えており、広域にまたがるエリアでも需給調整の指令を出しやすいよう、エリアごとの垣根をなくす方針です。
一方、共通化で課題になるのがセキュリティー面。仮に一部エリアでウイルスによるサイバー攻撃を受ければ、被害が全国に広がる恐れがあります。そのため、共通のサーバーを用いながらも、ウイルス攻撃はエリアごとに遮断できる仕組みなどを構築するとしています。全国の家庭のエネルギー機器につながるインフラですから、ここは慎重に進めてほしいところですね。
なお、国の第7次エネルギー基本計画にも、スマートメーターを使った需給調整を目指す方針が示されています。国としても家庭の電力需給調整力への期待は高い、ということです。
誰がコストを負担するのか
技術面のめどが立ちつつある一方で、制度面には課題が残っています。最大の論点は「お金の流れ」です。
スマートメーターを介した家庭向けDRを実施した際の、資金回収の仕組みにまだメドが立っていません。
・アグリゲーターが送配電会社にシステムの利用料金を支払う案 → アグリゲーターの負担が増せば、需給調整の拡大に支障が出る恐れ
・送電網の使用料として徴収する「託送料金」に上乗せする案 → 託送料金は顧客の電気料金が原資のため、国民に負担を強いることになる
どちらにも一長一短があり、今後、政府による制度設計の議論が必要になるとされています。
技術ができても、ビジネスとして回る設計になっていなければ普及しません。このあたりの議論の行方は、電力を調達する立場の企業にとっても他人事ではないでしょう。
5. ビジネスパーソンが今から押さえておきたい3つの視点
最後に、この動きをビジネスの文脈でどう捉えるか、3つの視点で整理します。
まず1つめは、「電力コストは、使う量だけでなく使うタイミングで決まる時代になる」という視点です。DRが広がるということは、同じ電力量でも「いつ使うか」で経済的価値が変わるということ。すでに工場では上げDRの実例がありますが、この考え方はオフィスや店舗にも徐々に降りてきます。自社の電力使用パターンのうち、どこがずらせてどこがずらせないのか。今のうちに把握しておく価値は十分にあります。
2つめは、「設備投資の判断軸が変わる」という視点です。ヒートポンプ給湯器、蓄電池、EV充電器といった設備は、これまで省エネや脱炭素の文脈で語られてきました。しかし今後は、DRに参加してインセンティブを得られるかどうかが、投資回収の計算に組み込まれてくる可能性があります。専用の通信機器が不要になれば、参加コストはさらに下がります。
3つめは、「制度の議論を追っておく」という視点です。低圧の市場解禁、託送料金の扱い、資金回収の仕組み。これらがどう決着するかで、企業や家庭が受け取れるメリットの大きさは変わります。エネルギー関連の意思決定に関わる方は、経済産業省の審議会資料などをときどきチェックしておくと、判断のスピードが変わってくるはずです。
私たち情熱電力が拠点を置く長野県松本市のような地域でも、太陽光発電や蓄電池を導入されているお客様は着実に増えています。「作った電気をどう使い切るか」という発想は、これからますます重要になっていくと感じています。
まとめ
東京電力パワーグリッドなど送配電3社が、家庭のスマートメーターを使って複数の家電を一括制御するデマンドレスポンス(DR)の実証を始めました。2027年度には実際の顧客宅でのフィールド実証に進み、2028年度末ごろには一部地域での商用化を目指すとしています。
ポイントは、すでにほぼ全ての家庭にあるスマートメーターを使うため、専用の通信機器が不要になること。第2世代の次世代スマートメーターは5分ごとの計測とIoTルートによる家電通信に対応しており、参加のハードルが大きく下がります。
背景にあるのは再エネの拡大です。天候で変動する再エネが増え、出力抑制で電気を捨てざるを得ない場面が増えるなか、家庭の給湯器やEVを需給調整に使えれば、再エネを効率よく活かせます。矢野経済研究所は、DR関連の国内市場規模が2035年度に735億円(2023年度比3.4倍)になると予測しています。
一方で、資金回収の仕組みなど制度面の課題は残ったまま。技術と制度の両輪がそろったとき、家庭も企業も「電気を使うタイミング」で価値を生み出せる時代が来ます。今から自社の電力の使い方を見直しておくことが、その準備になるはずです。
情熱電力からのお知らせ
デマンドレスポンスのような新しい仕組みが広がっても、出発点になるのは「自社が、いつ、どれくらい電気を使っているか」を正しく知ることです。
株式会社情熱電力では、電力の使用状況の見える化から、料金プランの見直し、太陽光や蓄電池を導入された場合の電気の使い方のご相談まで、お客様の状況に合わせてご案内しています。専門用語をできるだけ使わずに、わかりやすくお伝えすることを大切にしています。
「うちの使い方だとどうなるんだろう?」「今のプランのままでいいのかな?」——そんな段階のご相談でも大歓迎です。気になる方は、お気軽にお声がけください。
TEL:0263-88-1183
お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
この記事に関連するページリンク
・NIKKEI GX:電力メーターで「DR家電」制御 東電など、28年度にも商用
・NIKKEI GX:【デマンドレスポンス】電力需要家、要請受け使用量調整
・資源エネルギー庁:第7次エネルギー基本計画
・資源エネルギー庁:VPP・DRの活用 ネガワット取引




