電気・ガス代補助金が12月再開|低圧1円・高圧0.5円、1〜2月は4.5円・2.3円へ

 
事務所のデスクに置かれた電気料金の明細と電卓、奥に見える工場の屋根
 

最終更新日:2026年10月30日

 
電気・ガス代の補助金が、2026年12月使用分から再開します。値引き単価は電気の低圧が1kWhあたり1.0円、高圧が0.5円。1月と2月は低圧4.5円、高圧2.3円に増えます。高市早苗首相が10月29日に表明し、経済産業省が30日に詳細を公表しました。
 
ただ、ここで気をつけたいことがあります。12月の単価は、今夏(7〜9月)の低圧3.5円・高圧1.8円を下回ります。しかも11月1日に託送料金が改定されたばかりで、その分はそのまま残ります。「補助が戻るから12月の請求は下がる」とは限りません。効いてくるのは1月と2月です。
 
この記事では、9月で終わった支援と、12月から始まる支援を並べて、何がいくら変わるのかを整理します。あわせて、補助が請求書のどこに入っているのか——どこを見れば自分の分が分かるのかも、実際の明細の数字で説明します。
 


 
目次

 


 

1. 電気・ガス代の補助金は、2026年9月使用分で終わりました

 
まずは、確認からです。2026年の支援の対象は7月使用分から9月使用分までの3か月間でした。値引きの単価は次のとおりです。
 

区分 7月使用分 8月使用分 9月使用分
電気(高圧) 1.8円/kWh 2.3円/kWh 1.8円/kWh
電気(低圧) 3.5円/kWh 4.5円/kWh 3.5円/kWh
都市ガス 14.0円/m³ 18.0円/m³ 14.0円/m³

出典:資源エネルギー庁「電気・ガス料金支援」特設サイト。都市ガスは年間契約量1,000万m³未満のご契約が対象で、プロパンガス(LPガス)はこの支援の対象外です。
 
(情熱電力の過去記事:この夏の支援がどういう経緯で決まったのかは、高圧の単価も含めてこちらで解説しています)
 
ところで、この支援は請求書のどこに入っていたのでしょうか。実は、ここが今回いちばん分かりにくいところです。
 
情熱電力では、低圧・高圧のいずれも燃料費調整単価に含めて計算する形で支援を反映してきました。独立した「値引き」の行があるわけではなく、燃料費調整単価そのものが、支援の分だけ低く表示されています。この扱いは経済産業省からの通達に沿ったもので、請求書のサンプルチェックも受けています。
 
では、どこを見れば支援の額が分かるのか。明細の欄外にある注記です。情熱電力の請求書には、燃料費調整単価のすぐ下に、次の1行が入っています。
 
・(低圧)※1 燃料費調整単価には、国による電気料金軽減措置(-3.50円/kWh)を含んでいます。
・(高圧)※1 燃料費調整単価には、国による電気料金軽減措置(-1.80円/kWh)を含んでいます。
 
実際の数字で見ると、影響の大きさが分かります。2026年10月分の請求書では、燃料費調整単価は低圧が0円09銭/kWh、高圧が2円74銭/kWhでした。どちらも、支援の分が差し引かれたあとの数字です。
 

区分 10月分の燃料費調整単価(支援込み) 含まれる支援 支援を除いた水準
低圧 0円09銭/kWh -3.50円/kWh 3円59銭/kWh
高圧 2円74銭/kWh -1.80円/kWh 4円54銭/kWh

出典:情熱電力の2026年10月分の請求書より(いずれも税込)。燃料費調整単価は毎月変わります。右端は、同じ月の単価から支援分を戻した水準です。
※なお情熱電力の燃料費調整額は、みなし小売電気事業者(大手電力会社の小売部門)と同じ算定式を用いています。独自の算定式を採用している小売電気事業者もあるため、他社の請求書と単価を見比べるときは、同じものを比べているかどうかにご注意ください。
 
燃料価格そのものがまったく動かなかったとしても、支援が外れれば、燃料費調整単価の表示はこの水準に戻ります。低圧では0円09銭が3円59銭へ。数字の見た目は大きく変わりますが、実際に増えているのは1kWhあたり3.50円です。
 
そして11月以降の請求書では、この※1の注記そのものがなくなります。「補助が終わった」と請求書の上で分かる手がかりは、実はこの1行です。
 
ここで混乱しやすいのが、「9月使用分で終わり」と「11月の請求から上がる」のあいだにある、1か月以上のずれです。これは検針のタイミングによるものです。
 
エネ庁の説明では、たとえば「7月使用分」とは、7月中の検針日から8月中の検針日までの使用分を指します。ただし、期間の区切り方は電気を使用する施設の検針日によって違います。実際、情熱電力の2026年10月分の請求書を見ると、ある低圧のご契約は9月11日〜10月13日、ある高圧のご契約は9月1日〜9月30日と、同じ「10月分」でも期間の取り方が異なります。確実なのは、お手元の検針票にある「ご使用期間」欄を見ることです。
 
いずれにしても、10月に届いた請求書が支援の入った最後の1枚で、支援のない最初の請求書が11月に届く、という順番は共通です。
 
請求書を保管されている方は、10月分を1枚取り出して、燃料費調整単価の行と欄外の注記を見てみてください。そこに書かれている数字が、11月以降との比較の基準になります。
 


 

2. 11月の請求が上がる理由は、ひとつではありません

 
今年のやっかいなところは、補助の終了と、まったく別の制度変更が、ほぼ同じタイミングで重なったことです。順番に見ていきます。
 
 

 理由① 燃料費調整額から、支援の分が外れる

計算そのものは単純です。高圧なら1kWhあたり1.8円、低圧なら3.5円の支援がなくなります。単価が決まっているので、自社の使用量をかければ目安が出ます。
 
・高圧で月20,000kWh使う事業所 → 1.8円 × 20,000kWh = 約36,000円
・高圧で月50,000kWh使う工場 → 1.8円 × 50,000kWh = 約90,000円
・低圧で月1,500kWh使う店舗 → 3.5円 × 1,500kWh = 約5,250円
※いずれも単価に使用量をかけた単純計算です。税や各社の料金体系によって実際の金額は前後します。
 
高圧の単価は低圧のおよそ半分ですが、使う量の桁が違うので、金額としては事業所のほうが大きく効いてきます。年間に直すと、月20,000kWhの事業所で40万円を超える水準です。これは「気づいたら増えていた」で済ませるには大きい額ではないでしょうか。
 
 

 理由② 11月1日からの託送料金の改定

もうひとつが、託送料金の改定です。託送料金というのは、送配電網を使うための料金で、電気料金のなかに最初から組み込まれています。どの小売電気事業者と契約していても、エリアごとに同じ金額がかかる部分です。切り替えで避けられる性質のものではない、という点がポイントになります。
 
託送料金は、レベニューキャップ制度という枠組みのもとで、5か年の事業計画に基づいて決められています。中部電力ミライズの説明によれば、今回は物価や労務費、金利などの上昇を反映するための「期中調整」が行われ、2026年11月1日から託送料金が見直されることになりました。これを受けて、小売側の電気料金単価も見直されます。
 
中部電力パワーグリッドが2026年9月11日に公表した託送供給等約款の変更届出によれば、1kWhあたりの平均託送料金は次のように変わります。
 

区分 現行単価 改定単価 差引
高圧 3.49円 3.93円 +0.44円
特別高圧 1.76円 1.82円 +0.06円
低圧 9.13円 10.76円 +1.63円

出典:中部電力パワーグリッド「託送供給等約款の変更届出について」(2026年9月11日)。いずれも1kWhあたりの平均託送料金で、区分全体をならした数字です。実際の負担は契約容量や使い方によって変わります。改定の幅も実施時期もエリアごとに異なるため、中部エリア以外に拠点のある企業は、各エリアの発表もあわせてご確認ください。
 
高圧でみると、託送料金が1kWhあたり平均で0.44円上がります。補助の終了分1.8円と合わせると、単価の差は2.2円前後。月20,000kWh使う事業所なら、ひと月あたり4万円台の増加という計算になります。複数拠点をお持ちの企業であれば、拠点数の分だけ積み上がることになります。
 
低圧の店舗や事務所をお持ちの場合は、影響の出方がもう少し大きくなります。中部電力ミライズは、ご家庭の平均モデル(従量電灯B・30A・使用量260kWh、口座振替初回引落とし割引後、2026年11月分の燃料費調整額と再生可能エネルギー発電促進賦課金を含む)で、9,252円から9,647円へ、月395円の増加になると公表しています。この395円には補助の終了分が含まれていないため、同じ使用量なら補助終了の約910円が別に乗ります。1kWhあたりで見ると、補助の3.5円に託送の平均1.63円が加わって5円を超える計算です。
 
そしてここに、燃料費調整額の動きも重なります。中東情勢を受けた燃料価格の高止まりで、燃料費調整の上限に達して、超えた分を電力会社が自己負担している会社もあります。上限のある料金メニューでは単価の上昇が途中で止まりますが、高圧の自由料金メニューには上限がないものが多く、その場合はそのまま反映されます。自社の契約がどちらなのかは、確認しておいて損はありません。
(情熱電力の過去記事:燃料費調整の上限がどういう仕組みなのかはこちらにまとめています)
 


 

3. 補助金はいつ再開する? 12月から2月までの単価

 

最新の動き(2026年10月30日時点)
高市早苗首相が10月29日、12月から来年2月までの電気・ガス料金を補助すると表明しました。これを受けて経済産業省が10月30日に値引き単価を公表しています。対象は2026年12月使用分から2027年2月使用分までの3か月です。当初は1〜3月を念頭に検討されていましたが、12月に前倒しされました。3月分については示されていません。

 
公表された値引き単価は、次のとおりです。
 

区分 12月使用分 1月使用分 2月使用分
電気(高圧) 0.5円/kWh 2.3円/kWh 2.3円/kWh
電気(低圧) 1.0円/kWh 4.5円/kWh 4.5円/kWh
都市ガス 4.0円/m³ 18.0円/m³ 18.0円/m³

出典:経済産業省が2026年10月30日に公表した値引き単価(いずれも税込み)。このほかLNGは1トンあたり4,862円(12月)、21,880円(1・2月)です。資源エネルギー庁の特設サイトは順次更新される見込みです。
 
ここで見落としたくないのが、12月の単価の小ささです。低圧は1.0円、高圧は0.5円。今夏の低圧3.5円・高圧1.8円と比べると、3分の1以下になります。
 
しかも、11月1日からの託送料金の改定はそのまま効き続けます。「補助が戻るから12月の請求は下がる」とは限りません。補助が本当に効いてくるのは、低圧4.5円・高圧2.3円になる1月と2月です。この2か月は、今夏でいちばん手厚かった8月使用分と同じ水準にあたります。
 
高市首相は、標準的な家庭で3か月間に「7千円程度の負担の引き下げ効果を実現できる」と述べています。ただしこれは電気と都市ガスを合わせた数字とみられます。電気だけで見ると、低圧で月400kWh使う家庭なら、12月が400円、1月と2月がそれぞれ1,800円で、3か月の合計は4,000円程度という計算になります。
 
事業所の場合は、高圧で月20,000kWh使うなら、12月が1万円、1月と2月がそれぞれ4万6千円で、3か月で10万円強です。いずれも単価に使用量をかけた単純計算なので、実際の金額は料金体系によって前後します。それでも、補助が入る月と入らない月で単価が動くことは、来期の見通しに入れておいて損はありません。
 
残るのは3月分です。今回の発表では触れられていません。過去2年の冬の支援は1〜3月の3か月でしたが、今回は12〜2月に前倒しされた形なので、3月をどう扱うかは今後の判断になります。このブロックは、続報が入るたびに最新の内容へ書き換えます。
 


 

4. 補助金は「値下げ」ではなく「値引き」です

 
毎回この時期になると感じるのですが、補助金は電気料金そのものを安くする仕組みではありません。請求の最後で、国のお金で差し引いているだけです。
 
この違いが効いてくるのは、補助が切れた瞬間です。支援の分が外れると、もともとの単価がそのまま表に出てきます。しかも先ほど見たとおり、その支援は燃料費調整単価に含まれていたので、単価の行だけを見ても気づけない形で入っていました。この2年ほど、断続的に補助が入り続けてきたので、「補助が入った状態の金額」のほうが基準のように感じられている方も多いのではないでしょうか。実際には、そちらが特別な状態でした。
 
現に、今回の自民党の提言案では、電気・ガスの支援を求める一方で、ガソリンなど燃料油の補助は段階的に縮小する方向が示されました。補助というのは、いつまでも同じ形で続くものではない、ということでもあります。
 
法人にとって、この点は実務的な意味を持ちます。補助が入っている時期の請求額をもとに年間のエネルギーコストを見込んでいると、補助が切れた期の予算が足りなくなります。特に市場連動型のプランでは、補助の有無と燃料価格の変動が二重に効いてくるため、ぶれ幅が大きくなりがちです。来期の予算を組む前に、補助を除いた素の単価で一度試算し直しておくことをおすすめします。前期の実績をそのまま横に置くと、見込みが低く出ます。
 
私たち情熱電力のような小売電気事業者も、補助の対象月と単価が決まってはじめて請求に反映できます。「いつから戻りますか」とお問い合わせをいただくことが多いのですが、正直に申し上げると、私たちも国の発表を待っている立場です。決まり次第、このブログでお知らせします。
 


 

5. 補助がない冬に向けて、法人がいまできること

 
補助の再開は待つしかありませんが、待つあいだにできることはあります。
 
① 11月の請求書を、前年同月と並べて見る
金額だけを見ると「高くなった」で終わってしまいます。使用量(kWh)と燃料費調整単価も一緒に並べてみてください。支援は燃調単価に含めて計算されていたので、10月に届いた請求書の燃調単価と注記(※1)を控えておくと、11月以降の単価と比べたときに、補助の終了分と燃料価格そのものの動きを切り分けられます。拠点が複数ある場合は、拠点ごとに並べると、設備の不調や運用のズレが見つかることもあります。
 
② 契約電力(デマンド)を見直す
高圧のご契約では、過去1年のうち最大の30分デマンドで基本料金が決まります。500kW以上の契約電力のお客様の場合。数年前のピークを引きずったまま契約電力が高止まりしているケースは、実際に少なくありません。設備を更新した、稼働を減らした、拠点を統合した。そうした変化があったのに契約電力が当時のままなら、基本料金を払いすぎている可能性があります。冬は暖房でデマンドが立ちやすい季節でもあるので、いまのうちに実績を確認しておく価値があります。
 
③ 料金メニューの条件を確認する
燃料費調整に上限があるメニューかどうか、市場価格の変動がどこまで反映される設計か。この2点は、確認するだけなら費用がかかりません。冷え込みの厳しい信州のような地域では、冬のピーク時に市場価格が跳ねることもあるため、ここを把握しているかどうかで年間のぶれ方が変わります。
 
④ 補助に左右されない構造を考える
自家消費型の太陽光発電や蓄電池は、初期費用がかかる代わりに、買う電気そのものを減らす打ち手です。蓄電池はピークカットによる基本料金の抑制にもつながります。補助金の有無に左右されにくいという意味では、ここ数年の振れ幅を見てきた企業ほど検討の価値があるかもしれません。
 


 
まとめ
2026年夏の電気・ガス料金支援は、9月使用分で終了しました。検針のタイミングの関係で、支援の入らない最初の請求書が届くのは11月です。しかも支援は燃料費調整単価に含めて計算されていたため、独立した値引きの行としては出てきません。手がかりは欄外の注記(※1)だけで、11月以降はその注記も消えます。終わったことに気づきにくいのは、このためです。
 
11月の請求が上がる理由は、補助の終了だけではありません。11月1日から託送料金が改定され、中部エリアでは1kWhあたりの平均託送料金が高圧で0.44円、低圧で1.63円上がります。高圧では補助の終了分1.8円と合わせて単価差が2.2円前後となり、月20,000kWh使う事業所ならひと月4万円台の増加という計算です。さらに燃料費調整額の動きも重なるため、「思ったより上がった」と感じる可能性があります。
 
補助は2026年12月使用分から2027年2月使用分までの3か月、再開します。値引き単価は低圧が12月1.0円・1〜2月4.5円、高圧が12月0.5円・1〜2月2.3円。ただし12月は今夏より薄く、託送料金の改定も続くため、12月の請求がすぐ軽くなるわけではありません。効いてくるのは1月と2月です。3月分は示されていません。
 
いまできるのは、請求書を使用量と燃料費調整単価と一緒に確認すること、契約電力と料金メニューの条件を見直すこと、そして補助が入る月と入らない月を織り込んで来期の予算を組み直しておくことです。続報が入り次第、この記事に追記していきます。
 

更新履歴
2026年10月30日:補助の再開が決定し、値引き単価が公表されたため、タイトル・リード文・3章・まとめを更新しました。表をスマートフォン対応に差し替えています。
2026年10月27日:経済産業大臣の発言と自民党の提言案を受けて、3章の「最新の動き」を更新し、4章に補足を加えました。
2026年10月22日:政府が来年1〜3月使用分の補助を検討していると報じられたため、3章に追記しました。
2026年10月20日:公開

 


 
情熱電力からのお知らせ
「11月の請求が急に上がるの?」「うちの契約は燃料費調整に上限があるの?」といったご質問を、このところ多くいただいています。契約電力が実態に合っているかの確認や、補助を除いた素の単価での年間試算など、来期の予算を組まれる前のご相談を承っています。拠点が複数ある場合の比較もお手伝いできますので、お気軽にお声がけください。
 
株式会社情熱電力
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・資源エネルギー庁:電気・ガス料金支援 特設ページ(公式発表後に情報更新されます。)
・中部電力ミライズ:2026年11月 電気料金単価の見直しについて
・中部電力パワーグリッド:託送供給等約款の変更届出について
・電力・ガス取引監視等委員会:電気の小売供給契約における燃料費調整条項について
・資源エネルギー庁:省エネルギー投資促進に向けた支援補助金
 

JC-STARとは?2027年4月から系統用蓄電池の系統接続に必須となる認証を解説

 
系統用蓄電池のコンテナとサイバーセキュリティ認証を表すシールドのイメージ
 
日経エネルギーNextに「『JC-STAR』で変わる、選ばれる系統用蓄電池メーカーの条件」という記事があったので調べてみました。
 
このブログでは、需給調整市場の上限価格の引き下げや、接続検討が集中して系統の空き容量が足りなくなっている話など、どちらかというと「制度」と「系統」の話を続けて取り上げてきました。今回は少し毛色が違って、蓄電所に並ぶ「機器そのもの」の話です。
 
2027年4月以降に契約申込みを行う高圧・特別高圧の蓄電所では、日本のサイバーセキュリティ認証「JC-STAR」の★1を取得した製品を使うことが、系統接続の要件になります。性能が良くても、価格が安くても、ここを満たせない機器は土俵に上がれません。
 
弊社でも補助金の資料作成や蓄電池案件の開発に日々関わっていますが、この話は系統用蓄電池だけでなく太陽光発電にも及びます。どこまでが対象で、いつまでに何をすればいいのか。整理していきます。
 


 
目次

 


 

1. JC-STARとは?2027年4月から何が変わるのか

 
JC-STARは「Japan Cyber-Security Technical Assessment Requirements」の略で、日本語では「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度」と呼ばれます。インターネットにつながるIoT製品について、サイバーセキュリティの要件を共通のものさしで評価し、ラベルで示す制度です。
 
経済産業省が整備し、運営はIPA(情報処理推進機構)が担当しています。経済産業省の発表によれば、最も基礎的な「★1」は2025年3月から運用が始まりました。対象はスマート家電やルーターから、ネットワークカメラや制御機器まで幅広く、電力分野では太陽光発電・蓄電池・風力発電・燃料電池が含まれます。
 
もともとJC-STARは、補助金の申請要件として使われることはあっても、基本的には事業者が任意で取る認証でした。これが変わります。資源エネルギー庁が公表している「分散型電源のサイバーセキュリティ対策について」(2026年7月・電力基盤整備課)によると、系統連系技術要件、いわゆる「グリッドコード」にJC-STAR★1が組み込まれ、適用時期は次のように整理されています。
(情熱電力の過去記事:蓄電池ビジネスのサイバーリスクについては、国の検討会の議論をまとめた記事もあります)
 

電源の種類 特別高圧・高圧 低圧(50kW未満)
蓄電池 2027年4月 2027年10月
太陽光発電 2027年4月 2027年10月
風力発電 2027年4月(高圧・特別高圧の区分なし) 対象外
燃料電池 2028年4月 区分なし

出典:資源エネルギー庁「分散型電源のサイバーセキュリティ対策について」(2026年7月)をもとに作成
 
低圧が半年遅れているのは、流通在庫への配慮によるものとされています。風力は適用範囲が狭く、ウィンドファームのゲートウェイのファイアウォール(または同等の防御機能を持つ機器)に限定されています。
 


 

2. 対象は「蓄電池」ではない。PCS・BMS・EMSが認証を取る

 
ここが最初のつまずきどころです。「蓄電池がJC-STARを取る」という言い方をよく耳にしますが、正確ではありません。
 
認証の対象になるのは、通信機能を持ち、設備の制御や監視を担う機器です。具体的にはPCS(パワーコンディショナー)、BMS(バッテリーマネジメントシステム)、EMS/サイトコントローラー、そしてゲートウェイや遠隔監視装置といったIP通信を行う機器が該当します。
 
一方、電池のセルやモジュールそのものは、外部と直接通信しないため、通常は対象に含まれません。昇圧変圧器や受変電設備も同様です。
 
この区別は、実務上かなり効いてきます。電池セルがどこの国で作られていても、制御・監視を担う部分がJC-STAR★1を満たしていれば、システムとしては要件を満たせるということだからです。実際に、2021年創業の国内メーカーであるパワーエックスは、中国製の電池モジュールを採用しつつEMSを自社開発するという構成で、2025年10月に国内メーカーとしていち早く★1の適合ラベルを取得しています。
 
つまり、競争の軸は「セル単体の性能」から「蓄電池システム全体の構成と信頼性」へと移りつつある、ということですね。
 
 

 ★1は自己適合宣言。それでも軽くはない理由

JC-STARには★1から★4までのレベルがあり、★1と★2はメーカーによる自己適合宣言が基本、★3以上では第三者機関による評価・認証が行われます。グリッドコードで2027年4月から求められるのは、このうち最も基礎的な★1です。
 
「自己申告なら簡単では?」と思われるかもしれません。IPAが公開している★1の適合基準を見ると、要求事項はS1.1-01からS1.1-16までの16項目。評価方法の内訳は、ドキュメント評価のみが10項目、実機テストのみが4項目、両方を行うものが2項目です。メーカーが自ら評価してチェックリストを作成しIPAに申請し、適合が認められた製品だけがラベルを表示できます。申請時に証跡の提出は不要ですが、有効期間中は証跡を保管する義務があり、疑義が生じた場合は事後に検査が行われ、ラベルが取り消されることもあります。有効期間はラベル発行日から2年間です。
 
なお、現時点でグリッドコードへの適用が決まっているのは★1までですが、グリッドコード検討会の資料では、分散型電源に固有の脅威やPCS特有の機能を踏まえた★1より上の基準を整備する方針が示されています。時期は未定とされていますが、★1への対応はゴールではなくスタートと考えておいたほうがよさそうです。
 


 

3. いつから必要?「契約申込ベース」という落とし穴

 
適用時期で最も誤解されやすいのが、判定の基準日です。
 
基準になるのは運転開始の時期ではなく、契約申込みの時期です。資源エネルギー庁の資料では、2027年4月1日以降に一般送配電事業者が契約申込みを受け付ける案件に適用される、と整理されています。接続検討の申込みだけでは適用されません。
 
裏を返せば、2027年3月末までに契約申込みを済ませた案件は、運転開始が2027年4月以降であっても対象外ということになります。また、2027年4月より前に契約申込みが完了した案件が、遡及適用によって直ちに系統接続できなくなることはないとされています。
 
既存設備の機器交換についても、FAQで一定の配慮が示されています。過度な負担となる場合に限り、一般送配電事業者への計画書提出を条件として、★1未取得の同類型式製品への交換が当面認められる、という扱いです。
 
 

 逆算すると、動くのは2026年のうち

では、制度適用前の契約申込みを狙う場合、いつ動けばいいのでしょうか。
 
接続検討は、申込みから回答まで標準で3カ月を要します。その回答を受けてから契約申込みに進むため、2027年3月末までに契約申込みを終えるなら、接続検討の申込みは遅くとも2026年末までに済ませておく必要がある、という計算になります。
 

時期 やるべきこと
〜2026年末 接続検討の申込み(回答まで標準3カ月)
2027年3月末まで 契約申込み。ここまでならJC-STAR★1の要件は適用されない
2027年4月以降 契約申込みを行う案件はJC-STAR★1取得製品が必須(高圧・特別高圧)
2027年10月以降 低圧(50kW未満)にも適用

ただし、追加検討や協議で回答が遅れるケースは珍しくありません。標準どおりに進む前提で逆算すると間に合わなくなる可能性があるので、実際にはもう少し余裕を見ておいたほうが安全です。
 
そして、ここで気をつけたいのが、駆け込みで契約申込みを急ぐことが本当に得なのか、という点です。制度の適用を避けられたとしても、その蓄電所は10年、20年と動き続けます。★2以上への引き上げが議論されている以上、「今は対象外だから」と選んだ機器が、数年後に別の形で課題になる可能性は残ります。
 


 

4. なぜ中国メーカーは取得できていないのか

 
ここからが、業界で最も話題になっている部分です。
 
日経エネルギーNextの記事によれば、2026年7月20日時点で、IPAが公表する適合ラベル取得製品の一覧に中国メーカーの製品は1つも確認できないとのことです。CATL、BYD、ファーウェイといった大手も含めてです。一方、中国以外の海外メーカーでは、米テスラ、韓国サムスンSDI、英クラーケン・テクノロジーズなどが既に取得しています。
(情熱電力の過去記事:中国製の蓄電池をめぐる経済安保と脱炭素のせめぎ合いについては、こちらで詳しく整理しています)
 
同記事は、その理由として、JC-STARが製品のセキュリティ機能だけでなく、開発・製造・保守を担う企業の管理・運用体制も評価対象としている点、そして「外国の法的環境等によりサイバーセキュリティ確保へ影響を受ける懸念はないか」が評価項目に含まれている点を挙げています。
 
ここは気になったので、一次資料に当たってみました。
 
IPAが公開している★1の適合基準(S1.1-01〜16)そのものには、外国の法的環境に関する項目は見当たりません。16項目はいずれも製品の技術的なセキュリティ要件です。では記事の指摘は何を指しているのか。IPAが公開している「★1申請書の書き方」を確認すると、申請書の「確認・同意事項」の中に、過去の取消しや法令違反とあわせて「外国の法的環境による影響に関する確認」が置かれています。つまり、製品の技術要件ではなく、申請時に事業者が答える確認事項として組み込まれている、という構造です。
 
さらに申請書を見ると、記入を求められる範囲がかなり広いことがわかります。
 

記入欄 内容
申請企業 企業名、法人番号/LEI番号、本社所在地、親会社①〜③
製造情報 製造ベンダー名、製造国又は地域、OEM/ODM・委託製造などの区分
委託先 製造の委託先(最大3社)、ファームウェアの製造・保守の委託先(最大3社)。それぞれ法人番号と親会社まで
通信モジュール Ethernet、Wi-Fi、LTE、Bluetooth等ごとに製造ベンダー、法人番号、親会社、ラベル取得状況

出典:IPA「★1申請書の書き方」(2025年7月7日版rev3)をもとに作成
 
親会社、委託先、さらには通信モジュールのベンダーとその親会社まで。製品単体ではなく、その製品を支える体制がどこにつながっているかを申告させる設計になっていることがわかります。
 
論点になっているのは、中国の「国家情報法」との関係です。同法では、国家による情報活動において、組織や個人に必要な協力を求めることができると定められています。そうなると、中国企業が製造・管理する機器について、企業が自らの意思だけでデータや遠隔操作の権限を管理できるのか、という問いが残ります。
 
したがって、中国メーカーにとってのハードルは、製品仕様を変えるだけでは解消しにくいものだと考えられます。実際、ある中国メーカーは企業組織や生産拠点、管理体制の抜本的な見直しと、中国国外を中心としたサプライチェーンの再構築によって取得を目指すとしているとされており、今後取得するメーカーが現れる可能性は否定できません。
 
なお、念のため付け加えておくと、JC-STARは制度上、特定の国や企業を排除することを目的とした制度ではありません。ただ、経済安全保障を重視した設計である以上、結果として中国メーカーにとって相対的に高いハードルになっている、というのが現状の見え方です。
 


 

5. 「選ばれるメーカー」の条件はどう変わるか

 
これまで系統用蓄電池の機器選定では、性能・価格・保証条件が主な評価項目でした。そこにサイバーセキュリティ対応が加わります。
 
ただし、順番が大事です。JC-STARを取得したから採用される、という話ではありません。性能や価格、保証条件が重要であることは変わらない。一方で、取得していなければ比較検討の土俵にすら上がれない。付加価値ではなく、前提条件になるということです。
 
事業者側から見れば、CAPEX(資本的支出)への影響は避けられないでしょう。価格競争力で市場を牽引してきたメーカーが選択肢から外れれば、調達コストは上がる方向に動きます。すでに開発が進んでいる案件では、契約申込みの時期によって想定していたメーカーの変更を迫られ、スケジュールが動くケースも出てきます。
 
そしてもう一点。★2以上の整備が検討されている以上、「今★1を持っているか」だけでなく、「制度が厳しくなったときに追随できる体制か」という視点が効いてきます。EMSやBMSを自社で開発し、ファームウェアの更新を自社で回せるメーカーと、委託先に依存しているメーカーとでは、次の改定への対応速度が変わってくるはずです。
 
機器を選ぶときに、カタログの性能値だけでなく、その機器の制御部を「誰が作り、誰が保守するのか」まで確認しておく。手間はかかりますが、20年使う設備であることを考えれば、見ておいて損はないポイントだと思います。
 


 
まとめ
2027年4月以降に契約申込みを行う高圧・特別高圧の蓄電所では、JC-STAR★1を取得した製品を使うことが系統接続の要件になります。低圧(50kW未満)は2027年10月から、燃料電池は2028年4月からの適用です。
 
押さえておきたいポイントは3つあります。1つ目は、認証の対象が電池のセルやモジュールではなく、PCS・BMS・EMSといった通信機能を持つ制御・監視機器だということ。2つ目は、判定の基準が運転開始ではなく契約申込みの時期であり、2027年3月末までの契約申込みを狙うなら接続検討は2026年末までに動く必要があること。3つ目は、★1がゴールではなく、★2以上の整備が検討されているということです。
 
JC-STARは単なる製品認証にとどまらず、申請書で親会社や委託先、通信モジュールのベンダーまで申告を求める、体制を含めた仕組みになっています。価格と性能だけで機器を選べた時代から、「誰が作り、誰が保守するのか」までを含めて選ぶ時代へ。蓄電所の投資判断においても、この視点は外せなくなりそうです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
蓄電池や太陽光の案件を進めていると、「この機器で2027年以降も大丈夫なのか」「今の開発スケジュールで契約申込みは間に合うのか」といった、制度と実務が絡んだ判断が増えてきます。
 
情熱電力では、電力小売としての日々の業務のほか、補助金の資料作成や蓄電池案件の開発にも関わっています。制度の読み解きでお困りのことがあれば、気になる段階でお気軽にご相談ください。一緒に整理するところからお手伝いします。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・IPA(情報処理推進機構):適合ラベル取得製品リスト
・IPA(情報処理推進機構):★1(レベル1)適合基準・評価手順(評価手法・評価ガイド)
・資源エネルギー庁:分散型電源のサイバーセキュリティ対策について
・電力広域的運営推進機関(OCCTO):グリッドコード検討会
・日経BP 日経エネルギーNext:「JC-STAR」で変わる、選ばれる系統用蓄電池メーカーの条件
 

アワリーマッチングとは?GHGプロトコル改定で再エネ調達が変わる理由と、地熱が再注目される背景

 
白板の前でアワリーマッチングの仕組みを解説する講師
 
NIKKEI GX(日本経済新聞)に「地熱、アワリーマッチで再び脚光 眠る世界3位の資源量」という記事があったので調べてみました。
 
東芝傘下のジャパンセミコンダクターが、熊本県の地熱発電所とバーチャルPPAを結び、地熱由来の環境価値の調達を始めたという内容です。半導体工場は24時間動き続けますから、昼しか発電しない太陽光とは相性が悪い。そこで地熱、というわけです。
 
ただ、この記事の本当のポイントは地熱そのものではなく、その手前にある「アワリーマッチング」という聞き慣れない言葉のほうにあります。これは、企業が使った電気と再エネの証書を、年間ではなく1時間ごとに突き合わせるという考え方です。
 
もしこれが国際的な算定ルールになると、「年間で帳尻を合わせて再エネ100%」という、いま多くの企業がとっている方法が通用しなくなるかもしれません。地熱が注目されているのは、その先を読んだ動きなんですね。
 
今回は、このアワリーマッチングが何を変えようとしているのか、議論がいまどこまで進んでいるのかを、できるだけ丁寧に整理します。
 


 
目次

 


 

1. アワリーマッチングとは?「年間で帳尻を合わせる」からの転換

 
まず、いまのルールを確認しておきましょう。
 
企業が「再エネ100%を達成しました」と言うとき、その多くは年間の合計で計算しています。1年間に使った電力量が1,000万kWhなら、1年間で1,000万kWh分の再エネ証書を買って償却する。これで帳簿上は再エネ100%になります。
 
ここには、ひとつ目をつぶっている点があります。電気を使った時刻と、再エネが発電された時刻が一致していなくてもいいという点です。
 
たとえば、24時間稼働する工場が深夜2時に使った電気は、実際には火力発電所がまかなっているのかもしれません。それでも、昼間に発電した太陽光の証書を年間でまとめて買えば、深夜の分も相殺されて「再エネ100%」になる。これが現行の考え方です。
 
アワリーマッチング(Hourly Matching、時間単位マッチング)は、ここを変えようとするものです。”1月15日の深夜2時に使った電気は、1月15日の深夜2時に発電された再エネの証書でなければ相殺できない” そういうルールにしよう、という提案です。
 

比較する点 年間マッチング(現行) アワリーマッチング(議論中)
突き合わせる単位 1年間の合計 1時間ごと
深夜の電力をどう扱うか 昼の太陽光の証書で相殺できる その時間に発電した電源の証書が必要
必要なデータ 年間の使用量と証書の枚数 時間別の使用量と、発電時刻のわかる証書
相性のいい電源 太陽光・風力でも問題が出にくい 蓄電池との組み合わせ、または出力が一定の電源
24時間操業の工場にとって 証書を買い足せば達成できる 夜間をどう埋めるかが最大の課題になる

 
この話が「グリーンウォッシングを防ぐ」という文脈で語られるのは、こういう事情があるからです。年間マッチングでは、証書を買うお金が、本当に電力網の脱炭素化につながったのかが見えにくい。時間単位にすれば、「足りない時間帯」がはっきりするので、蓄電池や安定電源への投資を促す価格シグナルになる、という考え方ですね。
 
※グリーンウォッシングとは、実際の環境への配慮が伴っていないのに、環境に良い取り組みをしているように見せかけることを指します。「白く塗って取り繕う(ホワイトウォッシュ)」と「グリーン(環境)」を組み合わせた言葉です。
※ここで気をつけたいのは、年間マッチングで再エネ100%と表示すること自体は、現行ルールに沿った正当な方法だという点です。ルール違反ではありません。それでも「実態と離れているのではないか」という指摘が出ているのが、いまの議論の出発点になっています。
 
一方で、「そこまで厳格にすると、再エネを買おうとする企業そのものが減ってしまう」という反論もあります。この対立が、いま国際的な議論の中心にあります。
 


 

2. なぜいま議論に?GHGプロトコルScope2改定の現在地

 
アワリーマッチングが急に話題になっているのは、GHGプロトコルという国際基準の改定作業が進んでいるためです。
 
GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出量を計算するときの事実上の世界標準です。そのうち、購入した電気や熱による排出を扱うのが「Scope2」。このScope2のガイダンスは2015年に作られたもので、今回が本格的な改定になります。
 
ポイントは、まだ確定していないということです。ここは誤解されやすいので、順を追って見ていきます。
 
 

 パブコメ1,072件が示した賛否

GHGプロトコルは2025年10月20日に改定案のパブリックコンサルテーション(意見募集)を開始しました。当初は同年12月19日までの予定でしたが、関係者からの要望を受けて2026年1月31日まで延長されています。注目度の高さがうかがえますね。
 
その結果が2026年7月29日に公表されました。56カ国から1,072件の回答があり、そのうち約4割が企業からのものだったと報じられています。
 
意見は、きれいに割れました。
 
・賛成側:グリーンウォッシングの抑制につながる。蓄電池やクリーン電源への投資を促す価格シグナルになる
・慎重側:北米・欧州以外では時間別データや取引制度の整備が追いついていない。管理・監査コストが増え、中小企業が参加しづらくなる
 
そして「義務化ではなく、企業が選べる仕組みにすべきだ」という意見が多く寄せられました。
 
これを受けて、GHGプロトコルの独立基準委員会(ISB)は改定案をそのまま採用せず、マーケット基準について複数の報告アプローチを検討するよう技術作業部会(TWG)に指示しています。つまり、「厳格化するか/しないか」の二択ではなく、複数の算定方法を併存させる方向に舵が切られつつある、ということです。
 
今後のスケジュールは、統合草案のパブリックコンサルテーションが2027年第2四半期、最終的な公表が2028年第4四半期という見通しが示されています。すぐに算定方法が変わるわけではありません。
 
 

 先に動くSBTiの新基準

ただ、「2028年まで様子を見ていればいい」とも言い切れません。別のルールが先に動くからです。
 
科学的根拠に基づく削減目標の認定機関であるSBTiが、2026年6月に企業ネットゼロ基準のバージョン2.0を公表しました。この新基準では、年間の電力使用量が1,000万kWh(10GWh)以上の大企業に対し、時間単位で再エネとマッチングできた電力の割合を報告することが求められます。適用開始は2027年2月とされています。
 
さらに、任意の認定プログラムとして「現時点で50%、2030年までに75%、2035年までに90%」という時間単位マッチングの目標水準も示されました。
 
GHGプロトコル本体の結論が出る前に、SBTi認定を取っている企業は時間別データの把握を迫られる。この「時間差」が、先進的な企業を早めに動かしている理由のひとつです。
 


 

3. もうひとつの関門「デリバラビリティ」と日本の電力網

 
改定案で議論されているのは、時間だけではありません。もうひとつ「デリバラビリティ(供給可能性)」という論点があります。
 
こちらは「いつ」ではなく「どこ」の話です。証書が、自社の拠点に物理的に届きうる範囲から調達されているか。これを問うものです。
 
ここで効いてくるのが、電源ごとの「置ける場所」の違いです。太陽光は、日射さえあれば全国どこにでも設置できます。屋根の上でも、休耕地でも構いません。一方、地熱は火山帯の上にしか置けず、国内の主要な発電所は東北と九州に集中しています。洋上風力も、適した海域は限られます。
 
つまり、太陽光はデリバラビリティの影響を受けにくく、地熱や洋上風力は受けやすい。東京の本社が、九州の地熱発電所の証書だけで自社の排出を相殺する。こうした調達が、物理的な実態を伴っていると言えるのか、という問題意識ですね。
 
日本にとっては、ここがなかなか厳しい論点です。東日本と西日本では周波数が異なり、連系線の容量にも制約があります。地域をまたいだ証書の調達が「供給可能性を満たさない」と判断されるリスクが指摘されています。
 
改定案では、市場の境界を越えて調達する場合、エリア間の価格差が一定以内であることや、送電権を確保していることなどで供給可能性を示す必要があるとされています。ただし、具体的な基準値はまだ示されていません。
 
調達方法によって、影響の受け方はかなり変わってきそうです。
 
・オンサイトPPA(自社の屋根などに設置)→ 発電と消費の場所が一致するため、影響を受けにくい
・同じエリア内のフィジカルPPA → 要件を満たしやすい
・遠方エリアのバーチャルPPA → 要件を満たせない可能性があり、懸念が集まっている
 
冒頭のジャパンセミコンダクターが熊本の地熱発電所と契約した事例も、同社の工場が岩手県と大分県にあることを踏まえると、この論点と無関係ではないかもしれません。もっとも、改定案の最終的な線引き次第ですから、現時点で断定はできませんが。
 


 

4. 日本の非化石証書は時間単位に対応できる?

 
では、日本の制度はこの流れに対応できるのでしょうか。
 
現在、国内で環境価値を売買する主な手段は非化石証書です。ただ、この制度にはいくつか構造的な課題が指摘されています。
 
自然エネルギー財団は、次のような点を挙げています。
 
・証書は年度単位で管理されており、発電した時間の情報は含まれていない
・非FIT非化石証書は、取引が完了した後でなければトラッキング(属性情報の付与)ができない。つまり、買う時点では発電方法などの条件を確認できない
・発電期間(年単位)と証書の有効期間(年度単位)に3カ月のずれがある
 
海外の主要な証書も「発電した日」の情報までで、時間までは扱えないものが多いとされます。ただ、少なくとも発行時点で属性情報を持っているという点が日本の制度とは異なります。
 
時間単位のマッチングを証明するには、時間別の電力使用データと、発電時刻のわかる属性情報を紐づける必要があります。いまの非化石証書の仕組みのままでは、そこに届きません。2030年以降の算定に新ルールが適用される見込みであることを考えると、制度の改正にはそれほど余裕がない、という見方もできます。
 
なお、非化石証書そのものの価格についても、2027年度から上限・下限の見直しが段階的に進む方針が示されています。環境価値の調達は、ルールと価格の両面で転換期にあると言えそうです。
(情熱電力の過去記事:非化石証書の価格見直しについては、こちらで詳しく解説しています)
 


 

5. 地熱発電が再び注目される理由

 
ここまで来ると、冒頭の日経の記事がなぜ地熱を取り上げたのかが見えてきます。
 
時間単位でマッチングするなら、1年を通じて昼も夜も発電し続ける電源がいちばん扱いやすい。太陽光は夜に止まり、風力は風任せです。再エネのなかで、ベース電源として安定稼働できるものは、現状ほとんど地熱しかありません。
(情熱電力の過去記事:そもそも地熱発電がどうやって電気をつくっているのかは、こちらでまとめています)
 
実際、企業の動きは先行しています。
 
・ジャパンセミコンダクターは、わいた第2地熱発電所(熊本県小国町)と15年契約のバーチャルPPAを締結。2026年6月から地熱由来の環境価値の調達を開始し、年9,251トンの温暖化ガス削減効果を見込む
・パナソニックエナジーは2025年に九電みらいエナジーとコーポレートPPAを締結し、年約50ギガワット時の供給を受ける
・わいた第2発電所は2026年3月に商用運転を始めたばかりだが、すでにNTT西日本、肥後銀行なども契約
 
半導体工場は24時間稼働し、消費電力も大きい。「24時間365日電気を使い続ける工場と相性がいい」という東芝側のコメントは、まさにアワリーマッチングを見据えたものだと思います。
 
 

 世界3位の資源量と、追いつけなかった30年

需要がこれだけあるのに、供給が追いついていないのが日本の地熱の現状です。
 
日本は火山国で、地熱の資源量は世界3位。1990年代後半には設備容量で世界5位、世界シェアの約7%を占める「地熱大国」でした。しかし、その後は海外の増設ペースに追いつけず、足元のシェアは3%台まで落ちています。
 
政府の目標も未達です。2015年に公表された長期エネルギー需給見通しでは、2030年度までに設備容量を140万〜150万kW(2015年度は53万kW)まで増やし、総発電量に占める比率を1〜1.1%とする案が示されました。ところが2023年12月時点の国内導入量は約60万kWで、2030年度目標の4割程度にとどまっています。
 
資源エネルギー庁の資料でも、地熱の電源構成比は現状0.3%程度で、2040年度の見通しは1〜2%程度とされています。
 
なぜ進まなかったのか。理由は大きく3つあります。
 
・有望地域が温泉地や自然公園と重なることが多く、地元との合意形成や複数の許認可手続きが必要
・調査から掘削まで時間がかかる
・十分な蒸気を確保できなかったときのリスクが大きい
 
ある大手エネルギー企業の元幹部は「地熱はばくちの要素が大きく、企業としてリスクを取りにくかった」と振り返っています。結果として、国内の再エネ投資は開発期間が短く資金を回収しやすい太陽光に偏りました。
 
これを受けて政府は2020年度から、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が初期段階の資源調査を自ら担う仕組みを整えています。2020〜2023年度に全国74カ所で地表調査、8カ所で掘削調査を実施しました。民間企業の探査リスクを国が引き受ける、という発想です。
 
 

 次世代地熱が開こうとしている市場

さらに、これまで使えなかった熱を活用する「次世代型地熱」への期待も高まっています。
 
資源エネルギー庁の次世代型地熱推進官民協議会の中間取りまとめ(2025年10月31日)によると、次世代型地熱のポテンシャルは77GW超。内訳はクローズドループ・EGS(涵養地熱系)で66GW、超臨界地熱で11GW以上とされています。従来型の資源量2,347万kW(23.5GW)と比べても、桁がひとつ違う規模です。
 
導入の見通しは、2040年に約1.4GW(140万kW)、2035〜2050年に約7.7GW(770万kW)。2030年代早期の運転開始を目指すとされています。発電コストの目標は12〜19円/kWh。従来型地熱の13.82〜36.81円/kWhと比べると、コスト面でも改善が見込まれています。
 
国際エネルギー機関(IEA)は、次世代型地熱の世界市場が2040年ごろに2,000億ドル(約31兆5,000億円)に達する可能性があると試算しています。
 
そして日本企業は、設備面で強みを持っています。日本地熱協会によると、東芝エネルギーシステムズ、富士電機、三菱重工業の3社で、累積納入実績ベースの世界の地熱タービンの7割近くを占めてきました。JFEスチールも耐食性のある鋼管を製造できます。発電事業者としてだけでなく、サプライヤーとしての活躍も期待されているわけです。
 


 

6. 企業がいまからできること

 
ここまで読んで、「結局うちは何をすればいいのか」と感じた方も多いと思いますので整理してみます。
 
まず、慌てて契約を変える必要はありませんGHGプロトコルの最終基準は2028年の公表見込みで、複数の算定方法が併存する方向に議論が動いています。いま持っている契約が直ちに無効になるわけではなく、既存の長期契約への経過措置(レガシー条項)も議論されています。
 
そのうえで、備えとして意味がありそうなのは次の3点です。
 
① 時間別の電力使用データを把握しておく
スマートメーターの30分値は、多くの事業者がすでに取得できる状態にあります。自社の消費が、どの時間帯にどれだけ偏っているのか。これを知らないと、そもそも何がどれだけ足りないのかを議論できません。最初の一歩としてはここが現実的です。
 
② 「夜の電気をどうするか」を論点として持っておく
昼の消費が中心の事業所なら、アワリーマッチングの影響は比較的小さい。一方、24時間操業や夜間の消費が大きい事業所では、夜間をどう埋めるかが課題になります。蓄電池を組み合わせるのか、安定電源の環境価値を調達するのか。選択肢は複数あります。
 
③ 証書とPPAの比率を見直す余地があるか考えておく
証書だけに頼った脱炭素は、将来の算定ルールで評価が厳しくなる可能性があります。すぐに切り替える話ではありませんが、次の契約更改のタイミングで検討する価値はあるでしょう。
 
私たちがお客様とお話ししていても、「再エネ100%のメニューに変えたけれど、それが何を意味するのかよくわからない」という声をいただくことがあります。今回の議論は、まさにその「意味」を問い直すものです。難しい話に見えますが、突き詰めれば「使った電気と、作られた電気を、どこまで厳密に結びつけるか」という、とてもシンプルな問いです。
 


 
まとめ
アワリーマッチングは、企業が使った電気と再エネ証書を1時間単位で突き合わせる考え方です。年間の合計で帳尻を合わせる現在の方法に比べると、はるかに厳しい要求になります。
 
GHGプロトコルのScope2改定では、この時間単位のマッチングと、証書が物理的に届きうる範囲からの調達を求める「デリバラビリティ」が主要な論点になりました。2026年1月まで延長されたパブリックコンサルテーションには56カ国から1,072件の意見が集まり、賛否は分かれています。独立基準委員会は改定案をそのまま採用せず、複数の報告手法を検討する方向に進んでいます。最終基準の公表見込みは2028年です。
 
ただ、SBTiの新基準では年間1,000万kWh以上を使う企業に時間単位の報告を求める動きが先行しています。日本の非化石証書は年度単位で管理され、発電時刻の情報を持たないため、制度面の対応も課題として残ります。
 
こうした流れのなかで再評価されているのが地熱発電です。1年を通じて安定して発電できる数少ない再エネであり、九州では企業との大型契約が相次いでいます。世界3位の資源量を持ちながら導入は2030年度目標の4割程度にとどまっていますが、次世代型地熱の目標も示され、潮目は変わりつつあります。
 
いますぐ契約を見直す必要はありません。まずは自社の時間別の電力使用を把握すること。そこから始めてみてはいかがでしょうか。
 


 
情熱電力からのお知らせ
「再エネメニューに切り替えたけれど、これで本当に大丈夫なのか」「時間別の使用量って、どうやって見ればいいの?」
 
こうしたご相談が、法人のお客様から増えています。国際的な算定ルールの話は複雑ですが、まず自社の電気の使い方を知るところからなら、今日からでも始められます。
 
情熱電力では、お客様の使用状況を一緒に確認しながら、何が必要で何が必要でないかを、できるだけわかりやすくご説明しています。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・GHG Protocol(ghgprotocol.org):Scope 2 consultation
・資源エネルギー庁:次世代型地熱推進官民協議会
・資源エネルギー庁:地熱発電の推進に関する研究会
・自然エネルギー財団:転機を迎える「非化石証書」国際的な基準に合わせた改正を
・SBTi(sciencebasedtargets.org):「Corporate Net-Zero Standard V2」
・日本経済新聞/NIKKEI GX:地熱、アワリーマッチで再び脚光 眠る世界3位の資源量
 

系統用蓄電池の「低圧分割」は認めず|エネ庁が地権者の5年確認と接続検討料の引き上げへ

 
区画ごとに分割設置された低圧の系統用蓄電池と、奥に続く配電線
 
電気新聞に「系統蓄電池、『低圧分割』容認せず/エネ庁、対策実施へ」という記事があったので調べてみました。
 
系統用蓄電池といえば、これまでこのブログでも「空押さえ」や連系待ちの長期化を何度か取り上げてきました。今回は少し毛色が違います。争点になっているのは、大きな蓄電所ではなく、50kW未満の小さな蓄電池のほうです。
 
低圧でつなげば、昇圧の設備もいらないし、手続きもぐっと軽くなる。だったら大きな計画を小分けにして低圧で申し込めばいいじゃないか——そう考える事業者が増えてきたようです。資源エネルギー庁は2026年10月6日の次世代電力系統ワーキンググループで、この「低圧分割」を容認しない方針を示しています。
 
かつて太陽光で起きたことが、いま蓄電池で繰り返されつつある。そんな構図です。何がどう変わりそうなのか、順番に見ていきましょう。
 


 
目次

 


 

1. 低圧の系統用蓄電池で、いま何が起きているのか

 
系統用蓄電池を電力系統につなぐとき、容量が50kW以上になると高圧扱いになり、昇圧のための設備が必要になります。変圧器やキュービクルの費用、設置スペース、保安の体制。どれも小さくない負担です。
 
これを避ける方法があります。50kW未満に抑えて、低圧設備として連系することです。
 
1か所だけなら何の問題もありません。問題になっているのは、同じ事業者が隣り合った敷地を細かく分けて、低圧の蓄電池として何件も申し込むケースです。電気新聞の報道によれば、1つの事業者が同じ時期に数百件の低圧蓄電池の接続契約を申し込んだ事例や、低圧設備として接続するために敷地を分割した事例が表面化してきたとされています。
 
同じ配電系統に低圧の蓄電池が集中して接続されると、上位系統の潮流や電圧に影響が出ます。しかも蓄電池は、太陽光と違って充電と放電が急に切り替わります。発電だけの設備より、系統側から見た振る舞いは読みにくい。系統事故が起きたときに復旧の手順に支障が出る恐れも指摘されています。
 
実はこれ、初めての話ではありません。FIT(固定価格買取制度)が始まったあと、50kW未満の太陽光発電設備で同じことが起きました。あのときも、大きな設備を小分けにして低圧で申し込む「分割案件」が増え、国が規制をかけた経緯があります。今回は、その蓄電池版というわけです。
(情熱電力の過去記事:系統の「空押さえ」対策がどう強化されてきたかは、こちらで詳しく解説しています)
 


 

2. 「低圧分割」とは?高圧との規律の違いを整理

 
そもそも、なぜ低圧にすると手続きが軽くなるのでしょうか。電気の世界では、規模に応じて求められる手続きの重さが変わります。低圧は小さい設備を想定した枠組みなので、もともと簡素にできているんですね。
 
ところが、その簡素さが抜け道として使われると話が変わってきます。
 
 

 低圧にだけ適用されない3つの規律

報道で挙げられているのは、おもに次の3点です。
 
・接続検討のプロセスが求められない
・契約申し込み時の保証金を支払わずに申し込める
・土地の使用権限を示す書類の提出といった規律が適用されない
 
この3つは、いずれも高圧以上の系統用蓄電池について、ここ数年で国が強化してきた「空押さえ」対策そのものです。保証金も、土地の確保の確認も、本気で事業をやる人だけが連系の枠を押さえられるようにするために導入されました。
 
低圧にはそれが及んでいない。だから、低圧に分割すればそれらをまとめて回避できてしまう——これが「低圧分割」の中身です。
 

手続き・規律 低圧(50kW未満) 高圧・特別高圧
昇圧設備(変圧器など) 不要 必要
接続検討のプロセス 求められない 必要
契約申し込み時の保証金 支払わずに申し込める 必要
土地の使用権限の確認 適用されない 求められる

※電気新聞の報道で挙げられた項目をもとに整理したものです。実際の取り扱いは一般送配電事業者ごとの約款によります。
 
なお、異なる種類の発電設備を同じ場所に置く場合——たとえば太陽光発電設備と蓄電池を並べて設置するようなケースは、現状では分割設置として認められています。すべての併設がだめになるわけではない、という点は押さえておきたいところです。
 


 

3. エネ庁の対策案:地権者の同一性を5年さかのぼって確認

 
では、どうやって分割を見分けるのか。
 
今回エネ庁が示したのは、土地の持ち主をさかのぼって確認するという方法です。報道によれば、接続の申し込みを行う年度から5年さかのぼって地権者の同一性を確認し、敷地の分割を防ぐ考えが示されました。
 
ここは、現行のルールと比べると変化の大きさがわかります。
 
資源エネルギー庁の「発電等設備の分割対策に関するQ&A」では、地権者の同一性は原則として登記簿上の名義で判断し、接続検討申込みまたは契約申込みを行う年度から「遡って1年以内」に同一であれば同一地権者とみなす、とされています。つまり、1年より前に名義を分けておけば形式上は別の地権者になれた、ということです。
 
これが5年になると、話はまったく変わります。短期間で名義を分け直して申し込む手は使えなくなりますし、5年前となると、そもそも蓄電池ビジネスがここまで加熱する前の状態まで戻ることになります。
 
ちなみに同Q&Aでは、10kW以上50kW未満の太陽電池発電設備でFIT認定を取得する場合などには、2014年度まで遡って地権者を確認する例外もすでに設けられています。太陽光で一度通った道を、蓄電池でも踏むことになりそうだ、と考えるとわかりやすいかもしれません。
 


 

4. 接続検討料は1地点22万円から引き上げへ

 
同じ会合で、もうひとつ方針が示されています。接続検討料の引き上げです。
 
報道によれば、現在1地点あたり22万円(税込)となっている接続検討料を増額する方針が示され、対象エリアを限定せず全国一律で適用するとされています。増額の幅などは、次回以降の会合で議論される見通しです。
 
接続検討料は、系統につなげるかどうかを一般送配電事業者に調べてもらうための費用です。いま22万円という水準は、本気で事業化する人にとっては大きな額ではありません。逆に言えば、「とりあえず出しておこう」という申し込みを止める力も弱い、ということになります。
 
連系の順番待ちが長期化している背景には、実現性の低い申し込みが枠を押さえてしまう問題があります。入口の費用を上げるのは、そこへの対応という位置づけです。ただし、本気の事業者にとっては純粋なコスト増でもあります。増額幅がどこに落ち着くのか、次回以降の議論は要注目です。
(情熱電力の過去記事:連系待ちがどこまで長くなっているかはこちらで整理しています)
 


 

5. 蓄電池ビジネスへの影響と、いつから変わるのか

 
ここまでを、事業者目線で整理してみます。
 
・低圧に分けて数を出す手法は、今後は通りにくくなる方向
・土地の名義は、申し込みの何年も前の状態までさかのぼって見られる前提で考える必要がある
・入口の接続検討料は上がる方向。概算の事業計画は作り直しが必要になるかもしれない
・一方で、異種設備の併設そのものが否定されたわけではない
 
大事なのは、この段階ではまだ「方針が示された」ところだという点です。細かい要件や適用の開始時期は、今後の会合や託送供給等約款の改定を経て固まっていきます。報道の時点で、増額幅などは次回以降の議論とされていました。確定した数字として扱うのは、まだ早い段階です。
 
とはいえ、方向ははっきりしています。安く早くつなぐための小技を封じて、実現性のある計画から順に通していく。ここ数年の制度変更は、だいたいこの一本の線の上に並んでいます。低圧という最後の抜け道に手が入ったことで、その線がひととおり引き終わった、と見ることもできそうです。
 
これから蓄電池事業を検討される方は、「低圧なら簡単だから」という前提を一度外して、計画を組み直してみてください。制度が追いついてくるスピードは、思っているより速いと感じます。
 


 
まとめ
資源エネルギー庁は2026年10月6日の次世代電力系統ワーキンググループで、系統用蓄電池を50kW未満の低圧設備に分割して連系する「低圧分割」を容認せず、対策を実施する方針を示しました。
 
低圧には、接続検討のプロセス、契約申し込み時の保証金、土地の使用権限の確認といった規律が適用されません。高圧以上で強化されてきた「空押さえ」対策を、低圧に分けることで回避できてしまう。1事業者が同時期に数百件を申し込む事例まで出てきたことが、今回の対応の背景にあります。
 
示された対策は、接続の申し込み年度から5年さかのぼって地権者の同一性を確認するというもの。現行の運用が「1年以内」であることを考えると、かなり踏み込んだ内容です。あわせて、現在1地点22万円の接続検討料を全国一律で引き上げる方針も示されました。
 
ただし、増額の幅や適用の時期はこれからの議論です。FIT開始後の太陽光で起きたことが、いま蓄電池で繰り返されている——その構図を頭に置いて、続報を追いかけていきたいところです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
蓄電池や太陽光の制度は、ここ数年で本当に目まぐるしく変わっています。「うちの設備はこの話に関係あるの?」「電気代の面ではどう考えればいいの?」といった素朴な疑問こそ、お気軽にご相談ください。
 
制度の話も電気料金の話も、できるだけかみ砕いてお伝えします。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・資源エネルギー庁:系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について
・資源エネルギー庁:発電等設備の分割対策に関するQ&A
・資源エネルギー庁:系統連系技術要件の改定について(JC-STAR★1要件化)
・電力広域的運営推進機関(OCCTO):系統アクセスに関する統計情報
 

地震対策で見落としがちな10項目|通電火災を防ぐ感震ブレーカーと停電時の電源確保

 
分電盤のブレーカーを落とした室内と、固定された本棚・枕元に置かれた靴という地震対策
 
日本経済新聞に「ガラス飛散・通電火災を防ごう…自宅の地震対策10の鉄則」という記事があったので調べてみました。全国1000人に、専門家が勧める防災策21項目について実際に取り組んでいるかを聞いた調査で、「備えていない」と答えた人が多い順にランキングしたものです。
 
読んでみて、正直ドキッとしました。上位に並んでいるのは、どれも「知らない」のではなく「知っているけれど、まだやっていない」ものばかりなんです。しかも1位から10位のうち、電気に関わる項目が2つも入っていました。
 
私たちは電気をお届けする会社ですが、停電が起きたときに現場でできることと、各ご家庭・各事業所であらかじめ備えておけることは、やはり別物です。ここ数年、お客さまとの会話でも災害の話題が増えてきました。今回は10項目をひとつずつ追いながら、特に電気まわりについては一歩踏み込んで調べたことをお伝えします。
 


 
目次

 


 

1. 「備えていない」人が多い地震対策10項目

 
まずは元の調査結果を押さえておきましょう。日本経済新聞の調査で「備えていない」と答えた人の比率が高かった順に、10位までを並べるとこうなります。
 
・1位 窓ガラス・食器棚に飛散防止フィルムを貼る(87.5%)
・2位 家族らと災害用伝言ダイヤル171などの体験利用(87.1%)
・3位 近隣住民とのコミュニケーション強化(83.9%)
・4位 地域・マンション管理組合の防災訓練に参加(82.6%)
・5位 感震ブレーカー設置などで通電火災防止(82.4%)
・6位 スリッパ・靴・ヘルメットなどを枕元に用意(76.1%)
・7位 消火器を用意(71.3%)
・8位 粘着マット・金具を使い家具・家電を固定(67%)
・9位 ソーラーパネル、ポータブル電源、モバイルバッテリーなどを用意(65.9%)
・10位 自宅の耐震性を十分に確保(64.3%)
(出典:日本経済新聞「ガラス飛散・通電火災を防ごう…自宅の地震対策10の鉄則」)
 
逆に、対策済みの人が多かったのは「小銭を含む現金を用意」(備えている51.5%)、「地域の避難場所を確認」(50.9%)、「断水に備えた飲料水確保」(44.5%)の3つでした。といっても、最も進んでいる項目でも半数程度です。
 
この並びを眺めていて気づくことがあります。上位に来ているのは、費用が高いものではないのです。1位の飛散防止フィルムも、5位の感震ブレーカーも、2位の伝言ダイヤルの練習に至っては無料です。実際、調査の回答にも「やろうと思えばすぐにできそう」という声が寄せられていました。やらない理由がお金ではなく、「きっかけがない」ということなんですよね。
 
一方で10位の耐震性確保については「費用が高いのでなかなか取り組めない」という声が目立ったそうです。同じ「備えていない」でも、理由はだいぶ違います。この記事では、お金のかからないものから順に片づけていく前提で整理していきます。
 


 

2. 通電火災とは?地震火災の約6割が電気に起因している

 
10項目のなかで、私たちが最もお伝えしたいのが5位の通電火災対策です。知名度のわりに、被害の実態が大きい項目だからです。
 
内閣府の「大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会」の報告資料によると、阪神・淡路大震災では139件の火災のうち電気火災が85件、原因別では電気関係が61%を占めていました。東日本大震災でも110件のうち71件、原因別で65%です。つまり、大地震で起きた火災のうち、原因が特定できたものの6割前後が電気に起因しているということになります。
 
「地震の火災」と聞くと、まずコンロの火を思い浮かべる方が多いと思います。ところが実際のデータでは、ガス・油器具が原因のものは阪神・淡路大震災で17%でした。地震で怖いのは、火を使っていないはずの電気のほうです。
 
 

 通電火災が起きる仕組み

通電火災は、地震の揺れそのもので起きるというより、「電気が戻ってきたとき」に起きます。流れとしてはこうです。
 
・地震で停電する
・倒れた家電のコードが傷んだり、電気ストーブが布団や紙の上に倒れたまま電源が入った状態になる
・復旧して電気が戻る
・傷んだ配線がショートする、倒れたストーブが点灯して周囲に着火する
 
やっかいなのは、このタイミングが地震の直後とは限らないことです。停電の復旧は数時間後かもしれませんし、数日後かもしれません。そのとき住人が避難していて家にいなければ、火が出ても誰も気づけません。
 
ですから、避難するときにブレーカーを落としてから出るのが基本の対策になります。ただ、けがをして動けない、留守にしていた、慌てていて思い出せなかった――そういう場合に自動で電気を止めてくれるのが感震ブレーカーです。一定以上の揺れを感知すると、自分で電気を遮断してくれます。
 
 

 感震ブレーカーの種類と費用はいくら?

感震ブレーカーには大きく4つのタイプがあります。費用と工事の要否を整理すると、次のようになります。
 

タイプ 費用の目安 工事 向いている場面
分電盤タイプ(内蔵型) 通常の分電盤より約2万円高い程度 必要 新築・リフォームのタイミング
分電盤タイプ(後付型) 機器で約2万円程度 必要 今の分電盤を活かして家全体を止めたい
コンセントタイプ 1万円程度 不要 電気ストーブなど発熱する器具の口だけ止めたい
簡易タイプ 数千円 不要 まず何か付けておきたい(最初の一歩)

分電盤タイプの価格は内閣府の検討会報告、コンセントタイプと簡易タイプの価格は日本経済新聞の記事に示されていた目安です。簡易タイプは、ばねや重りの落下といった仕組みでブレーカーのレバーを物理的に落とすもので、構造が単純なぶん安く、工事もいりません。
 
ひとつ注意しておきたいのが、家全体の電気が落ちるタイプの場合、夜間の地震では同時に照明も消えるということです。元の記事でも専門家が「停電時自動点灯ライトなどの併用が必要」と指摘していました。真っ暗ななかでガラス片を踏む危険は、このあと4章でも触れます。感震ブレーカーと足元灯はセットで考えてください。
 
なお政府は、延焼のおそれがある密集市街地のうち首都直下地震や南海トラフ地震の対策区域について、10年を区切りに25%以上の世帯への普及を目標として掲げています(消防庁の検討会資料)。全国での普及率がいま何%なのかは、公表資料のなかに明確な数字を見つけられませんでした。元の記事でも専門家が「認知度・普及率ともに低い」と語っており、まだこれからの対策だと言えそうです。設置や購入に補助を設けている自治体もあるので、お住まいの市区町村のホームページを一度確認してみてください。
 


 

3. 停電に備える電源確保と、安否確認の練習

 
9位のポータブル電源・モバイルバッテリー・ソーラーパネルの備えは、ランキングのなかでも「備えていない」が65.9%と比較的低め、つまり取り組んでいる方が多い項目でした。スマートフォンが使えなくなる不安は、多くの方が実感しているのだと思います。
 
ここで大事なのは、持っているかどうかより「使える状態か」です。元の記事でも、モバイルバッテリーを持つだけで安心せず半年に1回など定期的に充電する習慣が鍵だと指摘されていました。これは本当にその通りで、いざ停電したときに残量ゼロだった、という話はあり得ます。防災用品の点検日を決めておくのがよいと思います。
(情熱電力の過去記事:台風シーズンの停電への備え方もまとめています)
 
容量の考え方も、少しだけ現実的に見ておきましょう。スマートフォンの電池容量はおおむね10〜20Wh程度です。つまり1,000Whクラスのポータブル電源があれば、スマホの充電だけならかなりの回数まかなえます。一方で電子レンジやドライヤーのような加熱する家電は数百〜1,500Wを消費するので、同じ1,000Whでも1時間と持ちません。「何を動かしたいのか」を先に決めてから容量を選ぶほうが失敗しません。
 
太陽光パネルと蓄電池をお持ちのご家庭でも、停電時に自動で使えるとは限りません。自立運転への切り替え操作が必要な機種が多く、使えるコンセントの口も限られています。この点は過去の記事でも詳しく取り上げましたので、あわせてご覧ください。
(情熱電力の過去記事:太陽光があっても停電に勝てない理由はこちらで詳しく解説しています)
 
ちなみに「対策済み」上位に入っていた飲料水の備蓄についても触れておきます。農林水産省は、飲料用と調理用だけで1人1日3リットル、最低3日分として9リットルを目安として示しています。元の記事で専門家が勧めていた「7日分以上」は、これより手厚い水準です。在宅避難を前提にするなら、1週間分を目標に少しずつ積み増していくのが現実的でしょう。
 
 

 災害用伝言ダイヤル171は毎月1日・15日に試せます

2位の災害用伝言ダイヤル171の体験利用は、ランキングのなかで唯一、費用がまったくかからない項目です。それでも87.1%の人が「やっていない」と答えました。
 
171は、災害時に音声の伝言を録音・再生できるサービスです。1995年の阪神・淡路大震災で電話がつながりにくい状態が続いたことをきっかけに開発され、1998年にサービスが始まりました。震度6弱以上の地震や豪雨災害などの際に提供されます。
 
ポイントは、伝言を「どの電話番号に預けるか」を家族や社内であらかじめ決めておくことです。自宅の固定電話の番号なのか、お父さんの携帯なのか。ここが食い違うと、お互いに録音したのに相手に届かない、という事態になります。
 
そして、ぶっつけ本番だと操作に迷います。NTT東日本によると、体験利用ができるのは次の期間です。
 
・毎月1日・15日(0時〜24時)
・正月三が日(1月1日〜3日、0時〜24時)
・防災週間(8月30日〜9月5日、9時〜17時)
・防災とボランティア週間(1月15日〜21日、9時〜17時)
 
毎月2回もチャンスがあります。次の15日に、ご家族のグループLINEに「今日171試そう」と一言送ってみるところからで十分です。所要時間は数分です。
 


 

4. けがをしないための3つの対策(ガラス・家具・枕元)

 
1位のガラス飛散防止フィルム、6位の枕元の靴、8位の家具固定は、ひとつながりの話として考えるとわかりやすくなります。いずれも「揺れている最中と直後に、けがをしないため」の対策だからです。
 
けがの原因として家具類の転倒・落下・移動が占めた割合は、2016年の熊本地震の高層マンションで40%、2007年の新潟県中越沖地震では40.7%だったとされています。倒れた家具が出口をふさげば、避難そのものができなくなります。
 
そのうえ、窓ガラスや食器が割れて床一面に散れば、素足では建物から避難するのもままならない状態になってしまいます。元の記事では、専門家が「暗闇の中で倒れて壊れた家具の破片を踏むとほぼ確実に行動できなくなる」と表現していました。だからこそ枕元の靴が効いてくるわけです。
 
つまりこの3つは、順番に効く対策です。
 
・家具を固定する → そもそも倒れない・飛んでこない
・飛散防止フィルムを貼る → 割れても散らばらない
・枕元に靴と明かりを置く → 散らばっても動ける
 
全部やるのが理想ですが、一度にできなければ「寝室だけ」から始めるのがおすすめです。就寝中は最も無防備な時間帯ですし、範囲を区切れば週末の数時間で終わります。飛散防止フィルムはホームセンターやインターネットでも手に入ります。防犯性能が認められたCPマーク付きのものを選べば、防災と防犯を兼ねられるそうです。
 
7位の消火器も、ここに加えておきたい項目です。大地震では同時多発的に火災が起きて消防が足りなくなる可能性があり、停電や断水でスプリンクラーや屋内消火栓が使えないことも考えられます。最初の数分で消せるかどうかが分かれ目になります。
 


 

5. 会社・事業所でやっておきたい備え

 
ここまで自宅の話をしてきましたが、地震が平日の昼間に起きれば、多くの方は職場にいます。会社側の備えも同じくらい大切です。
 
通電火災の考え方は、事業所でもそのまま当てはまります。むしろ、電気ストーブ、業務用冷蔵庫、サーバー、工作機械と、無人の時間帯に電気が戻る設備が自宅より多いのが事業所です。閉店後・退社後に復電したときに誰もいない、という状況は普通に起こります。分電盤に感震ブレーカーを入れておく価値は、住宅より高いかもしれません。
 
あわせて確認しておきたいのが次の点です。
 
・最後に退出する人がブレーカーを落とすルールになっているか
・サーバーやレジなど、落とすと困る機器が無停電電源装置(UPS)でつながれているか
・書庫・スチール棚・パーティションが固定されているか(倒れれば避難経路をふさぎます)
・従業員の安否確認を、誰のどの番号で行うか決まっているか
 
3位・4位に入っていた「近隣とのつながり」「防災訓練への参加」も、事業所のほうが取り組みやすい項目です。阪神・淡路大震災では、建物内に閉じ込められて救助された人のうち8割が家族や近隣の人によって助け出されたともいわれています。隣の会社さんと顔が見える関係かどうかは、備蓄の量と同じくらい効くはずです。
 


 

6. 今日からできることの優先順位

 
10項目を並べ直して、「費用」と「所要時間」で整理してみました。上から順に手を付けていくと、少ない負担で効果の高いところから埋まっていきます。
 

やること 費用 所要時間
171を家族・社内で試す(毎月1日・15日) 0円 5分
枕元に靴・明かり・ヘルメットを置く 0〜数千円 10分
モバイルバッテリーを充電し、点検日を決める 0円 10分
簡易タイプの感震ブレーカーを付ける 数千円 30分
寝室の家具を固定し、ガラスにフィルムを貼る 数千〜1万円台 半日
消火器・飲料水(1人1日3L)を用意する 1万円前後〜 半日
分電盤タイプの感震ブレーカー、ポータブル電源 2万円〜十数万円 業者手配
自宅の耐震診断・耐震改修 数十万円〜(補助あり) 数か月

※費用と所要時間は、本文で挙げた出典や一般的な商品の価格帯をもとにした目安です。製品や住宅の状況によって変わります。
 
最後の耐震改修は確かにハードルが高いのですが、1981年以前に建てられた建物は、耐震基準が強化される前の基準で建てられているため耐震性が不十分なものが多いとされています。国土交通省によると、2025年4月時点で耐震診断や耐震改修などの補助が受けられる市区町村は8割を超えているそうです。該当しそうなお住まいの方は、補助の有無だけでも調べておく価値があります。
 


 
まとめ
今回のランキングで印象的だったのは、「備えていない」上位に並んだのが高額な対策ではなかったことです。1位の飛散防止フィルムも、5位の感震ブレーカーの簡易タイプも数千円で、2位の災害用伝言ダイヤル171の練習にいたっては無料です。足りていないのはお金ではなく、きっかけのほうなんですよね。
 
電力会社としてお伝えしたいのは、やはり通電火災のことです。阪神・淡路大震災でも東日本大震災でも、原因が特定された火災のおよそ6割が電気に起因していました。地震のときに怖いのは、使っている火ではなく、止まっていた電気が戻ってくる瞬間だということになります。避難するときにブレーカーを落とす、それができない場合に備えて感震ブレーカーを付けておく。この2段構えが基本です。
 
そして、これは自宅だけの話ではありません。平日の昼間に地震が来れば、多くの方は職場にいます。無人の時間帯に復電する設備が多いぶん、事業所のほうがリスクは高いとも言えます。退出時にブレーカーを落とすルール、安否確認の方法、棚の固定。どれも今日決められることばかりです。
 
まずは次の1日か15日に、ご家族や職場で171を試してみるところから。はじめてみましょう。
 


 
情熱電力からのお知らせ
停電時に太陽光や蓄電池を実際どう使えばいいのか、感震ブレーカーを付けると普段の電気の使い方はどう変わるのか。こうしたご質問をお客さまからいただくことがあります。
 
情熱電力は電力の小売を行っている会社ですので、設備の工事そのものを承っているわけではありませんが、弊社には電気工事士の有資格者がいます。
また、お客さまの要望内容に応じて、実際に工事を担当してくれる信頼できる電気工事店をご紹介しますし、ご契約中の電気の使われ方から「どのくらいの容量があれば足りそうか」などを一緒に考えることができます。
電気に関する事で気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
 
TEL 0263-88-1183
お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・内閣府(防災情報のページ):大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会関連の情報
・総務省 消防庁:感震ブレーカーの普及推進に関する背景・目的
・NTT東日本:災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内
・農林水産省:大事な水、どうやって備えますか?
・国土交通省:住宅・建築物の耐震化について
・日本経済新聞:ガラス飛散・通電火災を防ごう…自宅の地震対策10の鉄則
 

ペロブスカイト太陽電池はいつ普及する?2040年3.7兆円予測から読む導入時期の目安

 
ビルの壁面に建材一体型で設置された軽量な次世代太陽電池と、工場屋根のフィルム型パネル
 
ITmedia スマートジャパンに「ペロブスカイト太陽電池の世界市場予測、2040年に3.7兆円規模に」という記事があったので調べてみました。調査会社の富士経済が2026年9月に発表したもので、2040年の世界市場は3兆6854億円、2025年と比べて78.9倍になるという予測です。
 
数字だけ見ると、正直なところ少しピンと来ないかもしれません。78.9倍と言われても、では自社の工場や事務所の屋根がいつその話になるのか、までは見えてこないからです。
 
ただ、今回の発表には金額よりも大事なことが書かれていました。「どの用途から、何年ごろに広がっていくのか」という普及の順番です。ここを読むと、設備投資を考えている法人にとって、待つべきものと今決めてよいものの線引きがかなりはっきりします。順を追って見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 富士経済の予測は何を示したのか

 
まず、発表の中身を整理しておきます。調査対象はペロブスカイト太陽電池の単接合型とタンデム型(多接合型)で、世界市場が対象です。
 
発表で示された金額は、次の2つです。
 
・2026年の市場は1088億円の見込み(前年比2.3倍)
・2040年の市場は3兆6854億円(2025年比78.9倍)
 
2026年という「今年」の数字が入っているのがポイントです。2025年までは試験的な生産や実証的な設置、有償サンプルの提供が中心でしたが、2026年は中国のスタートアップメーカーを中心に生産ラインが立ち上がり、量産化が動き出した年だと位置づけられています。つまり、ここからが実際の市場の始まりという見立てですね。
 
一方で、課題もはっきり書かれています。変換効率や耐久性といったモジュールの性能、そして量産時の歩留まりの低さです。商用化が始まった直後なので、当然といえば当然かもしれません。ここが改善するスピードが、そのまま普及のスピードになります。
(情熱電力の過去記事:この耐久性の課題がどこまで解決されたかは、こちらで詳しく取り上げています)
 


 

2. ペロブスカイト太陽電池とは?法人が押さえたい3つの特徴

 
名前は聞いたことがあっても、既存の太陽光パネルと何が違うのかは意外と整理されていないかもしれません。法人の設備投資という目線で見ると、効いてくるのは次の3点です。
 
ひとつめは、軽くて曲げられること。ビルの壁面、耐荷重の小さい屋根、車体のような曲面にも設置できます。これが最大の違いです。既存のシリコンパネルは重く硬いため、「屋根はあるのに載せられない」建物が相当数ありました。そこが開く、という話になります。
 
ふたつめは、つくり方。塗布などによる連続生産が可能とされています。製造工程が印刷に近づくので、量産技術が固まればコストが下がる余地があります。
 
みっつめは、材料。レアメタルを必要としません。調達リスクの面で、既存パネルとは事情が違います。
 
いずれも「だから今すぐ安く買える」という話ではありません。ただ、既存の太陽光発電で検討対象にすらならなかった建物が、数年後には対象になり得る、という理解をしておくと良いと思います。
 


 

3. 普及はいつから?時間軸を3段階で読む

 
ここが今回の発表でいちばん実務に効く部分です。市場は一気に立ち上がるのではなく、用途を変えながら段階的に広がると予測されています。発表の記述を整理すると、おおむね3段階です。
 

時期 主役になるタイプ 主な用途
2030年ごろまで 単接合型 BIPV(建材一体型)・BAPV(建物据付型)
2030年前後 タンデム型の量産開始 大手結晶シリコンメーカーが参入
2035年以降 タンデム型 既存太陽電池の代替として普及

 
 

 2030年ごろまで:壁面と「載せられなかった屋根」から

最初に広がるのは、既存の太陽電池では設置が難しかった場所です。発表では、BIPV(建材一体型太陽電池)とBAPV(建物据付型太陽電池)で、軽さを生かした単接合型の採用が進み、これが市場拡大をけん引するとされています。
 
言い換えると、2030年ごろまでは「既存パネルと競う」のではなく、「既存パネルが入れなかった場所に入る」フェーズということです。発電コストで既存パネルに勝つ段階ではまだない、とも読めます。
 
基板による違いもあります。ガラス基板は発電事業向けのほか、電子機器などの消費者向け、さらに宇宙向けのような特殊・過酷な環境への対応が進んでいます。フィルム基板は軽量で設置自由度の高い製品へと改良が進んでおり、BIPV・BAPVを主軸に、自動車向けの研究・開発も今後増えるとみられています。自社の建物に関係してくるのは、主にフィルム基板のほうですね。
 
 

 2030年前後:大手が動き、タンデム型の量産が始まる

次の節目が2030年ごろです。ここでスタートアップメーカーに加えて、大手の結晶シリコン太陽電池メーカーによるタンデム型の量産化が進むとされています。
 
タンデム型は、ペロブスカイトと結晶シリコンを組み合わせて変換効率を高めたものです。既存のシリコンパネルをつくってきた大手が本格的に動く、という点が重要で、ここを超えると生産量も価格も既存パネルの土俵に乗ってきます。
 
 

 2035年以降:既存パネルの置き換えへ

そして2035年以降、既存太陽電池の代替として普及することで、2040年の3兆6854億円という市場規模につながる、という筋書きです。
 
つまり3兆7000億円近い市場の大半は、2035年より後ろに積み上がる想定ということになります。「2040年に3.7兆円」という見出しだけ見ると今すぐ大きな変化が来るように感じますが、中身を読むと、本格的な置き換えは10年近く先に置かれています。
 


 

4. 予測は毎年動く。前回調査との差を見ておく

 
もうひとつ、押さえておきたいことがあります。この手の市場予測は毎年更新され、そのたびに数字が動くということです。
 
富士経済は同じテーマで前年にも調査を発表しています。EE Times Japan(2025年7月18日)が伝えた前回調査では、2040年の世界市場は3兆9480億円と予測され、2025年の市場は1476億円が見込まれていました。
 

発表時期 2040年の世界市場予測 足元の市場見込み
2025年7月 3兆9480億円 2025年見込 1476億円
2026年9月 3兆6854億円 2026年見込 1088億円

比べる年が1年ずれているので単純な引き算はできませんが、前回は2025年の時点で1476億円に届く見込みだったところ、今回の発表では1年あとの2026年でも1088億円という見込みになっています。立ち上がりが想定より後ろにずれた形です。なお、調査のたびに対象範囲や定義が見直される可能性があるため、まったく同じものさしでの比較ではない点はご留意ください。
 
2040年の金額も、3兆9480億円から3兆6854億円へとやや下がっています。大きく崩れたわけではなく、方向性は変わっていません。ただ、「予測は動くもの」という前提で受け取るのが正しい距離感だと思います。商用化が始まった直後の技術ですから、歩留まりひとつで数年単位のずれが出ます。
 


 

5. 自社の設備投資にどう効くか

 
ここまでを踏まえて、実務的な話をします。設備投資の判断に落とすと、おおむね次のような整理になります。
 
今すでに既存の太陽光パネルが載る屋根をお持ちなら、ペロブスカイトを待つ理由は薄いです。本格的な置き換えは2035年以降の想定で、それまで待つ間に発電できたはずの電気が失われます。10年近い機会損失は、技術の進歩で取り戻せる額ではありません。
(情熱電力の過去記事:初期費用をかけずに太陽光を導入する方法については、こちらで解説しました)
 
逆に、耐荷重の問題で見送った屋根や、面積の大きい壁面をお持ちなら、ここは数年単位で状況が変わる可能性があります。すぐに導入できるという話ではありませんが、2030年ごろに向けて選択肢が増える方向にあるので、建物の改修や建て替えの計画がある場合は、設計段階で「将来BIPVを載せられるか」を一度確認しておく価値はあります。あとから足すより、設計時に織り込むほうが安く済むからです。
 
そして、どちらの場合も先に効いてくるのは、電気の使い方そのものの見直しです。発電設備は入れたあとに使い方を変えるより、使い方を把握してから容量を決めるほうが、ほぼ確実に投資効率が良くなります。新しい技術の普及を待つ時間は、そのまま自社の電力使用の実態を把握する時間に充てられます。
 
価格の見通しについてもひとつ。一部では低価格な既存太陽電池との競合もみられるとされており、ペロブスカイトが出てくれば太陽光全体がすぐ安くなる、という単純な図式にはなっていません。量産技術の向上や主要部材・成膜方法の開発による製造コスト低減は期待されていますが、それが価格に反映される時期まではまだ幅があります。
 


 
まとめ
富士経済が2026年9月に発表したペロブスカイト太陽電池の世界市場予測は、2040年に3兆6854億円、2025年比で78.9倍というものでした。ただ、法人にとって読むべきは金額そのものよりも、その内訳にある普及の順番だと思います。
 
2030年ごろまでは、既存パネルが載らなかった壁面や軽い屋根で単接合型が広がる段階。2030年前後に大手メーカーがタンデム型の量産に入り、既存パネルの置き換えが本格化するのは2035年以降。市場の大半は、この後半に積み上がる想定です。
 
課題も残っています。変換効率や耐久性、量産時の歩留まりの低さは、発表の中でもはっきり指摘されていました。前回調査から足元の見込みが後ろにずれていることも、技術の普及が計画どおりには進まないことを示しています。
 
ですから、今ある屋根に載せられるなら待つ理由はなく、載せられない建物をお持ちなら数年先を見ておく、というのが現時点での妥当な線引きではないでしょうか。そして、どちらにしても先にやっておきたいのは、自社がいつ・どれだけ電気を使っているかを把握することです。ここが固まっていないと、どんな新技術が来ても判断ができません。
 


 
情熱電力からのお知らせ
「うちの電気の使い方って、実際どうなんだろう」と思われた方は、お気軽にご相談ください。
 
情熱電力は長野県を拠点とする新電力です。毎月の電気の使用状況を一緒に見ながら、設備投資を考える前の土台づくりからお手伝いしています。太陽光発電の導入を検討中の方も、まずは現状の使用量と契約内容を整理するところから始めると、話が進めやすくなりますよ。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・富士経済グループ(プレスリリース):ペロブスカイト太陽電池の世界市場を調査
・ITmedia スマートジャパン:ペロブスカイト太陽電池の世界市場予測、2040年に3.7兆円規模に
・日本経済新聞:ペロブスカイト太陽電池、前年比2倍超に 世界の市場規模
・経済産業省:次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会
・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構):次世代型太陽電池の開発
 

送電ロスとは?発電した電気の約5%が消える理由と、住友商事が実用化する炭素繊維の電線を解説

 
夕暮れの空に連なる高圧送電線の鉄塔と、中心に黒い芯を持つ電線の断面イメージ
 
日本経済新聞に「住友商事、送電ロス3割減らす電線 出資先仏社の炭素繊維技術を活用」という記事があったので調べてみました。
 
発電所でつくられた電気は、そのまま全部がご家庭や工場に届いているわけではありません。送電線を通っている間に、一部が熱に変わって失われています。これを「送電ロス」と呼びます。ふだんの生活ではまず意識しない話ですよね。電気は目に見えませんし、届かなかった分が請求書に「ロス」として書かれるわけでもありません。
 
ところがこのロス、規模で見るとかなりの量になります。日本の高圧送電線の総延長は40万キロメートル超。住友商事の試算では、全部を高効率な電線に置き換えられた場合、年100億円分以上の送電ロスを解消できるとされています。
 
今回その住友商事が、電線の「芯」に炭素繊維を使うことで、送電ロスを15〜30%減らす電線を国内で実用化すると発表しました。そもそも送電ロスとは何なのか、なぜ芯を替えるだけで減るのか、そして私たちの電気代に関係してくるのか。順番に見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 送電ロスとは?発電した電気はどこへ消えるのか

 
送電ロスとは、発電所でつくった電気が送電線・配電線を通ってお客さまに届くまでの間に、一部が熱として失われてしまうことです。東京電力パワーグリッドは、この現象を「送配電線の抵抗により、一部の電気エネルギーが熱として失われること」と説明しています。失われた分が発電電力量に対してどれくらいかを示すのが「送配電ロス率」です。
 
では、どれくらい失われているのか。同社は自社エリアの送配電ロス率について「1980年代頃から約5%前後を推移するほど低くなり、諸外国との比較で優れた水準」としています。参考値として、日本4.8%(2010年度)、アメリカ5.8%(2009年度)、フランス6.9%(2009年度)を挙げています。
 
つまり、日本の送電網はもともと世界的に見て優秀な部類です。それでも100のうち5くらいは熱になって消えている、と考えるとどうでしょうか。少し惜しい気がしてきませんか。
 
※ここで挙げた数値は東京電力パワーグリッドのエリア実績および同社が示す参考値です。全国平均や最新年度の数値は、資源エネルギー庁の「電力調査統計」で確認できます。
 


 

2. なぜロスが生まれる?電線の抵抗と熱の仕組み

 電気が流れると、電線はあたたかくなる

 
金属の中を電気が流れるとき、電線は必ず「抵抗」を持っています。抵抗があるところに電流を流すと熱が出ます。電気ストーブやドライヤーが熱くなるのは、まさにこの性質を利用しているからです。
 
送電線でも同じことが起きています。ただしこちらは熱を出したいわけではないので、出た熱はまるごと損失です。しかもこの熱は、電流の大きさの2乗に比例して増えます。電流が2倍になれば、熱は4倍。だから「たくさん送ろうとすると、ロスが一気に増える」という関係になります。
 
 

 高い電圧で送るのは、ロスを減らすため

送る電力の量が同じなら、電圧を高くするほど電流は小さくて済みます。電流が小さければ発熱も小さい。だから発電所から都市部まで運ぶ「高圧送電線」では、何万ボルトという高い電圧が使われています。街なかの電柱で少しずつ電圧を下げ、最後に100Vや200Vにしてご家庭に届く、という流れです。
 
もうひとつの手が、電線そのものの抵抗を下げることです。抵抗は、電気の通り道が太いほど小さくなります。水道のホースが太いほど水が流れやすいのと同じイメージですね。今回の炭素繊維の電線は、この「通り道を太くする」ほうのアプローチにあたります。
 


 

3. 炭素繊維の芯材で送電ロスが15〜30%減る理由

 
 

 鋼の芯を、炭素繊維に置き換える

大容量の電気を送る高圧送電線は、実は1本の金属の棒ではありません。中心に強度を受け持つ「芯」があり、その周りに電気を通すアルミを巻き付けた構造になっています。芯は電線がちぎれないよう引っ張りに耐える役割で、電気を運んでいるのは主に外側のアルミです。
 
一般的な送電線では、この芯に鋼(はがね)が使われています。住友商事が出資したフランスのエプシロン・コンポジットは、この芯を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でつくっています。CFRPは炭素繊維で樹脂を強化した複合材料で、軽いのに強く、たわみにくいのが特徴です。同社は「HVCRC®」という名称で架空送電線用の芯材を展開しています。
 
日経の記事によれば、炭素繊維の芯材は軽くて強く、たわみにくいため、同じ送電線でも電気を通すアルミの割合を増やせます。電気の通り道が太くなるので抵抗が減り、送電時に失われる電力量を15〜30%減らせるとされています。
 

項目 一般的な送電線(鋼芯) 炭素繊維芯の送電線
芯材 鋼 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
芯材の性質 重く、たわみやすい 軽く、たわみにくい
電気を通すアルミの量 従来どおり 増やせる(芯材が軽く強いため)
送電ロス 基準 15〜30%減
送電容量 基準 1.5〜2倍
課題 — 大きく曲げると折れやすい。折れても外観から分かりにくい

(出典:日本経済新聞2026年9月/2024年6月の各記事、住友商事ニュースリリース2024年6月12日をもとに作成)
 
 

 「折れても外から見えない」という壁

いいことずくめに見えますが、弱点もあります。炭素繊維の芯材は、大きく曲げると折れやすいのです。しかも折れても外観からは把握しにくい。中の芯が折れているのに、外側のアルミは無事なので見た目では分からない、という状態が起こりえます。
 
これは送電線としてかなり厳しい問題ですよね。数十年使い続けるインフラで、健全性が目視で確認できないというのは品質管理上の大きな課題です。この理由から、日本向けには輸入できていませんでした。
 
そこで住友商事などは、芯材が折れていないかを数分で確認できる検査機を2026年内にも実用化する計画です。1回の検査で2キロメートル以上の電線の異常の有無を確認できるとされています。電線と検査機をセットで送配電会社や電線メーカーに提案し、敷設に向けた実証を進めていく方針です。
 
技術そのものは実績があります。エプシロン・コンポジットは欧州を中心に1万キロメートル以上の芯材を販売してきました。1987年設立、フランス・ボルドー近郊に本拠を置き、従業員は約200名。引抜成形という製法に独自技術を加えてCFRP製品を低コストでつくるのが強みです。住友商事は2024年6月にこの会社へ出資し、持ち分法適用会社としています。
 


 

4. データセンター時代に効いてくる「送電容量1.5〜2倍」

 
送電ロスが減るというのは、言い換えれば「同じ電線でより多くの電気を運べる」ということです。今回の技術は、日本で一般的な送電線と比べて送電容量を1.5〜2倍に高められるとされています。
 
これがいま注目される理由は、電力需要の伸び方が変わってきたからです。AIの普及でデータセンターの電力消費が急増し、大量に電気を使う施設では発電設備を近くに新設する動きが広がっています。とはいえ、発電所を建てる場所も、そこから電気を運ぶ送電線の空き容量も、いくらでもあるわけではありません。新しい送電線を1本引くには、用地の確保から建設まで長い年月がかかります。
(情熱電力の過去記事:データセンターの急増で電力網がどこまで逼迫しているかは、こちらで詳しく取り上げています)
 
電線を張り替えるだけで容量が1.5〜2倍になるなら、鉄塔やルートはそのまま使えます。既存設備を活かせるうえ、離れた場所にある発電設備も使いやすくなる。「新しく作る」より「いまあるものの性能を上げる」ほうが早い、という発想ですね。
 
再生可能エネルギーとの相性も良さそうです。太陽光や風力は、資源のある場所と電気を使う場所が離れがちで、送電網の容量が足りずに発電を抑えるケースが起きています。住友商事も出資リリースの中で、この芯材が「既存設備を利用しながらより多くの高圧電流を安全且つ高い送電効率で輸送できる」ことから、再生可能エネルギーの普及促進に貢献すると述べています。
 


 

5. 電気代への影響はあるのか

 
気になるのは、これが電気料金にどう響くのかというところですよね。
 
まず前提として、送電ロスの費用は最終的に電気料金の一部として広く負担されています。送配電網の維持・運用にかかる費用は「託送料金」というかたちで料金に含まれており、失われた電気の分もそこに含まれます。ロスが減れば、その分は理屈のうえでは負担の軽減方向に働きます。
 
ただし、すぐに請求額が下がると考えるのは早いと思います。住友商事の試算は「日本の高圧送電線40万キロメートル超がすべて高効率な電線に置き換わった場合、年100億円分以上の送電ロスを解消できる」というものです。あくまで全部置き換わったらの話で、実際の張り替えには工事費も時間もかかります。検査機の実用化はこれから、実証もこれからという段階です。
 
それでも、電力需要が増えていく局面で「いまある設備をもっと効率よく使う」手段が増えるのは、長い目で見て料金の上振れを抑える方向に働きます。長野県のような山間部を多く抱える地域では、そもそも発電地点と消費地が離れがちです。送電の効率が上がることの意味は、都市部より大きいかもしれません。
 
私たちが日々スイッチを入れるとき、その電気がどれだけの距離を旅してきたのかを考えることはあまりありません。でもその道のりの途中で少しずつ熱になって消えているものがあって、それを減らす研究が地道に続いている。そう思うと、電線の見え方も少し変わってきませんか。
(情熱電力の過去記事:そもそも電線をなくしてしまおうという研究も進んでいます)
 


 
まとめ
送電ロスとは、発電所でつくった電気が送電線を通る間に熱として失われてしまうことです。東京電力パワーグリッドは自社エリアの送配電ロス率について、1980年代頃から約5%前後で推移していると説明しています。世界的には低い水準ですが、量にすると相当な規模になります。
 
住友商事は、出資先であるフランスのエプシロン・コンポジットの炭素繊維技術を使い、この送電ロスを15〜30%減らす電線を国内で実用化します。高圧送電線は中心の芯にアルミを巻いた構造で、その芯を鋼から炭素繊維強化プラスチックに替えることで、電気を通すアルミの量を増やせるという仕組みです。送電容量も1.5〜2倍に高められるとされています。課題は芯材が折れても外から分かりにくいことで、2026年内にも1回で2キロメートル以上を数分で検査できる装置を実用化し、電線とセットで提案していく方針です。
 
データセンターの急増で電力需要が伸びるなか、新しい送電線を引くには時間がかかります。いまある鉄塔とルートを使ったまま容量を増やせる技術は、これから存在感を増していきそうです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
電気は、発電所から届くまでの間にもいろいろなことが起きています。料金の内訳や、電気の使い方でどこが変わるのかといったことも、実際に見てみると意外と発見があるものです。
 
「うちの契約、これで合っているのかな」「請求書のこの項目は何だろう」など、気になることがありましたらお気軽にご相談ください。難しい言葉を使わずにご説明します。
 
情熱電力のこのお知らせページでは、
情熱電力が注目した電気に関連した様々な事柄をピックアップして掲載させていただいております。
随時、このページを更新して参りますので
ご興味を持たれた方はまたこのサイトにお越しいただければ幸いです。
 
 
この記事に関連するページリンク
・日本経済新聞:住友商事、仏炭素繊維加工に出資
・日本経済新聞:住友商事、送電ロス3割減らす電線 出資先仏社の炭素繊維技術を活用
・経済産業省:約款上の送電ロスの取扱いについて(電力・ガス取引監視等委員会資料)
 

雨でも夜でも発電する太陽光とは?ペロブスカイト・蓄熱・水中発電の最新技術を解説

 
雨粒の当たるパネル、砂漠の追尾式の鏡、海中のモジュールで広がる太陽光発電の新技術
 
ギズモード・ジャパンに「雨の日でも、夜でも発電。太陽光発電の弱点がなくなりつつある」という記事があったので、調べてみました。
 
ちょうど前回まで、9月の長雨で発電量が前年同月比74%まで落ちた話、そして同じ日照不足で葉物野菜が高騰した話を書いていたところでした。太陽光発電の弱点を、嫌というほど実感した1か月だったわけです。そこへ「雨でも夜でも発電する」という見出しが飛び込んできたので、思わず手が止まりました。
 
紹介されていたのは3つ。雨粒が当たると発電するハイブリッドデバイス、日没後も8時間電気を送り続ける中国の発電所、そして水深10メートルの海中で発電する太陽電池です。どれも、これまで「できない」とされてきた場所に踏み込んでいます。
 
ただ、こうしたニュースは期待先行で読まれがちでもあります。実験室の数字なのか、実際の現場の数字なのか。どこまで来ていて、何が残っているのか。できるだけ冷静に見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 太陽光発電の弱点とは何だったのか

 
太陽光発電の弱点は、昔からはっきりしています。曇れば落ちる。雨なら落ちる。夜はゼロ。それだけです。
 
分かりきった話ではあるのですが、今年の9月はその弱点が実額で見える形になりました。当社の太陽光発電所の発電量は前年同月比74%。空が暗いというだけの理由で、4分の1が消えています。
(情熱電力の過去記事:このときの日照不足がどれほど記録的だったかは、こちらにまとめています)
 
この弱点に対して、これまでの答えは主に「蓄電池」でした。昼に多めに作って、夜に使う。発電側の弱点を、貯める技術で埋める発想です。これは今も現実的な主役です。
 
一方で、「発電そのものを、晴れた昼以外にも広げられないか」という研究も進んでいます。今回紹介されていた3つは、いずれもこちらの方向のものです。雨の日、夜、そして海の中。これまで発電できないとされてきた条件に、それぞれ別のアプローチで挑んでいます。
 


 

2. 雨粒で発電する?ペロブスカイトと摩擦電気の組み合わせ

 
1つ目は、スペインの研究チームが発表した全天候型のハイブリッドデバイスです。
 
鍵になっているのは、ペロブスカイト太陽電池と、摩擦電気ナノ発電機(TENG)という装置の組み合わせ。TENGは、異なる2つの素材が触れ合うときの摩擦で静電気を起こし、それを電気として取り出す仕組みです。下敷きを擦って髪を逆立てる、あの静電気を発電に使うと考えると分かりやすいかもしれません。
 
研究チームは、プラズマ技術を使ってペロブスカイト太陽電池の表面に、厚さ約100ナノメートルの保護膜をコーティングしました。髪の毛の太さの、およそ1000分の1という薄さです。この膜に雨粒が触れると静電気が生じ、それが電力になります。
 
面白いのは、この膜が3つの役目を兼ねている点です。雨粒を電力に変える発電素子であり、太陽電池を劣化から守るカバーであり、太陽光を通す光学フィルターでもある。
 
ここには、ペロブスカイト太陽電池が抱えてきた事情が関係しています。ペロブスカイトは、従来のシリコン製に比べて製造コストが低く、薄く、軽く、曲げられるという長所を持ちながら、「水に弱い」という致命的な弱点がありました。屋外で使うものなのに雨が苦手、という矛盾を抱えていたわけです。その保護膜に発電の役目まで持たせたところが、この研究のうまさだと思います。
 
ただし現時点では、発表された研究段階の技術です。雨の日にどれだけの電力が得られるのか、量としての評価はこれからという段階だと受け止めておくのが妥当でしょう。
 


 

3. 夜も8時間送電する中国の1ギガワット発電所

 
2つ目は、すでに商用運転に入っている実物の話です。
 
中国・新疆ウイグル自治区、ゴビ砂漠の一角にあるハミという街で、中国三峡集団が手がけた1ギガワット級のハイブリッド太陽光発電所が、2026年7月1日から商用運転を始めています。
 
1ギガワットの内訳が独特です。
 
・900メガワット分:通常の太陽光パネルが日中に発電する
・100メガワット分:追尾式の鏡26万枚が太陽を追いかけて光を集め、溶融塩を約550度まで熱する
 
後者は太陽熱発電と呼ばれる方式で、光を電気に変えるのではなく、まず熱に変えて溜めておきます。日が沈んだら、その熱で水を沸かして蒸気タービンを回す。巨大な蓄熱式の湯たんぽを昼のうちに充電しているようなものです。
 
この方式なら、日没後も最大8時間、電気を送り続けられるとされています。フル稼働時には年間およそ20.7億キロワット時を発電し、約83万世帯分の電力をまかなえる見込み。CO2排出量は年間およそ163万トン分の削減になる計算だそうです。
 
夜も発電できるというより、「昼に受け取った太陽のエネルギーを、使いたい時間にずらして出せる」と言ったほうが正確でしょう。電力需要が重なる時間帯に合わせて、昼のうちに蓄えた熱で発電することもできます。
 
 

 溶融塩と蓄電池、どちらが安く夜を支えるか

ここで冷静な見方も紹介されています。
 
独立系の気候シンクタンクであるEmberは、こうした蓄熱技術で太陽光を夜に受け渡すには、まだコストがかかると指摘しています。また米国のNREL(国立再生可能エネルギー研究所)の研究者は、2030年にかけて蓄電池の価格自体がさらに下がっていくと見ています。
 
つまり「溶融塩に熱で貯める」のと「バッテリーに電気で貯める」のと、どちらが安く夜を支えるのかは、まだ決着していません。技術としての完成度と、経済合理性は別の話です。この発電所については、将来的に3ギガワットまで拡張する計画があるとの報道もありますが、本当の評価は、何年も安定して動き続けてコストに見合うかどうかが見えてからになります。
 
とはいえ、砂漠という日射に恵まれた土地の使い方としては筋が通っています。日本の屋根の上にそのまま持ってこられる話ではありませんが、電力系統全体で「夜の時間帯をどう埋めるか」を考えるときの選択肢が一つ増えたことは確かです。
 


 

4. 水深10メートルの海中で発電する太陽電池

 
3つ目が、個人的にはいちばん意外でした。中国・雲南大学を中心とする研究チームが、水深10メートルの海中で太陽電池を発電させることに成功したというものです。研究成果は、エネルギー分野の学術誌『Joule』に2026年9月11日付で掲載されています。
 
これまでの水中太陽電池の研究は、水深2メートル以下の浅い場所が中心でした。理由は、水が光を吸収するからです。論文によれば、水は波長630ナノメートル以上の光、つまり赤から赤外線にかけてを強く吸収します。水深5〜10メートルに届くのは、ほとんどが青から緑の光です。
 
ところが、陸上の高効率な太陽電池がいちばん得意なのは、まさにその赤外線寄りの光を電気に変えることでした。得意な光が届かない場所だったわけです。
 
そこで研究チームは、発想を逆にしました。届かない色を嘆くのではなく、残っている青〜緑の光に合わせた太陽電池を作る。ここでもペロブスカイト太陽電池、その中でも「ワイドバンドギャップ」と呼ばれるタイプが使われています。バンドギャップを約1.96電子ボルトに設定し、水深10メートルの光にぴったり合わせました。
 
結果は数字にはっきり出ています。普通の太陽光を模した光での変換効率は17.08%(第三者認証値は16.79%)。これが水深10メートルの光を模した条件では34.71%まで上がりました。
 
ここは誤解しやすいところなので補足しておきます。効率が倍になっても、発電量が倍になるわけではありません。効率は「届いた光のうち何割を電気にできたか」の割合です。水の中はそもそも届く光が少ないので、少ない光を上手に使えている、という意味になります。
 
実験は南シナ海に浮かぶ潿洲島の沖で行われました。太陽電池モジュールを水中ロボットと組み合わせ、2時間の発電試験を実施。モジュールの受光面積は115平方センチメートル、ハガキよりひとまわり小さいくらいです。
 

水深 2時間の発電量 水深2mとの比
2メートル 1,416ミリワット時 100%
6メートル 752ミリワット時 約53%
10メートル 324ミリワット時 約23%

出典:ギズモード・ジャパンの記事に掲載された、研究チームの実験値(受光面積115平方センチメートル、2時間)。右欄の比は水深2メートルの値を100%として計算したものです
 
ミリワット時は、1ワット時の1000分の1です。水深10メートルの324ミリワット時は、新しめのスマートフォンなら1%の充電にも満たない量になります。
 
小さい、と思われたかもしれません。実際小さいのですが、研究チームが想定しているのは陸から遠い海中のセンサーやカメラ、通信機器、養殖場のモニタリングです。こうした機器は今、電池を交換しに行くか、長いケーブルを引くしかありません。海の上での作業は、それ自体がコストでありリスクでもあります。その手間が減るなら、ハガキ大のパネルで得られる電力にも十分な意味があります。
 
 

 「5.5年もつ」の中身を確かめる

この研究のニュースリリースには「水深10メートルで約5.5年連続運転できる」という数字も出てきます。威勢のいい数字ですが、ここは丁寧に見ておく必要があります。
 
これは、実際の海に5年半沈めた結果ではありません。水深10メートルの光を模した実験室の条件で、劣化を早める加速試験を行い、そこから計算した予測値です。性能が初期の80%まで落ちるまでに約4万8,094時間、つまり約5.49年かかるという計算で、温度は実験海域近くの年平均水温である25度で見積もられています。
 
このほか、窒素を満たした保管箱の中で300日置いても初期効率の約96%を保ち、水深10メートル相当の光の下で1,160時間動かし続けても目立った劣化は見られなかったとのこと。数字としては悪くありません。
 
ただ、濁った湾内での挙動、長期間海水にさらされたときの影響、生き物がびっしり付着する問題については、今回の報告からは見えていません。研究チーム自身も、次のステップとしてさらに深い水深での試験と、水中太陽電池の標準的な試験方法づくりを挙げています。
 
予測値を実績のように受け取らない。これは太陽光に限らず、新しい技術のニュースを読むときに共通して必要だと思います。
 


 

5. 日本の屋根や工場に届くのはいつか

 
では、これらが明日から使えるのかというと、そうではありません。現在地を整理すると次のようになります。
 
・雨粒で発電するデバイス:研究発表の段階。実用化の時期は見通せない
・砂漠のハイブリッド発電所:商用運転中。ただし立地条件が特殊で、コストの評価はこれから
・海中の太陽電池:学術論文の段階。用途は海中機器向けで、陸上の代替ではない
 
共通して登場したペロブスカイト太陽電池については、日本でも実用化に向けた動きが続いています。薄く軽く曲げられるという特性は、荷重の制約で従来のパネルを載せられなかった屋根や壁面に可能性を開くもので、国内でも導入事例が出始めている段階です。
(情熱電力の過去記事:ペロブスカイト太陽電池をめぐる国内の施策は、こちらで詳しく取り上げました)
 
今回の3つの研究がすぐに製品になるわけではありませんが、方向性としては一貫しています。「置ける場所を増やす」「発電できる時間を増やす」。太陽光発電の総量を押し上げるには、パネルの効率を1%上げることだけが道ではない、ということです。
 


 

6. 今ある設備でできることは変わらない

 
最後に、現実の話に戻します。
 
今年の9月のような月が来たとき、雨粒で発電するパネルがあれば助かるのか。正直なところ、仮に実用化されても、曇天で失われる発電量を埋めるほどの量にはならないでしょう。雨の日の発電量を底上げする技術と、1か月分の日照不足を補う技術は、規模が違います。
 
現時点で天候の変動に対して効くのは、やはり昔からの手です。蓄電池で時間をずらす。発電量が落ちた月の買電をどう受け止めるか、契約の側をあらかじめ決めておく。地味ですが、こちらは今日から選べます。
 
とはいえ、できないとされてきたことが一つずつ崩されていくのを見るのは、単純に面白いものです。10年後に「雨の日も多少は発電しますよ」と当たり前のように説明している日が来るかもしれません。そのときまで、こうしたニュースは追いかけていきたいと思います。
 


 
まとめ
太陽光発電の「晴れた昼しか発電できない」という弱点に対して、3つの異なるアプローチが報じられました。
 
雨粒が当たると発電するハイブリッドデバイスは、ペロブスカイト太陽電池の表面に厚さ約100ナノメートルの膜をつけ、その膜が保護と発電を兼ねます。中国・ハミの1ギガワット級発電所は、26万枚の鏡で溶融塩を約550度に熱し、日没後も最大8時間の送電を実現。年間約20.7億キロワット時、約83万世帯分にあたります。そして水深10メートルの海中では、青〜緑の光に合わせたペロブスカイト太陽電池が2時間で324ミリワット時を発電しました。
 
いずれも、研究段階のもの、立地が特殊なもの、用途が限られるものです。「5.5年もつ」が加速試験に基づく予測値であるように、数字の中身まで見ておく必要もあります。それでも、できないとされてきた条件が一つずつ崩れているのは確かです。今日の備えは蓄電池と契約の見直しで、明日の期待はこうした研究に。分けて考えるのが、ちょうどよさそうです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
新しい技術の話は面白いのですが、今月の電気代には効きません。そこは正直に申し上げます。
 
今できることとして現実的なのは、発電量が落ちた月の買電をどう受け止めるか、契約の形をあらかじめ決めておくことです。自家消費型の太陽光を導入されている事業所さまであれば、天候による変動がそのまま購入電力量に表れますので、その振れ幅を見込んだ設計が効いてきます。
 
「うちの場合はどうなのか」を一緒に見るところから始められます。お気軽にご相談ください。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・Joule:ギャップペロブスカイトを用いた水中太陽光発電
・NEDO:次世代型太陽電池の開発
・資源エネルギー庁:次世代再生可能エネルギーの導入加速
・ギズモード・ジャパン:雨の日でも、夜でも発電。太陽光発電の弱点がなくなりつつある
 

レタス1玉400円超はなぜ?日照不足で葉物野菜が高騰、家計への影響と対策を解説

 
品薄で棚に空きが目立つスーパーの野菜売り場に並ぶ、値上がりしたレタスなどの葉物野菜
 
以前「9月の日照不足で太陽光の発電量が前年比74%に」でも触れましたが、その後、日照不足の影響は食卓のほうにもはっきり出てきました。日本経済新聞に「レタス1玉400円超、パニック級高値の恐れ 日照不足で供給減」という記事があったので、調べてみました。
 
スーパーの野菜売り場で「あれ、高い」と足が止まった方も多いのではないでしょうか。レタス類の卸値は前年同期に比べて8割高。市場に入ってくる量は4割も少ない。「過去20年でここまでレタスの供給が厳しいのは初めて」という声まで出ています。
 
前回の記事で書いたのは、日が差さないと太陽光の発電量が落ちるという話でした。考えてみれば、野菜も同じ光で育っています。パネルと葉物野菜は、同じ空の下で同じものを受け取り損ねた。そう並べてみると、今年の9月が何を奪ったのかが見えやすくなる気がします。
 
どの野菜がどれだけ上がったのか。なぜここまでの不足になったのか。そして、いつまで続きそうなのか。順に見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. レタス類の卸値は前年同期比8割高に

 
日本経済新聞が伝えたところによると、東京都中央卸売市場におけるレタス類の卸値は、9月中旬時点で1キログラム314円。前年同期に比べて8割高い水準です。しかも市場への入荷量は、前年同期比で4割少ない。値段が上がっているだけでなく、そもそも物が足りていません。
 
品目別に見ると、差はさらに大きくなります。
 

品目 卸値(1kg) 前年同期比
レタス類(全体) 314円 8割高
 レタス 230円 6割高
 サニーレタス 628円 9割高
 グリーンリーフレタス 623円 2.2倍
ミズナ ― 6割高
ハクサイ ― 3割高

出典:日本経済新聞(東京都中央卸売市場、2026年9月中旬の卸値)。ミズナ・ハクサイは記事中に単価の記載がないため「―」としています
 
グリーンリーフレタスは2.2倍です。去年と同じ量を買おうとしたら、支払いは倍以上になる計算になります。キュウリが1割高、ナスが7%高と、葉物以外もじわりと上がっていますが、葉物の上がり方は明らかに別格です。
 
ある青果卸の担当者は「過去20年でここまでレタスの供給が厳しいのは初めて」と話しています。3年前に猛暑で起きた「トマトパニック」を引き合いに出し、今年は日照不足で「レタスパニック」になりかねない、と。市場関係者がここまで言うのは、相当のことです。
 


 

2. 葉物野菜が高騰した理由は日照不足と多湿

 
理由は、前回の記事で扱った9月の長雨そのものです。
 
9月のレタスの主産地である長野県について、JA全農長野は「日照不足に加え、気温も低かったことから玉が小さい傾向にあった」と説明しています。光が足りないと光合成が進まず、葉が十分に巻かない。小さい玉しか採れなければ、重量ベースの出荷量は当然減ります。
 
さらに厄介なのが、水です。レタスは多湿に弱く、葉が腐ってしまうこともある作物で、実際に病害が発生した例もあったとのこと。雨が降り続けると、育たないだけでなく、育ったものまで傷んでいきます。前回の記事で、リンゴの炭疽病や市田柿の条紋に触れましたが、構図は同じです。高温多湿は病気の条件がそろってしまいます。
(情熱電力の過去記事:9月の日照不足がどれほど記録的だったかは、こちらで数字をまとめています)
 
 

 後続の産地も打撃を受けている

もう一つ見落とせないのが、「次の産地も準備ができていない」ことです。
 
例年、10月以降は茨城県産のレタスが増え始めます。ところが9月の大雨で一部の産地が浸水被害を受けました。さらに、9月は苗を植え付ける定植の時期にあたりますが、JA全農いばらきによれば「雨が続いて土が固まり、作業しにくい日が多くなっている」といいます。
 
ここが、今回の高騰を「すぐには終わらないかもしれない」ものにしている部分です。今採れていないだけなら、天気が戻れば回復します。しかし定植が遅れたということは、その分だけ収穫のタイミングが後ろにずれるということ。影響が先の月に持ち越されます。
 
ミズナやコマツナも同様で、東京市場への入荷量は前年同期比で3割ほど減りました。JAほこた(茨城県鉾田市)の担当者は「日照不足で生育が伸び悩む」と話しています。
 


 

3. 店頭と外食の現場で起きていること

 
卸値の上昇は、そのまま店頭に出てきます。
 
埼玉県桶川市のスーパーでは、9月28日時点でレタスが1玉438円、ハクサイの4分の1カットが275円という値がついていました。レタスは前年同期の2倍、ミズナは330円で3倍ほどです。サラダ1回分のつもりで手に取って、値札を見て戻した。そんな場面が各地で起きていたのではないでしょうか。
 
同店の担当者は「消費者も買い控え気味で、最近は代わりに豆苗などが売れるようになった」と話しています。豆苗は室内の水耕で育てられるため、天候の影響を受けにくい。買い物客の側も、ちゃんと逃げ道を見つけているわけです。
 
影響は業務用にも及んでいます。飲食店向けに野菜を扱う都内の青果卸の担当者は「自社で調達しているものだけでは足りず、社員がスーパーを回って買い集めないといけない状況」とのこと。国産の品薄を受けて中国産レタスの輸入を続けてもなお、逼迫しているといいます。
 
飲食店にとっては、仕入れ値が上がるだけでなく「メニューが出せない」事態になりかねません。サラダや付け合わせは、価格が上がったからといって急に値上げしにくい部分でもあります。
 


 

4. 一方で安くなっている野菜もある

 
ここまで悪い話が続きましたが、売り場のすべてが高いわけではありません。
 
順調なのが北海道産の野菜です。道産野菜は夏から秋にかけて収穫のピークを迎えますが、2025年は記録的な猛暑で低調でした。それが今年は、ホクレン農業協同組合連合会によると「夏場の気温が高くなりすぎず、雨も適度に降った」とのこと。
 
東京都中央卸売市場では9月中旬、道産のジャガイモが1割安、タマネギは4割安で取引されました。東京・練馬のスーパーでは17日時点で道産のジャガイモ(男爵)が1袋171円、タマネギが1袋214円。いずれも前年同期比で2割ほど安い水準です。
 
同じ年の同じ季節に、片方は8割高、片方は4割安。気候が産地ごとに違う顔を見せているということです。葉物が高いときは根菜や芋類に寄せる。昔からある知恵ですが、今年はそれが特によく効く年だといえそうです。
(情熱電力の過去記事:8月は逆に、猛暑で高原野菜の産地が苦しんでいました)
 


 

5. 野菜が高いときの買い方と保存のコツ

 
高い時期の野菜との付き合い方は、だいたい次の3つに整理できます。
 
・品目を替える:レタスの代わりにキャベツや豆苗、水菜の代わりに小松菜以外の青菜など、安いものに寄せる
・産地を替える:北海道産のように、今年は条件が良かった産地の品目を選ぶ
・形を替える:カット野菜や冷凍野菜は、生鮮の相場ほど極端には動かないことがあります
 
そしてもう一つ、意外と大きいのが「買った分を傷ませない」ことです。1玉438円のレタスを半分捨ててしまえば、実質的な単価は876円になります。高い時期ほど、保存の丁寧さがそのまま家計に効いてきます。
 
葉物は、湿らせたキッチンペーパーで包んで袋に入れ、立てて冷蔵する。それだけでも持ちが変わります。使い切れない分は、さっと茹でて小分けに冷凍しておくと無駄が出ません。
 
 

 冷蔵庫の使い方で電気代は変わる

保存の話が出たので、電気の側からも少しだけ。
 
冷蔵庫は、庫内に物を詰め込みすぎると冷気の通り道がふさがれ、冷却効率が落ちます。買いだめをしたときほど、ぎゅうぎゅうに押し込みたくなるものですが、少し余裕を持たせたほうが結果的に効率がよい。これは資源エネルギー庁の省エネ情報でも案内されている、基本の考え方です。
 
一方で冷凍室は逆で、ある程度詰まっているほうが、凍った食品同士が保冷し合うため効率的だとされています。茹でた葉物を小分けにして冷凍室に入れておくのは、食材の無駄を防ぎつつ、冷凍室の中身も埋まるという、二重に都合のいい話です。
 
ちなみに、冷蔵庫の設定温度を「強」から「中」に変えるだけでも消費電力は下がりますが、食品の傷みと引き換えになります。野菜が高い時期に無理をして傷ませては本末転倒ですから、ここは欲張らないほうがよさそうです。
 


 

6. いつまで続く?10月以降の見通し

 
大田市場の青果卸は「10月いっぱいは入荷量が極端に少ない状況が続くのではないか」と警戒しています。
 
天気そのものは回復に向かう見込みです。気象庁は10月について、全国的に天気が数日の周期で変わり、平年に比べて晴れの日が多いとしています。ただ、野菜の値段は天気より遅れて動きます。今日晴れたから明日レタスが安くなる、という話ではありません。今から育てはじめたものが店頭に並ぶまでには時間がかかりますし、定植が遅れた分は、そのまま出荷の遅れとして残ります。
 
つまり、しばらくは高値が続くと見ておくのが現実的です。そのうえで、産地の切り替えが順調に進めば、冬にかけて徐々に落ち着いてくることが期待できます。
 
今回の件は、気候と暮らしのつながりをあらためて見せてくれました。日が差さなかった1か月が、発電量を減らし、果物に病気を呼び、サラダの値段を2倍にした。別々の出来事のようでいて、原因はひとつです。天気が読みにくくなるということは、こういう形で家計や事業に返ってくるのだと思います。
 


 
まとめ
9月の日照不足と長雨によって、葉物野菜の供給が大きく落ち込みました。東京都中央卸売市場のレタス類の卸値は前年同期比8割高の1キログラム314円、入荷量は4割減。グリーンリーフレタスは2.2倍、サニーレタスは9割高です。店頭でもレタス1玉438円、ミズナ330円といった値がつきました。
 
背景にあるのは、主産地での玉の小ささと病害、そして後続産地での浸水と定植の遅れです。今採れていないだけでなく、次の収穫も後ろにずれている。これが「10月いっぱいは続くのでは」という警戒につながっています。
 
一方で、北海道産のジャガイモやタマネギは前年より安く取引されています。すべてが高いわけではありません。安い産地・品目に寄せる、買った分を傷ませない、冷蔵庫に余裕を持たせる。地味ですが、この3つが効く時期です。天気が戻れば野菜も戻ってきます。それまでの、しのぎ方の話だと思って付き合っていきたいところです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
野菜も電気も、値段が動く理由は案外似ています。供給がどれだけあるか、そして需要がどれだけ重なるか。違うのは、電気のほうは契約の形によって、変動の受け止め方を選べるという点です。
 
「今月は高い気がする」が続くようでしたら、一度ご相談ください。使用量のどこが季節の要因で、どこが契約の条件で決まっているのか。切り分けてご説明します。飲食店さまや食品を扱う事業所さまは、冷蔵・冷凍設備の稼働が電気代の大きな部分を占めますので、そのあたりも含めてお話しできます。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・農林水産省:野菜の生育状況及び価格見通し(令和8年10月)について
・東京都中央卸売市場:販売結果(青果)
・独立行政法人農畜産業振興機構(alic):「ベジ探 野菜情報」
・気象庁:農業気象
・資源エネルギー庁(省エネポータルサイト):キッチン 無理のない省エネ節約
 

9月の日照不足で太陽光の発電量が前年比74%に 記録的な長雨と電気代への影響を解説

 
厚い雨雲の下で雨に濡れる太陽光パネルと、長雨で日照不足が続いた秋の里山
 
信濃毎日新聞の10月2日付朝刊に「県内 記録的な9月の長雨」「雨多し 県内戸惑い」という2本の記事があったので、まとめて調べてみました。
 
正直なところ、記事を読む前から体感がありました。「こんなに晴れない9月は初めてだ」と。弊社で見ている太陽光発電の発電量も、前年同月比で74%まで落ち込んでいます。4分の1が消えた計算です。気のせいではなかったのだと、数字を見て妙に納得してしまいました。
 
9月というのは本来、残暑と秋晴れが入れ替わる月です。ここ数年は「暑さがいつまで続くのか」という話ばかりしていました。それが今年は一転して、雨と曇りの話になった。発電量だけでなく、果樹の生育にも、保育園の運動会にも、そして体調にも影響が出ています。
 
記録的だったのは、どれくらい記録的だったのか。そして10月以降はどうなるのか。気象庁の発表まで遡って確かめてみます。
 


 
目次

 


 

1. 県内の9月、日照時間は平年の5〜6割にとどまった

 
信濃毎日新聞が長野地方気象台のまとめとして伝えたところによると、県内の9月の日照時間は、比較可能な27観測地点のうち10地点で平年比5割台、14地点で6割台にとどまりました。つまり24地点、ほぼ9割の地点が「平年の7割未満」だったということになります。
 
主要5地点の数字を並べてみます。
 

観測地点 9月の日照時間 平年比
長野 102.3時間 68%
諏訪 94.2時間 62%
松本 93.3時間 62%
飯田 91.7時間 59%
軽井沢 64.8時間 51%

出典:信濃毎日新聞 2026年10月2日付朝刊(長野地方気象台のまとめ)
 
最も少なかった軽井沢は64.8時間、平年の51%です。1か月で64時間ということは、1日あたり2時間ちょっとしか日が差さなかった計算になります。同紙によれば、これは1945年の統計開始以来、2番目の少なさでした。
 
降水量のほうも極端でした。大鹿では429.5ミリと平年比220%を記録し、県内26地点で平年の1.5倍を超えています。降った量そのものより、「降る日が多かった」ことのほうが体感に効いた月だったのではないでしょうか。
 


 

2. 東日本の太平洋側は統計開始以来の多雨・日照不足

 
この長雨は県内に限った話ではありません。気象庁は10月1日、「9月の東日本太平洋側の記録的な多雨・日照不足と今後の見通しについて」という報道発表を出しています。一次情報を当たってみると、そこには次のような数字が書かれていました。
 
・東日本太平洋側の9月の降水量平年比は236%で、1946年以降で最多。従来の記録は1982年の182%
・同じく日照時間平年比は46%で、1946年以降で最少。従来の記録は1988年の54%
・12地点で、月降水量の多い方からの記録を更新
 
ここで注目したいのは、記録の「更新幅」です。降水量は182%だった従来記録を236%で塗り替え、日照時間は54%だった記録を46%まで下げました。わずかに上回ったのではなく、80年近い統計の中でこれまで一度もなかった水準に、はっきりと踏み込んでいます。「こんな9月は初めて」という実感は、統計的にもその通りだったわけです。
 
 

 原因は秋雨前線の長期停滞

気象庁は要因として、秋雨前線が本州付近に長期間停滞したことを挙げています。太平洋高気圧と一体化した優勢な高気圧と、大陸から張り出した秋の高気圧。その2つに挟まれる形で前線が居座り、活動も非常に活発になりました。そこに台風の接近が重なったことで、雨の日が途切れなかったという構図です。
 
秋雨前線そのものは毎年現れます。珍しいのは、それが動かなかったこと。前線は普通、高気圧の勢力が変われば南北に動いて、晴れ間が入ります。今年はその押し引きが起きにくい配置が続きました。
 


 

3. 太陽光発電の発電量はどれくらい減ったのか

 
日照時間が平年の5〜6割ということは、太陽光発電にとってそのまま発電量の問題になります。冒頭でも触れたとおり、弊社で見ている発電量は前年同月比74%でした。
 
ただし、ここは少し丁寧に見たほうがいい部分です。日照時間が6割なら発電量も6割、とはなりません。日照時間は「直射日光が地表を照らした時間」を数えたもので、太陽光パネルは曇り空の散乱光でも発電するからです。薄曇りでも、晴天時の2割前後は発電します。日照時間の落ち込みほどには発電量が落ちない。これはパネルの性質として知っておいてよい点だと思います。
 
とはいえ、4分の1が消えるのは小さくありません。売電していれば収入がそのまま減りますし、自家消費していれば、減った分を買電で埋めることになります。
 
 

 自家消費型の工場で起きていたこと

信濃毎日新聞は、佐久市の樫山工業の例を伝えています。同社は県内4工場のうち2工場で太陽光発電システムを稼働させ、工場で使う電力の一部を賄っています。パネルは計2980枚、総面積は約6100平方メートル。昨年の年間発電量は約1114メガワット時でした。
 
その9月の発電量が、約9万7千キロワット時。前年同月比で2割以上の減少です。消費電力全体に占める自給率は約9%で、残りは外部から購入しているとのことでした。
 
自家消費型の太陽光は、発電した分だけ買電が減る仕組みです。裏を返せば、発電が落ちた分はそのまま購入電力量の増加として請求書に出てきます。規模が大きいほど、「天候で月の電気代が動く」という感覚は強くなります。
 
天候による変動を均したいのであれば、蓄電池を組み合わせて日中の余剰を夜間に回す、あるいは電力の購入契約そのものを単価の読める形にしておく、といった打ち手が現実的な選択肢になります。発電量を天気任せにしない、という発想です。
 


 

4. 果樹や農作物への影響

 
同紙の27面では、農業への影響が詳しく紹介されていました。
 
飯田市座光寺のリンゴ農家では、11月中旬に収穫する晩生種の「ふじ」に、実の表面が円形に腐り始める「炭疽病」が出ています。高温多湿を好む病気で、9月の長雨がその条件をつくってしまいました。農家の方は「雨続きで薬剤の散布ができず、散布しても雨で流されてしまった」と話しています。病気を防ぐには散布の回数を増やしたいのに、雨でそれができない。もどかしい状況です。
 
飯田下伊那特産の市田柿にも影響が出ています。柿が水分を吸って実が肥大する傾向があり、肥大した実の皮がひび割れる「条紋」が生じているとのこと。条紋ができた柿は加工に適さず、商品にならないものが出てきます。
 
日照不足は、農作物にとって「光合成の材料が足りない」という直接の問題でもあります。糖度が上がりにくい、着色が進みにくい、収穫が遅れる。秋の味覚は、9月の日差しで仕上がりが決まる部分が大きいのです。
(情熱電力の過去記事:気候の変化が農業と電気代に与える影響については、夏の高原野菜の記事でも取り上げました)
 


 

5. 日照不足と体調の関係

 
周囲でも「今年の9月は体調を崩した」という声をよく聞きました。
 
日照時間の減少と気分の落ち込みの関係は、季節性感情障害(SAD)として知られています。秋から冬にかけて日照が減る時期に、気分の落ち込みや過眠、だるさなどが現れるもので、光を浴びる量の減少が関係しているとされています。例年なら10月以降に起きやすい条件が、今年は9月の時点で揃ってしまったという見方はできそうです。
 
ただし、今回の長雨で体調不良が何割増えた、といった統計は見当たりませんでした。気圧の変動や、気温の上下が激しかったことの影響もあります。ですので「長雨が原因だ」と言い切ることはしません。できることとして現実的なのは、晴れた日の午前中に少し外に出る、室内の照明を明るめにしておく、といった程度の話です。症状が続くようであれば、医療機関に相談してください。
 
ちなみに、照明をつけている時間が長くなれば、その分の電気はかかります。とはいえ、LED照明を数時間余分に点けたところで、月の電気代に与える影響はごくわずかです。暗い部屋で過ごすことと比べれば、点けたほうがいい場面のほうが多いはずです。
 


 

6. 10月以降の見通しと、電気代への備え

 
気象庁の同じ発表には、今後の見通しも書かれています。10月は全国的に天気が数日の周期で変わり、平年に比べて晴れの日が多い見込み。東日本太平洋側で降水量の多い状態や日照時間の少ない状態が続く可能性は小さい、とされています。
 
つまり、9月の状況がそのまま10月も続くわけではなさそうです。太陽光の発電量も、平年並みに戻ることが期待できます。
 
ただ、ここから先に控えているのは冬です。暖房の電気代が立ち上がる季節に向けて、9月に起きたことは一つの教訓を残しました。再生可能エネルギーの発電量は天候で動く。そして天候は、これまでの経験則から外れた動き方をすることがある。「去年と同じくらいだろう」という前提が、必ずしも成り立たないということです。
(情熱電力の過去記事:この冬の見通しについては気象庁の3か月予報をもとにこちらで整理しています)
 
家庭であれば、電気の使用量を月単位で記録しておくと、天候要因なのか使い方の変化なのかを切り分けられます。事業所であれば、自家発電の比率が高いほど天候による変動も大きくなるので、購入電力の契約単価が読めるかどうかが効いてきます。どちらも、慌ててからでは選択肢が狭くなる話です。
 


 
まとめ
2026年9月は、県内の27観測地点のうち24地点で日照時間が平年の7割を下回り、軽井沢では平年比51%まで落ち込みました。全国で見ても、東日本太平洋側の降水量平年比236%・日照時間平年比46%は、いずれも1946年以降で最も極端な記録です。原因は、本州付近に長期間停滞した秋雨前線でした。
 
この1か月は、太陽光発電の発電量を前年同月比74%まで押し下げ、佐久市の工場では2割以上の減少として表れました。リンゴには炭疽病が、市田柿には条紋が出ています。体調を崩した方も少なくなかったようです。日が差さないということが、これほど広く影響するのかと改めて感じた9月でした。
 
10月は晴れの日が多い見込みで、9月の状態が続く可能性は小さいとされています。ひとまず安心ですが、天候が読みにくくなっているのは確かです。発電量も電気代も、「去年と同じ」を前提にしない。そのくらいの構えが、ちょうどよいのかもしれません。
 


 
情熱電力からのお知らせ
天候によって発電量や電気の使用量が動くと、月々の請求額も揺れます。「今月はなぜ高いのだろう」が続くようでしたら、一度、契約の中身を確かめてみてください。使用量のどこが天候要因で、どこが契約の条件で決まっているのか。切り分けるだけでも、見通しは立てやすくなります。
 
自家消費型の太陽光を導入されている事業所さまからのご相談も承っています。発電量の変動に対して、購入電力の側をどう組むか。地域の事情を踏まえてお話しできることがあるかと思います。
 
お問い合わせはお気軽にどうぞ。
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・気象庁:9月の東日本太平洋側の記録的な多雨・日照不足と今後の見通しについて
・気象庁:過去の気象データ検索
・長野地方気象台:長野県の気象概況(年のまとめ)
・厚生労働省 e-ヘルスネット:快眠と生活習慣