光電融合とは?AIデータセンターの消費電力を減らす新技術と、電気代・日本企業への影響を解説

 
半導体パッケージから光の筋が伸びるデータセンターと光電融合による省電力のイメージ
 
以前「データセンターとは?AIで急増する巨大施設の中身と電力事情をやさしく解説」でも触れましたが、AIの普及でデータセンターの電力消費が膨らむ話は、この1年ほどで何度も取り上げてきました。系統がつながらない、水が足りない、燃料費が上がる。どれも「増える需要をどう賄うか」という供給側の話でしたよね。
 
ところが今回、日経ビジネスに「光電融合、なぜ今か AIデータセンター電力削減の切り札」という記事があったので調べてみました。これは、増える電力をどう賄うかではなく、そもそも使う電力を減らせないか。という逆向きのお話。銅線で運んでいたデータを光に置き換え、半導体の中にまで光を持ち込もうという技術の話です。
 
聞き慣れない言葉ですが、日本企業が世界でも存在感を持つ領域です。電気を調達する立場から見ても、社内の設備投資を考える立場から見ても、知っておいて損はない話だと思うので、整理してみました。
 


 
目次

 


 

1. 光電融合とは?電気の配線を光に置き換える技術

 
光電融合は、これまで電気(銅線)が担ってきたデータ伝送の一部を、光ファイバーや光導波路による伝送に置き換える技術です。目的は、消費電力を大きく減らすことにあります。
 
「データを光で送る」こと自体は、新しい話ではありません。ご自宅や事務所に引かれている光回線がまさにそれで、技術としての歴史も長いものです。では何が違うのかというと、距離なんです。
 
従来の光回線は、局と建物、建物と建物といった長い距離をつないできました。光電融合が置き換えようとしているのは、もっとずっと短い距離です。GPU(画像処理半導体)などのチップのすぐ近く、さらには半導体パッケージの内部にまで、光を持ち込もうとしています。
 
数センチ、数ミリの世界にまで光を入れる。ここが、これまでの光通信と決定的に違うところです。
 
 

 プラガブルからCPOへ、光が半導体の内側まで入る

実は現在のデータセンターでも、光電融合の考え方は一部ですでに使われています。プリント配線基板どうしを光で結ぶ「プラガブル光トランシーバー」と呼ばれる方式です。
 
ただ、この方式ではAIの計算処理の伸びに追いつかなくなってきました。そこで導入が始まっているのが「Co-Packaged Optics(CPO)」です。半導体チップのすぐ近く、あるいはパッケージの内部にまで、光を入り込ませます。
 
どれくらいの速さが求められているのでしょうか。データ伝送の帯域を示す単位にbps(ビット毎秒)があります。現行のデータセンターでは数百Gbps(ギガビット毎秒)が使われていますが、AIデータセンターでは今後、その1000倍の単位であるTbps(テラビット毎秒)級が欠かせないとされています。
 
配線を増やして電気を流し続けるやり方では、この桁には届かない。だから光に置き換える。おおまかには、そういう理屈です。
 


 

2. なぜ今なのか。データセンターの電力消費はどこまで増えるのか

 
IEA(国際エネルギー機関)は、世界のデータセンターによる電力消費量を次のように見込んでいます。
 

時点 世界のデータセンター電力消費量 世界の電力消費に占める割合
2024年(実績) 415TWh 約1.5%
2030年(予測・ベースケース) 約945TWh 3%弱

出典:IEA「Energy and AI」(2025年)。2030年はベースケースの見通しです。

2024年の415TWhは、世界の電力消費のおよそ1.5%にあたります。これが2030年に945TWhまで、ほぼ倍増するというのがIEAの見立てです。日本の年間電力消費量に匹敵する規模とされていますから、国がひとつ、まるごと増えるようなものですね。

この話、日本だけの心配ではありません。米国のトランプ大統領は2026年2月の一般教書演説で、主要なテック企業に対し、AIデータセンターで使う電力は自ら確保する義務があるとして、自前の発電設備を整えるよう求めました。データセンターの電力増加が国民の電気代を押し上げることへの危機感が、その背景にあります。

 
(情熱電力の過去記事:そもそもデータセンターがどんな施設なのかは、こちらで詳しく解説しています)
 
電源の増強も送電網の増強も、すぐには間に合わない。それなら使う量そのものを減らせないか。そこで白羽の矢が立ったのが、光電融合というわけです。
 


 

3. 消費電力はどれだけ減るのか。NTTが掲げる「電力効率100倍」

 
気になるのは「で、実際どれだけ減るのか」ですよね。
 
私が調べたところでは、CPOを導入すると消費電力が何%下がる、という確定した数字は、業界としてまだ固まっていないようです。システムの構成や世代によって幅が大きく、各社が示す数値も前提がそろっていないためです。数字が独り歩きしやすい段階なので、この記事でも具体的な削減率は挙げません。
 
その代わり、目標として公表されている数字はあります。NTTは次世代通信基盤「IOWN構想」で光電融合を中核技術と位置づけ、最終段階のIOWN4.0で電力効率100倍を目指すと公表しています。あわせて、IOWN1.0で遅延の目標値200分の1を達成、IOWN3.0で伝送容量125倍という段階的な目標も示されています(いずれもNTTグループ公式サイトの記載)。
 
電力効率100倍とは、裏返せば同じ仕事を100分の1の電力でこなすということ。もちろんネットワーク部分に限った目標であって、データセンター全体の消費電力がそのまま100分の1になるわけではありません。
 
ただ、削減の議論が「数%」ではなく「数十分の1」の桁で語られている点は、押さえておく価値があると思います。省エネというより、構造の置き換えに近い話です。
 


 

4. 光電融合=IOWNではない。紛らわしい5つの言葉を整理

 
(情熱電力の過去記事:AIがどれだけ電力を使うのかについては、以前まとめた記事があります)
 
この分野、似た言葉が多くて混乱しやすいところです。特に日本では「光電融合といえばNTTのIOWN」と受け取られがちですが、これは正確ではありません。実際、光電融合を手がける国内メーカーの中には、IOWN構想に参画していない企業も少なくないのです。
 

用語 意味
光電融合 電気が担ってきたデータ伝送を光に置き換える技術の総称。この記事のテーマ
光半導体 光と電気の信号を変換する半導体。LEDや半導体レーザー、スマホのカメラに使われるCMOSイメージセンサーも含まれる
シリコンフォトニクス 光電融合の中核技術。シリコン基板上に光と電気の変換回路や光導波路をつくる。半導体の製造技術を流用できるため量産・低コスト化に向く
光インターコネクト サーバーラック同士や、その内部の半導体同士を光でつなぐ技術。光電融合の現状の主な用途
IOWN構想 光電融合を中核技術とする、NTTの次世代通信基盤の構想。技術そのものの名前ではない

ざっくり並べると、シリコンフォトニクスが技術の土台、光インターコネクトが今の主な用途、IOWNはそれらを使った通信基盤の構想、という関係になります。技術(光電融合)と構想(IOWN)を分けて聞くと、ニュースがだいぶ理解がしやすいと思います。
 


 

5. データセンターの次は?光コンピューティングとSDV

 
光電融合の用途は、データセンターだけではありません。
 
ひとつは「光コンピューティング」です。AIの演算そのものを、電気ではなく光に担わせる技術。GPUと比べてはるかに高速でありながら、低い消費電力で計算処理を実行できるとされ、米Lightmatter(ライトマター)やイスラエルCognifiber(コグニファイバー)といった新興企業が開発を進めています。
 
もうひとつがクルマです。SDV(ソフトウエア定義車両)や自動運転車では、車体制御などのために扱うデータ量が一気に増えます。配線をすべて銅線でまかなえば重くなり、電力も食う。ここに光電融合のニーズが出てくる可能性があります。
 
このほか、光による情報処理に基づく量子コンピューターや、光を活用したセンサーといった用途でも研究が進みつつあります。データセンターはあくまで最初の入口、という位置づけなのですね。
 


 

6. 電気代への影響と、法人が見ておくべき3つのポイント

 
では、この技術は私たちの電気代にどう跳ね返ってくるのでしょうか。
 
まず率直なところ、短期的にはほとんど効きません。CPOの本格導入はこれからで、データセンターの電力需要は当面増え続ける見通しです。国内でも、増える需要に電源や系統が追いつかない状況は、しばらく続きます。
 
効いてくるとすれば、もう少し先の話です。データセンターの電力需要が想定より緩やかに伸びるなら、追加の電源投資も、系統増強にかかる費用も、当初の見込みより抑えられます。これらはいずれ、託送料金などを通じて法人・家庭を問わず電気料金に乗ってくる部分です。需要のカーブが寝るかどうかは、めぐりめぐって私たちの負担に関わってきます。
 
そのうえで、事業をされている方に見ておいていただきたい点が3つあります。
 
・電力の調達計画は「減る前提」で組まない。削減効果が出るのは先の話で、当面は需要増と料金上昇の局面が続きます
・自社の設備投資では、機器の消費電力を仕様段階で確認する。サーバーやネットワーク機器の更新時期が来たら、消費電力あたりの処理性能は数年後の電気代に効いてきます
・取引先に半導体・電子部品の企業があるなら、この領域は商機でもあります。光半導体の部材や実装技術は、日本企業が世界でも存在感を持つ分野です
 
電気を「どう買うか」だけでなく「どう減らすか」。この2つを並べて考える時代になってきた、ということなのだと思います。
 


 
まとめ
光電融合は、銅線が担ってきたデータ伝送を光に置き換え、消費電力を減らす技術です。従来の光回線と違うのは距離で、半導体チップのすぐ近く、さらにはパッケージの内部にまで光を持ち込みます。プラガブル光トランシーバーからCPOへという流れが、まさに今そこで起きている変化です。
 
背景にあるのは、AIデータセンターの電力問題でした。IEAは世界のデータセンターの電力消費が2024年の415TWhから2030年に約945TWhへ倍増すると予測しています。電源も送電網もすぐには増やせない以上、使う側で減らす技術に注目が集まるのは自然な流れと言えます。
 
注意したいのは、光電融合とIOWNはイコールではないという点です。光電融合は技術の総称で、IOWNはそれを中核に据えたNTTの通信基盤構想。手がけていてもIOWNに参画していない企業は少なくありません。
 
削減効果が電気料金に表れるのはまだ先です。当面は需要増の局面が続きます。それでも、調達の計画と設備の更新、そして取引先の商機という3つの視点で眺めておくと、この先のニュースの読み方が変わってくるはずです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
データセンターの話は遠い世界のことに見えますが、電力需要の伸びは卸電力価格を通じて、事業所の電気料金にも回り回って届きます。
 
「うちの契約プラン、今の使い方に合っているのだろうか」「設備更新のタイミングで、電気の契約も見直したほうがいいのか」。そんな疑問があれば、お気軽にご相談ください。長野県松本市の新電力として、お客様の使用実態を見ながら、わかりやすくご説明します。
 
お問合せ先:
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・IEA(国際エネルギー機関):エネルギーとAI
・NTT:IOWN 機能と特性
・日経ビジネス:光電融合、なぜ今か AIデータセンター電力削減の切り札
・資源エネルギー庁(エネこれ):増加が見込まれるデータセンターの電力需要をどうする?
・総務省:ICT分野における新たな技術の研究開発例:IOWN光電融合デバイス(令和6年度版情報通信白書)
 

AI導入で完璧主義が足かせに?米テック起業家が説く「青いバナナ」と、中小企業が最初にやるべきこと

 
会議室でAI導入の進め方を話し合う日本企業の経営層と若手技術者、机には資料とノートPC
 
日経ビジネスに「AI時代には、日本の完璧主義が『両刃の剣』になる」という記事があったので調べてみました。米国とドイツで7社のテック企業を立ち上げ、独通信大手ドイツテレコムのCTO(最高技術責任者)なども務めたトーマス・エイダン・カレン氏へのインタビューです。
 
AIを入れてはみたけれど、使い道が議事録の要約や調べものどまり。そんな話、まわりでもよく聞きませんか。では思い切って業務の真ん中に据えればいいのかというと、今度は顧客データの扱いが気になって手が止まる。この「進めたいけれど踏み切れない」状態に対して、カレン氏が挙げた第一の助言は、意外にも「慎重であれ」でした。ただし、慎重であることと、避けることは違う。そこがこの記事の肝になっています。
 
なかでも耳が痛かったのが、日本の完璧主義についての指摘です。ものづくりで積み上げてきた強みが、AIやソフトウエアの世界ではブレーキになるというのです。今回はこのインタビューを手がかりに、AIと仕事の関係、そして導入の前に決めておくべきことを整理してみます。
 


 
目次

 


 

1. AIは仕事を奪うのか? 「消える」より「中身が変わる」

 
まずは、多くの方が気にしている雇用の話から。
 
カレン氏は、AIには感情も身体的な経験もないため、人間とまったく同じ創造性を持つわけではないと言います。ただし文章、音楽、画像を生成できる以上、コンテンツを生み出すクリエイティブ産業には大きな不安がある、とも。
 
では、プログラマーは不要になるのか。カレン氏はこれを「単純に考えるのは誤り」と退けます。理由がなかなか鋭いのです。
 
コード生成AIは、人間が過去に書いた大量のソフトウエアから学んでいます。そして生成されたコードには誤りがある。だからレビューやテスト、設計意図の確認が必要になる。ここからが本題で、AIを使えば大量のコードが短時間で出てきますが、生成量が10倍になれば、当然レビューすべき量も大幅に増えるわけです。
 
・仕事が減るのではなく、仕事の重心が移動する
・「自分で書く」から「機械に書かせて、そのコードに問題がないか検証する」へ
・良いコードをAIに書かせるには、何を・どんな構造で・どのツールや手法で作るかを具体的に指示できる知識が必要
 
「AIモデルを作って」と曖昧に頼めば、AIは誤った方向へ進む可能性がある。カレン氏のこの指摘は、コードに限らず、日々の業務でAIに指示を出すときにそのまま当てはまりますよね。指示する側に土台の知識がなければ、出てきたものが正しいかどうかも判断できません。
 
ちなみにカレン氏は、AIが作ったコードをレビューする作業そのものが、若手が設計や実装のスキルを学ぶ入り口になり得る、とも述べています。AIの仕事ぶりを見ながら学ぶ、というわけです。
 
肉体労働の一部はロボットに置き換わるでしょうが、ロボットの保守という新しい仕事も生まれます。印刷機もコピー機もクラウドサービスも、既存の仕事を変えながら新しい職種を生んできました。すでにプロンプトエンジニアのように、以前は存在しなかった職種が出てきています。
 
そして新技術が企業と社会に実装されるまでには時間がかかるが、最終的には定着する——このあたりは、電力業界にいると実感のある話です。新しい仕組みが現場に根づくまでには、やはり数年単位の時間がかかります。
 


 

2. 「青いバナナ」とは? AIベンダーの説明を額面通りに受け取らない

 
この記事でいちばん印象に残ったのが、この表現でした。
 
カレン氏によれば、米国企業には「まだ熟していない青いバナナ」でも、すぐ食べられるかのように売る文化がある。日本企業とは前提が違うことを理解すべきだ、というのです。
 
背景にあるのは、日本の「相手の誠実さを信じる文化」への指摘です。落とした財布が現金の入ったまま警察に届く。世界的に見ればこれは非常に珍しい、とカレン氏は言います。それ自体はすばらしい文化なのですが、AIサービスの提供者を同じ前提で信じるのは危険だ、と続きます。
 
理由は明快で、AIは非決定論的な技術だからです。同じ問いかけに対して毎回まったく同じ答えが返るとは限らない。提供する企業も結果を100%保証できない。それでも販売のためには強気な約束をすることがある。だから購入者や利用者は、AIを提供する企業の説明や宣伝を、すべて額面通りに受け取ってはいけない——という話です。
 
営業資料のデモがきれいに動いたからといって、自社の現場データでも同じように動くとは限らない。当たり前のようでいて、うっかり忘れてしまいがちなところです。導入を検討するときは、自社の実データで、自社の担当者が試す。この一手間を惜しまないほうが、結果的に近道になりそうです。
 
もうひとつ、カレン氏は日本社会の謙虚さについても触れています。自分を「東京で一番のプログラマーだ」と声高に売り込む人は多くない。それは長所である一方、日本の科学者や技術者が自らの成果を世界に説明し、産業界から信頼と資金を得ることを妨げる場合がある。海外の人物の肩書やイメージを、国内の優れた研究者以上に無意識に評価してしまうこともある、と。
 
売り込みのうまさと、中身の確かさは別物。買う側も、そこを分けて見る目が要るということでしょう。
 


 

3. 日本の完璧主義が「両刃の剣」になる理由

 
記事のタイトルにもなっている、核心部分です。
 
 

 「完璧はスピードの敵」になる場面

職人が一つの仕事を極める文化は、大きな価値を持つ。カレン氏はまずそう認めたうえで、しかしAIやソフトウエアを市場に出す際には「完璧はスピードの敵」になる、と指摘します。
 
完全なAIモデルは存在しない。だから市場で試し、誤りを直しながら改善する仕組みが必要になる。ここで怖いのは、投資を増やしても開発が速くなるとは限らず、完璧を追求するための余計な仕事が増えるだけかもしれない、という部分です。
 
人と予算を足したのに、社内レビューと差し戻しが増えただけで前に進まない。思い当たる場面がある方も多いのではないでしょうか。
 
 

 どこまでを「許容できる不完全さ」とするか

カレン氏が挙げた対比がわかりやすいので、そのまま紹介します。
 
自動車の塗装に小さな傷やむらがあれば、日本の顧客は返品を求めるかもしれない。しかし、AIが少し誤訳をしたからといって、あらゆる用途で無価値になるわけではない——。
 
AI翻訳には、文脈や意図を十分にくみ取れず逐語訳に近くなるといった限界があります。その限界を理解したうえで、用途に応じて人間が補えばいい。同じように、AIによる推論も、利用者の依頼に完全には沿わない回答を生成する可能性がある。
 
だからカレン氏は、何をどの段階で公開し、「どこまでを許容可能な不完全さとするか」というリリース戦略を、企業だけでなく国家レベルでも考える必要がある、と述べています。
 
そして重要なのは、不完全さを隠すことではなく、誰が作り、誰が公開し、誰が結果に責任を負うのかを明確にすること。この一文が、次の話につながっていきます。
 


 

4. 知能インフラとは? AI導入の前に整える6つの土台

 
では、慎重でありながら前に進むには何が要るのか。カレン氏の答えが「知能インフラ」です。
 
その前に、なぜ慎重さが必要かという話も押さえておきましょう。カレン氏が例に挙げたのは、1990年代から加速したERP(統合基幹業務システム)の導入です。システムが想定通りに動かず、企業活動や出荷に重大な影響が生じ、訴訟に発展した例もありました。
 
AIの場合はどうか。外部のAIサービスに大量の顧客データの処理や管理を委ねた結果、サービス停止や契約変更、権限設定の問題などによって、ある日そのデータを利用できなくなる可能性がある。それが顧客との約束や法的義務に反していれば、深刻な問題になります。
 
こうしたリスクを軽くする考え方が「ソブリンAI」です。データやAIに対する主権を自国・自組織の側に保つ、という発想ですね。
 
そのうえでカレン氏は、必要なのはAIを避けることではなく、具体的な利用計画と安全な「知能インフラ」を同時に構築することだ、と言います。カレン氏が挙げた6つの要素に、中小企業ならどこから手をつけられそうか、筆者なりの補足を添えて整理しました。右端の列は記事中の記述ではなく、あくまで補足である点をご了承ください。
 

知能インフラの要素 何のためのものか 小さく始めるなら(補足)
本人確認 行為をした主体と、責任を負う主体を結び付ける アカウントの共有をやめ、一人一IDにする
権限管理 誰がどのデータに触れてよいかを決める 顧客情報を扱える人の範囲を書き出す
ガードレール AIに渡してよい情報・よくない情報の線引き 社外AIに入力禁止の項目を1枚にまとめる
AI向けのデータ整備 使える形にデータをそろえる 紙とExcelが混在する台帳を1つに寄せる
監査 誰が何をしたかを後から追える状態にする 利用ログが残るサービスを選ぶ
セキュリティー対策 外部からの侵入や情報流出を防ぐ 既存の対策がAI利用の範囲を含むか点検する

 
そして経営者には、次の3つを具体的に決めることが求められる、とカレン氏は言います。
 
・どの業務で、どのデータを使うのか
・誰が責任を負うのか
・どの成果を測るのか
 
裏を返せば、この3つが決まっていない状態で導入だけ進めると、冒頭に書いた「議事録どまり」になりやすい、ということでもあります。
(情熱電力の過去記事:実際に社内でAIを使いこなしている中小企業の事例は、こちらで紹介しています)
 


 

5. 本人確認から信頼へ 責任の所在をはっきりさせる

 
記事の締めくくりで、カレン氏はAI時代のガバナンスを1本の連鎖として説明しています。
 
まず本人確認によって、行為主体と責任主体を結び付ける。責任の所在が明確であることが、信頼を可能にする。信頼があれば、組織や個人は同じ成果を目指し、リスクを負って協力できる。そして多様な主体の協力があって初めて、実効性のあるソブリンAIを構築できる——という流れです。
 
AIで何かを作って公開した人物や組織が結果に責任を負うなら、他者はその主体を信頼しやすくなる。信頼があるからこそ共同作業が成立し、成果だけでなく失敗の結果も共有できる。ソブリンAIは単独の企業や政府だけでは完結せず、技術の提供者、利用する企業、規制当局、監査する人、研究者、市民の協力によって成立する。
 
だから本人確認と権限管理は、単なるログイン技術ではなく、社会の信頼と、データやAIに対する主権を支える基盤になる。カレン氏はそう結んでいます。
 
長野県で電力小売をしている私たちにとっても、これは他人事ではありません。電気の契約情報や使用量のデータは、お客さまの暮らしや事業の中身がかなり見えてしまう性質のものです。便利な道具が増えるほど、「このデータをどこまで、誰の責任で扱うのか」をはっきりさせておく必要がある。今回の記事を読んで、あらためてそう感じました。
(情熱電力の過去記事:電力の契約情報が本人確認に使われはじめた経緯は、こちらで詳しく整理しています)
 
完璧を目指して立ち止まるのでもなく、勢いだけで飛び込むのでもなく。責任の線を引いてから、小さく試す。AIとのつきあい方としては、これがいちばん現実的なのかもしれません。
 


 
情熱電力からのお知らせ
AIやDXの話は、突き詰めると「自社のデータをどう扱うか」という話になります。電気の使用量データも、そのひとつです。
 
情熱電力では、法人のお客さまの電気の使い方を一緒に見ながら、契約の見直しや運用の工夫をご提案しています。「使用量のデータをもっと活用したい」「そもそも今の契約が自社に合っているのかわからない」といったご相談も歓迎です。
 
数字を眺めるところからでかまいません。気になる方は、お気軽にお声がけください。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・日経ビジネス:AI時代には、日本の完璧主義が「両刃の剣」になる
・経済産業省:AI事業者ガイドライン
・情報処理推進機構(IPA):AIセキュリティ
・総務省:生成AIの活用方針等
・J-Net21(中小企業基盤整備機構:「AI」記事一覧
 

Wi-Fiルーターの電気代は年間いくら?つけっぱなしの実測値と法人の通信機器コストを解説

 
棚の上で24時間通電し続ける家庭用Wi-Fiルーターと、積み上がる電気代
 
日経クロステック Activeに「Wi-Fiルーターのつけっぱなしで電気代はどれだけかかる? 実測してみた」という記事があったので調べてみました。
 
ご自宅のWi-Fiルーター、最後に電源を切ったのはいつでしょうか。「引っ越しのとき以来かもしれない」という方が、たぶん多数派ですよね。24時間365日、何年も動き続けているのに、その電気代を気にしたことがある人は意外と少ないはずです。
 
同じことが、実は事業所でも起きています。ルーター、ONU、スイッチングハブ、無線アクセスポイント。誰も電源を切らないまま、休日も夜間も静かに電気を使い続けている機器が、オフィスには何台もあることでしょう。
 
今回は、この「誰も気にしていない常時通電の電気代」が結局いくらになるのかを、実測データと公的な目安単価をもとに計算してみました。先に結論を言ってしまうと、金額そのものは大きくありません。ただ、逆説的にその小ささが分かること自体に意味があります。節電をどこから手を付けるか、優先順位を決める材料になるからです。
 


 
目次

 


 

1. Wi-Fiルーターの電気代は年間いくら?計算式で出してみる

 
年間の電気代は、次の式で計算できます。
 
・消費電力(W)÷ 1000 × 24時間 × 365日 × 電力量料金(円/kWh)
 
ここで使う「円/kWh」には、公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会(家電公取協)が定める電気料金の目安単価を当てはめます。現在の目安単価は、令和4年(2022年)7月22日に改定された31円/kWh(税込)です。家電のカタログに載っている「1年間の電気代」もこの単価で計算されているので、比較の物差しとしてちょうどいいですね。
 
家庭向けWi-Fiルーターの仕様に書かれている最大消費電力は、おおむね7〜36Wの範囲です。ローエンドモデルで約10W、ミドルクラスで約20Wが目安で、30Wを超えるのは一部のハイエンド機に限られます。
 
これを式に当てはめると、こうなります。
 

消費電力 想定される機種 1日の電気代 1年間の電気代
7W 仕様上の下限あたり 約5.2円 約1,900円
10W ローエンドモデル 約7.4円 約2,720円
20W ミドルクラス 約14.9円 約5,430円
36W 一部のハイエンド機 約26.8円 約9,780円

※電力量料金31円/kWh(家電公取協の目安単価)で計算。同じ消費電力のまま24時間365日動き続けたと仮定した場合の金額です。
 
 

 「最大消費電力」は、いつもその値ではない

ここで気をつけたいのが、この計算が「常に最大消費電力で動き続けた場合」の数字だという点です。仕様書に書かれている最大消費電力は、いわば全力疾走したときの値。実際のルーターは、そこまで働き続けてはいません。
 
では、実際はどのくらいなのでしょうか。
 


 

2. 実測してわかった、仕様と実際のズレ

 
元記事では、バッファローのWi-Fi 6E対応ミドルクラス機「WNR-5400XE6」(仕様上の最大消費電力20.4W)を、スマートプラグで測定しています。なお、この測定はスマートプラグの簡易的な計測機能によるもので、元記事でも参考値として扱われています。
 

状態 実測の消費電力
通信していないとき 8.3〜8.8W
スマホ1台で動画を再生 8.7〜10W
スマホ3台で同時に動画を再生 11.5〜11.7W
ファイルのダウンロード中 10〜12W
Wi-Fi機能をオフ(無通信時) 8.1〜8.7W
LEDを消灯(無通信時) 8.2〜8.7W
有線LAN機能をオフ(無通信時) 7.0〜7.1W
スリープ状態 4.8W

※出典:日経クロステック Activeの実測記事。スマートプラグ「SwitchBot プラグミニ」による簡易測定の参考値です。
 
仕様では20.4Wとされている製品が、実際に使っている場面では8〜12W。ざっと半分程度で動いていることになります。端末を1〜3台つないだ一般的な使い方なら、年間の電気代は3,000円前後に収まる計算です。
 
 

 接続台数を増やしても、消費電力はあまり変わらない

面白いのはここからです。スマホ1台で動画を見たときが8.7〜10W、2台で11〜11.3W、3台で11.5〜11.7W。台数が増えても、増え方はごくわずかですよね。通信していない状態にいたっては、1台でも3台でもほぼ同じ8.4〜8.9Wでした。
 
つまりWi-Fiルーターの消費電力は、「何台つないでいるか」よりも「電源が入っているかどうか」でほとんど決まっている、ということになります。この性質は、あとで出てくる法人の試算でも効いてきます。
 


 

3. こまめに電源を切ると、電気代はいくら下がる?

 
節電と聞いて最初に思い浮かぶのは、やはりこまめな電源オフでしょう。
 
消費電力が9〜12W程度のルーターなら、毎日8時間電源を切ることで年間1,000円程度の節約になります。1か月あたりにすると80円ちょっと。正直なところ、毎日の手間に見合うかというと微妙な金額ですよね。
(情熱電力の過去記事:「つけっぱなし」と「こまめにオフ」の損得は、エアコンでも同じ議論があります)
 
しかも、電源を切ることで失うものもあります。
 
 

 電源を切ると起きる、2つの不便

ひとつめは、すぐにはつながらないことです。電源を入れてインターネット接続が確立しても、Wi-Fiが使えるようになるまでには数分かかります。特に5GHz帯では、使うチャネルによってDFS(動的周波数選択)という機能が働きます。気象レーダーや航空レーダーの電波とぶつからないよう、使い始める前に周囲を監視するしくみで、元記事によると、この監視のためにさらに60秒程度かかる場合があるとのことです。
 
ふたつめは、ファームウェアの自動更新が当たらなくなることです。最近のルーターの多くは自動更新に対応していますが、更新処理は通信量の少ない深夜帯に実行されるのが一般的です。たとえばバッファロー製品では、午前4時〜5時に更新する設定が用意されています。他社製品でも深夜帯に設定されていることが多いようです。この時間に電源が落ちていると、更新は適用されません。
 
ルーターのファームウェア更新は、見つかった脆弱性を塞ぐためのものでもあります。更新が長期間当たらないルーターは、家庭でも事業所でも、じわじわとリスクを溜め込むことになります。
 
節電のために電源を切ること自体は有効です。ただ、切るのであればスマートプラグのスケジュール機能などを使って、「確実に使わない時間帯だけ」に限るのが現実的でしょう。
 


 

4. ルーターの省電力機能はどこまで効くのか

 
多くのルーターには、管理画面から設定できる省電力機能があります。時間帯を決めてWi-Fiを止める、LEDを消灯する、有線LAN機能を止める、スリープさせる、といったものですね。
 
さきほどの表をもう一度見てみてください。Wi-Fiをオフにしても8.1〜8.7W、LEDを消しても8.2〜8.7W。通信していないときの8.3〜8.8Wと比べて、ほとんど変わっていません。節電効果がないわけではありませんが、その差は小さく、限定的だと言えます。
 
一方、有線LAN機能をオフにすると7.0〜7.1Wまで下がります。ただしこの機種の場合、有線LANをオフにするとWAN側のポートも使えなくなり、インターネット接続そのものが切れてしまいます。スリープ状態の4.8Wにいたっては、Wi-Fiも有線LANも使えません。
 
整理すると、「よく効く設定ほど、ネットが使えなくなる」という関係になっています。それなら電源を切ったほうが合理的ではないか、というのが元記事の結論でした。うなずける話ですね。
 


 

5. 法人の場合、金額は「台数×24時間×365日」で効いてくる

 
ここからは事業所の話です。
 
家庭ならルーターは1台ですが、オフィスや店舗はそうはいきません。ルーター、ONU、スイッチングハブ、無線アクセスポイント。場所によってはVPN装置や防犯カメラのレコーダーも加わります。どれも24時間動き続けていて、しかも先ほど見たとおり、使っていなくても消費電力はさほど下がりません。
 
1台あたり10Wと仮定して、台数別に試算してみます。あくまで仮定に基づく計算で、実際の消費電力は製品ごとに異なります。
 

常時通電する通信機器の台数 年間の消費電力量 年間の電気代
1台(一般的な家庭) 約88kWh 約2,720円
5台(小規模な事務所) 約438kWh 約13,580円
10台(フロア単位のオフィス) 約876kWh 約27,160円
30台(複数拠点・多店舗) 約2,628kWh 約81,470円

※1台10W・24時間365日稼働・31円/kWhで試算した参考値です。法人のお客様の実際の電力量料金単価は契約内容によって異なります。
 
10台で年間2万7千円ほど。金額としては決して大きくありませんが、「誰も意識しないまま毎年出ていくお金」としては、知っておく価値のある数字ではないでしょうか。
 
 

 事業所では、電源を切る判断のハードルが上がる

ただし法人の場合、「夜は切ってしまおう」という判断は家庭よりずっと慎重になります。
 
・勤怠打刻やPOSレジがネットワーク経由なら、始業前に立ち上がっていないと業務が止まる
・防犯カメラや設備の遠隔監視は、夜間こそ本番という現場もある
・リモートアクセスやVPNを夜間や休日に使う人がいる
・ファームウェア更新の時間帯に電源が落ちていると、セキュリティ更新が当たらない
 
最後の項目は、法人では特に重く効いてきます。家庭なら「そのうち当たるだろう」で済む話が、事業所では情報セキュリティの管理項目そのものになるからです。
 
そう考えると、事業所の通信機器については、電気代を理由に電源を切るより、「そもそも必要な台数か」「使われていない機器が通電したまま残っていないか」「古い機器が電力効率の悪いまま居座っていないか」を点検するほうが、筋のいい進め方だと言えます。ハブの空きポートに何もつながっていない、誰も使っていない会議室のアクセスポイントが生きている。こういうものは、切っても誰も困りません。
 


 

6. 結局どこから節電すべき?待機電力の全体像から考える

 
最後に、この数字が全体の中でどのくらいの位置にあるのかを見ておきます。
 
一般財団法人 省エネルギーセンターの「平成24年度エネルギー使用合理化促進基盤整備事業(待機時消費電力調査)報告書」によると、1世帯あたりの待機時消費電力量は年間228kWh。これは1世帯の全消費電力量4,432kWhの5.1%にあたるとされています。ただしこれは2012年度(平成24年度)に行われた調査で、その後の家電の省エネ化は反映されていません。現在はもう少し小さくなっている可能性があります。
 
年間3,000円ほどのWi-Fiルーターの電気代は、この待機電力とほぼ同じ規模感の話です。一方、家庭で電気を多く使うのはエアコンや冷蔵庫、給湯といった顔ぶれで、こちらは桁がひとつ違ってきます。
(情熱電力の過去記事:家電のコードをコンセントから抜くべきかどうかは、こちらで詳しく検証しています)
 
だからといって「ルーターの電気代は気にしなくていい」という話ではありません。単純に、順番の問題です。まず桁の大きいところから手を付けて、そのうえで、旅行や出張で長期間留守にするときにルーターの電源を落とす。この順番なら、手間の割にしっかり効く節電になります。
 
なお、古いWi-Fiルーターのなかには最新機種より電力効率が低いものもありますが、消費電力は発売時期だけでなく性能や搭載機能にも左右されます。買い替えれば必ず電気代が下がるとは限らない、という点も覚えておきたいところですね。購入や買い替えを検討するときは、仕様上の最大消費電力だけでなく、実際の動作時の消費電力も確認してみてください。
 


 
まとめ
Wi-Fiルーターの電気代を実測データから整理すると、こうなります。仕様上の最大消費電力は7〜36Wと幅がありますが、端末を1〜3台つないだ一般的な使い方での実測値は8〜12W程度。年間の電気代にすると3,000円前後です。毎日8時間電源を切っても、節約できるのは年間1,000円程度にとどまります。
 
省電力機能も、Wi-FiオフやLED消灯では消費電力がほとんど変わらず、大きく下がる設定はネット接続そのものが使えなくなるものばかり。効かせようとするほど不便になる構図です。
 
一方、事業所では話が変わります。1台あたりは小さくても、24時間動く機器が10台あれば年間2万7千円ほど。ただしファームウェアの自動更新や夜間の遠隔監視を考えると、電源を切る判断は慎重にならざるを得ません。むしろ「使われていない機器が通電したまま残っていないか」を点検するほうが現実的でしょう。
 
金額の小ささが分かること自体に、実は価値があります。節電は、桁の大きいところから順番に手を付けるのが鉄則。ルーターはその順番の後ろのほうにいる、あまり気にすることはない! と分かっただけでも収穫だとしましょうか。
 


 
情熱電力からのお知らせ
「うちの事業所、そもそも何にどれだけ電気を使っているんだろう」。今回のように1台ずつ計算していくと、意外と見えていない部分が多いことに気づきます。
 
情熱電力は長野県松本市の新電力として、電気のご契約だけでなく、使用量の見方や料金の内訳についてのご相談も承っています。検針票や請求書を見ながら「この項目は何ですか」といった素朴な質問でも大丈夫です。電気代の全体像がつかめると、どこから手を付けるべきかも見えてきますよ。
 
気になる方は、お気軽にご相談ください。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・日経クロステックActive: Wi-Fiルーターのつけっぱなしで電気代はどれだけかかる? 実測してみた
・全国家庭電気製品公正取引協議会:Q&A 「カタログなどに載っている電力料金の目安単価とは何ですか?」
・省エネポータルサイト(資源エネルギー庁):無理のない省エネ節約​
・バッファロー:サポートサイト Wi-Fiルーター・Wi-Fi中継機を最新のファームウェアに更新する方法
 

長期脱炭素電源オークションとは?LNG専焼火力の募集量が4倍になった理由と電気代への影響

 
夕暮れの臨海部に建つLNG火力発電所とLNGタンク、送電鉄塔が並ぶ電源開発の風景
 
「脱炭素」を掲げた制度なのに、CO2を出すLNG火力を大きく増やす——。電気新聞の『長期脱炭素電源入札の見直し/LNG専焼、大幅に拡大』という記事に、一見ちぐはぐに見える話が載っていたので調べてみました。
 
長期脱炭素電源オークションは、20年間の固定収入を約束することで発電所への投資を呼び込む制度です。その原資は、私たちが払う電気料金からまわっています。今回、資源エネルギー庁はこの制度でLNG専焼火力の募集量を大幅に増やすことを決めました。2027年1月の第4回入札から適用されます。
 
なぜ脱炭素の制度でLNG火力なのか。答えは電力広域的運営推進機関が示した、2040年に向けた需給の見通しにありました。データセンターの新設などで電力需要が伸びる一方、古い火力を全部建て替えても供給力が足りない、という試算です。
 
制度の名前は少し取っつきにくいのですが、中身は「10年後の電気が足りるかどうか」という、とても現実的な話です。順番に見ていきましょう。
 


 
目次

 


 

1. 長期脱炭素電源オークションとは?20年の固定収入で発電所を建てる仕組み

 
まず制度の輪郭からいきましょう。長期脱炭素電源オークションは、容量市場の一種です。容量市場というのは「発電した電気(kWh)」ではなく「いざというときに発電できる能力(kW)」を売り買いする市場のこと。発電所という設備そのものに値段をつける、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
 
普通の容量市場との違いは、契約が1年ではなく長いことです。落札した発電事業者は、原則20年間にわたって固定的な収入を受け取れます。発電所は建てるのに何年もかかり、投資を回収するのに何十年もかかります。「20年分の収入が先に見えている」状態をつくることで、脱炭素電源への投資に踏み切ってもらう。それがこの制度のねらいです。
 

項目 内容
売り手 発電事業者
買い手 小売電気事業者(拠出金を負担)
市場運営者 電力広域的運営推進機関(広域機関)
最低応札容量 原則10万kW
供給力提供期間 基本20年間
価格決定方式 マルチプライスオークション
対象電源 脱炭素電源、LNG火力

出典:電気新聞(2026年9月、SCOPE「長期脱炭素電源入札の見直し」)
 
ここで注目していただきたいのが「買い手」の欄です。買い手は小売電気事業者。つまり、落札した発電事業者に支払われる固定収入は、小売電気事業者が拠出金という形で負担しています。そしてその拠出金は、めぐりめぐって電気料金の原価に含まれていきます。読者のみなさんが毎月払っている電気代とは、遠いようでいて実はつながっている制度なのです。
 


 

2. 「脱炭素」の制度で、なぜLNG火力を増やすのか

 
さて、本題です。この制度の対象電源には、当初から「LNG火力」が入っていました。とはいえ位置づけは限定的で、LNG専焼火力は2023年度の初回入札から2025年度までの3年間限定、合計600万kWを募集する、というものだったのです。
 
これが2026年6月、大きく方針転換されました。第4回入札から2032年度までの7年間で、合計3,900万〜5,500万kW程度を集める。これまでの3回の入札で落札されたLNG専焼火力は累計約1,010万kWですから、最低でもその約4倍にあたる量を募集する計算になります。CO2を出す電源を「大幅に拡大」するわけで、脱炭素という看板だけを見ると違和感がありますよね。
 
その理由は、需給の見通しにありました。
 
 

2040年に電力需要は1兆1千億kWhへ

広域機関が2025年に示した中長期の電力需給シナリオでは、2040年の電力需要が1兆1千億kWhに達すると見込まれています。2019年度と比べて25%の増加です。
 
需要が減り続けると言われてきた日本で、なぜ増えるのか。最大の要因はデータセンターの新設です。生成AIの普及で計算需要が膨らみ、そのための電力が積み上がる。加えて半導体工場の新増設や、運輸・産業部門の電化も需要を押し上げます。省エネで減る分よりも、新しく生まれる需要のほうが大きい、という絵姿です。
 
 

経年火力をすべて建て替えても供給力が足りない

もう一つが、既存の火力発電所の老朽化です。同じシナリオでは、3,900万kWある経年火力をすべてリプレース(建て替え)したとしても、なお1,300万〜1,600万kWの供給力が不足するケースが示されました。
(情熱電力の過去記事:将来の供給力不足と火力のリプレース問題については、こちらでも詳しく取り上げています)
 
エネ庁はこの不足ケースを勘案し、安定供給を担保するには経年火力分の3,900万kWに不足分を足した規模、つまり最大5,500万kW程度のLNG専焼火力の新設・更新が欠かせないと判断しました。募集量の「3,900万〜5,500万kW程度」という幅は、ここから来ています。
 
そして時間の問題があります。火力発電所は建設に7年程度かかるとされます。2040年に間に合わせるには、その約7年前にあたる2033年度頃までに着工していなければならない。そこから逆算して、募集期間を2032年度までと決めた——という順序です。「2032年度まで」という中途半端に見える区切りには、こういう理由があったわけですね。
 


 

3. 第4回入札で変わる4つのポイント

 
では、2027年1月の第4回入札から具体的に何が変わるのか。主な変更点を整理してみます。
 

項目 これまで 第4回入札から
LNG専焼の募集量 2023〜2025年度の3年間で600万kW 2032年度までの7年間で合計3,900万〜5,500万kW程度
供給力の提供開始期限 契約から8年後まで 契約から11年後まで(環境アセス済みの火力などは7年後まで)
応札上限価格 55,242円/kW年(第3回) LNG基地の建設費を算入しない案件:65,284円/kW年
算入する案件:92,068円/kW年
応札事業者への要件 — 「脱炭素化ロードマップ」の作成・公表を求める

出典:電気新聞(2026年9月)、資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークションについて」(2026年6月5日・7月14日、総合資源エネルギー調査会 安定供給WG)
 
1つめの募集量は、すでに見たとおりです。
 
2つめの「提供開始期限を3年延ばす」という変更には、世界的な事情があります。ガスタービンの需要が世界中で高まり、メーカーの生産能力が逼迫しているのです。落札しても発電機が手に入らなければ約束の期日に間に合いません。そこで、広域機関と契約してから実際に供給力の提供を始めるまでの期限を、従来の8年後から11年後へと後ろ倒ししました。すでに環境アセスメントを終えている火力などは、これまでどおり7年後までとされています。
 
3つめの上限価格は、これまでの55,242円/kW年から2本立てに変わります。既存のLNG基地を使える案件は65,284円/kW年、LNG基地そのものを新しく造る必要がある案件は92,068円/kW年。基地の建設費を価格に織り込めるようにした、ということですね。上限価格が上がれば、その分だけ支援の総額も膨らむ可能性があります。
 
4つめ。ここまで手厚い措置を並べつつ、エネ庁は2050年までの脱炭素化を前提とする姿勢は崩していません。応札する事業者には「脱炭素化ロードマップ」の作成と公表を求めることになりました。将来的に水素やアンモニアの混焼・専焼、あるいはCO2の回収へどう移行していくのかを、あらかじめ示させる仕組みです。
 


 

4. 「還付逃れ」を防ぐルールと、適用期間40年の上限

 
今回の見直しには、お金の流れに関する地味だけれど重要な整理も含まれています。
 
この制度では、落札した発電事業者が原則20年間の固定収入を得ます。その一方で、その発電所が卸電力市場(JEPX)や非化石価値取引市場といった他の市場で稼いだ収益については、約9割を広域機関に還付する決まりになっています。広域機関はそれを小売電気事業者に返す。固定収入で投資は守るけれど、市場で儲かった分は取りすぎない、というバランスの設計です。
 
この還付が2027年度から実際に始まります。それを前に、エネ庁は「還付逃れ」を防ぐ整理を行いました。
 
・落札電源の収益より、非落札電源の収益を大きくしてはいけない
・落札電源の収益を下げる代わりに、休廃止電源の収入をコスト以上に増やすことも認めない
・ただし、落札電源の収益を非落札電源や休廃止電源の費用に充てること自体は認める
 
3つめが少しわかりにくいかもしれません。発電事業というのは、競争力のある電源で稼いだ利益で、採算の合わない電源の費用を賄っている面があります。その実態には配慮する。けれど、還付を減らすために意図的に収益を付け替えるのはダメ、という線引きです。
 
もう一点、制度の適用期間についても上限が定められました。上限は40年です。期間が長くなるほど金利などの資本コストが膨らみ、落札電源への支援総額に占める割合が高くなってしまう。それは好ましくないという判断で、過去に期間が40年を超える落札電源がなかったことも踏まえて決められました。なお電源の種類によってはより短い期間が設定されており、LNG専焼火力については20年から30年の範囲で選ぶ案が示されています。
 


 

5. 電気代への影響は?いつから、どこに効いてくるのか

 
ここまで読んでいただいて、「で、電気代はどうなるの?」というのが一番気になるところですよね。
 
制度の構造からいえば、落札電源に支払われる固定収入は小売電気事業者が拠出金として負担し、最終的には電気料金の原価に反映されます。募集量が4倍規模に増え、上限価格も引き上げられるのですから、支援総額そのものは膨らむ方向に働くと考えるのが自然です。
 
ただし、金額がそのまま料金に上乗せされると単純化するのは早すぎます。理由は3つあります。
 
・支払いが発生するのは、落札した発電所が実際に運転を始めてからです。第4回入札の落札分は提供開始期限が最長で契約から11年後ですから、負担が本格化するのは2030年代です
・落札価格は上限価格ではありません。マルチプライスオークションなので、実際にいくらで約定するかは応札の状況しだいです
・他市場収益の約9割が還付され、小売電気事業者に戻ります。この還付が2027年度から始まるため、拠出と還付の差し引きで見る必要があります
 
一方で、供給力が積み増されること自体は、卸電力価格の変動を抑える方向に働きます。夏や冬のピーク時に発電所が足りない状況は、JEPXのスポット価格が跳ねる典型的な場面です。ここ数年、中東情勢によるLNG価格の高騰が卸電力価格を押し上げてきたことを考えると、「量の余裕」を確保しておくことの価値は小さくありません。
(情熱電力の過去記事:LNGが高いときに火力の構成がどう動くかは、石炭火力の復権を追ったこちらの記事で整理しています)
 
法人のお客さまで市場連動型の契約をされている場合、こうした制度の動きは中期的なコスト前提そのものに関わってきます。すぐに請求書の数字が変わる話ではありませんが、2030年代の電力コストを見積もる材料として、頭の片隅に置いておいていただければと思います。
 


 
まとめ
長期脱炭素電源オークションで、LNG専焼火力の募集量が大幅に拡大されます。当初は2023〜2025年度の3年間で600万kWという限定的な位置づけでしたが、2027年1月の第4回入札からは2032年度までの7年間で合計3,900万〜5,500万kW程度へ。これまでの累計約1,010万kWの、最低でも約4倍という規模です。
 
背景にあるのは、広域機関が示した2040年の需給シナリオでした。データセンターの新設などで電力需要は1兆1千億kWh(2019年度比25%増)に伸びる一方、3,900万kWある経年火力をすべて建て替えてもなお1,300万〜1,600万kW足りない。脱炭素の制度でLNG火力を増やすという一見矛盾した判断は、この「足りない」から出発しています。
 
同時に、供給力の提供開始期限は8年後から11年後へ延長され、応札上限価格も引き上げられました。2050年までの脱炭素化は前提として崩さず、応札事業者には脱炭素化ロードマップの公表を求めます。他市場収益の還付についても、付け替えによる還付逃れを防ぐルールが整理されました。
 
負担するのは小売電気事業者、つまり最終的には電気料金です。ただし支払いが本格化するのは発電所が動き出す2030年代で、還付との差し引きもあります。慌てる話ではありませんが、10年後の電気代を左右する決定であることは確かです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
こうした制度の話は、正直なところ「知ったところですぐ電気代が下がるわけではない」ものばかりです。それでも、電気料金がどういう仕組みで決まっているのかを知っておくと、契約を見直すときの判断がぶれにくくなります。
 
情熱電力は長野県松本市の新電力として、お客さまとの距離の近さを大切にしています。市場連動型と固定単価のどちらが自社に向いているのか、いまの契約は妥当なのか。そういった漠然とした疑問でも構いませんので、気になる方はお気軽にご相談ください。
 
・TEL:0263-88-1183
・お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・資源エネルギー庁:カーボンニュートラル実現に向けて電源への新規投資を促す「長期脱炭素電源オークション」とは?
・電力広域的運営推進機関(OCCTO):長期脱炭素電源オークションを知ろう
・資源エネルギー庁:くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する「容量市場」
 

卸電力価格が日欧で3割上昇。IEA中間報告に見るガス火力のコストと、法人の電気代への影響

 
日本と欧州で上昇し米国と豪州で横ばい以下となった卸電力価格の国際比較とガス火力発電
 
電気新聞に「日欧で卸電力3割上昇 ホルムズ封鎖 ガス火力コスト増で」という記事があったので調べてみました。元になっているのは、国際エネルギー機関(IEA)が2026年7月に公表した「Electricity Mid-Year Update 2026(電力に関する2026年中間報告)」です。
 
そこに書かれていたのは、2026年4〜6月の平均卸電力価格が、日本とEUで前年同期を3割以上上回った、という数字でした。燃料が高いのだから電気も高い。そう言ってしまえばそれまでなのですが、面白いのはここからです。同じ時期、米国の卸電力価格は前年とほぼ変わらず、オーストラリアにいたっては約45%も下がっていました。
 
世界中が同じLNG高に直面しているのに、電気の値段の動き方はまるで違う。この差はどこから来るのか。そして、卸電力市場で起きていることは、法人のお客さまの電気料金にどんな順番で届いてくるのか。数字の出どころを確かめながら、順を追って見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. IEA中間報告が示した「日欧3割上昇」とは

 
IEAが2026年7月23日に公表した「Electricity Mid-Year Update 2026」には、こう書かれています。2026年第2四半期(4〜6月)の平均スポット卸電力価格は、EUと日本で前年同期比30%を超える上昇となった、と。
 
その原因としてIEAが挙げているのが、ホルムズ海峡を通るLNGの流れが止まったことです。同報告は「世界のLNG供給の2割近くが一時的に失われた」とし、それによってアジアと欧州の天然ガス価格が「2022〜23年のエネルギー危機以来の高値」まで押し上げられた、と説明しています。
 
そして、そのガス高がそのまま電気の卸値に転嫁された。電気新聞はこの構図を「ガス火力発電コストが上昇して卸電力価格を押し上げた」とまとめています。
 
各国・地域の上昇率を並べると、次のようになります。
 

国・地域 2026年4〜6月の平均卸電力価格(前年同期比)
日本 約33%の上昇
EU平均 約33%の上昇
ドイツ 約38%の上昇
フランス 約58%の上昇
米国 前年とほぼ同水準
インド 10%未満の上昇
オーストラリア 約45%の下落

出典について補足しておきます。IEA「Electricity Mid-Year Update 2026」(2026年7月公表)の要旨に明記されているのは、EUと日本が「30%超の上昇」、米国が「前年とほぼ変わらず」、インドが「10%未満の上昇」、オーストラリアが「約45%低い水準」という表現です。日本・EU・ドイツ・フランスの個別の数値(33%・33%・38%・58%)は、電気新聞2026年9月8日付の報道によるものです。記事に掲載されていた本文や注記に明記された数字だけを使用しています。
 


 

2. なぜガス火力のコストが卸電力価格を決めるのか

 
同じ燃料高なのに、なぜ国によってこれだけ差が出るのか。IEAはその理由を、各国・地域の電源構成と柔軟性の違いにあると総括しています。少し仕組みの話になりますが、ここが分かると今後のニュースの読み方が変わります。
 
 

電源構成が価格の振れ幅を決める

卸電力市場の価格は、ざっくり言えば「その時間帯に最後に動いた発電所の燃料費」で決まります。需要が増えていくと、発電コストの安い電源から順番に動かしていき、足りない分を高い電源で埋める。その最後の1台がガス火力なら、ガスの値段がそのまま市場価格になる、というイメージです。
 
つまり、ガス火力が電源構成に占める割合が大きい国ほど、LNG価格の変動が電気の卸値に直結します。
 
日本の場合、資源エネルギー庁の「令和5年度(2023年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」によると、発電電力量に占めるLNG(天然ガス)火力の割合は32.9%。石炭火力が28.3%、再生可能エネルギーが22.9%、原子力が8.5%と続きます。電気新聞が「天然ガス火力が発電電力量全体の約3割を占める」と書いているのは、この数字のことですね。
 
3割がガスということは、需要が伸びる時間帯の「最後の1台」はかなりの頻度でガス火力になります。LNGが高くなれば、卸値も素直に上がる。日本の卸電力価格がLNG価格に敏感なのは、この構造そのものが理由です。
 
 

ホルムズ依存はわずか6.3%、それでも効く理由

ここで、多くの方が引っかかるであろう数字に触れておきます。
 
日本のLNG輸入のうち、ホルムズ海峡を通ってくる量は年間約400万トン。全体に占める割合は6.3%にとどまります(2025年の貿易統計をもとにした資源エネルギー庁の資料、およびジェトロの報道による)。カタール産のシェアも5.3%です。
 
6.3%なら残りの9割以上は無事なのだから、そこまで困らないのでは。そう考えたくなります。ところが実際には、日本の卸電力価格は3割上がりました。
 
理由は、LNGが世界でひとつながりの市場だからです。IEAが言うように、世界全体の供給の2割近くが一時的に消えると、その穴を埋めようとする買い手が一斉に市場に出てきます。欧州も、アジアの他の国も、同じスポットカーゴを取り合う。日本が直接ホルムズ海峡から買っていなくても、価格そのものが世界中で吊り上がるため、輸入ルートが無事でも調達単価は上がってしまうのです。
 
「うちは中東から買っていないから大丈夫」が通用しない。ここが、LNGという燃料の厄介なところです。
(情熱電力の過去記事:ホルムズ海峡の現状については、こちらで業界目線から整理しています)
 


 

3. 米国・インド・豪州との差はどこから生まれたか

 
では、値上がりを免れた国は何が違ったのでしょうか。
 
米国は、天然ガスの自給率が100%を超えます。国内で採れたガスを国内で燃やしているので、アジアや欧州のスポット価格がいくら跳ねても、発電コストへの跳ね返りは限定的です。結果として、第2四半期の平均卸電力価格は前年とほぼ同水準にとどまりました。
 
インドは、そもそも発電に占めるLNGの比率が小さい国です。価格ショックの入り口が狭いぶん、上昇率も10%未満で収まりました。
 
そしてオーストラリアは、約45%の下落です。電気新聞は、再生可能エネルギーによる発電量の拡大に加えて蓄電池の設置が急速に進んだことで、需要ピーク時にガス火力へ頼る度合いが下がったことが背景にある、と伝えています。
 
先ほどの「最後の1台」の話を思い出してください。ピーク時に動く最後の1台がガス火力ではなく蓄電池に置き換わっていけば、その時間帯の市場価格はガスの値段から切り離されていきます。燃料が高いときに価格が下がる、という一見不思議な現象は、こうして起こります。
 
日本の自給率が低いという話は以前から何度も出てきますが、今回の数字を並べると、効いている要素が2つあることが見えてきます。ひとつは、限界電源の燃料をいくらで買えるか。米国が値上がりを免れたのは、国内のガス価格がアジアのスポット価格と切り離されていたからで、これは自給率の話です。もうひとつは、その燃料価格が卸値にどれだけ伝わるか。オーストラリアが下落したのは、ピーク時の最後の1台がガス火力から蓄電池に置き換わりつつあるからで、これは電源構成の話です。日本は、この2つがどちらも不利な側に立っています。
 


 

4. 法人の電気代への影響はいつ出るのか

 
ここからは、事業者の皆さまにとっての実務の話です。
 
卸電力価格が上がったからといって、翌月の請求書がすぐ3割増える、というわけではありません。契約している料金プランによって、効いてくる速さと大きさがまったく変わります。
 

料金の形 卸電力価格の上昇がどう効くか
市場連動型(30分単位) 当月の使用分にそのまま反映される。最も速く、振れ幅も大きい
市場連動型(月次連動) 月ごとの平均価格で反映。日々の乱高下はならされるが、方向は同じ
固定単価+燃料費調整 燃料価格の平均値をもとに、2〜5カ月ほど遅れて反映される
完全固定単価 契約期間中は単価が動かない。影響は電力会社側が負う

(情熱電力の過去記事:法人契約で市場連動型を選ぶときのリスクは、こちらで詳しく解説しています)
 
注意していただきたいのは、遅れて効くタイプほど「今は静かだから大丈夫」と見えてしまう点です。燃料費調整は、燃料価格の平均をとって数カ月後の請求に乗せる仕組みですから、4〜6月に起きたことが手元に届くのは秋以降になります。今の請求書が落ち着いて見えても、それは影響がないという意味ではありません。
 
もうひとつ。IEAの同じ報告では、世界の電力需要が2026年に3.6%、2027年にさらに3.8%伸びると見込んでいます。再生可能エネルギーが2026年に石炭を抜いて世界最大の電源になる見通しも示されました。燃料高と需要増が同時に進む局面では、価格は下がりにくい方向に傾きます。
 


 

5. 事業者が今から備えられる3つのこと

 
大きな地政学の話を聞いても、自社で打てる手がなければ意味がありません。今日から動かせるところを3つに絞ります。
 
・契約の「形」を確認する まずは請求書と契約書を開いて、自社の料金が上の表のどれに当たるかを確かめてください。市場連動なのか、燃料費調整付きの固定単価なのか。ここが分からないままだと、値上がりが来ても原因が特定できません。
 
・ピーク時間帯の使い方を見直す 卸電力価格が跳ねるのは、需要が集中して高い電源まで動員される時間帯です。設備の起動時刻をずらす、空調の設定を少し見直すといった調整でも、高い時間帯の使用量が減れば効き目があります。オーストラリアの例は、ピークをどう埋めるかが価格を決めるという話でもありました。
 
・数カ月先を見た資金計画を立てる 燃料費調整のタイムラグを考えると、今期の予算は「今の単価」ではなく「数カ月後に来る単価」で組んでおくほうが安全です。年度後半の電気代を少し厚めに見ておく。それだけでも、資金繰りの驚きはかなり減らせます。
 


 
まとめ
IEAの2026年中間報告が示したのは、2026年4〜6月の平均卸電力価格が日本とEUで前年同期比3割超の上昇、一方で米国はほぼ横ばい、オーストラリアは約45%下落という、くっきり分かれた結果でした。
 
差を生んだのは2つの層です。限界電源の燃料をいくらで買えるかという自給率の問題と、その燃料価格が卸値にどれだけ伝わるかという電源構成の問題。米国は前者で、豪州は後者で値上がりを免れました。ガス火力が3割を占め燃料をほぼ輸入に頼る日本は、どちらの守りも持っていません。
 
事業者にとって大事なのは、この上昇が自社の電気代にいつ届くかです。市場連動なら即座に、燃料費調整付きなら数カ月遅れて効いてきます。今の請求書が落ち着いていることは、影響がない証明にはなりません。
 
まずは契約の形を確認し、ピーク時間帯の使い方を見直し、年度後半の電気代を少し厚めに見積もっておく。派手さはありませんが、この3つが効きます。
 


 
情熱電力からのお知らせ
「うちの契約は、市場連動と固定単価のどちらなんだろう」「燃料費調整がどれくらい遅れて効いてくるのか、いまひとつ分からない」。そう感じられた方は、遠慮なくお声がけください。
 
情熱電力は長野県松本市の新電力です。高圧・特別高圧のお客さまには、市場価格の変動をどこまで自社で負うか、どこから先を電力会社に預けるかという設計のご相談もお受けしています。請求書を1枚お送りいただければ、今の契約がどの形に当たるのか、整理してご説明できます。
 
見積もりのご依頼でなくても構いません。「今の契約でいいのか確かめたい」というご相談から、お気軽にどうぞ。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・IEA(国際エネルギー機関):電力に関する2026年中間報告 エグゼクティブサマリー
・資源エネルギー庁:LNGをめぐる動向と電力・ガスの安定供給について
 

【気象庁3か月予報】この冬は暖冬?10〜12月・寒候期予報の確率と電気代への影響を解説

 
お天気解説
 
以前『エルニーニョ現象とは?観測史上最強級の予測と、この秋冬の天気・電気代への影響を解説します』でも触れましたが、その後、気象庁から具体的な数字が出てきました。2026年9月18日、10月から12月までの3か月予報と、12月から2月を対象にした寒候期予報が同時に発表されています。
 
前回の記事でお伝えできたのは、「エルニーニョの年は統計的にこういう傾向になりやすい」というところまででしたが、今回は、気温が高くなる確率は何%なのか、雪はどうなるのか、月ごとにどう変わっていくのか。気象庁が確率という形で示した数字が、ひととおり揃いました。
 
結論から言うと、この秋から冬は暖かくなる見込みです。ただ、「暖冬なら電気代も安く済むはず」と思って構えていると、あてが外れるかもしれません。予報の中身と、そこから読み取れる電気の話を、順番に整理していきますね。
 


 
目次

 


 

1. 気象庁が9月18日に発表した2つの予報とは?

 
まず、今回発表されたものを整理しておきますね。同じ日に、性格の違う2つの予報が出ています。
 
・3か月予報(2026年10月〜12月)……毎月1回発表される、向こう3か月の見通し。次回は10月20日発表予定
・寒候期予報(2026年12月〜2027年2月)……冬のひと季節をまとめて見通す予報。年に1回、9月の3か月予報と同時に発表される
 
寒候期予報は年1回きりの発表なので、「この冬はどうなりそうか」をいちばん早く、まとまった形で知れる資料ということになります。冬支度の計画を立てるには、ちょうどいいタイミングですよね。
 
ここで、季節予報の読み方をひとつだけ押さえておきましょう。季節予報は「暖冬です」と言い切る予報ではなく、「低い(少ない)」「平年並」「高い(多い)」の3つに分かれる確率で示されます。3つの合計が100%になる形です。
 
たとえば「低い10:平年並40:高い50」なら、平年より高くなる可能性が5割、という意味になります。気象庁は、高い(多い)確率が50%以上のときに「高い(多い)見込み」、「20:40:40」のときに「平年並か高い(多い)見込み」と表現しています。この言葉づかいを覚えておくと、ニュースの見出しも正確に読めるようになります。ご参考になさってください。
 


 

2. 10月〜12月の3か月予報 気温は全国で「高い」確率50%

 
まず気温です。10月から12月までの3か月平均気温は、北日本・東日本・西日本・沖縄・奄美のすべてで「高い」確率が50%。気象庁の表現では「高い見込み」、つまり全国的に平年より暖かくなる予想です。
 
降水量は地域で分かれます。北日本太平洋側・東日本太平洋側・西日本では「平年並か多い見込み」(平年並40%:多い40%)。北日本日本海側と東日本日本海側、沖縄・奄美は「ほぼ平年並の見込み」です。
 
 

 月別に見ると、変わり目は11月

3か月をひとまとめにすると「暖かい」で終わってしまうのですが、月ごとに見ると様子が変わります。まず気温から。
 

地域 10月 11月 12月 3か月平均
北日本 50% 50% 40% 50%
東日本 50% 50% 50% 50%
西日本 50% 50% 50% 50%
沖縄・奄美 40% 40% 50% 50%

表の数字は、平均気温が平年より「高い」に入る確率です(気象庁「3か月予報(2026年9月18日発表)」より作成)。色を付けた北日本の12月だけ40%で、ここは「平年並40%:高い40%」、つまり「平年並か高い見込み」という表現になります。裏を返すと、12月の北日本は、暖かいと言い切れるほどの材料が揃っていないということですね。
 
次に天気です。気象庁は月別の天候をこう見ています。
 
・10月……北・東日本は数日の周期で変わる。西日本と沖縄・奄美は高気圧に覆われやすく、平年に比べ晴れの日が多い
・11月……北・東日本太平洋側は低気圧の影響を受けやすく、平年に比べ晴れの日が少ない。西日本日本海側も曇りや雨の日が多い
・12月……北・東・西日本太平洋側で、平年に比べ晴れの日が少ない
 
10月がいちばん天気に恵まれて、11月から曇りや雨が増えていく。そういう並びです。降水量でいうと、12月は西日本と沖縄・奄美で「多い」確率が50%まで上がります。
 
 

 関東甲信地方の予報はどうなっている?

もう少し身近な範囲でも見てみましょう。長野県が含まれる関東甲信地方の3か月予報は、次のとおりです。
 
・3か月平均気温……高い確率50%(低い10:平年並40:高い50)
・3か月の降水量……平年並か多い見込み(少ない20:平年並40:多い40)
・10月の天気……数日の周期で変わる。降水量はほぼ平年並
・11月・12月の天気……いずれも「平年に比べ晴れの日が少ない」。降水量はどちらも平年並か多い見込み
 
つまり、10月は比較的動きやすく、11月に入ると曇りや雨が増えていく。屋外の作業や点検を予定しているなら、10月のうちに、という読み方ができます。
 


 

3. この冬(12月〜2月)の寒候期予報 暖冬・少雪の見込み

 
ここからが、年に1回の寒候期予報です。12月から2月までの冬ひと季節が対象になります。
 

地域 平均気温 降水量 降雪量
北日本 日本海側 平年並か高い(40:40) ほぼ平年並 平年並か少ない(40:40)
北日本 太平洋側 平年並か高い(40:40) 平年並か多い(40:40) 予報の対象外
東日本 日本海側 高い 60% ほぼ平年並 少ない 50%
東日本 太平洋側 高い 60% 多い 50% 予報の対象外
西日本 日本海側 高い 60% 多い 50% 少ない 50%
西日本 太平洋側 高い 60% 多い 50% 予報の対象外
沖縄・奄美 高い 70% 多い 50% 予報の対象外

気象庁「寒候期予報(2026年9月18日発表)」より作成。降雪量は日本海側だけの予報で、太平洋側は予報されません。また西日本日本海側の降雪量予報は近畿日本海側と山陰が対象で、九州北部地方は含まれていません。
 
読みどころは2つあります。ひとつは、東日本と西日本の気温が「高い」確率60%と、3か月予報の50%より一段強く出ていること。沖縄・奄美に至っては70%です。もうひとつは、色を付けた東日本太平洋側の降水量が「多い」確率50%になっていること。気温が高く、降水量が多いということは、雪ではなく雨で降る日が増えるという意味でもあります。
 
なお関東甲信地方の寒候期予報は、気温が「高い」確率60%、降水量が「多い」確率50%。降雪量は予報の対象外です。「日本海側は少雪」という見出しをそのまま自分の地域に当てはめると、読み違えてしまうので気をつけてください。
 
 

 「暖冬だから雪は少ない」とは限らない

ここは強調しておきたいところです。気象庁は寒候期予報の解説資料に、近年10年分の冬の実績を載せています。そのうち昨シーズン(2025年12月〜2026年2月)の数字を見てみましょう。
 
平均気温の平年差は、北日本+1.0℃、東日本+0.9℃、西日本+0.9℃、沖縄・奄美+0.5℃。たしかに全国的な暖冬でした。ところが降雪量の平年比は、北日本日本海側96%、東日本日本海側99%と、ほぼ平年どおり。西日本日本海側(九州北部を除く)にいたっては135%で「多い」に分類されています。
 
気象庁自身も、昨シーズンの特徴を「日本付近への寒気の南下が弱く、暖かい空気が流れ込みやすい時期もあったため、全国的に暖冬だが、気温の変動が大きい」「1月を中心に冬型の気圧配置が強まる時期があり、北日本日本海側で多雨」とまとめています。
 
季節の平均値が高くても、その中に強い寒気が入る週は普通にあります。そして雪は、そういう数日に集中して降ります。暖冬予想は「冬支度をしなくていい」という意味ではない、ということですね。
 


 

4. なぜ暖かくなる?エルニーニョ現象と偏西風のしくみ

 
暖冬予想の背景にあるのが、前回の記事でも取り上げたエルニーニョ現象です。その後の状況も更新されているので、あわせてお伝えしますね。
(情熱電力の過去記事:エルニーニョ現象のしくみと判定基準は、こちらで詳しく解説しています)
 
気象庁が9月9日に発表したエルニーニョ監視速報(No.408)によると、8月のエルニーニョ監視海域の海面水温は基準値より+3.4℃。8月としては1949年以降でいちばん高かった1997年の+3.0℃を上回りました。今後、冬にかけてエルニーニョ現象が続く見込みは100%とされ、基準値からの差は、これまで最盛期の値が最も高かった1997年12月の+3.6℃に匹敵する見込みだと書かれています。
 
このことが、日本の天気にどうつながるのか。気象庁の季節予報解説資料では、こんな筋道で説明されています。
 
・太平洋赤道域の東部から中部で海面水温が高く、その海域で積乱雲の発生が多くなる
・一方でフィリピン付近では積乱雲の発生が少なくなる
・その結果、上空の偏西風はユーラシア大陸を中心に平年より南を流れやすく、日本付近ではやや南を、しかも弱く流れる
・地球温暖化とエルニーニョ現象の影響で、熱帯域を中心に大気全体の温度が高い
・冬はシベリア高気圧の強さがほぼ平年程度でも、アリューシャン低気圧が西側で弱いため、日本付近の季節風が弱くなる
・フィリピン付近が高気圧になりやすく、南からの暖かく湿った空気が流れ込みやすい
 
寒気を運んでくる季節風が弱く、南から暖かく湿った空気が入りやすい。だから気温は高く、太平洋側では低気圧の影響で曇りや雨が増える。予報の全体像は、この一本の線でつながっています。
 
ただし、ここにも但し書きがあります。気象庁は解説資料の中で、3か月予報も寒候期予報も「主に熱帯域のゆっくりとした海洋変動の大気への影響に基づいて」いて、「中高緯度の大気独自の変動(寒帯前線ジェット気流の蛇行や北極振動等)は予測の不確実性が大きい」と明記しています。
 
つまり、突然の寒波をもたらすタイプの現象は、そもそも季節予報が得意とする範囲の外側にある、ということです。「暖冬予想だったのに大雪になった」が毎年のように起きるのは、このためなんですね。
 


 

5. 暖冬だと電気代は安くなる?見落としやすい3つのポイント

 
さて、ここからは電気の話です。「暖冬なら電気代も下がるだろう」と考えたくなりますが、そう単純ではありません。3つに分けて整理してみます。
 
ひとつめは、使う量の話です。冬の電気使用量は暖房が大きな割合を占めるので、平均気温が高ければ、使用量は下がりやすいと考えられます。ここは素直に期待していい部分です。ただ、前の章で見たとおり、季節の平均が高くても寒波の週はあります。月ごとの請求で見ると、12月と1月で差が大きく出る、という形になりやすいと思います。
 
ふたつめは、単価の話です。電気の単価は天気では決まりません。燃料費調整額は、原油・LNG・石炭の輸入価格をもとに決まる仕組みで、気温とは別の動きをします。暖冬で使用量が減っても、単価が上がれば請求額は思ったほど下がらない、ということが起こりえます。燃料費調整の仕組みは少し複雑なので、別の記事で詳しくまとめています。
(情熱電力の過去記事:燃料費調整の仕組みと上限額については、こちらをご覧ください)
 
みっつめは、政府の支援の話です。2026年夏に行われた電気・ガス料金の支援は、9月使用分(10月検針分)が最後になります。10月使用分以降は自動では続きません。この冬の扱いについては、本記事を書いている2026年9月時点で正式な発表はありません。過去には冬にも支援が行われた年がありますが、決まったものとして家計の計算に入れるのは避けたほうが安全です。
 
もうひとつ、おまけに近い話ですが。11月以降は北・東日本太平洋側で「平年に比べ晴れの日が少ない」見込みです。洗濯物が乾きにくければ衣類乾燥の出番が増えますし、太陽光発電を設置されているご家庭や事業所では、自家消費であてにしていた分が目減りする可能性もあります。曇りの多い冬は、電気の使い方が静かに変わります。
 


 

6. 10月から12月にやっておきたい備え

 
予報を知って終わりでは、もったいないですよね。ここまでの内容から、具体的にできることを挙げてみます。
 
・冬タイヤの準備は例年どおりの時期に……少雪の見込みが出ているのは日本海側で、しかも「少ない確率50%」です。裏を返せば半分は違う結果になります。昨シーズンのように、暖冬でも雪が多い地域は出ます
・屋外の点検や準備は10月のうちに……10月は天気の周期変化、11月からは太平洋側で晴れの日が少なくなる見込みです。暖房器具の試運転、灯油タンクや配管の確認、外壁まわりの手当ては、動ける月に
・暖房器具は使う前に一度動かす……シーズン初日に動かなかった、は毎年ある話です。エアコンのフィルター清掃だけでも消費電力は変わります
・洗濯と乾燥の段取りを見直す……曇りや雨の日が増える前提で、乾燥機や除湿機の使い方を決めておくと、慌てて電気を使わずに済みます
・電気の契約内容は需要期の前に確認する……使用量が増えてからでは、比較の判断がしにくくなります
 
暖冬予想は、備えを減らす理由ではなく、備えの順番を決める材料です。そう受け取っていただけたらと思います。
 


 
まとめ
気象庁が2026年9月18日に発表した3か月予報と寒候期予報を見てきました。10月から12月の平均気温は全国で「高い」確率50%。12月から2月の冬は、東・西日本で「高い」確率60%、沖縄・奄美で70%と、さらに強い暖冬予想になっています。日本海側の降雪量は東・西日本で「少ない」確率50%、北日本で「平年並か少ない」見込みです。
 
背景にあるのは、冬にかけて続く見込みが100%とされるエルニーニョ現象です。季節風が弱く、南から暖かく湿った空気が入りやすいため、太平洋側では曇りや雨の日が増える予想になっています。
 
ただ、気象庁自身が「中高緯度の大気独自の変動は予測の不確実性が大きい」と書いているとおり、突然の寒波や大雪は季節予報の外側にあります。昨シーズンも全国的な暖冬でしたが、西日本日本海側の降雪量は平年の135%でした。
 
そして電気代は、天気だけでは決まりません。使用量は減りやすくても、単価は燃料価格に左右されます。夏の料金支援も9月使用分で区切りを迎えます。暖かい冬を期待しつつ、備えは例年どおりに。それが、いちばん損をしない構え方だと思います。
 


 
情熱電力からのお知らせ
冬は一年で電気の使用量が最も増える季節です。「暖冬予想」と聞いても、実際の請求額がどうなるかは、契約している料金メニューや使い方によって変わってきます。
 
情熱電力では、ご家庭・事業所それぞれの使用状況に合わせたご提案をしています。今の契約が自分に合っているのか気になる方、冬の電気代の見通しを立てておきたい方は、お気軽にご相談ください。ご契約いただかなくても構いません。まずは現状を一緒に確認するところからで大丈夫です。
 
TEL 0263-88-1183
お問合せフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・ウェザーニュース:気象庁3か月予報 冬の訪れは遅れる可能性 エルニーニョ現象が影響
・気象庁:季節予報(向こう1~3カ月の天気予報)
・気象庁:季節予報技術資料リンク集
・気象庁:エルニーニョ監視速報
 

永久磁石のリサイクルとは?レアアースの中国依存を減らす国の2000億円計画をやさしく解説

 
電気自動車や風力発電機のモーターに使われる永久磁石と、レアアースのリサイクルの流れ
 
日経ビジネスに「永久磁石のリサイクル市場、離陸なるか EVと風力が廃磁石の供給源に」という記事があったので調べてみました。
 
「永久磁石」と聞いても、正直あまりピンと来ないかもしれません。冷蔵庫に貼るマグネットくらいしか思い浮かばない、という方も多いと思います。ところがこの部品、電気自動車(EV)の駆動モーターにも、風力発電機にも、工場の産業用ロボットにも入っていて、電気を「力」に変える工程のど真ん中にあります。
 
そして今、この永久磁石が経済安全保障のテーマとして扱われはじめました。2026年7月21日に政府が公表した官民投資ロードマップでは、永久磁石に2040年度までに2000億円を投じ、2030年時点で国内供給される原材料の約3割をリサイクルで賄うという目標が示されています。
 
なぜ磁石にそこまでの投資が必要なのか。レアアースとはそもそも何なのか。専門用語をできるだけかみ砕きながら、順番に見ていきましょう。
 


 
目次

 


 

1. 永久磁石とは?モーターを回している「見えない主役」

 
永久磁石とは、電気を流し続けなくても磁力を保ち続ける磁石のことです。反対に、電気を流している間だけ磁石になるものを電磁石と呼びます。
 
モーターは、この永久磁石と電磁石が引き合ったり反発したりする力で回っています。つまり永久磁石は、電気を回転の力に変えるための「相手役」です。ここが強ければ強いほど、同じ大きさ・同じ電力でより大きな力が出せます。逆に言えば、磁石の性能がそのまま、モーターを小さく・軽く・省エネにできるかどうかを決めてしまうわけです。
 
EVの航続距離、エアコンの省エネ性能、産業用ロボットの精度。どれも「磁石の強さ」に支えられている、と言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、設計上はかなり近い話です。
 
 

 ネオジム磁石が特別に強い理由

現在もっとも広く使われている高性能な永久磁石が「ネオジム磁石」です。ネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする磁石で、1980年代に日本で生まれた技術がもとになっています。
 
ネオジム磁石は他の磁石に比べて磁力が大きく、EVの駆動モーターや風力発電機、ロボット、航空宇宙・防衛機器まで幅広く使われています。強い磁石が小さく作れるということは、同じ性能のモーターをより小型にできるということ。だからこそ、車載や家電のように「スペースが限られる場所」で選ばれてきました。
 


 

2. レアアースとは?磁石の性能を決める金属

 
ここで出てくるのがレアアース(希土類)です。名前に「レア(希少)」とついているので、地球上にほとんど存在しない金属だと思われがちですが、実はそうではありません。地殻の中にはそれなりの量が含まれています。
 
難しいのは、採掘した鉱石から目的の元素だけを取り出す「分離・精製」の工程です。レアアースは化学的な性質がよく似た元素の集まりで、混ざったものを分けるのに手間もコストも環境負荷もかかります。だから「精製できる場所が限られる」。これがレアアースの本質的な希少性です。
 
ネオジム磁石におけるレアアースの役割は、ざっくり言えばこうなります。
 
・ネオジム(Nd)……磁石の主成分。磁力そのものを生み出す
・ジスプロシウム(Dy)/テルビウム(Tb)……少量加えることで、熱に強くする
 
 

 ジスプロシウムとテルビウムは「暑さ対策」の材料

磁石は熱に弱く、温度が上がると磁力が落ちます(減磁と呼びます)。ところがEVの駆動モーターも、風力発電機のモーターも、動いている間はかなりの高温になります。そこで、ジスプロシウムやテルビウムといった「重レアアース」を少量加えて、高温でも磁力が落ちにくくしているわけです。
 
添加量はわずかでも、これがないと車載用途には使えません。しかもこの2つは化学的性質が特に似ていて、分離・精製が難しい元素とされています。リサイクルの技術的な難所も、まさにここにあります。
 


 

3. なぜ今リサイクルなのか|中国依存という供給リスク

 
永久磁石のリサイクルは、環境対策の話にとどまりません。経済安全保障と産業競争力に直結するテーマとして扱われています。
 
その理由は、供給の偏りです。日経ビジネスの記事(SMBC日興証券作成の資料に基づく)によれば、磁石用レアアースの世界市場において、中国は採掘の58.9%、精製の91.3%、焼結永久磁石の製造の94.4%を占めているとされています。
 
注目したいのは、工程が進むほど集中度が上がっている点です。掘るところでは6割弱ですが、精製すると9割、磁石にすると9割半ば。鉱石が化学工場を通るほど、選択肢が減っていくという構図になっています。
(情熱電力の過去記事:レアアースをめぐる各国の駆け引きについては、こちらでも取り上げています)
 
そして日本で発生した使用済みの「廃磁石」も、その多くは海外で分離・精製されてから再輸入されているのが実情です。捨てているようで、実は買い戻している。ここを国内で回せるようにできれば、特定国への依存を抑え、供給が止まったときの耐性を高められる、というのがリサイクル推進の狙いです。
 
かつて日本は焼結永久磁石で高い世界シェアを持っていましたが、中国企業の台頭に伴って大きく低下しました。一方で、関連特許や高度な製造技術にはまだ一定の競争力が残っているとされています。廃磁石の回収から再生磁石の製造までをつなぐ循環網を国内に築ければ、縮小した磁石生産の基盤を立て直す足がかりになるかもしれません。
 


 

4. 政府の目標はいくら?2000億円と「原材料の3割」

 
2026年7月21日、政府は戦略17分野の主要製品・技術に関する官民投資ロードマップを公表しました。62項目について主に2040年度までの累計投資額を積み上げたもので、重複を除いた総額は370兆円を超えます。
(情熱電力の過去記事:この370兆円の投資計画の全体像は、こちらで詳しく解説しています)
 
このうち永久磁石については、次の2つが示されました。
 
・2040年度までに2000億円(0.2兆円)を投じる
・2030年時点で、国内供給される永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄う
 
「原材料の3割」という目標は、2026年4月に経済産業省が示したマテリアル(重要鉱物・部素材)分野のロードマップ案や、同時期にまとめられた循環経済行動計画にも同じ内容で記載されています。循環経済行動計画では、メタルリサイクルの推進に向けて2030年までに官民で約1兆円の投資を目指すとされており、永久磁石はその柱のひとつという位置づけです。
 
金額だけ見ると2000億円は370兆円のごく一部ですが、狙っているのは「量」ではなく「詰まったときに困る場所」の解消だと考えると、位置づけが見えやすくなります。

5. 廃磁石はどこから出てくる?EVと風力タービンが供給源に

 
では、リサイクルの原料になる廃磁石はどこから集めるのでしょうか。
 
現在の主役は、国内の磁石生産工場から出るスクラップ(製造工程の端材)です。ただし国内生産量そのものが限られているため、集まる量には天井があります。そこで焦点になるのが、使用済み製品からの回収です。当面は、家電リサイクル法という既存の回収ルートが使えるエアコンが有力とされています。
 
中長期で見て大量の回収が見込めるのは、1台・1基あたりの磁石の量が多い製品、つまりEVと風力タービンです。
 

用途 磁石重量(kg/台)
風力タービン(洋上) 650(kg/MW)
風力タービン(陸上) 160(kg/MW)
産業用ロボット 8.5
EV(ハイブリッド車を含む) 1.9
エアコン 0.325
従来型車両(エンジン車) 0.225
冷蔵庫 0.2
デスクトップPC 0.013
スマートフォン 0.001

出所:欧州政策研究センター(CEPS)の文献調査および専門家ヒアリングをもとにSMBC日興証券が作成した資料より、主要な項目を抜き出して作表。風力タービンは出力1MWあたりの磁石含有量です。
 
EV1台に1.9kg、エンジン車が0.225kg。同じ「車」でも8倍以上の差があります。スマートフォンの0.001kgと比べれば、EVはおよそ1,900台分。回収の対象として見たときのインパクトの違いが、数字で見るとよくわかります。
 
ただし、ここには時間の問題があります。製品は売れてから捨てられるまでに長いタイムラグがあるためです。2010年代前半から普及したEVからの廃磁石が増えてくるのは2030年前後から。風力タービンは運転期間を20年程度とすると、回収が本格化するのは2040年代以降になります。
 
つまり、原料が足りないのは今なのに、大量に出てくるのは十数年後。この時間差をどう埋めるかが、投資計画の難しいところです。
 


 

6. 壁は技術よりも「値段」|企業が今から見ておきたいこと

 
リサイクルの方法は、大きく2つに分かれます。
 

方式 やり方 課題
長ループ 磁石を化学処理して、レアアース酸化物までいったん戻す 性質の似たジスプロシウムとテルビウムの分離・精製が難しい
短ループ 粉砕・水素処理などで、磁石の原料としてそのまま再利用する 工程は短くコストも抑えやすい一方、組成の追跡と高度な選別が欠かせない

技術面の課題に対しては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が高性能な溶媒や小型抽出装置、低温での電解還元の開発を進めています。事業化の目標は2031年頃、十分な事業規模の実現は2040年を見込むとされています。
 
ただ、記事が指摘しているのは、技術が確立してもそれだけでは足りない、という点です。海外の処理コストとの差を縮められなければ、国内事業は自立しにくい。結局のところ、壁は技術よりも値段だということですね。
 
海外の先行例が示す市場拡大の条件は、次の3つに整理されています。
 
・需要の創出……自動車メーカーや産業機械メーカーとの長期の「オフテイク契約」(あらかじめ買い取りを約束する契約)で、販売先と投資回収の見通しを確保する
・原料の安定調達……家電・自動車・風力発電設備からの回収ルートと、工場スクラップの回収ルートを統合し、集荷拠点や引取契約を整える
・価格競争力……割高な再生品を選ぶ動機をつくる。価格差を公費だけで埋めれば財政負担が膨らむため、再生品の利用目標、公共調達、防衛用途での需要創出、需要家によるプレミアム負担を組み合わせる
 
国内では信越化学工業、三徳、三菱電機、ダイキン工業、豊田メタル、DOWAエコシステムなどが、エアコン・自動車・風力発電設備を対象に、廃磁石の回収網の構築やリサイクル技術の実証を進めています。
 
では、磁石メーカーでもリサイクル事業者でもない企業にとって、これは他人事でしょうか。そうとも言い切れません。事業者として見ておきたいのは、次のあたりです。
 
・設備を更新するとき、外したモーターがどこへ行くのかを確認しておく。産業用ロボットは1台あたり8.5kg、業務用エアコンにもまとまった量の磁石が入っています ・廃棄物処理の委託先が、磁石の回収に対応しているかを聞いてみる ・調達側であれば、再生材の利用が今後どこまで求められるかを取引先と共有しておく
 
「再生品を選ぶ動機をつくる」という政策の方向性は、いずれ調達基準や取引条件という形で現場に降りてきます。今のうちに、自社の設備のどこに磁石が入っているかを把握しておくだけでも、動き出したときの反応速度は変わってきます。
 


 
まとめ
永久磁石は、電気を回転の力に変えるモーターの中心にある部品です。中でもネオジム磁石は磁力が大きく、EVや風力発電機、産業用ロボットに欠かせません。その性能を支えているのがレアアースで、ネオジムが磁力を生み、ジスプロシウムやテルビウムが高温でも磁力を落ちにくくしています。
 
問題は、レアアースの分離・精製と磁石の製造が特定の国に大きく偏っていることです。日本で出た廃磁石も、多くは海外で処理されてから戻ってきています。だからこそ政府は、2040年度までに2000億円を投じ、2030年時点で国内供給される永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄う目標を掲げました。
 
回収の本命はEVと風力タービンですが、まとまった量が出てくるのは2030年前後から2040年代にかけて。原料が足りない今と、大量に出てくる将来との時間差をどう埋めるかが課題です。そして最後に残るのは、技術よりも価格の壁。再生品を選ぶ理由をどうつくるかが、この計画が実を結ぶかどうかの分かれ目になりそうです。
 


 
情熱電力からのお知らせ
エネルギーの話題は、電気料金のような身近なところから、今回のような資源・調達の話まで幅広くつながっています。工場やオフィスの設備更新を検討されている場合、消費電力の見直しと合わせて考えると、判断しやすくなることも少なくありません。
 
情熱電力は、松本市を拠点にお客様との距離の近さを大切にしている新電力です。電気料金の内訳がよくわからない、設備の入れ替えで電気の使い方がどう変わるか相談したい。そんなときは、お気軽にお声がけください。
 
TEL 0263-88-1183
https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・経済産業省:成長戦略「マテリアル(重要鉱物・部素材)」分野ロードマップ(案)
・内閣官房:戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップ
・環境省:循環経済行動計画に基づく今後の我が国の循環経済ビジョン
・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構):部素材からのレアアース分離精製技術開発事業
・日経ビジネス:永久磁石のリサイクル市場、離陸なるか EVと風力が廃磁石の供給源に
 

電力契約情報で本人確認|マネロン対策で銀行が使う仕組みと、電気の契約情報が外に出る条件を解説

 
住宅から伸びた線が盾のマークに集まる、電力契約情報を使った本人確認のイメージ
 
日本経済新聞に「電力契約情報でマネロンを防止」という記事があったので調べてみました。
 
一読して、少し身構えました。電気の契約情報が、銀行の口座開設の審査に使われている。しかも本人の同意を取らずに、です。私たちは電気を売る側の会社ですから、お客さまの契約情報を預かっている当事者にあたります。「それ、勝手に外に出ていっているのでは」と思われても不思議はありません。
 
そこで、元記事に出てくるサービスの中身と、根拠になっている法律を一次資料まで当たって調べてみました。結論からいうと、この仕組みは電気事業法・個人情報保護法・犯罪収益移転防止法の3つについて、国の制度を通じて事前に論点を整理したうえで動いています。思いつきで始まったものではありませんでした。
 
そのうえで、電気を売る側から見た「契約情報はどこまで外に出るのか」という話も、この記事の最後のほうで正直に書いています。実は弊社にも、警察から照会を受けた経験があります。
 


 
目次

 


 

1. 電力契約情報で本人確認とは?いま何が起きているのか

 
元記事によると、クレジットカード大手や地域金融機関が、電力契約情報を使った本人確認に乗り出しています。2027年度までに30社が導入する見込みだそうです。
 
照合システムを提供しているのは、サイバー犯罪対策を手がけるカウリス。サービス名は「Grid Data KYC(グリッドデータKYC)」です。2025年10月に提供が始まり、まず東京きらぼしフィナンシャルグループのUI銀行が導入しました。
 
その後、実証実験に参加する金融機関が続いています。カウリスの発表では、飯田信用金庫が2026年3月9日、オリエントコーポレーションが2026年7月1日、川口信用金庫が2026年8月3日に、それぞれ実証実験を開始しています。元記事では、2026年度中に検討中も含めて10社程度、2027年度には計30社まで増やす計画とされています。
 
つまり、いまはまだ「一部の金融機関が試している段階」です。ただ、ここから2年で30社まで広がるとすれば、口座やカードを新しく作るときに自分の電気の契約情報が照合されている、という場面は、そう遠くない話になります。
 


 

2. 「Grid Data KYC」の仕組み|何を照合して、何がわかるのか

 
カウリスの公式サイトでは、Grid Data KYCを「一般送配電事業者が保有する約8,000万世帯の電力契約情報と、金融機関が持つ顧客情報を照合することで、顧客の申告住所における居住実態を確認できるサービス」と説明しています。
 
ここで出てくる「一般送配電事業者」は、電柱や電線といった送配電網を管理している会社です。東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、関西電力送配電など、全国に10社あります。電気の小売がどこの会社であっても、送配電網はこの10社のいずれかが担っています。だから、この10社の契約情報を合わせると、日本の世帯の大半をカバーできるわけです。
 
検針日や送配電事業者の役割については、ふだんあまり意識されないところかもしれません。電気が家に届くまでの役割分担を知っておくと、この話の理解が一気に進みます。
(情熱電力の過去記事:送配電事業者が持つ電力データの使い道については、こちらで詳しく解説しています)
 
 

 検知できるのは「名義の不一致」と「電力契約のない住所」

照合でわかることは、意外とシンプルです。カウリスの説明によれば、金融機関が持っている氏名や住所などの顧客情報を電力契約情報と突き合わせて、次のようなケースを検知します。
 
・顧客情報の名義と、その住所の電力契約の名義が一致しない
・申告された住所に電力契約が存在しない(≒空き家)
・すでにその住所から転出している
 
つまり「電気が使われていない住所から口座開設が申し込まれた」「住んでいるはずの人と電気の契約者が別人だった」といった不自然さを拾い上げる仕組みです。犯罪集団によるなりすましや、空き家を使った申し込みを見抜くのが狙いです。
 
空き家が悪用の舞台になりやすいという話は、それ自体が別の社会問題とつながっています。管理されていない家が全国で増えていることの副作用が、こんなところにも顔を出しているわけですね。
(情熱電力の過去記事:増え続ける空き家が抱えるもうひとつの問題はこちら)
 
 

 信用金庫や地方銀行から引き合いが増えている理由

元記事によると、カウリスへの引き合いは信用金庫や地方銀行から増えているそうです。理由は、はっきりしています。大手銀行ほど専門人材やシステム投資に資金を振り向けられない一方で、金融犯罪はますます巧妙になり、高度なマネロン対策を求められているからです。
 
そしてもうひとつ、コストの話があります。カード会社や金融機関は、本人確認のために定期的に郵便物を送るケースが多いのですが、これがなかなか報われない作業なのです。
 
元記事に、飯田信用金庫(長野県飯田市)での実験結果が出ていました。従来の郵送による個人顧客の本人確認は、返信がなかったり転居で郵便物が届かなかったりすることが多く、本人確認が完了した割合は31%にとどまっていたそうです。それが電力契約情報の活用後は53%に高まり、従来発送していたダイレクトメール(DM)の7割が不要になり、顧客管理コストも6割超削減できたとされています。
 
31%というのは、3通出して1通しか返ってこないということです。残りの7割はどこへ行ったのかわからない。しかもその中には、転居して郵便物が旧住所に届いてしまい、個人情報が漏れるリスクを抱えたものも含まれます。「本人確認のために送った郵便物が、個人情報漏洩の原因になる」というのは皮肉な話ですが、実際に起きていることです。
 


 

3. 本人の同意はいらないの?根拠になっている法律と制度

 
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
 
電気の契約情報という、かなり生活に近いデータが、本人の同意なしに金融機関へ渡る。これを「怖い」と感じるのは自然な反応だと思います。ただ、調べてみると、この仕組みは法的な整理を先に済ませたうえで動いていました。
 
 

 電力データの外部提供は、いつから可能になったのか

元記事には「23年の電気事業法の施行規則改正などに伴い」とありましたが、一次情報まで当たると、制度の土台はもう少し前からできていました。
 
資源エネルギー庁の説明によれば、出発点は2020年6月の電気事業法の改正です。この改正で電気事業法に第37条の4が設けられ、「認定電気使用者情報利用者等協会」という仕組みができました。電気事業者以外の企業が電力データを使いたい場合、この認定を受けた協会を通す、という枠組みです。そして経済産業省は、一般社団法人電力データ管理協会をこの協会として初めて認定しました。認定の申請は令和4年(2022年)6月3日付けで行われ、電力・ガス取引監視等委員会が同年6月17日に意見聴取を受けた旨を公表しています。
 
実際にデータが流れ始めたのは、そのあとです。経済産業省の2023年9月28日の発表によると、電気事業法第34条および第37条の3に基づく一般送配電事業者による電力データの提供に関して、同日、電力データ集約システムの運用が開始されました。まず東京電力パワーグリッドから始まり、エリアごとに段階的に拡大していく計画で、最後の沖縄電力は2024年11月から12月の予定とされていました。
 
同じ発表では、期待される用途として「災害時の事故対策や早期復旧等レジリエンス強化及び平時の高齢者等の見守りや環境対策等の社会課題の解決」が挙げられています。もともとは災害対応や高齢者の見守りを想定した制度だった、ということですね。マネロン対策への活用は、その枠組みのうえに後から乗ってきた使い道にあたります。
 
 

 グレーゾーン解消制度で整理された3つの論点

では、金融機関の本人確認という用途は、法律上どう整理されたのでしょうか。
 
カウリスの公式サイトによると、Grid Data KYCは「グレーゾーン解消制度」(2024年4月3日)を通じて、次の3つの論点を整理済みだとしています。グレーゾーン解消制度は、新しい事業が既存の規制に触れるかどうかを、事業者が事前に国へ確認できる制度です。
 

関係する法律 整理された内容
犯罪収益移転防止法(犯収法) 同法で規定された行為に該当する
個人情報保護法 「法令に基づく場合」に該当し、個人データの利用において本人同意の取得が不要
電気事業法 情報の目的外利用には該当しない

出典:カウリス公式サイト「電力契約情報を用いた本人確認サービス Grid Data KYC」
 
本人同意が不要とされる理由は、この2番目の整理にあります。カウリスは、利用時の本人同意については「利用規約・プライバシーポリシーで包括許諾」という扱いで、個人情報保護委員会から認定済みだと説明しています。
 
もうひとつ、比較として参考になる表がカウリスのサイトに載っていました。マイナンバーカードを使った公的個人認証(JPKI)との違いです。
 

比較項目 公的個人認証(JPKI) Grid Data KYC
利用時の本人同意 必須(明示的同意) 同意不要(利用規約・プライバシーポリシーで包括許諾)
普及率 カード交付率78% 99%超の世帯
提供元との連携 自治体+地方公共団体情報システム機構(J-LIS)とのAPI連携が必要 全国の一般送配電事業者10社と提携
更新・モニタリング性 利用者トリガーによる更新 電力の利用状況や住所変更など随時更新

出典:カウリス公式サイト。カード交付率78%はデジタル庁の2025年9月時点の数値としてカウリスが引用したもの
 
この表はカウリス自身による自社サービスの説明ですので、そのつもりで読んでいただくのが公平だと思います。ただ「普及率」の欄は、確かにその通りだなと感じました。マイナンバーカードを持っていない人にはJPKIは使えませんが、電気を使っていない家庭はほとんどありません。カバー率という点では、電力契約情報にはかなりの強みがあります。
 
なお、公的個人認証のほうも制度が動いています。警察庁の説明によると、令和8年(2026年)6月に犯罪収益移転防止法が改正され、令和9年(2027年)4月1日から、口座開設等で本人確認を受ける際にマイナンバーカード等のICチップ情報の読み取り等が必要になります。新しく口座を作るときの入口はマイナンバーカードで固め、作ったあとの継続的な顧客管理は電力契約情報で効率化する。両者は競合ではなく、役割の違う道具として並んでいくのかもしれません。
 


 

4. 電気を売る側から見た「契約情報はどこまで外に出るのか」

 
ここまで制度の話を整理してきましたが、電気を売る側の実感も書いておきたいと思います。
 
まず前提として、今回の記事に出てくるGrid Data KYCが使っているのは、一般送配電事業者が保有する契約情報です。弊社のような小売電気事業者が、お客さまの情報を自分の判断で金融機関に渡している、という話ではありません。データの出どころは、送配電網を持っている10社側です。
 
そのうえで、小売電気事業者にもお客さまの契約情報は当然あります。では、それが外に出ることはあるのか。あります。ただし、法令に基づく場合に限られます。
 
 

 実は、警察から照会を受けたことがあります

今回の記事とは直接の関係はありませんが、弊社にも、警察から捜査の一環として、ある特定の地点における電力供給や電力契約の有無について問い合わせを受けた事例があります。
 
時期も場所も、どんな事件だったのかも、ここには書けません。書かないのが当然だと思っています。ただ「そういうことがある」という事実だけは、電気を扱う会社として率直にお伝えしておきたいのです。
 
根拠になるのは刑事訴訟法第197条第2項です。条文にはこうあります。「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」(e-Gov法令検索より)。捜査機関が、会社や団体に必要な事項の報告を求められる、という規定です。個人情報保護法の面から見ても、こうした照会に応じる場合は「法令に基づく場合」にあたるとされており、本人の同意なしに情報を提供できる場合として整理されています。
 
つまり、電気の契約情報は「絶対に外に出ない」ものではありません。法令に根拠のある求めには応じることになります。逆にいえば、根拠のない求めには応じません。ここの線引きが、電気を預かる側の仕事の一部だと考えています。
 
なお、こうした照会が来たときにお客さまへ事前に連絡することは、捜査への影響があるためできません。ですから、この記事のような形で「制度としてこうなっている」とお伝えするのが、いまできる誠実な説明だと思っています。
 


 

5. 数字で見るマネロン対策|届出101万件とFATF第5次審査

 
そもそも、なぜ金融機関はここまで本人確認に力を入れるのでしょうか。数字を見ると、背景がわかります。
 
警察庁が公表した令和7年(2025年)の年次報告書概要版によると、疑わしい取引の届出件数は1,019,405件でした。前年の令和6年(2024年)は849,861件でしたから、1年で約17万件、およそ20%増えたことになります。元記事も、過去最多を更新したと伝えています。
 
100万件を超えるというのは、単純計算で1日あたり約2,800件です。この一つひとつを金融機関の担当者が判断して届け出ているわけですから、現場の負荷は相当なものだと想像します。
 
不正に開設・売買された口座は、特殊詐欺や不正送金の受け皿として悪用されるケースがあります。だから金融機関は、口座開設時だけでなく、そのあとも顧客を継続的に確認する体制整備を求められている、という流れです。
 
国際的な事情もあります。元記事によると、世界各国・地域のマネロン対策を調査する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」の2021年の審査で、日本は「重点フォローアップ国」となりました。元記事はこれを実質的な不合格と表現しています。次の第5次審査は2028年に迫っており、対策が急務とされています。
 
口座開設のときに求められる確認が年々細かくなっているのを、面倒に感じたことはありませんか。あの手続きの向こう側には、こういう数字と国際的な事情があります。
 


 

6. 便利さとプライバシーのバランスを、どう考えるか

 
最後に、この話をどう受け止めるかについて、私たちの考えを書いておきます。
 
電力契約情報の活用には、はっきりした便益があります。なりすましによる口座の不正利用が発覚すると、口座凍結や金融庁への届け出といった事後処理に多くの時間がかかります。入口で防げれば、その手間はまるごと消えます。郵便物が減れば、転居先に届かず個人情報が漏れるリスクも減ります。飯田信用金庫の実験でDMの7割が不要になったというのは、コスト削減の話であると同時に、漏洩リスクを7割減らしたという話でもあります。
 
一方で、気をつけて見ておきたい点もあります。今回の仕組みで照合されているのは「居住実態があるかどうか」という比較的粗い情報です。電気の使用量が30分ごとにどう動いたか、といった細かいデータではありません。ここが広がっていく方向に進むとしたら、そのときはまた別の議論が必要になるはずです。「公益性の高い用途に限る」という枠が、どこまで公益なのか。制度は運用のなかで少しずつ動いていくものですから、使う側も預ける側も、そのつもりで見ておくのがいいと思います。
 
そしてもうひとつ。この記事を書きながら痛感したのは、電気の契約情報がすでに社会インフラの一部として数えられている、ということです。約8,000万世帯という規模は、行政の統計に近い網羅性を持っています。私たちがふだん「電気の申し込み」としてお預かりしている情報は、それだけの重みを持ったデータなのだと、改めて認識を新たにしました。
 


 
まとめ
電力の契約情報を使った本人確認が、金融機関に広がりはじめています。カウリスの「Grid Data KYC」は、一般送配電事業者10社が持つ約8,000万世帯の電力契約情報と金融機関の顧客情報を照合し、名義の不一致や電力契約のない住所からの申し込みを検知する仕組みです。2025年10月にUI銀行が導入し、2027年度には30社まで広がる見込みとされています。
 
本人の同意が不要とされているのは、グレーゾーン解消制度を通じて犯収法・個人情報保護法・電気事業法の3つの論点が事前に整理されているためです。制度の土台は2020年6月の電気事業法改正で、電力データ集約システムの運用は2023年9月に始まりました。もともとは災害対応や高齢者の見守りを想定した枠組みでした。
 
背景にあるのは、疑わしい取引の届出が2025年に1,019,405件と過去最多を更新した現実と、2028年に迫るFATF第5次審査です。
 
そして電気を売る側の実感として、契約情報は「絶対に外に出ない」ものではありません。法令に根拠のある求めには応じます。だからこそ、根拠のない求めには応じない。その線引きを守ることが、お客さまの情報を預かる会社の仕事だと考えています。
 


 
情熱電力からのお知らせ
電気の契約というと料金の話が中心になりがちですが、その裏側では「誰が、どこで、どう電気を使っているか」という情報を私たちがお預かりしています。今回の記事でお伝えしたように、その情報の扱いには法令に基づいたルールがあります。
 
「自分の契約情報はどう扱われているの?」「解約したあとのデータはどうなるの?」といったご質問も、遠慮なくお寄せください。電気の切り替えや料金プランのご相談と同じように、情報の扱いについてもきちんとお答えします。
 
気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
 
TEL 0263-88-1183 https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・カウリス公式サイト:電力契約情報を用いた本人確認サービス Grid Data KYC
・経済産業省:電気事業法第34条及び第37条の3に基づく電力データの提供に関して
・資源エネルギー庁:電力データ活用
・警察庁(JAFIC):年次報告書、危険度調査書など
・警察庁:令和8年犯罪収益移転防止法の改正について
 

国産ウナギの3割が「出所不明」?密漁・闇流通と完全養殖のいま

 
ウナギのイラスト
 
日経ビジネスに「国産ウナギ3割が出所不明 山田水産、国内初の完全養殖で闇流通打破」という記事があったので調べてみました。
 
土用の丑の日にウナギを食べる。日本人にとってはすっかりおなじみの習慣ですよね。スーパーの店頭に並ぶかば焼きを見て、「今年はちょっと高いな」「でも年に一度くらいは」なんて思われた方も多いのではないでしょうか。
 
ところが、その一尾がどこから来たのかを追いかけていくと、なかなか複雑な世界が広がっています。国内で流通するウナギのほとんどは養殖ものですが、その元になる稚魚「シラスウナギ」は今も天然の採捕に頼っています。そして水産庁のデータを見ると、漁師さんが届け出た採捕量と、実際に養殖池に入れられた量が、どうにも合わない。この差が、密漁や不透明な取引の存在を物語っているとされているのです。
 
一方で、長年「不可能」と言われてきた完全養殖の商業化に成功した企業も現れました。今回は、ウナギをめぐる流通の課題と、その先に見えてきた新しい可能性について、一緒に見ていきたいと思います。
 


 
目次

 


 

1. 私たちが食べているウナギは、ほぼすべて「養殖」

 
まず前提の整理から。国内で流通しているウナギは、日本を含む東アジア地域に生息する「ニホンウナギ」という品種です。
 
このニホンウナギ、生まれ故郷は日本から約2000キロ離れたマリアナ海溝付近だとされています。そこで産卵・ふ化した幼生が海流に乗って東アジアを回遊し、日本近海にたどり着くころには全長5センチほどの稚魚「シラスウナギ」になっている。それが河口や河川で10年ほどかけて親ウナギに育ち、再び産卵のためにマリアナ海溝付近へ戻っていく——という壮大な旅をしています。
 
ここで驚きの数字をひとつ。水産庁によると、2025年に捕れた国産ウナギのうち、川などで捕れる「天然もの」はわずか約0.08%。つまり、私たちが口にしているウナギのほぼすべては、天然のシラスウナギを漁師さんが採捕し、それを買い取った養鰻(ようまん)業者が養殖池で育てた養殖ウナギ、ということになります。
 
「養殖なんだから安定供給できるのでは?」と思われるかもしれません。ところがそうはいきません。スタート地点となる稚魚は、あくまで天然頼み。ウナギの生態系にはいまだ解明されていない点が多く、卵から稚魚を経て親ウナギまで育てる「完全養殖」は長年、極めて困難とされてきたからです。
 


 

2. 「白いダイヤ」と呼ばれる稚魚と、合わない数字

 
天然に依存している以上、シラスウナギの供給には当然、大きな波があります。不漁の年には価格が跳ね上がり、業界では「白いダイヤ」とも呼ばれてきました。
 
その高騰ぶりは、ちょっと想像を超えています。国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅危惧種に指定した2014年には、1キロ当たりの取引価格が一時300万円に到達。2017年には427万円と、いずれも同時期の金価格を上回ったとされています。5センチほどの透明な稚魚が、金より高い。ここまでの利権が生まれれば、当然、そこに群がる動きも出てきます。
 
 

 採捕量と池入れ量、約3割のズレ

それを物語るのが、国への報告量と、実際に養殖池へ放たれた量とのズレです。
 
水産庁によると、近年で最も不漁だった2024年の漁期(2023年11月~2024年5月)における国内のシラスウナギ採捕量は約5トン。これに対して池入れ量は約7.1トンと報告されています。差し引き約2.1トン、全体の約3割にあたる量の出所が確認できていない、ということになります。
 

漁期 国内採捕量(報告ベース) 池入れ量 差(出所不明分)
2024年漁期(2023年11月~2024年5月) 約5トン 約7.1トン 約2.1トン(約3割)
2026年漁期(2025年11月~2026年5月)※豊漁 輸出入を差し引いた上で 約1.2トン

※出所:水産庁のデータをもとに作成
 
注目したいのは、豊漁とされた2026年の漁期(2025年11月~2026年5月)でさえ、輸出入を差し引いても1.2トンものズレが生じているという点です。これらは未報告の非正規ルートで取引されたものとされ、水産庁は密漁や不正取引によるものだと見ています。
 
東海地方のある警察幹部は「長年、ウナギの稚魚は反社会的勢力のシノギ(資金供給源)の一部とされており、特に不漁期ほど密漁者は増え摘発は増える」と話しているそうです。夏の食卓に上がる一尾の裏側に、こうした構造があるというのは、なんとも複雑な気持ちになりますね。
 
 

 なぜズレは無くならないのか

もちろん、行政も手をこまねいていたわけではありません。政府は2023年、シラスウナギを漁業法上の「特定水産動植物」に指定して罰則を強化。採捕についても知事許可漁業の対象としました。多くの県では、出荷先を県内に限定したり、買い取り価格を安価に設定したりといったルールを設けたうえで、漁師さんに許可を出しています。
 
それでもズレが生まれ続けているのはなぜか。保全生態学を専門とする中央大学法学部の海部健三教授は、こう指摘しています。
 
・県が指定する場所にしか売れず、安く買いたたかれる地域では、より高い価格で買ってくれる県外の業者へ横流しする強い動機が生まれる
・それが数字に表れているのではないか
 
つまり、規制そのものが「正規ルートで売ると損をする」構造を生んでしまっている面がある、ということですね。ルールをつくれば解決、という単純な話ではないところに、この問題の難しさがあります。
 


 

3. 2023年、そして2025年12月。ルールはこう変わった

 
そんな中、大きな一歩となったのが2025年12月の制度変更です。この月から、シラスウナギが「水産流通適正化法」(特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律)の対象に追加されました。
 

時期 できごと
2010年 水産研究・教育機構が、ニホンウナギの完全養殖に世界で初めて成功
2014年 IUCNがニホンウナギを絶滅危惧種に指定(稚魚価格が1キロ300万円に高騰)
2023年 シラスウナギを漁業法上の特定水産動植物に指定、罰則強化・知事許可漁業化
2025年12月 水産流通適正化法の対象にシラスウナギを追加、届け出・漁獲番号の伝達を義務化

この改正のポイントは、採取から池入れまでに関わるすべての漁業者・流通業者に、行政への届け出が義務づけられたことです。取引の際には、漁師さんが自身の届け出番号と、取引日時などで構成された「漁獲番号」を伝達し、その記録を3年間保存することが求められます。
 
狙いはシンプルで、養殖業者が番号のない不正なシラスウナギを買えない仕組みをつくること。つまり、密漁品の「売り先」を断つわけです。海部教授も「最近では池入れ報告量に占める国内採捕量の割合がかなり伸びてきており、少しずつ是正されていくのではないか」と期待を示しています。
 
食品のトレーサビリティ(追跡可能性)という言葉、最近よく耳にしますよね。ウナギの世界でも、ようやく「どこから来たのか」を辿れる仕組みが動き始めた、ということになります。
 


 

4. 国内初の「完全養殖ウナギ」商業化という一手

 
規制によって流通を浄化していく——これがひとつのアプローチだとすれば、まったく別の角度から業界に一石を投じているのが、ウナギ養殖・加工大手の山田水産(大分県佐伯市)です。
 
同社は、卵から人工的にふ化させたウナギを親とし、その卵から稚魚を経て親ウナギに育てる「完全養殖」の商業化に、国内で初めてこぎつけました。
 
完全養殖のすごさは、天然の稚魚を一切採取しなくてよい点にあります。不漁期でも安定的な価格で提供できるうえ、そもそも稚魚を買わないのですから、密漁品が入り込む余地もありません。冒頭で見た「出所不明の3割」問題を、川上から断ち切れる可能性を持っているわけです。
 
ニホンウナギの完全養殖自体は、2010年に水産庁所管の水産研究・教育機構(横浜市)が世界で初めて成功しています。ただ、デリケートな幼生を人工的に育てるのは非常に難しく、生存率の低さが長年の課題でした。山田水産は2022年に同機構から技術移転を受け、民間で大量生産するための検証に協力。専門部門を置いて採卵や人工授精、ふ化などのノウハウを吸収し、2024年以降は年間1万匹以上の安定生産に成功しているといいます。
 
 

 支えたのは研究室ではなく現場の力

では、なぜ同社にそれができたのでしょうか。山田信太郎社長の言葉が印象的です。「私も含め多くの社員は研究者ではないが、ウナギと向き合ってきた時間は研究者よりも長い」。
 
同社は1973年に鮮魚運搬業として設立され、水産加工事業を経て1997年に養鰻業へ参入した企業です。一般的な養殖では、早く成長させるためにエサを多給し、病気になれば薬品を投与する手法がとられますが、同社は成長ホルモンや抗生剤などを使わない「無薬養鰻」にこだわってきました。
 
山田社長いわく、「ウナギが病気になる原因は、ウイルスや細菌よりも食べ過ぎとストレスで、人間と同じ。病気にさせなければ薬はいらない」。食べ過ぎとストレス、というのは耳が痛い方もいらっしゃるかもしれませんね。
 
そのために、鰻師(うなぎし)と呼ばれる現場の職人たちが、ウナギの泳ぎ方、エサの食べ方、養殖池の匂いといったわずかなサインを読み取り、データとして記録し続けてきました。この蓄積されたデータとストレスコントロールの技術こそが、繊細な幼生の生存率を高める工程で存分に発揮された、というわけです。
 
最先端の技術課題を解いたのが、実は何十年も積み上げてきた現場の観察力だった。ビジネスのヒントとしても、なかなか示唆に富む話だと思います。
 


 

5. 立ちはだかるコストの壁と、「安さ」を追わない選択

 
さらに同社は、育てたウナギを自社加工場でかば焼きにする一貫生産体制を敷いています。稚魚の育成から最終製品までを手掛けているからこそ、完全養殖の研究成果を「かば焼き」という商品の形で世に出すことができました。
 
イオンは2026年5月から7月20日にかけて、山田水産の完全養殖ウナギのかば焼きを試験販売。価格は1尾(131グラム)4860円からに設定されました。
 
ただ、ここで正直な数字が出てきます。山田水産によると、現状の完全養殖ウナギ1尾にかかる生産コストは、なんと2万4000円。販売価格の5倍近くですから、当然、採算は合っていません。今回の試験販売は、購入者へのアンケートで味や価格に対する評価を調査し、今後の開発に生かすことが目的とされています。
 

項目 内容
試験販売期間 2026年5月~7月20日(イオン)
販売価格 1尾(131グラム)4860円から
現状の生産コスト 1尾あたり約2万4000円
生産実績 2024年以降、年間1万匹以上を安定生産

興味深いのは、山田社長が大量生産による「価格破壊」には懐疑的だという点です。「安さを追求することは、これまでつくり上げてきたウナギの価値を下げることにもなりかねない」——そう冷静に受け止めています。
 
絶滅危惧種であるニホンウナギの完全養殖という持続可能性を武器に、目指すのは「いつでも安心してウナギが食べられる社会を実現するために業界構造を変え、食文化を守ること」。安売り競争ではなく、価値を守りながら供給を安定させる。ここに、この挑戦の本質があるように思います。
 


 

6. 消費者としてできること

 
とはいえ、私たち消費者にできることはあるのでしょうか。正直、目の前のパックを見ただけで密漁品かどうかを見分けるのは不可能です。
 
それでも、次のような視点は持てるかもしれません。
 
・「安ければいい」だけで選ばない——極端な安さの裏側には、誰かが負担している何かがあるかもしれない
・産地や生産者の情報を開示している商品を選ぶ——トレーサビリティを重視する事業者を、購買という形で応援できる
・完全養殖のような新しい取り組みを知っておく——今は高価でも、消費者の関心が集まれば技術は前に進む
・「年に一度、いいものを味わう」という付き合い方も選択肢のひとつ
 
こう並べてみると、これはウナギに限った話ではありませんよね。安さの追求が行きすぎたとき、どこかにひずみが生まれる。そのひずみが、資源の枯渇だったり、不透明な流通だったりする。逆に、多少コストがかかっても持続可能な仕組みに切り替えていく努力が、長い目で見れば私たちの選択肢を守ってくれる。
 
密漁リスクや不透明な流通、安売り競争の波に翻弄されやすいウナギ業界において、山田水産は完全養殖への挑戦を通して新たな市場と価値を切り開こうとしています。日本の食文化を持続可能な未来へと導けるか。その道標となる可能性を秘めた取り組みだと言えそうです。
 


 
まとめ
今回は、ウナギをめぐる流通の課題と完全養殖の商業化について見てきました。あらためて要点を整理します。
 
国内で流通するウナギのほぼすべては養殖もので、その元になる稚魚シラスウナギは今も天然の採捕に依存しています。水産庁のデータによれば、2024年の漁期では採捕報告量約5トンに対し池入れ量が約7.1トン。約3割にあたる2.1トンの出所が確認できておらず、密漁や不正取引によるものと見られています。豊漁だった2026年漁期でも約1.2トンのズレが残りました。
 
これに対し、2023年の漁業法上の指定・罰則強化に続き、2025年12月には水産流通適正化法の対象にシラスウナギが追加され、届け出と漁獲番号の伝達が義務化されました。不正な稚魚の「売り先」を断つ仕組みが動き始めています。
 
そしてもうひとつの道が、山田水産による国内初の完全養殖ウナギの商業化です。1尾あたり2万4000円という生産コストの壁は残るものの、天然稚魚に頼らない供給という選択肢が現実のものになりつつあります。
 
安さだけを追いかけると、どこかにひずみが生まれる。ウナギの話は、私たちの暮らしを支えるさまざまな仕組みにも通じる、大事な視点を教えてくれているような気がします。
 


 
情熱電力からのお知らせ
「安ければいい」だけでは測れない価値がある——これは、私たち情熱電力が日々の仕事の中でも感じていることです。
 
長野県松本市を拠点に電力小売事業を営む情熱電力は、価格の数字だけでなく、お客様が納得して選べるように「わかりやすくご説明すること」を大切にしています。ご契約内容の見直しや電気の使い方について、「これってどういう意味?」という素朴な疑問こそ、お気軽にお寄せください。専門用語を並べず、できるだけかみ砕いてお答えします。
 
気になることがございましたら、どうぞご相談ください。
・TEL:0263-88-1183
・お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
情熱電力のこのお知らせページでは、情熱電力が注目した様々な事柄をピックアップして掲載させていただいております。随時、このページを更新して参りますので、ご興味を持たれた方はまたこのサイトにお越しいただければ幸いです。
 
 
この記事に関連するページリンク
・水産庁:ウナギに関する情報
・水産庁:水産流通適正化制度について
・水産研究・教育機構(FRA):ウナギ人工種苗生産技術に関する情報
・日経ビジネス:国産ウナギ3割が出所不明 山田水産、国内初の完全養殖で闇流通打破
・山田水産株式会社(プレスリリース):完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売のお知らせ
・WWFジャパン:ウナギに関する情報
 

燃えにくいモバイルバッテリーが登場|準固体電池とは?事故2140件と正しい捨て方・回収の現実

 
準固体電池を使ったモバイルバッテリーと、安全性とリサイクルを示すアイコン
 
日経ビジネス電子版に「NTTドコモが安全性強化のモバイルバッテリー 求められるさらなる取り組み」という記事があったので調べてみました。
 
モバイルバッテリーの発火事故が増えている、という話はもう何度も耳にしていると思います。実際、当ブログでも過去に何度か取り上げてきました。ただ今回の記事が面白かったのは、話が「気をつけて使いましょう」で終わっていないところです。
 
ひとつは、電池そのものを燃えにくくするという、メーカー側からのアプローチ。ドコモは2026年7月10日、準固体リチウムイオン電池を採用した「準固体モバイルバッテリー01M」を発売しました。もうひとつは、使い終わったバッテリーをどう回収するかという、出口の話です。
 
わたしたちは電気を扱う会社なので、電池の「入口」の話にはつい目が向きます。でも実際に事故が起きているのは、使っている最中と、捨てるときなんですよね。今回は、その両方を整理してみます。
 


 
目次

 


 

1. ドコモが出した「燃えにくい」モバイルバッテリー

 
NTTドコモが2026年7月10日に発売したのが「準固体モバイルバッテリー01M」です。容量は1万mAhで、スマートフォン向けとしてはごく標準的。特別に大きいわけでも、小さいわけでもありません。
 
では何が新しいのかというと、中に入っている電池です。ドコモとして初めて、準固体リチウムイオン電池を採用しました。パッケージにも「燃えにくい次世代バッテリー」と大きく書かれています。
 
容量でも価格でもなく「燃えにくさ」を製品の看板に持ってくる。これはなかなか珍しいことだと思いませんか。裏を返せば、それだけ発火事故が消費者の不安になっている、ということでもあります。
 


 

2. 準固体電池とは?液体・全固体とのちがい

 

 電解質が「流れない」だけでリスクの出方が変わる

リチウムイオン電池の中には、イオンが行き来するための「電解質」が入っています。いま普及している一般的なリチウムイオン電池では、これが液体です。
 
液体だと、外から強い衝撃を受けたり、内部で異常が起きたりしたときに、漏れる・発熱するといったかたちで一気に暴走しやすい。膨らんだモバイルバッテリーの写真をニュースで見たことがあると思いますが、あれは中で起きている変化が外に出てきたサインです。
 
準固体電池は、この電解質をゲル状・半固体にしたものです。日経クロステックの記事では、一般的な液体系リチウムイオン電池と比べて「液漏れや熱暴走のリスク低減が期待される」と説明されています。あくまで「リスクが下がることが期待される」であって、絶対に燃えないという意味ではありません。ここは押さえておきたいところです。
 
 

 全固体電池とは何が違うのか

(情熱電力の過去記事:全固体電池のしくみと課題については、こちらで詳しく解説しています)
 
「固体」と聞いて、全固体電池を思い浮かべた方もいるかもしれません。ざっくり言えば、電解質をどこまで固めたかの違いです。
 

電池のタイプ 電解質の状態 位置づけ
液体系リチウムイオン電池 液体 いま市販品の主流。実績は豊富だが、破損や高温で液漏れ・熱暴走が起きうる
準固体リチウムイオン電池 ゲル状・半固体 液漏れ・熱暴走のリスク低減が期待される。市販品への採用が始まった段階
全固体電池 固体 安全性と容量の両立が期待されるが、量産技術とコストが課題。本格普及はこれから

※この分類は一般的な整理です。「準固体」に統一された規格や定義があるわけではなく、性能は製品ごとに異なります。準固体の特徴についての記述は、日経クロステック(2026年8月24日)によります。
 


 

3. 5年で2140件。事故はなぜ夏に増えるのか

 
ここで、事故の実態を数字で見ておきます。
 
製品評価技術基盤機構(NITE/ナイト)が2026年7月15日に公表した注意喚起によると、2021年から2025年までの5年間にNITEへ通知された「リチウムイオン電池搭載製品」の事故は2140件。このうち最も多かったのがモバイルバッテリーでした。
 
そしてもうひとつ、覚えておいてほしい傾向があります。NITEは、事故件数が春から夏にかけて気温の上昇とともに増え、8月にピークを迎えると指摘しています。「夏バテ(夏のバッテリー)にご注意を」というのが、この注意喚起のタイトルです。うまいこと言いますよね。
 
理由はシンプルで、リチウムイオン電池は熱に弱いからです。真夏の車内、直射日光の当たる窓際、布団やクッションの上での充電。どれも熱がこもります。心当たりのある置き場所、ありませんか。
(情熱電力の過去記事:火災の件数や具体的な発生状況は、こちらの記事で詳しくまとめています)
 


 

4. ドコモが回収を始めた。でも「自社製品だけ」なのはなぜ?

 
ここからが、今回いちばん考えさせられた部分です。
 
ドコモは1998年から携帯電話のリサイクルに取り組んでいて、2024年には年間約320万台を回収しています。ところが、モバイルバッテリーはこれまで回収の対象ではありませんでした。今回それを対象に加えたのは、使用中の発火事故に加えて、廃棄物をリサイクルする中間処理施設での爆発事故が増えているからだといいます。
 
捨てられたバッテリーが、ごみ収集車や処理施設のなかで潰されて発火する。使う人の手を離れたあとにも、事故は起きているわけです。
 
 

 広域認定制度という枠組み

ただし、ドコモショップで回収してもらえるのは自社製品に限られます。ここには制度上の理由があります。
 
ドコモが活用しているのは、環境省が所管する「広域認定制度」です。これは、認定を受けたメーカーが自社製品を全国規模で回収・リサイクルできるようにする制度で、裏を返せば、対象は基本的に自社製品ということになります。他社のバッテリーまでは引き受けられない、という構図です。
 
日経クロステックの記事は、ここからさらに踏み込んでいます。ドコモショップが、小型充電式電池のリサイクルに取り組む業界団体・JBRCの協力店になれば、他社製のモバイルバッテリーも回収できるようになる。全国に店舗網を持つドコモだからこそ、そこまでやってほしい——という提案です。ただ、現時点でそうした考えはない、というのが取材に対するドコモの回答でした。
 
そして環境省は、モバイルバッテリーを処分する最終的な責任は自治体が負う、と明言しています。ところが実際の処分方法は自治体によってかなり違い、処理を請け負う施設が近くにあるとも限りません。長野県内でも、お住まいの市町村によってルールは変わります。
 
 

 KDDIは他社製も回収(期間限定)

一方で、競合のKDDIは2026年8月1日から10月31日までの期間限定で、東京都内の4店舗においてメーカーを問わずモバイルバッテリーを無料回収する取り組みを始めています。期間も店舗数も限られてはいますが、「メーカーを問わない」という一点で、利用者にとっての使いやすさはまったく違います。
 
燃えにくい電池をつくることと、使い終わった電池を安全に引き取ること。この2つは両輪なのだと思います。
 


 

5. 使い終わったモバイルバッテリー、どこへ持っていく?

 
では、いま手元にある古いモバイルバッテリーはどうすればいいのか。持って行き先を整理しました。

持って行き先 出せるもの 調べ方
キャリアショップ ドコモショップは自社製モバイルバッテリーの回収を開始 店頭または各社の公式サイトで対象を確認
JBRCの協力店・協力自治体 リサイクルマークのついた小型充電式電池が中心(製品により対象外あり) JBRCサイトの「協力店検索」
家電量販店の回収ボックス 店舗ごとに対象が異なる 回収ボックスの表示を確認
お住まいの市町村 最終的な処分の責任は自治体。ルールは自治体ごとに大きく違う 自治体サイトで「リチウムイオン電池」を検索

やってはいけないのは、燃えるごみ・燃えないごみにそのまま出してしまうことです。収集車の中で潰れて発火すれば、火災になります。膨らんでいる・熱を持つといった異常があるものは、持ち運びの前に受け入れ先へ相談してください。
 


 

6. 覚えておきたい「3つのC」

 
先ほどのNITEの注意喚起では、事故を防ぐポイントが「3つのC」としてまとめられています。これがよくできているので紹介します。
 
・賢く選ぶ(Cool Choice)……販売事業者の連絡先や製品情報、リコール情報を確認する。表示マークが適切かを見る
・丁寧に使う(Careful use)……高温の場所で使わない・置かない。強い衝撃や圧力を加えない。異常があれば使用をやめる
・正しく捨てる/資源循環(Correct disposal with better recycling)……捨てるときにリチウムイオン電池が使われていないかを確認し、メーカー回収や自治体の回収方法を調べる
 
3つ目が入っているところが大事だと思うんです。安全な電池を選ぶことと、丁寧に使うことは、多くの人がすでに意識している。でも「正しく捨てる」までを事故対策として捉えている人は、まだそう多くないのではないでしょうか。
 


 
まとめ
モバイルバッテリーの安全性は、いま2つの方向から改善が進んでいます。ひとつは電池そのものを燃えにくくすること。ドコモが発売した準固体モバイルバッテリー01Mは、その第一歩といえる製品です。ただし「燃えにくい」であって「燃えない」ではないことは、忘れないでおきたいところです。
 
そしてもうひとつが、使い終わったあとの回収です。ドコモが自社製品の回収を始めたのは前進ですが、対象は自社製に限られます。KDDIのように他社製まで引き取る動きもありますが、期間も場所も限定的。結局のところ、いま古いモバイルバッテリーを持っている人は、自分で受け入れ先を探すしかないのが実情です。
 
NITEによれば、リチウムイオン電池搭載製品の事故は5年間で2140件、そのピークは8月。気温が下がってくるこれからの時期は、夏のあいだ車の中や窓際に置きっぱなしだったバッテリーを点検し、使わないものを処分するのにちょうどいいタイミングです。引き出しの奥に、何年も前のモバイルバッテリーが眠っていませんか。
 


 
情熱電力からのお知らせ
電気は、つくるところから使うところまでがひとつながりです。わたしたち情熱電力は電力の小売を担っていますが、こうした身近な電気の安全や、ご家庭・事業所での電気の使い方についてのご相談もお受けしています。
 
「うちの電気の契約、いまのままでいいのかな」「事業所の電気代をもう少し見直したい」といったことでも構いません。難しい話は抜きで、わかりやすくご説明します。気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
 
TEL 0263-88-1183
お問い合わせ https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・一般社団法人JBRC:協力店・協力自治体検索(検索システム)
 ┗ 小型充電式電池を持ち込める協力店・協力自治体を、お住まいの地域から探せます
・環境省:環境再生・資源循環 広域認定制度関連
 ┗ メーカーが自社製品を全国規模で回収・リサイクルする制度の趣旨と、認定事業者の一覧が確認できます
・環境省:リチウムイオン電池特設サイト
・日経ビジネス:NTTドコモが安全性強化のモバイルバッテリー