
日経ビジネスに「MUFG、インド市場で年成長率25% 地場企業に『10年で10兆円投資』の号砲」という記事があったので調べてみました。
正直なところ、最初は「銀行の海外戦略の話か」と思って読み始めたのですが、途中で手が止まりました。記事の後半に、半導体、データセンター、再生可能エネルギーといった言葉が並んでいたからです。つまりこれは、金融の話であると同時に、エネルギーやインフラ整備の話でもあります。
MUFGのインド事業は、過去3年間で年平均25%成長。ローン残高も純利益もROEも2倍以上になったといいます。インド自体の経済成長率が平均7%台であることを考えると、かなりの伸びです。しかもその中身は、日本企業に付いていく従来型の融資ではなく、インドの地場企業を相手にしたビジネスが中心。
なぜ日本のメガバンクがインドで存在感を強めているのか。そしてそれは、日本で働くわたしたちのビジネスや、電力コストの話とどうつながっているのか。少し遠回りに見えるかもしれませんが、順を追って整理してみます。
目次
- 1. MUFGのインド事業が年25%で伸びている理由
- 2. メガバンク3行、インド戦略の違いを整理する
- 3. インドの成長を支えるのは結局「電力」である
- 4. 「10年で10兆円」が日本企業にもたらすもの
- 5. ビジネスマンが押さえておきたい3つの視点
1. MUFGのインド事業が年25%で伸びている理由
まず数字を押さえておきましょう。日経ビジネスの記事によると、MUFGのインド事業は過去3年間で年平均成長率(CAGR)25%。ローン残高、純利益、自己資本利益率(ROE)はいずれも2倍以上に拡大したとされています。
インドの経済成長率がここ数年、平均7%台で推移していることを踏まえると、市場そのものの成長を大きく上回るスピードです。市場が伸びているから伸びた、という話ではないです。
ちなみにMUFGとインドの縁は意外と古く、前身の横浜正金銀行が1894年にボンベイ(現ムンバイ)へ進出したのが始まりだそうです。130年以上前の話です。ただし、つい10年ほど前までは現地に進出した日本企業向けの融資が業務の中心でした。地場企業との取引を本格的に開拓し始めたのは2010年代に入ってから。歴史は長いけれど、今の稼ぎ方は比較的新しい、というのが実態のようです。
鍵を握る「ギフトシティー」という金融特区
急成長の最大の要因として記事が挙げているのが、2022年に新設された「ギフト支店」の存在です。
ギフトシティー(国際金融テックシティー)は、インド西部グジャラート州にあるインド初の金融経済特区。モディ首相が州首相時代に構想し、2015年に開業しました。ここが特殊なのは、ルピー建て以外での貸し出しが原則禁じられているインドにおいて、唯一、国内企業向けの外貨建て融資が認められている点です。加えて源泉税や法人税の免除といった税制優遇もあります。
三菱UFJ銀行は、ここに邦銀として初めて支店を開設しました。結果として、インド企業の米ドルやユーロへの資金需要をいち早く取り込み、ギフト支店の資産残高は4年間でゼロから約150億ドル(約2兆4300億円)まで拡大。現在ギフトシティーに拠点を構える金融機関のなかで最大規模になっているとのことです。
ゼロから4年で2兆円超。制度の隙間というと言い方が悪いですが、「他社がまだ動いていない場所に先に旗を立てる」ことの威力がよくわかる話だと思いませんか。
モルガン・スタンレーとの連携という武器
もうひとつの要因が、2008年から資本業務提携している米モルガン・スタンレーとのシナジーです。
ギフト支店の開設に前後してインドでも連携を強化し、M&Aのアドバイザーと資金の出し手の両方から企業を支援できる体制を整えました。これがタタ・グループやリライアンス・グループといった現地の大手財閥にも刺さったといいます。
象徴的なのが2025年、タタ自動車がイタリアの商用車大手イベコ・グループを買収した案件です。買収資金総額38億ユーロ(約7000億円)を、モルガン・スタンレーと共同で引き受けました。
さらに追い風となったのが規制環境です。2026年3月末まで、インド準備銀行(RBI=中央銀行)の規制により、現地の銀行は原則としてM&Aの買収資金を直接融資できませんでした。つまり、大型案件の資金ニーズが構造的に外資系銀行へ流れる仕組みがあったわけです。
三菱UFJ銀行のインド・スリランカ総支配人である妹尾琢也執行役員は、記事のなかで「規模が大きな案件で『まずどこの銀行に相談するか』と検討する段階で、我々は相当いい位置につけている」と語っています。同時に、インド企業と付き合う特別な仕組みやテクニックは存在せず、「地道な人間関係や信頼の積み重ね、対応の迅速さといった当たり前のことが重要」とも述べています。
制度を読み、先に動き、あとは地道に信頼を積む。書いてしまえばシンプルですが、これができる会社は多くありません。
2. メガバンク3行、インド戦略の違いを整理する
インドに力を注いでいるのはMUFGだけではありません。日経ビジネスの記事で触れられている3メガバンクの動きを、整理してみます。
| グループ | 主な打ち手 | 狙い |
|---|---|---|
| 三菱UFJ(MUFG) | ギフトシティーに邦銀初の支店(2022年)/インドステイト銀行と戦略的パートナーシップ締結(2026年3月) | 地場大手企業向けの外貨建て融資・プロジェクトファイナンス |
| 三井住友(SMFG) | 民間商業銀行大手イエス銀行に約2900億円を出資(2025年9月以降) | 富裕層・中堅中小法人までカバー領域を拡大 |
| みずほ(みずほFG) | 現地投資銀行アベンダス・キャピタルを約800億円で買収(2026年7月) | M&A助言・クロスボーダー案件の支援 |
3社とも狙う場所が微妙に違うのが面白いところです。MUFGは大企業向けの大型融資、SMFGは中堅・富裕層まで含めた面の広さ、みずほはM&Aの助言機能。同じ「インド強化」でも中身は別物なんですね。
なかでも注目したいのが、MUFGとインドステイト銀行(SBI)の提携です。SBIは総資産76兆ルピー(約130兆円)、顧客数5億人超というインド最大手の商業銀行。両社はもともと10年来の取引関係があり、MUFG側から提携を打診したとされています。
そして今後の連携分野として挙がっているのが、M&Aに加えて「半導体、データセンターなど国の戦略産業、さらには不動産や航空機」。ここで、話が一気にエネルギーの領域に入ってきます。
3. インドの成長を支えるのは結局「電力」である
半導体工場もデータセンターも、大量の電力を安定的に消費する設備です。金融機関がこれらの分野で連携するということは、裏を返せば、インドで巨大な電力インフラ投資が動いているということでもあります。
記事のなかでも、ギフト支店が扱ってきた案件として「再生可能エネルギーに関するプロジェクトファイナンス」が挙げられていました。銀行のインド戦略と電力インフラは、実はかなり近いところにあるわけです。
再エネ導入量はすでに世界有数の規模
インドの電源事情を少し見ておきましょう。ニッセイ基礎研究所のレポート(2024年3月29日公表)によると、インドの再生可能エネルギー発電容量は2024年2月時点で183GW、国全体の発電容量に占める割合は42%。過去10年間で約2.5倍に増加しました。
そのうえで、インドは2030年までに非化石燃料の電源容量を500GWまで拡大するという国際公約を掲げています。2023年度からの5年間で毎年50GWの再エネを増設する計画も進んでいるとされています。
日本の全発電設備容量が約2.5億kW(250GW)規模であることを思えば、「再エネだけで500GWに迫る国」というスケール感が伝わるでしょうか。当然ながら、そこには送電網、蓄電池、系統安定化といった膨大な投資が必要になります。プロジェクトファイナンスの出番が生まれるのは、まさにこの領域です。
データセンターと半導体が電力需要を押し上げる
一方で、需要側も急拡大しています。生成AIの普及によってデータセンターの電力消費が世界的に増えていることは、もはや説明が要らないでしょう。インドは人口規模とデジタル化の速度から、この分野の有力な投資先とみられています。
MUFGとインドステイト銀行が連携分野に「半導体、データセンター」を明示的に挙げたのは、そこに大型の資金需要が生まれると読んでいるからにほかなりません。
つまり、いま世界の金融機関がインドで奪い合っているものの正体は、かなりの部分が「エネルギーと、それを消費するインフラ」なんですね。電力の話は、ニュースの見出しの裏側にたいてい隠れています。
4. 「10年で10兆円」が日本企業にもたらすもの
ここで政府間の動きも確認しておきます。
ジェトロ(JETRO)によると、2025年8月に来日したモディ首相と日本の首相との首脳会談で、今後10年間の対インド民間投資目標を10兆円とすることが新たに設定されました。これは2022年に掲げた「5年で5兆円」の目標を3年で前倒し達成したことを受けたものです。あわせて「日印デジタル・パートナーシップ2.0」や「日印AI協力イニシアティブ」、二国間クレジット制度(JCM)の構築などでも合意しています。
そして日経ビジネスの記事によれば、2026年7月にはニューデリーで「日印経済フォーラム」が開催され、約150社の日本企業が参加。両国企業間で129件の協力覚書が交わされ、日本側の事業総額は2兆円に上ったといいます。
10年で10兆円という数字は、単なる政治的なスローガンではなく、すでに具体的な案件として動き始めている、ということです。
日本企業がインドに進出すれば、当然そこには現地での資金調達、為替、M&A、そして工場やデータセンターの電力調達といった実務が発生します。メガバンクにとっての商機は、そのままサプライヤーや関連企業にとっての商機でもあります。自社は関係ない、と思っていた業種にも、二次・三次で波及していくのがこの手の大型投資の特徴です。
5. ビジネスマンが押さえておきたい3つの視点
ここまでの内容を、日々の仕事に引きつけて3点にまとめます。
・制度が変わる場所に、機会がある
MUFGの成功要因の中核はギフトシティーという制度でした。外貨建て融資が認められる特区、税制優遇、そして「現地銀行はM&A融資ができない」という規制。制度の形を読み切って先に動いた企業が果実を得ています。これは国内でも同じで、電力の分野でも制度改正のたびに新しいプレーヤーと新しい選択肢が生まれてきました。
・成長市場の裏側には必ずエネルギーコストの問題がある
半導体もデータセンターもEVも、突き詰めれば「電気をどう安く安定的に確保するか」の勝負になります。インドが再エネに巨額を投じているのも、成長の制約要因が電力だと理解しているからでしょう。この構図は日本の製造業やオフィスにもそのまま当てはまります。
・最後に効くのは地道な関係構築である
記事のなかで妹尾氏が語っていた「地道な人間関係や信頼の積み重ね、対応の迅速さといった当たり前のこと」という一節が、個人的にはいちばん印象に残りました。何兆円という案件の世界でも、決め手になるのは結局そこなんですね。長野県で電力事業をしているわたしたちにとっても、まったく他人事ではない言葉です。
6. まとめ
MUFGのインド事業が年平均25%で成長している背景には、ギフトシティーという金融特区への先行進出と、モルガン・スタンレーとの連携、そして規制環境の後押しがありました。日本企業に付いていく従来型の海外融資ではなく、タタやリライアンスといった地場の大手企業を直接の顧客にできたことが、成長スピードの差を生んでいます。
三井住友はイエス銀行への出資、みずほはアベンダス・キャピタルの買収と、メガバンク3行がそれぞれ異なるアプローチでインド市場に挑んでいるのも興味深いところです。
そして忘れてはならないのが、その先にある電力インフラの存在です。半導体、データセンター、再生可能エネルギー。金融機関が競って資金を投じている先には、必ず大きな電力需要とその調達の課題があります。インドが2030年に非化石電源500GWを目指すのも、成長の土台が電気だと理解しているからでしょう。
日印政府が掲げる「10年で10兆円」という目標は、すでに具体的な案件として動き出しています。海外の大きなニュースに見えても、突き詰めれば「エネルギーをどう確保し、コストをどう抑えるか」という、わたしたちの日常の課題と地続きの話なのだと思います。
情熱電力からのお知らせ
インドの話をしてきましたが、電気をどう調達するかという課題は、規模の大小にかかわらず共通です。
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