エコキュート・家庭用蓄電池の「DR対応」とは?1,000万台あるのに動かせない理由と買い替えの見方

 
住宅の給湯設備と家庭用蓄電池が送電線へ光の線でつながるディマンド・リスポンスのイメージ
 
家庭にあるエコキュートや蓄電池は、全国でおよそ1,000万台。ところが、そのうち電力システムの側から遠隔で動かせるものは限られていて、ディマンド・リスポンス(DR)として使える量は合計で約300万kW程度にとどまる——資源エネルギー庁の「分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ」第4回(2026年10月)で、こんな現状が報告されました。
 
ITmedia スマートジャパンの「蓄電池やDR運用の現状分析」という記事で知り、会議で示された中身まで当たって調べてみました。
 
2026年4月からは、家庭のような低圧の機器でも電力市場に応札できる制度が始まっています。制度の扉は開いた。けれど、機器の側がまだ追いついていない。いまはそういう段階です。これから蓄電池やエコキュートを買い替える方にとっては、ここが地味に効いてきます。
 


 
目次

 


 

1. ディマンド・リスポンスとは? 家庭の機器1,000万台の話

 
まず言葉から。ディマンド・リスポンス(DR)は、そのまま訳すと「需要(ディマンド)の応答(リスポンス)」です。発電所を増やして需要に合わせるのではなく、電気を使う側が使い方をずらして、発電の都合に合わせる。そういう考え方です。
 
家庭でいうと、たとえばこんな場面になります。
 
・夕方、みんなが一斉に電気を使って電力がひっ迫しそうなとき、エコキュートの沸き上げを少し止める(下げDR)
・昼間、太陽光でつくった電気が余りそうなとき、沸き上げや蓄電池の充電を前倒しする(上げDR)
 
どちらも、やっていることは「お湯を沸かす時間をずらす」だけです。それでも、全国で何百万台という単位で足し合わせると、発電所1基分、2基分の意味を持ちます。だから国はこれを電力システムの一部として数えようとしています。
 
私たち新電力にとっても他人事ではありません。電気を仕入れる値段は時間帯によって大きく変わるので、使う時間がずれるだけで調達のコストが変わり、それは最終的に電気料金に返ってきます。
 
さて、ここからが本題です。ワーキンググループで報告されたのは、家庭などの低圧リソースは1件あたりのDR量こそ小さいものの、約1,000万台という規模があり、今後も増えていく、という話でした。
 
ところが同じ資料で、こうも指摘されています。クラウドにつながっているなどして遠隔から操作できるリソースは限定的で、DRとして動かせる量の合計は約300万kW程度にとどまる、と。
 
台数はある。でも、動かせない。この落差が、いまの家庭用DRの現在位置です。
 


 

2. 2026年4月に制度は開いた。それでも、すぐには参入できない

 
制度の側は、実はもう動いています。2026年4月から、需給調整市場で低圧リソースと「機器個別計測」による応札ができるようになりました。
 
 

 機器個別計測ってなに?

これまでは、家一軒まるごとの電気の使用量を見て「DRをやったかどうか」を判定していました。これだと、エアコンもテレビも冷蔵庫も全部混ざるので、エコキュートが何kW分ずらしたのかを取り出しにくい。そこで、機器ごとに計測して、その機器の動きだけを評価しようというのが機器個別計測です。
 
家庭の機器を市場に出すには、こちらのほうが筋がよい。ただ、ここに条件が付きました。
 
機器個別計測をするには、第二世代スマートメーターの「IoTルート」を使った無線端末でデータを集めることが原則として必要になります。そして、その無線端末がまだ認証や量産の途中で、現時点では実際の参入は難しい——ワーキンググループでは、そう整理されています。
 
制度は開いた。計測の方法も決まった。でも、計測するための箱がまだ世の中に出回っていない。いま止まっているのは、この一点です。
 
(情熱電力の過去記事:スマートメーター経由で家電をまとめて制御する、送配電事業者側の動きはこちら)
 
逆にいえば、ここが解ければ一気に動く可能性もある、ということでもあります。
 


 

3. 買い替えのときに見ておきたい「DR対応かどうか」

 
ワーキンググループが、家庭用リソースを増やすために重要だと挙げたのは2つでした。クラウド接続率を上げること。そして、DRに対応した機器(いわゆる「DR ready」機器)を広めること。
 
ここで気になるのが、いま家にある機器や、これから買う機器はどうなのか、という話ですよね。
 
給湯器も蓄電池も、一度入れたら10年、15年と使い続けるものです。つまり次に選び直す機会は、かなり先になります。2026年のいま買う1台が、2030年代の電力システムにつながるかどうかを決めてしまう、ということでもあります。
 
(情熱電力の過去記事:蓄電池が「コスト」から「投資」へ変わりつつある話はこちら)
 
製品ごとの対応状況はメーカーの公式情報に当たっていただくほかありませんが、カタログや見積もりを見るときに、次のような視点を持っておくと判断しやすくなります。
 
・インターネットにつながる機種か(Wi-Fiや専用のゲートウェイが必要かどうか)
・スマートフォンのアプリから遠隔で操作できるか。できるなら、クラウドにつながっている可能性が高い
・メーカーがDRやVPP(バーチャルパワープラント)の実証に参加しているか
・アプリやクラウドサービスの利用に、別途費用や契約が要るのか
 
「いますぐDRで稼げますよ」という話ではありません。そこは正直に申し上げます。ただ、同じ価格帯で迷ったときに、つながるほうを選んでおく。それくらいの温度感で十分だと思います。
 


 

4. 工場では、もう2割が動いている

 
家庭のほうは「これから」ですが、産業用はもう少し先を走っています。
 
2022年の省エネ法改正で、法律の目的に「電気の需要の最適化」が加わりました。これによって、一定規模以上の特定事業者には、DRを何日実施したかなどを定期報告する義務があります。やったかどうかが、国に数字で残るわけです。
 
2025年度の報告(2024年度の実績)では、次のような結果でした。

項目 2024年度の実績
報告対象の工場・事業場 約14,700件
うちDRを実施した事業場 約3,200件(約22%)
実施した事業者の平均DR実施日数 37.7日
DR実施量に占める下げDRの割合 約3分の2

出典:資源エネルギー庁「分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ」第4回資料
 
22%、という数字をどう見るかですよね。「まだ2割か」とも読めますし、「もう2割も」とも読めます。ただ、実施している事業者は年間37.7日、つまりおよそ10日に1日のペースでやっています。やるところは、わりとしっかりやっている。
 
もうひとつ、おもしろい数字がありました。アグリゲーターとDR契約を結んでいる指定工場などは全体の4割強にとどまるのに、その事業者が全業種のDR実施量(kWh)の9割強を占めていた、というものです。
 
アグリゲーターというのは、たくさんの需要家をまとめて電力市場につなぐ事業者のことです。ばらばらの機器を束ねて、ひとつの大きな調整力として扱う役割を担います。届出済みの特定卸供給事業者は145社、合計の供給能力は約6.1GWに達しているとのこと。
 
つまり、DRは「自分でがんばる」よりも「束ねてもらう」ほうが量が出る、という構造になっています。家庭の機器が市場につながるときも、たぶん同じ形になります。一軒ずつが市場と直接やりとりするのではなく、アグリゲーターがまとめて扱う。だからこそ、機器がクラウドにつながっているかどうかが入口になるわけです。
 


 

5. 「数は家庭、量は大口」の現在地

 
いまどのくらい家庭が市場に出ているのかも、数字で出ていました。
 
容量市場では、DRのリソース登録が特別高圧・高圧・低圧を合わせて約9.3万件あります。2024年度の実効性テスト(2026年度の供給力を対象としたもの)でのDR発動量は、合計で約280万kW。
 
ただし内訳を見ると、特別高圧のDRはリソース数では全体の0.8%しかないのに、発動量では約57%を占めていました。件数は小口が多く、量は大口が稼いでいる。そういう構図です。
 
需給調整市場のほうも見てみましょう。2026年4月から8月の実績で、VPP・DRが占める入札量の割合は、三次調整力②でおよそ1.0%、一次調整力でおよそ1.5%でした。割合としてはまだ小さいものの、少しずつ増えています。
 
この話は、寒い地域ほど効いてきます。冬の朝晩は、暖房と給湯が同じ時間帯に重なるからです。長野県のような土地は、その山をずらせる余地がそれだけ大きいということになります。家庭の機器が市場につながったとき、いちばん効き目が出るのはこういう場所ではないかと思っています。
 
では、いま家庭でできることは何か。正直に言えば「待つ」が半分です。ただ、残りの半分はあります。
 
ひとつは、買い替えのタイミングが来たときに、つながる機種を選んでおくこと。もうひとつは、いまの契約で時間帯別の料金になっているなら、その時間帯を意識して使うこと。これは市場を通さない、いちばん身近なDRです。お湯を沸かす時間、洗濯機を回す時間を少しずらすだけでも、やっていることは同じですから。
 


 

6. まとめ

 
家庭にあるエコキュートや蓄電池は全国で約1,000万台ありますが、遠隔で動かせるものに限ると、DRとして使える量は約300万kW程度にとどまります。台数はあるのに動かせない、というのがいまの状況です。
 
制度の側は2026年4月から、低圧リソースや機器個別計測による応札を認めています。ただし機器個別計測には第二世代スマートメーターのIoTルートを使う無線端末が原則必要で、その端末の認証・量産がまだ途中のため、実際の参入はこれからという段階です。
 
一方、産業用は先行しています。省エネ法の定期報告では、対象約14,700件のうち約3,200件(約22%)がDRを実施し、実施した事業者は年平均37.7日。しかもアグリゲーターと契約している4割強の事業者が、実施量の9割強を占めていました。束ねる仕組みがあるところに量が集まる、という構造です。
 
家庭の機器が市場につながるのも、おそらく同じ形になります。だからこそ、次に給湯器や蓄電池を選ぶときに「ネットにつながるか」「遠隔で操作できるか」を見ておくことに意味があります。10年、15年使う機器です。いま急いで買い替える必要はありませんが、買い替えの順番が来たときに思い出していただければと思います。
 


 

7. 情熱電力からのお知らせ

 
「うちのエコキュートは対応しているの?」「時間帯をずらすと、実際どのくらい変わるの?」——すでに設備を入れていらっしゃるお客様は、このあたりをけっこう気にされているようです。
 
ご家庭の使い方や契約している料金プランによって答えが変わるところなので、一般論ではなかなかお答えしきれません。検針票を見ながらでしたら、使い方をずらす余地がどのくらいありそうか、一緒に見ていくことができます。機器の買い替えを考えているけれど何を基準に選べばいいか迷っている、という段階のご相談でも構いません。
 
お気軽にお問い合わせください。
 
TEL 0263-88-1183
お問い合わせフォームはこちら
 
 
この記事に関連するページリンク
・資源エネルギー庁:分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ
・ITmedia スマートジャパン:蓄電池やDR運用の現状分析
・資源エネルギー庁:省エネ法 電気の需要の最適化
・資源エネルギー庁:特定卸供給事業者(アグリゲーター)の届出一覧
・電力広域的運営推進機関(OCCTO):容量市場 発動指令電源 実効性テスト
 

核融合の実証はどこまで来たか|京都のUNITY-1が確かめている熱と燃料、日米で動く3つの試験施設

 
核融合の試験プラント内部に並ぶ断熱配管と大型装置
 
500℃まで熱した液体の金属を、配管の中でぐるぐる回す。核融合の発電実証に向けて、京都にある試験プラント「UNITY-1(ユニティワン)」がいま実際にやっているのは、そういう地道な作業です。装置を運営するのは、2019年設立のスタートアップ、京都フュージョニアリング。電気新聞の「核融合発電実証へ試験着々」という紙面で知り、同社の公表資料まで当たって調べてみました。
 
核融合については、当ブログでもこれまで「2030年代に実証」「成長戦略17分野に選定」といった、政策と投資の話を中心にお伝えしてきました。ただ、2026年に入ってからの動きを並べ直してみると、景色が少し変わっています。
 
構想や目標ではなく、装置を建てて、動かして、うまくいかないところを直す段階に入っている。しかも、その現場のひとつが日本にあり、この10月には米国の研究者に開放されることが日米の共同声明に書き込まれました。今回は「核融合はいつ実現するか」ではなく、「いま何を確かめているのか」を見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 核融合の「実証」は、いまどの段階にあるのか

 
核融合発電の説明は、たいてい原理の話から始まります。太陽と同じ反応を地上で起こす、燃料は海水から取れる、暴走しない——。ここは当ブログでも繰り返し触れてきたところです。
 
ただ、「原理はわかった。で、いまどこまでできているの?」という問いには、意外と答えにくいものがあります。ニュースに出てくるのは「2030年代に実証」「官民で数兆円」といった年号と金額ばかりで、現場で何が組み上がっているのかは見えてきません。(情熱電力の過去記事:フュージョンエネルギーが成長戦略17分野に選ばれた経緯はこちらで解説しています)
 
そこに答えを出そうとしているのが、京都府久世郡久御山町にある京都フュージョニアリングの京都リサーチセンターです。ここで2024年から建設が進んでいるのが、統合試験プラント「UNITY-1」。
 
大事な点を先に書いておきます。UNITY-1は、核融合反応そのものを起こす装置ではありません。核融合炉の「まわり」にあたる部分だけを取り出して、本番と同じ条件を模擬し、成立するかどうかを確かめる施設です。
 
なぜ、わざわざ「まわり」だけを先に作るのか。ここが今回のいちばんの読みどころです。
 


 

2. UNITY-1とは? 京都の試験プラントが確かめている2つのこと

 
UNITY-1が検証しているのは、大きく分けて2つです。ひとつは熱を取り出すこと、もうひとつは燃料を回収すること。どちらも「反応が起きたあと」の工程です。
 
 

 リチウム鉛を500℃で回す——熱を取り出す

核融合反応で生まれるエネルギーの大部分は、中性子という粒子が持って飛び出します。これを受け止めて熱に変え、その熱でタービンを回して初めて「発電」になります。
 
この受け止め役がブランケットです。英語の blanket、つまり毛布のことで、炉心を毛布のように包む構造物を指します。UNITY-1ではこのブランケットの冷却材として、リチウム鉛(LiPb)という液体金属を採用しています。並行して、溶融塩(FLiBe)や純リチウムも小規模な系統で研究されています。
 
同社の公表資料によれば、これまでに液体金属を500℃まで加熱して系内を循環させる試験が完了しています。今後、この500℃の熱を空気に移す熱交換器と、熱せられた空気でタービンを回す発電設備を据え付ける計画で、将来的には最大1,000℃の熱輸送を目指すとしています。なお電気新聞の報道によれば、約1,000℃の熱を効率よく運ぶための真空断熱配管の実証を、報道時点の月内に始める予定とされています。
 
もうひとつ、UNITY-1には最大4テスラの磁場をつくる超電導磁石があります。病院のMRIが1.5〜3テスラ程度とされますから、それを上回る強さです。なぜ磁場が要るのか。電気を通す液体金属が磁場の中を流れると、流れを妨げる向きに力が働くためです。本番の核融合炉では炉心を強い磁場が囲んでいますから、「磁場の中でもちゃんと流れるか」を確かめないと、地上の実験室でうまくいっても本番で詰まります。
 
液体金属を回す。熱を取り出す。磁場の中でも流れるか見る。言葉にすると地味ですが、この地味な工程が成立しないかぎり、核融合は「発電」になりません。
 
 

 VST——燃料になるトリチウムを回収する

もうひとつの検証が、燃料の回収です。ここで使われるのがVST(Vacuum Sieve Tray)という同社の独自装置。直訳すると「真空のふるい皿」で、液体金属を真空の中で細かい液滴にして落とし、そこから水素の仲間(水素同位体)を分離して取り出す仕組みです。
 
台所で、具だくさんのスープをざるに通して具だけを残すイメージに近いかもしれません。違うのは、液体金属という扱いにくい相手を、真空という条件下でふるいにかけている点です。
 
現時点の試験では、トリチウムは使っていません。重水素を含ませた液体金属をVSTに通し、水素同位体を回収できるかを確かめる段階です。放射性物質を扱わずに装置の性能を詰められるところまで詰めておく、という進め方になっています。
 


 

3. なぜトリチウムを「自前でつくる」必要があるのか

 
ここで、なぜ燃料の回収がそこまで重要なのかを整理しておきます。
 
核融合の燃料は、重水素とトリチウム(三重水素)です。重水素は海水から取れます。問題はトリチウムのほうで、自然界にはごくわずかしか存在しません。つまり、燃料を買ってくるという選択肢が事実上ありません。
 
ではどうするか。炉の中でつくるのです。ブランケットに含まれるリチウムに中性子が当たると、トリチウムが生まれます。つまりブランケットは「熱を受け止める毛布」であると同時に、「燃料をつくる工場」でもある。だから、リチウムを含む液体金属を回し、そこからトリチウムを取り出す工程が、炉の成立条件そのものになります。
 
ここで出てくるのがTBR(Tritium Breeding Ratio、トリチウム増殖率)という指標です。消費したトリチウムに対して、どれだけ新しく生み出せたかの比率で、1を超えないと炉は燃料切れを起こします。発電所としての採算以前に、燃料の収支が合うかどうかという話です。
 
このTBRが1を超えることを実際に確かめるための施設が、次に出てくるUNITY-3です。
 


 

4. UNITY-1・2・3の違いと、2026年に起きた変化

 
同社の「UNITY」は、いまや3つあります。役割が明確に分かれているので、表で整理します。

施設 場所 確かめること 状況
UNITY-1 京都府久御山町 ブランケットから熱を取り出し、発電や水素製造につなげる。液体金属からの水素同位体の回収 建設の大部分が完了。液体金属500℃の循環を確認済み
UNITY-2 カナダ・チョークリバー 実機規模の燃料サイクル。実際のトリチウムを使い、炉心に燃料を供給する一連の流れを統合実証 国内で予備試験中。トリチウムを用いた運転開始を計画
UNITY-3 米国テネシー州(ORNL内) 加速器で核融合と同じ中性子を当て、模擬ブランケットのトリチウム生成量を測る。TBRが1を超えることの実証 詳細設計中。2028年末の完成を目標

熱を取り出す(UNITY-1)、燃料を回す(UNITY-2)、燃料が増えることを確かめる(UNITY-3)。3つがそろって初めて、発電所として成立するかどうかの答えが出ます。
 
そのうえで、2026年10月に起きた変化です。10月4日に発表された「日米技術繁栄ディールに関する共同声明」で、米エネルギー省(DOE)・オークリッジ国立研究所(ORNL)と同社の官民連携が、日米のフュージョン協力の例として明記されました。声明はこの連携がUNITY-3の建設を後押しし、米国の研究者にUNITY-1へのアクセスを提供するとしています。
 
日本にある装置に、米国の研究者が入ってくる。これは「日本が技術を持っている側だ」と、外交文書の中で位置づけられたということでもあります。核融合の話題で日本が語られるとき、たいていは「出遅れていないか」という文脈でした。少なくともこの分野については、そうではない構図が出てきています。
 


 

5. お金はどこから来ているのか——資金調達と国の補助

 
装置を3つ並行して建てるには、当然ながらお金がかかります。
 
同社は2026年8月24日、シリーズDラウンドの1stクローズで総額257.2億円の資金調達を発表しました。内訳はエクイティでの調達が167.2億円、融資枠・与信枠を含むデットファイナンスが90億円。これで累計のエクイティ調達額は329.8億円になります。
 
国の側も動いています。2026年9月14日には、グループ会社のStarlight Engineを幹事企業とするコンソーシアムが、経済産業省の「令和7年度補正 フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金」の条件付き採択事業者に選ばれたと発表しました(同社はコンソーシアム企業として参画)。高温超電導コイルを使ったトカマク型装置で、発電の実証を目指す事業です。
 
そして、日本の素材メーカーも関わり始めています。2026年10月7日には、ブランケットの構造材料となるバナジウム合金について大同特殊鋼との共同開発を発表。10月8日には、炉心の熱と粒子を受け止めるダイバータの開発を、米General Atomicsと始めると発表しています。
 
核融合を「どこか遠くの夢の技術」として見ていると、この部分が抜け落ちます。実際に進んでいるのは、配管、断熱材、合金、磁石、ポンプといった、製造業がふだん扱っているものの組み合わせです。当ブログで以前お伝えした「サプライチェーンの鍵を日本企業が握っている」という話は、この1年でさらに具体的になってきました。(情熱電力の過去記事:日本企業がどの部分を握っているかは、こちらで詳しく書いています)
 


 

6. 電気を売る側から見て、核融合をどう見ておくか

 
正直に書きます。核融合が明日の電気料金を下げることはありません。UNITY-1がいま確かめているのは発電の手前の工程で、商用の発電所が建つ時期は、まだ誰も断言できる段階にありません。電気新聞の報道によれば、同社の小西哲之氏は30年代の発電実証に向けてプラントを動かし続け、技術の信頼性と成熟度を高めると語っているとされますが、これは目標であって確定した予定ではない、という受け止め方が妥当です。
 
では、いま見ておく意味はどこにあるか。3つあると考えています。
 
ひとつめは、判断の材料として。「核融合が来るから再エネも蓄電池も要らない」という言い方を、たまに耳にします。ですが、燃料の収支が合うかをこれから確かめる段階の技術です。2030年代、2040年代の電源計画を、これを前提に立てることはできません。
 
ふたつめは、事業機会として。上に挙げたバナジウム合金やダイバータのように、必要とされているのは特殊な素材と加工の技術です。自社の技術がどこかで噛むかもしれない、という目で見ておく価値はあります。
 
みっつめは、電気の使い道として。UNITY-1が目指しているのは、発電だけではありません。1,000℃級の熱を取り出し、発電と水素製造の両方に使うことが構想に入っています。熱をどう運び、どう使い切るか——これは核融合に限らず、いま各地で進んでいる熱の利活用とまっすぐつながる話です。
 
遠い技術の話に見えて、入口は意外と近いところにある。長野県で電気を売っている私たちがこのニュースを追いかけているのも、そういう理由からです。
 


 
まとめ
核融合の話題は、これまで年号と金額で語られることがほとんどでした。けれど2026年の京都フュージョニアリングを追いかけると、中身はもっと手触りのあるものです。リチウム鉛を500℃まで熱して回す。4テスラの磁場の中でも流れるかを見る。VSTという独自の装置で、液体金属から水素の仲間を取り出す。核融合反応を起こす前の、「まわり」の工程を一つずつ潰していく作業です。
 
トリチウムは自然界にほとんど存在しないため、炉の中で自分でつくるしかありません。だからブランケットは熱を受け止める毛布であると同時に、燃料をつくる工場でもある。この燃料の収支(TBR)が1を超えるかどうかを確かめるのがUNITY-3で、2028年末の完成を目標に米国で設計が進んでいます。
 
そして2026年10月、日米の共同声明に、京都のUNITY-1を米国の研究者に開放することが書き込まれました。資金面でもシリーズDで257.2億円、経産省の発電実証事業にも条件付きで採択されています。バナジウム合金やダイバータでは、日本の素材メーカーが関わり始めました。
 
明日の電気代は変わりません。けれど、「夢の技術」という棚から下ろして、配管と合金と磁石の話として見ておく時期には入っています。
 


 
情熱電力からのお知らせ
核融合のような先の長い技術の話と、毎月の電気代の話は、別のもののようでいて地続きです。どんな電源がどれだけ使えるかという見通しが、そのまま料金の形に効いてくるからです。
 
情熱電力では、電気料金プランのご相談はもちろん、「いまの契約でいいのか」「これから何に備えておくべきか」といった、少し先を見た話もお受けしています。法人のお客様からは、調達の組み立て方についてのご相談も増えてきました。
 
気になることがありましたら、お気軽にお声がけください。
 
TEL 0263-88-1183
お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・京都フュージョニアリング:発電技術の実証を目指す統合試験プラント「UNITY-1」の進捗を公開
・外務省:日米間の技術繁栄ディールに関する共同声明【令和8年10月5日】
・経済産業省:フュージョンエネルギーの早期実現に向けた検討状況について
・低炭素投資促進機構(GIO):フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金
・文部科学省:核融合研究開発
 

系統用蓄電池の売却、値段を決めるのは「稼ぎ」だけじゃない|完成・稼働後の蓄電所を手放すときに見られる3つのこと

 
整然と並ぶ系統用蓄電池のコンテナと、記録を見ながら設備を点検する作業員
 
日経エネルギーNEXTに「系統用蓄電池、『稼ぐ運用』が資産価値を下げるジレンマ」という記事があったので、その先の話まで調べてみました。
 
系統用蓄電池の話題といえば、たいていは「いくらで建つか」と「いくら稼げるか」です。ところが記事が投げかけていたのは、3つめの問い、「いくらで売れるか」でした。日々の市場取引で得る運用収益(インカムゲイン)を追いかけすぎると、電池が早く傷み、蓄電所を手放すときの売却益(キャピタルゲイン)が目減りする。そんなジレンマです。
 
売却なんてまだ先の話、と感じる方も多いと思います。けれど実際には、完成済みや完成間近の蓄電所の販売情報を目にする機会が増えてきました。太陽光発電所に中古売買の市場があるように、蓄電所にも売り買いの場ができ始めています。
 
元の記事は考え方の整理が中心で、具体的な市場の姿にはあまり触れていませんでした。そこでこの記事では、「もし自社の蓄電所を売ることになったら」という場面を想定して、いまの売買の場、売るタイミング、買い手が確かめるポイント、日本ならではの注意点を順に見ていきます。
 


 
目次

 


 

1. 系統用蓄電池の売却とは?インカムゲインとキャピタルゲインの関係

 
系統用蓄電池の収益源は、大きく2つに分けられます。
 
・インカムゲイン:JEPX(日本卸電力取引所)や需給調整市場、容量市場での取引で、運転しているあいだに積み上がる収益
・キャピタルゲイン:蓄電所そのものを売却したときに得られる売却益
 
(情熱電力の過去記事:インカムゲインを生む3つの電力市場の稼ぎ方は、こちらで解説しています)
 
不動産投資にたとえると、インカムゲインは毎月の家賃収入、キャピタルゲインは物件を売ったときの売却益にあたります。
 
ここで押さえておきたいのは、2つが別々の財布ではないことです。買い手は「この蓄電所を買ったら、この先いくら稼げるか」を見積もって値段をつけます。つまり、将来のインカムゲインの見込みが、そのまま売却価格に織り込まれます。賃料の取れるアパートほど高く売れるのと同じ理屈です。
 
ただし蓄電所には、アパートと違う点があります。使い方しだいで、建物そのもの(電池)の傷み方が大きく変わることです。今年の稼ぎを増やそうと充放電を重ねるほど、電池の残りの寿命は削られます。日経エネルギーNEXTの記事が「トレードオフ」と呼んだのは、この関係でした。
 
単純化した例で考えてみましょう(数字はすべて仮のものです)。同じ時期に同じ仕様で運転を始めた蓄電所Aと蓄電所Bがあり、5年後の時点で、Aは新品時の90%、Bは75%の容量が残っていたとします。Bはこの5年、Aより積極的に充放電して多く稼いできました。それでも買い手から見ると、Bは「1日にためて動かせる電気の量」がAより少なく、さらにメーカーが保証する下限や交換の目安に早くたどり着きます。過去5年の稼ぎの差よりも、これから先の稼ぐ力の差のほうが、値段に大きく効いてくる可能性があります。
 
もうひとつ、記事が強調していた点があります。日々の市場取引はアグリゲーターに任せるのが一般的ですが、アグリゲーターは取引のプロであっても、蓄電所の資産価値まで責任を負うわけではありません。売却を見据えて資産を守るのは、蓄電所のオーナー自身です。
 


 

2. 蓄電所のセカンダリー市場はいまどうなっているか

 
セカンダリー市場とは、すでにできあがった資産を所有者から次の所有者へ売り渡す「二次流通」の市場のことです。新築に対する中古住宅の市場をイメージすると分かりやすいと思います。
 
 

 太陽光ではすでに「中古発電所」の売買が定着

太陽光発電では、稼働中の発電所を売り買いする市場がすでにできています。投資用の太陽光発電所を売りたい人と買いたい人をつなぐマッチングサイトがいくつもあり、「中古太陽光」という言葉も一般的になりました。発電の実績データがあり、FITの残り期間から先の売電収入を見積もりやすいことが、売買を後押ししてきました。
 
 

 蓄電所の売買サイトも出てきた

蓄電所でも、同じような場ができ始めています。2026年10月時点で各社の公開ページから確認できたサービスを、成り立ちの違いで3つの型に分け、どの段階の案件を扱っているかで整理すると次のようになります。

サービスの型 権利段階 開発中・完成渡し 稼働後(運転実績あり)
太陽光の売買サイトが蓄電所に広げた型 土地+権利の案件 完成した案件 記載なし
蓄電所に特化したマッチングサイト型 権利付きの事業用地 完工した案件 記載なし
案件を整理して個別に仲介する型 接続の権利付きの用地 着工前(RTB)・開発中・完成渡しの案件 記載なし

出典:各社の公開ページ(2026年10月時点)をもとに作成。「記載なし」は、公開ページに稼働後の案件を扱う旨の記載が見当たらなかったという意味です。RTBは「Ready to Build」の略で、許認可や連系の条件がそろい、すぐ着工できる段階の案件を指します。
 
表を見て気づくのは、どの型のサービスも「権利」と「完成」の案件が中心で、稼働後の欄が空いていることです。運転を始めて何年かたった蓄電所の売買は、まだほとんど表に出ていません。日本で系統用蓄電池が本格的に動き始めてから日が浅いので、当然といえば当然です。逆にいえば、稼働後の蓄電所の売買は、これから数年で増えていく領域だといえます。
 
 

 売買価格はまだ表に出ていない

気になる「いくらで売れるのか」ですが、公開情報からは相場をつかめませんでした。譲渡希望価格を会員限定にしているサイトもあり、価格は会員向けや個別の相談のなかで扱われているのが実情です。太陽光のように多くの取引事例が積み上がり、「この条件ならこのくらい」という目安が見えるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうです。
 
金融機関も同じ見方をしています。元の記事では、ある金融機関が「将来の売却価値に依拠したプロジェクトファイナンスは組めない」と話していました。売却の時期も価格も確定せず、確実に売れる保証もないためです。
 
だからこそ、いまの段階でオーナーにできるのは、売値を予想することではありません。買い手が値段をつけるときに何を見るのかを知り、その点で減点されない状態を保っておくことです。
 


 

3. いつ売るか|権利段階・完成渡し・稼働後の違い

 
蓄電所の売却は、どの段階で手放すかによって、買い手が見るものも、売り手が抱えるリスクも変わります。

売る段階 買い手が判断材料にするもの 売り手側の特徴
権利段階(土地+連系の権利) 連系の時期、土地の権原、工事費負担金・保証金 建設の資金や工事のリスクを抱えずに手放せる。連系条件が確定していない分、評価は条件しだい
完成渡し(運転開始前) 施工品質、試験の結果、保証書とO&M契約の内容 買い手は判断しやすい。売り手は建設資金・工期・施工不具合のリスクを負う
稼働後(運転実績あり) これまでの運用実績、電池の健全度(SOH)、保証が有効か、O&Mの記録 実績で語れる。その代わり、運用のしかたそのものが値段に表れる

権利段階と完成渡しの違いは、電気設備工事会社のみらい電設株式会社さんのコラムの整理を参考にしました。
 
権利段階の売買には、つまずきやすい点もあります。蓄電所案件の仲介を手がける事業者のなかには、売却が止まりやすい理由として、土地の権原が確保できていない、または名義が移っていない、共有者が多く同意に時間がかかる、農地のまま転用の手続きが終わっていない、工事費負担金が接続検討のときの概算から増えた、などを挙げているところもあります。
 
権利の転売が広がってきた経緯や「空押さえ」の問題は、以前の記事でも取り上げました。(情熱電力の過去記事:土地や送電網の権利が転売される背景は、こちらで詳しく解説しています)この記事では、ここから先、完成して動き始めた蓄電所を売る場面に絞って見ていきます。
 


 

4. 稼働後の売却で買い手が確かめる3つのこと

 
運転を始めた蓄電所を買うとき、買い手はデューデリジェンス(DD)を行います。デューデリジェンスは直訳すると「相応の注意」で、買う前に対象をくまなく調べる作業のことです。中古住宅を買う前に、建物の傷みや修繕の履歴を専門家に見てもらうのに近いイメージです。
 
元の記事は、インカムゲイン以外で蓄電所の売却価値を左右する要因として、電池の健全度、メーカーの保証内容、O&Mの3つを挙げていました。順に見ていきます。
 
 

 電池の健全度(SOH)|「残りの稼ぐ力」

SOHは「State of Health」の略で、直訳すると「健康状態」です。新品のときに比べて、電池の容量がどれだけ残っているかを示します。スマートフォンの設定画面で「バッテリーの最大容量」を見たことがある方も多いと思います。あれと同じ考え方です。
 
蓄電所に置き換えると、SOHは「1回にためて動かせる電気の量」がどれだけ残っているか、つまり残りの稼ぐ力を表します。売却のときのSOHは、買い手が値段をつけるうえで最も分かりやすい物差しのひとつです。
 
注意したいのは、電池は時間がたつだけでなく、使い方によっても傷み方が大きく変わることです。劣化に影響するのは、主に次のような条件です。
 
・充放電の回数(サイクル数)
・放電深度(DoD):1回の放電で容量のどこまで使い切るか
・温度:高すぎても低すぎても劣化が進みやすい
・充電率(SOC):満充電やほぼ空の状態で長く置くかどうか
 
同じ日に同じ仕様で動き始めた蓄電所でも、5年後のSOHには差がつきます。そしてこれらの条件は、日々の運用の判断とそのまま結びついています。値差の大きい日に深く充放電すれば、その日の収益は増えますが、SOHは早く減っていきます。
 
 

 メーカー保証|「残っているか」より「有効か」

蓄電池メーカーの保証は、大きく2種類あります。
 
・機器保証:保証期間中に故障や不具合が起きたとき、メーカーが修理や部品交換をするもの
・容量保証:「◯年後に初期容量の◯%以上」のように、経過年数に応じた容量の下限を約束し、下回ったときにモジュール交換などで対応するもの
 
売却のときに確かめるべきなのは、保証期間が残っているかどうかだけではありません。その保証が今も有効かどうかです。特に容量保証には、サイクル数、放電深度、温度、充電率などの使用条件がついているのが一般的で、条件を外れた運用をしていると、期間が残っていても保証を受けられないおそれがあります。
 
買い手にとって、有効な保証がついている蓄電所は、買ったあとの故障や想定外の劣化の費用をメーカーが一部持ってくれる資産です。保証が失効していれば、その費用はすべて買い手の負担になります。この差は、そのまま値段の差になります。
 
もうひとつ見落としやすいのが、保証を次の所有者に引き継げるかどうかです。保証書や売買契約の条件によっては、所有者が変わる際にメーカーの承諾が必要なこともあります。保証書を受け取った時点で、譲渡のときの扱いを確認しておくと安心です。
 
 

 O&M|売却後の体制と、これまでの記録

O&Mは「Operation & Maintenance」の略で、運転と保守のことです。O&Mで買い手が見るのは、次の2点です。
 
・売却後の体制:長期の保守契約があり、定期点検の内容、故障時の駆けつけ、部品交換の条件がはっきりしているか。契約を新しい所有者に引き継げるか
・これまでの記録:点検や修理の履歴、故障や不具合の発生状況、部品の交換履歴が残っているか
 
記録が足りないと、買い手は今の設備の状態も、これから先の修繕費も見積もれません。見積もれないリスクは、値引きの理由になります。
 
ここに付け加えたいのが、運用データの扱いです。充放電の履歴、SOCの推移、温度の記録などは、SOHや保証の有効性を説明するための材料になります。ところが日々の運用をアグリゲーターやEMS(エネルギー管理システム)の事業者に任せていると、データが相手側のシステムにだけ残っていることがあります。売却のときに「データを出してもらえない」「形式がばらばら」とならないよう、契約の段階でデータの提供と保管について決めておくのがおすすめです。
 


 

5. 売却前に確認したい名義変更と契約の引き継ぎ

 
ここからは、元の記事では触れられていなかった、日本で蓄電所を売るときの手続き面の注意点です。
 
まず、事業者の名義で行っている届出です。アンダーソン・毛利・友常法律事務所のニュースレター(2026年1月)によると、令和5年の電気事業法改正で大型蓄電池からの放電事業は「発電事業」と位置づけられ、接続最大電力の合計が1万kWを超えるなど一定の要件を満たすと、発電事業の届出が必要になります。
 
蓄電所を売るときには、こうした届出のほか、一般送配電事業者との接続や託送の契約、需給調整市場や容量市場への参加登録、アグリゲーターとの契約、保守契約など、名義の切り替えや引き継ぎが必要なものが多くあります。どれがそのまま引き継げて、どれが相手の承諾や新たな手続きを要するのかは、契約ごとに違います。売却を考えた時点で一覧にしておくと、交渉の途中で慌てずに済みます。
 
なお、売却には設備そのものを売る方法のほか、蓄電所を保有する会社(SPC)の持分や株式を売る方法もあり、どちらを選ぶかで必要な手続きや税務の扱いが変わります。具体的な判断は、弁護士や税理士などの専門家に相談してください。
 


 

6. 売る予定がなくても、運転開始前に決めておきたいこと

 
元の記事でいちばん大事だと感じたのは、キャピタルゲインへの備えは運転開始後からでは遅い、という指摘です。資産価値を左右する条件の多くは、メーカーや保守会社、アグリゲーターと契約を結ぶ段階で決まってしまいます。
 
売る予定がいまはなくても、次の点は運転開始前に押さえておくと、将来の選択肢が広がります。
 
・保証書の使用条件(サイクル数・放電深度・温度・充電率)を、アグリゲーターに渡す運用ルールにそのまま書き込む
・アグリゲーターとの契約で、運用データの提供と保管の範囲を決めておく
・保守契約は、期間と内容に加えて、所有者が変わったときに引き継げるかを確認する
・点検や修理の記録を、自社の手元にも残す
・保証を次の所有者に引き継げるか、メーカーに確認しておく
 
稼ぐことと、資産の価値を守ることのバランスに、決まった正解はありません。市場の値動きと電池のコンディションを見ながら、そのつど判断していくことになります。ただ、その判断のもとになる記録と契約がそろっていれば、いざ売るときに「この蓄電所は大事に使われてきた」と数字で示せます。
 


 
まとめ
系統用蓄電池の収益は、運転中に積み上がるインカムゲインと、売却で得るキャピタルゲインの2つです。売却価格には将来の稼ぐ力が織り込まれるため、目先の収益を追って電池を酷使すると、手放すときの値段で取り返されることがあります。
 
蓄電所の売買の場は、太陽光に続いてでき始めています。ただ、扱われているのはまだ権利段階や完成渡しの案件が中心で、稼働後の売買価格はほとんど表に出ていません。だからこそ、売値を予想するより、買い手に減点されない状態を保つことが大切です。
 
稼働後の売却で買い手が確かめるのは、電池の健全度(SOH)、メーカー保証が今も有効か、O&Mの体制と記録の3つ。日本ではこれに、発電事業の届出や各種契約の名義の切り替えが加わります。
 
そして、その多くは運転開始前の契約で決まります。保証の条件を運用ルールに落とし、データと記録を手元に残し、引き継ぎの条件を確かめておく。売る予定がなくても、それが将来の自分たちの選択肢を守ることにつながります。
 


 
情熱電力からのお知らせ
情熱電力では、系統用蓄電池の事業化や運用について、これまで多くのご相談をいただいてきました。蓄電所の運用ルールの考え方や、アグリゲーターとの契約で確認しておきたい点など、「まだ構想段階だけれど話を聞いてみたい」という段階でもお気軽にご相談ください。
 
TEL 0263-88-1183
お問い合わせフォーム:https://jo-epco.co.jp/contact
 
 
この記事に関連するページリンク
・日経エネルギーNEXT:系統用蓄電池、「稼ぐ運用」が資産価値を下げるジレンマ
・アンダーソン・毛利・友常法律事務所:【資源・エネルギー】 蓄電池事業に関する法規制及び系統連系
・資源エネルギー庁:発電事業に係る届出義務について
・みらい電設:系統用蓄電池の土地+権利売却とは?完成品売り・EPC工事請負との違い
 

根羽村はなぜ子どもが増えた?人口800人の村の移住策に学ぶ「小さいこと」の活かし方

 
棚田と杉林に囲まれた中山間地の小さな集落。民家の庭先に子ども用の自転車が置かれ、移住で子どもが増えた村の暮らしを表す
 
信濃毎日新聞に『「一見イケてない」村で増える子ども 人口800人を逆手に取った長野県・根羽村の移住策』という記事があったので調べてみました。
 
この見出しに目が留まったのには、個人的な理由があります。私自身、根羽村には何度か足を運んでいて、良い印象を持っている村だからです。
 
人口が800人を切る小さな村で、子どもの数が増えている。そう聞いて、数字を疑った方もいるかもしれません。でも、これは国勢調査に出ている話です。
 
人口減少というと、もう流れは決まっていて、できるのは減り方をゆるやかにすることだけ——そんなふうに受け止めてしまいがちですよね。実際、県内のほとんどの市町村で子どもの数は減り続けています。その中で、根羽村だけが違う動き方をしました。しかも総人口は減っているのに、子どもだけが増えているという、説明のつきにくい増え方です。
 
何をしたのか。調べていくと、出てきたのは大きな予算でも目新しい制度でもなく、「小さいことを隠さない」という、ずいぶん地味な方針でした。これが、私たちのような小さな会社にも刺さる話だったので、整理してみます。
 


 
目次

 


 

1. 根羽村で何が起きた?2025年国勢調査が示した数字

 
まず、数字から確認していきます。
 
今回の元になっているのは、2025年10月1日を基準日とする国勢調査(令和7年国勢調査 人口等基本集計)です。総務省統計局が2026年9月29日に公表し、県は10月2日にプレスリリースを出しています。
 
 

 15歳未満が8人増、増加率14.0%は県内トップ

信濃毎日新聞によると、県内で15歳未満の人口が増えたのは3つの町村だけでした。その内訳がこちらです。

町村 15歳未満人口 2020年調査からの増減 増加率
根羽村 65人 +8人 +14.0%
御代田町 1,948人 +33人 +1.7%
天龍村 73人 +1人 +1.4%

出典:信濃毎日新聞の報道(2025年国勢調査より)をもとに作成
 
増加率14.0%が、他の2町村と桁違いなのがわかります。もちろん、母数が65人と小さいので、8人増えれば率は大きく動きます。率だけを取り出して「すごい」と言うのはフェアではありません。
 
ただ、分母が小さいということは、減るときも同じように急だということです。県内の多くの小規模自治体で実際に起きているのはそちらのほうで、根羽村だけが逆を向いた、という事実は残ります。
 
 

 総人口は減っている。それでも子どもが増えた意味

もうひとつ、見落とせない数字があります。根羽村の総人口は852人から784人へと、68人減っています。784人という数字は、県のプレスリリースでも確認できました。
 
つまりこれは、「村全体が盛り返した」話ではありません。村は小さくなり続けている。その中で、年齢の構成だけが入れ替わっているのです。
 
村の調べでは、2021年からの5年間に生まれた子どもは20人で、その前の5年間と横ばい。一方、県の統計ではコロナ禍のあとの2021年・2022年・2024年に転入が転出を上回っています。生まれた数が増えたのではなく、子育て世代が入ってきた、ということですね。
 
人口が減る中で設備や仕組みをどう維持するかという問題は、水道でも電気でも、小さな自治体ほど重くのしかかります。
(情熱電力の過去記事:小さな自治体がインフラの維持で直面している課題は、水道の料金にも表れています)
 


 

2. 「一見イケてなさそう」を逆手に取るとは?

 
ここからが本題です。
 
村の移住施策を請け負っているのは、一般社団法人「ねばのもり」。自身も東京から移住した杉山泰彦さん(35)が2020年に設立した組織です。
 
杉山さんの言葉として記事に出てくるのが、「一見してイケてなさそうな前提」という表現でした。人口800人の村である、という事実を、隠すでもなく飾るでもなく、そのまま前に出す。これが出発点になっています。
 
実際、移住希望者と自治体を結ぶポータルサイトに出した記事の見出しは、こうです。
 
・「850人の村で生きる人はどんな働き方や生き方をしているか、お届けします」
・「小さい村だからこそ1人が出せるインパクトがある」
 
人口の少なさを課題として書くのではなく、そこで暮らすとどうなるかという具体として書いている。同じ事実でも、置き場所を変えると意味が変わる、という話です。
 
ここで、少し個人的な話をさせてください。
 
冒頭にも書いたとおり、私は根羽村に何度か足を運んでいます。村の入り口にある「ネバーランド」に寄るのが毎回の楽しみです。ここのアイスクリームが名物で、「生ソフトクリームアイス」はふるさと納税の返礼品にもなっています。ほかにも村ならではの商品が並んでいます。
 
ただ、それ以上に印象に残るのは森です。手入れの行き届いた林がどこまでも続いていて、走っているだけで気持ちがいい。
 
そして行くたびに思うのが、時間の流れ方が違う、ということです。村に入ってしばらくすると、自分の歩く速さや話す速さが、勝手に落ちてくる感覚があります。
 
不思議なのは、それが「何もない」から来るものではないことです。急かすものがない、と言ったほうが近いかもしれません。気がつくと、ずいぶんおおらかな気持ちになっています。
 
この感覚は、たぶんパンフレットや移住案内では伝わりません。行ってみて初めてわかる種類のものだと思います。
 
 

 大規模な移住フェアに出ない理由

ねばのもりは、大規模な移住フェアにはほぼ参加しないそうです。
 
理由がはっきりしています。安曇野市や軽井沢町のような知名度の高い自治体と横に並んだとき、勝てないから。
 
これ、かなり勇気のいる判断だと思うんです。移住フェアは「たくさんの人に会える場」で、参加しないという選択は、機会を自分から捨てているようにも見えます。
 
でも、同じ土俵に上がった瞬間、比較の軸は相手が決めたものになります。知名度、ブランド、アクセスの良さ——どれも人口800人の村が逆転できる項目ではありません。だったらその土俵には上がらない。代わりに、村を知ってくれた人を一人も取りこぼさないほうに力を使う。
 
杉山さんは「村を知った人が好きになる確率は高い」とした上で、「知ってくれた人をなるべく逃さないよう、村のことを調べれば調べるほど、村の魅力を感じられるようにしている」と話しています。
 
先ほど書いた私の感覚も、たぶんこれと同じ話です。資料を読んで好きになるのではなく、一度行くと、理屈の前に体のほうが先に納得してしまう。だったら、来てもらうまでをどう設計するかに力を注ぐ。順番として筋が通っています。
 
広く浅くではなく、狭く深く。資源が限られている側が取るべき戦い方として、理屈が通っていますよね。
 


 

3. 移住の相談窓口を若い移住者が担う仕組み

 
もうひとつの特徴が、相談窓口を誰が担当しているかです。
 
根羽村では、移住相談の窓口を若い移住者自身が務めています。愛知県から移住し、村の移住コーディネーターを務める魚住奈都子さん(31)は、相談への向き合い方をこう説明しています。
 
「その人が好きなものを聞いたり、実際に移住したらどうなるかを一緒に想像したりしながら友達感覚で話を聞く」
 
ねばのもりが相談に乗り、実際に村を案内する案件は年間十数件。19〜22年は年平均25人がUターン・Iターンで移り住んだといいます。
 
杉山さんが大学卒業後に100近くの地域を訪ねて気づいたのが、外部の人が地域と関われる「窓口になる人」「関わりしろ」の大切さだったそうです。
 
窓口が誰なのかわかっている、というのは、思っている以上に大きいことだと思います。制度の説明だけなら資料を読めば足ります。でも「自分がここで暮らしたらどうなるか」は、先に同じことをやった人に聞くのがいちばん早い。しかも相手が近い年代なら、想像の精度が上がります。
 
案内した人が、次に案内する側になる。この循環ができているのが、根羽村の仕組みの要のように見えます。
 


 

4. なぜ「昔ながらの村民」に受け入れられたのか

 
とはいえ、外から来た人が地域で何かを始めるとき、いちばん難しいのは地元との関係のはずです。記事はそこにも触れていました。
 
根羽保育所長の松下剛樹さん(44)は、杉山さんについて「最初はとにかく苦手でした」と振り返っています。
 
背景があります。政府が地方創生を掲げた10年あまり前から、村に関わる県外企業が増えた。けれど補助金を得たきり事業が立ち消えになったことがあり、移住者が地域と関わりを持たずに摩擦が生じることもあった。警戒するのは当然ですよね。
 
転機になったのが2019年の村の盆踊りでした。当時は村教育委員会にいた松下さんが、年々参加者が減る盆踊りを立て直したいと考え、思い切って杉山さんに相談します。
 
返ってきた提案は、「企画段階から村民に関わってもらうこと」でした。
 
2人で中学校に出向いて盆踊りの歴史を伝えると、中学生が興味を持った。ワークショップを開き、住民手作りの竹灯籠で会場への道を照らした。松下さんの言葉を借りれば、「例年の踏襲でやる—から、みんなでつくろうというスタンスに変わった」。
 
ここが一番うまいところだと思います。外から来た人が「新しいやり方」を持ち込んで実行したのではなく、村の人が主役になる形を提案した。手柄を取りにいかなかった、と言ってもいいかもしれません。
 
松下さんは、杉山さんと関わる中で「視野が広がり、村の魅力を再認識した」と話しています。移住者が増えたことで、若者や子どもが参加するイベントも活発になりました。
 
杉山さんのまとめ方が、この記事でいちばん印象に残りました。
 
「大切なのは、地域で起きていることを地域の人が面白がる状態をつくり、発信すること。そうしたら自然と移住したくなるでしょ?」
 
外向けの発信を頑張る前に、中にいる人が面白がっている状態をつくる。順番が逆なんですね。
 


 

5. 規模の小ささは弱点か|電力会社から見た根羽村

 
ここまで移住の話をしてきましたが、読みながら、これは自分たちの話でもあるなと感じていました。
 
その前に、ひとつ付け加えさせてください。この村とは、思っているより近いところでつながっています。
 
根羽村は面積の94%が森林で、「根羽すぎ」「根羽ひのき」の産地として知られています。村内の全戸が森林組合の組合員で、1戸あたりおよそ5.5ヘクタールの山林を持っている。植林から伐採、製材、販売までを村の中で完結させる「トータル林業」に取り組んでいて、2017年には森林面積の86%にあたる7,294ヘクタールで森林認証を取得しました(いずれも根羽村が内閣府の地方創生SDGs提案に提出した資料による)。
 
そして、情熱電力のお客さまの中にも、根羽産のヒノキを使って事業をされている方がいらっしゃいます。あの森で育った木が、村の外で誰かの仕事になっている。そう考えると、根羽村の話は「どこか遠い地域の成功事例」ではなくなります。
 
話を戻します。私たちは地域の小さな電力会社です。全国規模の会社と並べられたとき、知名度でも広告の量でも、どう考えても勝てません。比較サイトの一覧に並ぶと、判断材料は料金の数字だけになります。
 
でも、根羽村のやり方を見ていると、勝てない土俵で消耗する以外の道があることがわかります。
 
規模が小さいと、一件あたりに使える時間が長くなります。窓口が誰なのかがはっきりしていて、途中で担当が入れ替わらない。電話をすれば、前回の話を覚えている人間が出る。決めるまでの人数が少ないので、話が早い。
 
どれも、大きい組織が真似しようとすると構造的に難しいことばかりです。規模の小ささは、我慢して受け入れる条件ではなく、そこからしか生まれない性質がある、ということだと思います。
 
地域に根ざした事業が、規模ではないところで選ばれていく例は、ほかの地域でも見てきました。
(情熱電力の過去記事:白馬の民宿とJA大北の取り組みにも、同じ発想が見えます)
 
もうひとつ、杉山さんの「村を知った人が好きになる確率は高い」という言葉も効きます。知られていないことと、良くないことは、まったく別の問題です。前者なら、伝え方の問題として手の打ちようがある。
 
子どもが8人増えた、という数字は、全国で見れば小さなものです。でも人口784人の村にとっては、確かな変化です。小さい側には小さい側の勝ち方がある——根羽村の5年間は、そのことを数字で示してくれているように思います。
 


 

まとめ

 
2025年の国勢調査で、根羽村の15歳未満人口は65人となり、5年前から8人増えました。増加率14.0%は県内で群を抜いています。総人口は852人から784人へ減る中での増加で、村の年齢構成そのものが入れ替わり始めていることを示す数字です。
 
背景にあるのは、大きな予算でも新しい制度でもありませんでした。人口800人という「一見イケてなさそう」な前提を隠さずに前へ出すこと。知名度で勝てない土俵には上がらず、知ってくれた人を取りこぼさないほうに力を注ぐこと。相談窓口を若い移住者が担い、次の移住者を迎えること。そして、外向けの発信より先に、村の人自身が面白がれる状態をつくること。
 
どれも、小さいからこそ成り立つやり方です。規模が小さいことは、克服すべき弱点とは限りません。一件あたりに時間をかけられる、窓口が誰かわかる、決定が早い——これらは大きな組織が簡単には真似できない性質です。
 
私たちのような小さな電力会社にとっても、学ぶところの多い事例でした。
 


 

情熱電力からのお知らせ

 
「規模が小さいからこそできること」を、私たちも日々考えています。電気料金のことでも、設備のことでも、これってうちの場合どうなるんだろう、という段階のご相談で構いません。一覧表の数字だけでは判断しづらい部分こそ、直接お話しするのが早いと思っています。
 
気になることがありましたら、お気軽にお声がけください。
 
TEL 0263-88-1183
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この記事に関連するページリンク
・信濃毎日新聞デジタル:「一見イケてない」村で増える子ども 人口800人を逆手に取った長野県・根羽村の移住策
・総務省:令和7年国勢調査 人口等基本集計結果
・根羽村:若者定住対策事業
・SMOUT(スマウト):プロジェクトをさがす (根羽村)